截拳道(ジークンドー)という実際の総合格闘技を創出し、アクション俳優というだけでなく本物の格闘家としても知られるブルース・リー。
彼の代表作『燃えよドラゴン』はブルース・リーのみならず、今もすべてのカンフー映画の最高傑作であり続けています。
今回は打撃、投げ、組み技、武器格闘など、ブルース・リーが体得した様々な格闘術をフィルムに収め、多くの人を熱狂させた伝説の映画『燃えよドラゴン』のネタバレ感想や解説、考察を書いていこうと思います!
目次
映画「燃えよドラゴン」を観て学んだ事・感じた事
・映画史に残る名曲「THEME FROM ENTER THE DRAGON」の躍動感
・ブルース・リーの打撃技、組み技、武器格闘、このすべてがフィルムに記録されている
・麻薬捜査、武道大会、そして復讐劇を一本化した見事なストーリー
映画「燃えよドラゴン」の作品情報
公開日 | 1973年 |
監督 | ロバート・クローズ ブルース・リー |
脚本 | マイケル・オーリン |
出演者 | リー(ブルース・リー) ローパー(ジョン・サクソン) ウイリアムズ(ジム・ケリー) オハラ(ボブ・ウォール) ボロ(ヤン・スエ) ハン(シー・キエン) |
映画「燃えよドラゴン」のあらすじ・内容
少林寺出身のハン(シー・キエン)は、香港の近くに浮かぶ孤島を買い占め、独裁者のように振る舞いながら、武術家を集めて武術教育をしています。
孤島近海で麻薬漬けの死体が見つかった事で、国際機関はハンが麻薬密造を行なっている事を疑いますが、証拠がないために手を出す事が出来ません。
そこで、少林寺高弟のリー(ブルース・リー)に、孤島で行われる武術トーナメントに参加して島の内偵をしてくれるよう依頼します。島に向かう直前、リーは妹がハンの弟子オハラに追い詰められて自害した事を伝えられます。
島には、すねに傷を抱えて祖国にいる事が出来なくなった屈強な武術家が続々と集結していきます。そして行われた武術トーナメントでは、莫大な借金を抱えて国から逃げたローパー、絡んできた警官ふたりを返り討ちにしたウイリアムズ、そしてリーなどが勝ち進み、リーはついに妹の仇であるオハラとの対戦が決まります。
同時に、内偵を進めていたリーは、ある夜ついに麻薬工場を発見、島にあった無線機を使って国際機関に打電しますが、捉えられてしまいます。翌日、武術トーナメント内で処刑される事になったリーですが…。
映画「燃えよドラゴン」のネタバレ感想
「燃えよドラゴン」伝説の裏側!一流のアクション映画となった3つの要素
私にとっては、この映画は数多く見てきた格闘アクション映画の最高傑作です。きっと同じように感じる人も少なくないのではないかと思います。
なぜ私は『燃えよドラゴン』を格闘アクション映画の最高峰と感じるのか?と考えてみると、大きな理由が3つあるように思います。
一つは制作陣の作品にかける情熱、もう一つは本物の格闘術がフィルムに収められている事、そしてもう一つはフィクションとしての映画ではなく、ドキュメンタリー映画として「格闘技」を伝えた点にあったのではないかと感じました。
音楽が素晴らしい!映画史に残る大名曲「THEME FROM ENTER THE DRAGON」
理屈っぽい感想を書く前に、この映画を観ていない人に伝えたい事があります。この映画は、理屈抜きでも最高にエキサイティングで、この映画をナンバーワンにあげる人も多くいるほどに面白いのです!見ているだけで血沸き肉躍るものがあります。
これほどエキサイティングに感じる理由のひとつは、間違いなく音楽だと感じます。『燃えよドラゴン』は、映画史に残るメインテーマを持つ映画でもあるのです。
『燃えよドラゴン』のスコアは、ラロ・シフリンという作曲家が書いています。ラロ・シフリンはピアニストや作曲家、アレンジャーとして純音楽も手掛けていますが、映画音楽にも多くの傑作を残しています。
私が心を動かされたものだけでも、映画『ダーティーハリ―』の第1作(これは主題曲も劇中音楽も見事です)、テレビ版『スパイ大作戦』、ジャッキー・チェン主演『バトルクリーク・ブロー』、そして『燃えよドラゴン』などが思い浮かびます。これらラロ・シフリンの劇音楽に共通しているのは、映画の題材と音楽を見事に同期させる点です。
『燃えよドラゴン』のテーマ曲「THEME FROM ENTER TE DRAGON」もそうです。まず、映画の舞台となる香港の音楽がたくみに取りいれてられてます。第1主題は、主題前半を後半部が応答する形になっていますが、ここに中国音楽の要素が持ち込まれ、展開部でも要所に中国音楽の旋法がカットインします。香港が音楽内で表現されるのです。
一方、映画全体の雰囲気は調、テンポ、リズムなどに表現されます。この映画は、軍も警察も寄りつくことのできない孤島が舞台で、生きて帰る事の出来る保証がない世界です。この暗く不安な雰囲気は調で表現されていて、メインテーマはGマイナー(ト短調)です。しかしこの映画は困難な敵を倒すヒーローの映画でもあります。その勇ましさはアップテンポなリズム、躍動感はファンクロックのリズムセクションに表現されていました。
ちなみにファンクロックは、この映画が作られた70年代前半に合衆国で流行したブラックミュージックですが、メインテーマが流れる冒頭シーンには、合衆国から香港に来たアフロヘアーの黒人格闘家が映されます。アフロヘアーは、70年代画集国の公民権運動に連動した「黒人ならではの格好よさ」を表現したものとして広まったスタイルのひとつです。
合衆国、アフリカン・アメリカン、70年代の市民文化というものも、すべて音楽に表現されているように感じました。ただ良い音楽を作るのではなく、この映画に入っている要素の多くを、もっと言えばこの映画そのものを音にして表象しているように聴こえました。
僕は「THEME FROM ENTER TE DRAGON」を聴くだけで躍動し、この映画がフラッシュバックしてくるのですが、それはこの音楽が映画を音として要約しているからではないかと思っています。大名曲ですね!
素手での格闘を合理化した見事なストーリーライン
「燃えよドラゴン」はどうしても目をみはる格闘シーンに注目が集まってしまいますが、その素晴らしさは、実際には脚本や演出などの優秀さも見逃せないと感じました。
映画でも絵画でも小説でも音楽でも、プロフェッショナルとアマチュアの差は、本当にわずかな所から生じてくるのではないかと思う時があります。そのわずかな差が3つ4つと積み重なっていくうちに、プロとアマ、あるいは一流と二流の差がはっきりしていく印象です。
主人公である少林寺の高弟リーは、犯罪の温床になっていると思われるハンの孤島への潜入捜査を求められた際、「銃をくれ」と言います。しかし、依頼主は「ハンは銃で死にかけた事があり、それ以来銃の持ち込みを禁じている」という旨の返答をします。これはまったく理にかなった説明で、これで素手での格闘が違和感なく合理化されています。
また、スパイとして送り込まれる事になったリーは、島に渡る前に彼の親族からある話を聞かされます。島で行われる前回の武術トーナメントの際に、ハンの用心棒であるオハラとその取り巻きによって、リーの妹は自害する事になったという話です。これで諜報活動をするはずだったリーが、ハンやオハラを倒した理由が合理化されます。
他にも色々ありますが、この映画の脚本や演出は、こうした「わずかな所」に穴がないのです。だから「映画だよな…」というフィクションのエンターテイメントと感じることが少ないまま、リアリティを持ち続けたのだと感じます。
アクション映画では、「そんな事あるわけない」という事が平然と起こる事がよくあります。生きるか死ぬかの戦いの時に高笑いするという演出などは、アクション映画でよくある事ですが、そのような状況でそうする人間など少ないででしょう。こうした一見大したことではないように見える「リアルでない映画だけの演出」や「些細なミス」を見逃さず、細かい所まで配慮の行き届いた脚本や演出が、この映画を一流の名作にしたように感じました。
二人の監督、そのクレジットが示しているもの
音楽や脚本の優秀さと同様、演出も見事でした。今さら言うまでもないことですが、特に格闘シーンの演出は、恐らくこれまでに作られたあらゆる映画の中でナンバーワンではないでしょうか。この格闘シーンの演出は、ブルース・リーが行っています。
『燃えよドラゴン』には、制作側が作ったいくつかのドキュメンタリービデオがあります。その中のひとつで語られていましたが、この映画の台本はとても異色なものだったそうです。
理由は、アクションシーンとなるとどこも「ブルース・リーの振り付けによるシーン」とだけ書かれているからだそうです。フィルム上ではノンクレジットながら、この映画の監督がロバート・クローズとブルース・リーとされる事があるのは、これが理由なのでしょう。
そして、この格闘シーンの演出も、やはり「些細なミス」を許さないリアルなものでした。魅せる所は魅せにいくのですが、根本は本当の格闘術をベースにしているように感じます。
比較すると分かりやすいですが、同じカンフー映画でも、ジャッキー・チェンの映画はエンターテイメントを意識しており、格闘ではお互いに呼吸を合わせて技を出す方と受ける方が同じタイミングで同時に動き、攻撃と防御がずれないようにして、長い攻防を見せ場にしています。
しかし『燃えよドラゴン』は、こうした「映画上の都合」よりも実践を重視した演出で、コンマ何秒の単位で相手よりはやくパンチを入れ、その一瞬で勝負が決まります。映画としては、抜きつ抜かれつのやりとりが続いた方が楽しいかも知れませんが、一瞬で勝敗が決着する『燃えよドラゴン』の格闘はリアルなのです。
最初に、この映画が「格闘アクション映画の最高峰」と感じる理由のひとつに、制作陣の作品にかける情熱をあげましたが、それはこうしたこだわりに見る事が出来ます。
出演者は仮に手を抜いても監督に怒られれば、真剣にやらざるをえません。しかし、監督は自分がオーケーを出せば、それで通ってしまいます。ですが、ロバート・クローズもブルース・リーも、手を抜く事をしていません。
ブルース・リーはたった一つのカンフーシーンの演出と撮影だけで12時間を費やし、さらに冒頭の御前試合は、一度クランクアップした後で、さらに追加で撮影したそうです。ここまでする理由は、傑作を作る強い情熱と意志があったからという以外に説明できません。
ボロ、ウィリアムズ、オハラ…格闘映画としての質をあげた名キャラクター
それだけの情熱を込めて、ロバート・クローズとブルース・リーは何を撮ろうと思ったのでしょうか?個人的には、リアルな武術をフィルムに収める点にあったのではないかと思えました。
それは、娯楽目的であればもっと丁々発止の対決シーンにしたであろうに、妹の仇との勝負をリアルな格闘技に合わせて一瞬の決着にした点などから想像できます。そういう意味で、これはエンターテイメント映画であるだけでなく、ドキュメンタリー映画という側面もあるのではないかと思います。
また、リアルであるドキュメンタリー映画という側面を持つからこそ、世界中に衝撃を与えたのではないでしょうか。
この映画は香港とアメリカの合作映画なので、白人が活躍する必要があったものと思われます。ジョン・サクソンの起用はそうした理由があったのでしょうが、サクソン以外は、みな本物の格闘家がキャスティングされています。映画にもかかわらず、俳優である事よりも一流の格闘家である事が優先されたわけです。
ワーナーが制作したドキュメンタリーを信用するなら、黒人格闘家ジム・ケリーは空手世界チャンピオン。妹の仇役を演じたボブ・ウォールはプロ空手のチャンピオン。ハン門下生最強のボロ(ヤン・スエ)は松濤館空手のアジア・チャンピオン。リーの妹役を演じたアンジェラ・マオは、合気道の沖縄チャンピオン。そしてオハラ役のシー・キエンは実際に少林拳を学び、格闘家としてリーからも尊敬されている人物であったそうです。格闘家としては格下のジョン・サクソンですら、空手の有段者だったそうですが、この映画出演で自信を失い、本人が「もうアクション映画には出ない」と語っています。
この映画で格闘シーンを演じた人物のほとんどが、実際の一流の格闘家であった訳です。役者が演技をし続ける限り、『燃えよドラゴン』を越える格闘シーンを持つ映画は、今後も登場しないのではないでしょうか。
【考察】ヌンチャク、長棍、打撃、関節技…ブルース・リーの強さは本物か
昔からよく上がる話題に、「ブルース・リーは本当に強いのか」というものがあります。論理的にいえば、実際の格闘を行なったフィルムを見ずにそれを判断する事は不可能ですし、また彼が信用度の高い格闘技大会での実績があるわけでもないので、評価の物差しと出来るものも多くありません。ただし、アメリカのロングビーチ国際空手選手権大会で披露した演武がアクション俳優へのスカウトに繋がったというので、実際に格闘技を修練していた人物である事だけは確かです。
それでもこの話題に決着をつけるとすれば、どういう事になるでしょうか。ひとつのヒントは、この映画に記録されているブルース・リーの演武です。生前に公開されたブルース・リーの主演カンフー映画は4作ありますが、『燃えよドラゴン』はその集大成的な側面があります。
最も得意としたであろう打撃技のほか、ヌンチャク、長棍、関節技と、彼がこれまでの映画で披露してきた格闘技が惜しげもなく披露されているからです。特に、打撃技のスピードは参考になりそうです。ボブ・ウォールとの組み手シーンでのブルース・リーの打撃は、挙動がまったく見えません。バックスピンキックは、軸足が地面につたまま、蹴り足の膝が曲がらず伸び、しかも相手の顔面の高さまで上がっています。しかも、どちらの足でも同じように蹴っています。
ブルース・リーが実際に強かったのかどうかは、今では検証不可能です。しかし、現在の一流のキック・ボクシングや空手の選手でも容易ではないこうした挙動が、このフィルムに記録されている事は事実です。
武術家としてのブルース・リーの名言「考えるな、感じろ」
この映画が「リアルな格闘技」のドキュメントを目指しているように見える決め手は、映画の冒頭にある、リーが弟子に稽古をつけるシーンで語られる「Don’t thnk, feel」(考えるな、感じろ)という言葉に現れているように感じました。
あるスポーツ身体学の本で読んだ事があるのですが、サッカー選手がミスをするのは、考える時間がある時の方が多いのだそうです。例えば、考える時間のないとっさのプレーではエラーを起こす事が少ないのに対して、キーパーとの一対一となった時などのよほど簡単に見える時の方が、考える時間がある分だけミスを生じやすいのだそうです。楽器の演奏でも似たような事が言えるそうです。
格闘技は身体性の極みのようなものだと思えるのですが、「考えるな、感じろ」という言葉には、挙動の見えないリーのキックの極意が詰まっているように感じられると同時に、実際に格闘技を追及して来なかった人がこういう言葉に達する事が出来るとは思えませんでした。この映画屈指の名言だと思います。
「燃えよドラゴン」はブルース・リーにとっても、映画史にとっても特別なものとなった格闘アクション映画の最高峰
ある程度以上の映画ファンなら、ブルース・リーの映画を見たことがない人はいないでしょうし、またこの映画での彼のアクションを見て驚いた事のない人もいないでしょう。
今もアクション映画は作られ続けていますが、『燃えよドラゴン』公開から45年以上が経過した今でも、この以上の格闘シーンを持つ映画は生まれていないのではないかと思っています。
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※2019年9月現在の情報です。