実際の格闘家でもあったブルース・リーは、32歳という若さで亡くなりました。短命であった事で、世界的ブームを巻き起こしたにも関わらず、彼が生前に完成させる事が出来た主演映画は4作品しかありません。
その4作の中で、ブルース・リーの評価を決定づけたのが、香港制作の第3作『ドラゴンへの道』です。この映画でブルース・リーの世界進出が決まり、『燃えよドラゴン』が制作される事になりました。
伝説のヌンチャク捌き、有名なコロッセオでの対決シーンなど、見どころ満載の映画です。今回は映画『ドラゴンへの道』のネタバレ感想や解説、考察を書いていこうと思います!
目次
映画「ドラゴンへの道」を観て学んだ事・感じた事
・『燃えよドラゴン』を超えるブルース・リーのコンディションの見事さ
・カンフー映画としての構造の絶妙さ
・シンプル・イズ・ベスト!どんでん返しを含むストーリーの明快さ
映画「ドラゴンへの道」の作品情報
公開日 | 1972年 |
監督 | ブルース・リー |
脚本 | ブルース・リー |
出演者 | タン・ロン(ブルース・リー) チェン(ノラ・ミャオ) コルト(チャック・ノリス) フレッド(ボブ・ウォール) ワン伯父(ウォン・チュンスン) ギャングのボス(ジョン・ベン) |
映画「ドラゴンへの道」のあらすじ・内容
香港からローマにやってきたタン・ロンは、空港に降り立った瞬間から失敗ばかり。田舎者なので、ローマというヨーロッパの都会のルールやマナーが分かりません。
彼を迎えにきた女チェンも、そんな彼に呆れます。チェンは自分が経営している中国料理店が地元マフィアの地上げにあい、客が寄りつかなくなって困り果て、自分の伯父である香港の弁護士に相談を依頼していたのでしたが、やってきたのは伯父ではなく、法律など分かりそうもない若者タン・ロンだったのです。
しかしタン・ロンが店に来た事で様子が変わります。彼は地上げに来たマフィアの手下たちをカンフーで一蹴。タン・ロンを馬鹿にしていた中華料理店の従業員たちも彼を尊敬し、彼にカンフーを習って店を守ろうと励みます。ただ、中華店では家長のような存在であるシェフのワンだけはマフィアとの戦いに反対します。
タン・ロンがマフィアの手下たちを次々に倒していく事で抗争はエスカレートし、ついにチェンがマフィアにさらわれます。チェンを救うべく、タン・ロンはマフィアの雇った最強の格闘家コルトと戦うため、コロッセオに向かいます。
映画「ドラゴンへの道」のネタバレ感想
『燃えよドラゴン』以上?!ブルース・リーのコンディションの素晴らしさ
ブルース・リーと言えばカンフー映画の代名詞であり、また単にアクション俳優というだけでなく、実際の格闘家としても知られた存在です。この映画でも、モーションなしで繰り出される高速のキック、長棍やヌンチャクなどを使った武具さばき、そして最後は組み技で相手を仕留めるというリアルさなど、他に類を見ないほどの芸術的な技に私は見とれてしまうのですよね。
こうした武術のスペシャリストという側面を持つブルース・リーの主演映画となると、どうしても彼のアクションに目がいってしまいます。そして、彼のアクションに注目するなら、この『ドラゴンへの道』こそが、ブルース・リー映画の中で最も素晴らしい映画であると感じます。
理由はコンディションの素晴らしさです。日本プロ野球の伝説的存在である長嶋茂雄さんが、「試合になったらコンディションが一番大事だ」と言っていた事があります。また、プロレスラーの前田日明さんや格闘家の佐山サトルさんも似たような事を言っていました。私は、コンディションというと「体調」ぐらいの意味に捉えていたのですが、彼らが言うコンディションというのは、「体調」とは少し違う意味を帯びているように感じられます。
あくまで想像でしかないのですが、彼らアスリートは、自分の体を自由自在にコントロールできる状態にある事を、コンディションが良いと言っているように思えます。だから、筋肉があればいいという訳でも、風邪などの病気になっていないからいいという訳ではないのでしょう。
私はブルース・リーの主演映画はすべて観ましたが、フィルムに記録されたブルース・リーのベスト・コンディションを捉えたのはこの映画ではないかと思っています。ブルース・リーの死ぬ直前で撮影された『燃えよドラゴン』より、『ドラゴンへの道』での彼の方がコンディションが良いように感じるのです。
私のような格闘技の素人が見ても、その差を感じたのがブルース・リーの肉体でした。『ドラゴンへの道』にも『燃えよドラゴン』にも、彼がコンディション・トレーニングをしているシーンがありますが体つきが違います。
『ドラゴンへの道』の中には、リーが女主人の部屋で一人トレーニングをしているシーンがありますが、このシーンは明らかに彼の技ではなく肉体を見せています。その筋骨隆々とした様は、『燃えよドラゴン』とは比べ物になりません。それぐらい、筋肉のつき方が違います。技もやはりそうなのですが、それは後ほど述べようと思います。
【考察】なぜこれほど引き込まれるのか。格闘シーンが狭まる32、16、15、12、10…巧妙な映画の構造について
そんなブルース・リー最良の演武を見ることのできる『ドラゴンへの道』ですが、映画が始まっても彼の演武はなかなか見る事が出来ません。それどころか、ブルース・リー演じるタン・ロンは頼りない田舎ものとして描かれるばかりです。
格闘シーンが映画の売りであるのに肝心の格闘シーンがなかなか登場せず、ストーリーも非常にシンプル。それにもかかわらず、私はこの映画を見ていると、いつも引き込まれていくのです。なぜこういう事が起こるのでしょうか。なにか仕掛けがあるのではないかと時間を計ってみると、そこにアクション映画としての見事なプロットを見る思いがしました。格闘シーンの時間配置が絶妙なのです。
この映画でブルース・リーの格闘シーンが最初に登場するのは、映画が始まっておよそ32分が経過したところです。次の大きな演武シーンは2本のヌンチャクを見事にさばく48分過ぎのシーンで、前の演武シーンの始まりから16分が経過したところです。
次は仲間たちと敵組織との団体戦が63分あたり、間隔は15分に縮まります。次はアメリカ最強格闘家の弟子と日本人空手家との戦い、次は物語のクライマックスとなるアメリカ人から手かとの一騎打ち…こうして、この映画での大きな格闘シーンの間隔を計ってみると、32分、16分、15分、12分、10分となりました。クライマックスに向けて、格闘シーンの間隔が狭まっていき、話が徐々に加速していくように感じるのです。
まったくの想像ですが、この映画は演武シーンを先に考え、次にその間隔を指数関数なカーブを描きながら狭めていき、ストーリーはこのカーブに合わせて調整したのではないでしょうか。構造から映画を作るという視点はある意味でドライとも言えるかも知れませんが、実に効果的であるとも感じました。
ロケ地である1970年代ローマの美しさ
ブルース・リーの演武という瞬間的な見どころ、時間軸上のシーン配置というメタ部分での構造化、これにもうひとつの要素が加わる事で、『ドラゴンへの道』は首尾一貫した映画となったように感じます。それが1972年のローマです。
この映画は香港映画ではありますが、ロケ地はローマで、これは独立した一本の映画としての個性を獲得した効果もあったように感じました。
70年代の香港映画はアメリカ映画やヨーロッパ映画、日本映画に比べ、構図や照明や演出など、どれをとっても、お世辞にも完成度の高いものとは感じません。この映画も例外ではないのですが、そのために逆にリアルに感じるものがありました。ローマの風景です。ヨーロッパ映画のように整除された美をスクリーンで表現するのであれば映し込まないようにするだろうオブジェクトも、色々と画面に入り込んでいるのです。あるものをそのまま撮っているからリアルなのです。
香港の田舎からローマに来たタン・ロンは、マフィアの地上げに困り果てて彼を呼んだ中華料理店の女性オーナーのチェンの車に乗り、彼女の部屋まで行きます。その間に、ローマのいろいろな観光地が映されます。二人が乗った車が旋回する場所はポポロ広場。そこを過ぎるとコロッセオ、そして車を追うようにカメラが右にパンすると、コンスタンティヌスの凱旋門。ローマの作法が分からないタン・ロンがチェンから説教され、その最中にイタリアの商売女からウインクをされて誘惑されるシーンはナヴォ―ナ広場。
こうした「ローマ」の印象づけは、物語のクライマックスである終盤のコロッセオの決闘シーンに大きく関わってきます。コロッセオは主人公とこの映画のヒロインの出会いの日のシーンでさりげなく映され、そしてクライマックスでその舞台となることで、ひとつの大きなラインを作ります。
映画にとってロケーションは場所だけでなく、時代や文化などを言葉抜きで説明できる重要な要素だと思うのですが、不要な映り込みを含めて記録された70年代のローマの風景は、製作者の意図とはまた別の説得力を持っていました。
ローマを舞台にした映画は多いです。古代ローマであれば『ベン・ハー』や『スパルタカス』、名画では『ローマの休日』、この映画と同時代では『オーメン』、この映画以降では『ニュー・シネマ・パラダイス』に『サスペリア テルザ』など。
私にとっては、映画に映されたもっとも生き生きとしたローマは70年代がベストと感じるのですが、他の映画と見比べてみるのも面白いかも知れません。
ブルース・リー映画に欠かせない女優ノラ・ミャオ
弁護士を呼んだつもりが世間知らずの田舎ものがやってきて、ローマを一緒に巡るうちにタン・ロンにあきれ果てる事になったチャンですが、彼が店にやってきた地上げ屋のチンピラたちを返り討ちにするのを見て、彼を見る目が変わります。
このチャンが映画のヒロインですが、彼女がさらわれ、それを救いに行くというドラマが出来る事で物語は大きく進みます。この時に「彼女を助けたい」という心理が強く働けば働くほど、観客は映画にのめり込みやすくなると思うのですが、チャンというヒロインは容姿も立ち居振る舞いも、そう思わせるに十分なほどに魅力を感じる女性でした。
チャンを演じたのはノラ・ミャオ。香港の女優で、カンフー映画が好きな人にはおなじみの存在かと思います。ブルース・リーが主演を務めた香港映画3本にはすべて出演していますし、ジャッキー・チェン主演映画にも何本も出演しています。この映画でいえば、タン・ロンが娼婦の肩に手を回すのを見て、怒って立ち去るシーンの演技がチャーミングでとても好きです。
ちなみに、ノラ・ミャオに限らず、ブルース・リーの映画には同じ俳優が違う役で再登場する事が少なくありません。中華料理店の店員であるトニーを演じるのはトニー・リュウ。『燃えよドラゴン』では、武術トーナメントで準主役のローパーの対戦相手役を務めています。この映画の最強のアメリカ人格闘家の弟子フレッドは、ボブ・ウォール(この映画のエンドクレジットでは「Robert Wall」表記)。『燃えよドラゴン』では、リーの妹の仇であるオハラを演じていました。
【考察】コロッセオでの対決シーンに登場する猫の意味するものとは
地上げを狙って中華店を買い取ろうとする組織ですが、手下のチンピラを何人送り込んでも、狙撃するヒットマンを送り込んでも、ことごとくタン・ロンに返り討ちにされます。女性オーナーであるチャンをさらっても、やはりタン・ロンが救いに来てめった打ちにされてしまいます。
そこで組織のボスは、アメリカ最強という触れ込みの空手家コルトをローマに呼びよせ、タン・ロンを倒す事を画策します。こうしてこの映画の最大の見せ場である、コロッセオでのタン・ロンとコルトの一騎打ちの準備が整います。
ところで、二人の対決シーンには、汚れた野良の子猫が登場します。この猫の威嚇するような鳴き声と同時に対決が始まり、猫はふたりを見つめたり、戦いに飽きたように小石をパンチして遊び始めたりします。この猫がどういう意味を持つのか、正直のところ私にはよく分かりませんでした。子猫にはどのような意味があるのでしょうか。
例えば、映画『マッドマックス』におけるレイプシーンでの鴉や、『サスペリア』の冒頭のあふれる水しぶきのカットアップのように、不吉なものの象徴、もしくはそれを感覚的に伝えるものとしての使用ではないでしょう。だって、すごく可愛い猫なのですから。もしかすると中国では不吉の象徴として捉えられているのかもと思って調べてみましたが、招き猫に代表されるように、猫はむしろ幸福をもたらすものとして捉えられているようです。「野良の猫」と「ノラ・ミャオ」がひっかけられているという推測は、日本語でしか通用しないので無理があります。
個人的に思うのは、単純に傍観者が欲しかったのではないでしょうか。コロッセオでの決闘シーンは、戦っている二人以外に目撃者がいません。そして、最後にはタン・ロンがコルトを殺害してしまうので、どのような事が起こったかを証言できるものがいません。
タン・ロンしか知らない事なので、タン・ロンがどんなに格好いい事を言ったとしても、実際には卑怯な手をつかって殺したのかも知れません。立会人がいないと、武蔵と小次郎の巌流島の決闘のようになってしまうのですよね。決闘には立会人が必要なのです。
この映画の他の格闘シーンと違い、この戦いだけは卑怯な手を使わず、互いが正々堂々と戦っています。戦い終わったあとも、コルトの骸にタン・ロンはコルトの道着を被せて弔います。これは他の相手にはしなかった行動で、これが正々堂々とした決闘であった事を伺わせる動きです。戦う前も戦った後も、相手に礼を尽くしているのです。そうした真正の決闘だったから、立会人が必要だったのではないでしょうか。ローマを含むヨーロッパにも20世紀初頭まで決闘の文化がありましたが、これも立会人が必要とされていました。
ところが、組織がタン・ロンをコロッセオにおびき出して決闘をさせるというシチュエーションからは、立会人がいるという描写をつくり出す事が出来ません。また、正式な立ち合いであれば、鴉のような不吉な象徴を使う事も不自然です。そこで、コロッセオに偶然いても不自然ではないものとして、猫を用いたのではないでしょうか。
最高の演武!2本使いのヌンチャク、そしてフェイント・ハイキック
他のブルース・リー映画と比較しての彼のコンディションの違いを推測できるところは色々あるのですが、技でいえば、この映画の中盤で見せるヌンチャク二本を見事にさばく美技、そして最後の決戦シーンで見せるフェイントキック(ミドルキックと見せかけてハイキックを入れる技)などは、映画的な派手な演出ではなく、鍛え上げられた格闘家の最高のコンディションを保った状態での技を見る思いがしました。
特にヌンチャク2本使いのパフォーマンスは、子どもの頃に観て度胆を抜かれました。この技を真似ようとした経験のある男性も少なくないのではないでしょうか。今でもテレビ番組でブルース・リーが紹介されるときによく用いられるシークエンスとなっています。
演出などを除いた演武そのものでいえば、この映画こそがブルース・リー最高傑作だと思っています。
映画「ドラゴンへの道」の動画が観れる動画配信サービス一覧
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※2019年9月現在の情報です。