2013年に公開された映画『パシフィック・リム』。日本のお家芸ともいうべきKAIJUとロボットのバトルをテーマとした作品は瞬く間に評判となりました。そこにはハリウッド・クオリティと、日本のオタク文化が大好きな監督の想いが、最高の形でミックスしているのです。
今回はそんな映画『パシフィック・リム』の感想や解説、考察について紹介します。ネタバレを一部含みますので、視聴前に読まれる場合はご注意ください。
目次
映画『パシフィック・リム』を観て学んだこと・感じたこと
・監督ギレルモ・デル・トロによる、最高のオタク映画
・ストーリー?そんなものより怪獣とロボットのバトルを見よ
・特撮、ロボット、怪獣、どれかひとつでもピンときたら絶対に見るべき
映画『パシフィック・リム』の作品情報
公開日 | 2013年8月9日 |
監督 | ギレルモ・デル・トロ |
脚本 | トラヴィス・ビーチャム |
出演者 | ローリー・ベケット(チャーリー・ハナム) 森マコ(菊地凛子)(幼少期:芦田愛菜) スタッカー・ペントコスト(イドリス・エルバ) ニュートン・ガイズラー(チャーリー・デイ) ハーク・ハンセン(マックス・マーティーニ) チャック・ハンセン(ロバート・カジンスキー) |
映画『パシフィック・リム』のあらすじ・内容
「ブリーチ」と呼ばれる割れ目から突如出現した「KAIJU」。防戦一方だった人間たちは各国の利害関係を超えて一致団結し、KAIJUに対向する手段を模索しました。
そして、開発されたのが二足歩行型の巨大ロボット・通称「イェーガー」です。2名のパイロットの動きをそのままトレースするイェーガーの活躍により、パワーバランスを取り戻す人間たち。しかし、日に日に強くなっていくKAIJUに対して、イェーガーも万能ではありませんでした。
5年前の戦いで兄を失ったイェーガーの元パイロット、ローリー。彼のもとに、上官だったペントコストが現れます。
「世界は滅びようとしているんだぞ。おまえはどこで死にたい?ここか?それともイェーガーの中か?」
ローリーは再び、KAIJUとの戦いへ身を投じることになります。
映画『パシフィック・リム』のネタバレ感想
【解説】監督ギレルモ・デル・トロが描いた怪獣VSロボット
映画『パシフィック・リム』を手がけたのは、監督ギレルモ・デル・トロ。今や世界的に有名な映画監督のひとりといえるでしょう。
ギレルモ・デル・トロの代表作といえば、アメコミを原作に持ち、真紅の悪魔が超常現象調査のエージェントとして人間界で活躍する姿を描いた『ヘルボーイ』、ヴァンパイアと人間のハーフが吸血鬼ハンターとして刀を振るうシリーズの続編『ブレイド2』があります。
他にも、スペイン内戦後の世界を舞台に、少女の奇妙なダークファンタジーを映す『パンズ・ラビリンス』、研究所で働く女性と不思議な生物とのロマンスが多くの共感を呼び、アカデミー賞で作品賞をはじめ4部門を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』など。ファンタジーやSFの作品を多く発表しています。
また、ギレルモ・デル・トロは日本の特撮やアニメ、そして漫画への造詣が深いことでも知られています。特に、彼は『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』や『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』などで有名な押井守の大ファン。本作『パシフィック・リム』は、押井の代表作のひとつ『機動警察パトレイバー』の影響も受けています。実際、彼が押井への愛を語るインタビュー動画では、次のように語っています。
「『パシフィック・リム』では現実的に起こりそうなことを描きたかったし、本当に実在していそうな機械を作りたかったんです。それらは『機動警察パトレイバー』の影響によるものです」
日本のオタク文化に傾倒したギレルモ・デル・トロが、怪獣対ロボットものという、日本のお家芸ともいえるジャンルに参戦したのが、本作『パシフィック・リム』。ストーリーは至極単純であり、突如出現したKAIJUに対して、人間が一致団結してスーパーロボット「イェーガー」を開発し、KAIJUを倒すというただそれだけの物語です。
もちろん、パイロットの苦悩や仲間との交流を描いたシーンもあります。しかし、むしろ物語に華を添える程度の扱いとなっており、さほど深掘りされているわけではありません。そのある意味で潔い構成が、かえってKAIJUとロボットのバトルを際立たせているといえるでしょう。
【解説】芦田愛菜も出演、バランスの取れたキャスト
本作『パシフィック・リム』のキャストに、いわゆるハリウッドの超大物スターは採用されていません。当初は『ミッション・インポッシブル』などで世界的に有名なトム・クルーズの出演も予定されていたそうです。しかし、彼が出ると少なからず「トム・クルーズの出ている映画」という印象となるため、ある意味で本作の魅力に良くも悪くも影響していたかもしれません。
『パシフィック・リム』の主人公ローリーを演じるのは、イギリスの俳優チャーリー・ハナム。本作以外では2017年に公開された『キング・アーサー』で、主人公のアーサーを演じています。作中のローリーはアメリカのイェーガー「ジプシー・デンジャー」のパイロットであり、兄のヤンシーとともに何体ものKAIJUを退けてきましたが、KAIJU「ナイフヘッド」との戦いにおいてヤンシーは死亡。さらにはイェーガーのシステムの影響により、ヤンシーの恐怖が自身へフィードバックしたことがトラウマになって、ローリーはパイロットを辞めてしまいます。
しかし、かつての上官であったスタッカー・ペントコストの説得によって、ローリーは兄のトラウマを乗り越え、再びイェーガーに乗り込みます。5年のブランクはあっても後続のパイロットよりもはるかに高い技量を持ち、新たなバディとなる森マコを先輩として導くなど、王道的な展開を地で行くキャラクターとなっているのが特徴です。
ただ、トラウマの克服があっさりしているというか、明確に描かれないという点が惜しいといえるでしょう。KAIJUとの戦いを経て過去を乗り越えていくのかと思いきや、ペントコストが彼を迎えにきたときの説得ひとつで、トラウマはなかったことのように扱われてしまいます。このあたりも肯定的に捉えるならば、本作のストーリーをいちいち気にする暇があったら、KAIJUとロボットのバトルに注視せよということなのかもしれません。
ローリーとペアを組んでイェーガーを操縦する森マコは、日本人の俳優である菊地凛子が担当。2006年に公開された『バベル』以降、日本国外の映画にもよく出演しています。マコは過去にKAIJUに襲われて生き残った日本人の研究者です。しかし、研究者でありながらも、パイロットとしての適性が非常に高く、ローリーとともにイェーガーへ乗り込むこととなります。
なお、マコの幼少時代のシーンでは、当時9歳の芦田愛菜が出演しています。回想シーンのみの登場でありながらも、KAIJUの迫る街を泣きながら逃げていくシーンは非常に印象的。演技力の高さは本作でも健在です。
ローリーたちの司令官であるスタッカー・ペントコストを演じるのは、イギリスの俳優イドリス・エルバです。普段は厳めしい雰囲気を持つ黒人の司令官であり、命令違反や指示に従わない部下に対してはきつく叱責することも。他方、兄を失いひとりで戦った経験を持つローリーや、別のイェーガー乗りであるハンセン親子のことを気にかけるなど、仲間思いの性格です。
また、彼は最初期である第1世代の日本製イェーガー「コヨーテ・タンゴ」のパイロットを務めていたこともありました。そのときにマコをKAIJUから救ったことがきっかけとなり、ペントコストはマコの養父となっています。
その他、怪獣オタクで科学者という、まさに日本のアニメや漫画にも出てきそうな男ニュートン・ガイズラーをチャーリー・デイが担当。また、イェーガーの現値期パイロットとして最多の撃墜数をほこるチャック・ハンセンはロバート・カジンスキーが、チャックの父親で彼とともにパイロットを務めるハーク・ハンセンはマックス・マーティーニがそれぞれ演じています。
【解説・考察】モンスターではなくKAIJU、その動きにしびれる
映画『パシフィック・リム』に登場するモンスター。劇中ではまさにKAIJU(怪獣)と呼ばれています。本作はモンスター映画ではなく、エイリアン映画でもない、怪獣映画なのです。
巨大生物が出現する作品は星の数ほどありますが、それぞれの巨大生物のイメージもまた、さまざまです。
たとえば、『ランペイジ 巨獣大乱闘』に登場する巨獣は多少誇張された造形ではあるものの、明らかに実在する動物の延長線上にいます。『トレマーズ』に登場するグラボイズは地底に住むモンゴリアンデスワームのような姿をしており、なんとなくエイリアンに近いイメージを持つかもしれません。
怪獣はこうした作品に登場するものとは違う……と言いたくなります。けれども、日本の「ウルトラシリーズ」を見ればわかるように、ワームっぽい怪獣もいれば、獣っぽい怪獣がいるのも事実です。しかも、『ウルトラセブン』に登場するキングジョーのように、ロボットで怪獣というケースもあります。
しかし、そうした線引きが難しいにもかかわらず、怪獣というジャンルは確かに存在しています。「ウルトラシリーズ」もこよなく愛するギレルモ・デル・トロなだけあって、怪獣の線引きが難しいことは理解しているはずです。それでも、KAIJUの造形を見れば、彼はモンスター映画でもエイリアン映画でもなく、怪獣映画を作りたかったのだということがうかがえます。
KAIJUの造形は、日本の特撮における怪獣のイメージとはやや異なるものの、まさに怪獣と呼ぶに相応しいデザインだといえるでしょう。どことなく既存の生物を象った姿をしているのに、青白い光を発しながら動く様子は、元の生物をイメージさせないという絶妙なバランスを生み出しています。なお、KAIJUの青白い光は「カイジュウ・ブルー」と呼ばれる体液であり、強酸性の猛毒です。
KAIJUはグアム沖の深海に発生した、「ブリーチ」と呼ばれる割れ目から出現します。割れ目は地層深くではなく、異次元のトンネルを抜けてKAIJUの住む世界につながっているという設定。KAIJUの世界は弱肉強食の暴力に満ちている――と思いきや、そこでは異世界の種族プリカーサーが君臨しており、地球への侵略を目的としてKAIJUを送り込んでいます。
しかも、KAIJUの姿や形はいずれも異なる一方で、どの個体も同じDNA配列をしています。この事実から、プリカーサーの世界はクローン技術を扱える高度な文明を持っていると推測されるのです。
なお、異次元から怪獣を送り出すという設定にピンときたならば、その予感は正しいといえるでしょう。プリカーサーのモデルは、『ウルトラマンA』において地球へ超獣を送り込んでくる異次元人、ヤプールがモデルになっています。
ところで、本作のエンドクレジットには、最後に「この映画をモンスターマスター、レイ・ハリーハウゼンと本多猪四郎に捧ぐ」というメッセージが表示されます。レイ・ハリーハウゼンといえば、アメリカのほこる特撮映画監督であり、『ゴジラ』の原点ともいえる『原子怪獣現わる』や『タイタンの戦い』などを手がけた人物でした。一方、本多猪四郎は言わずと知れた初代『ゴジラ』の監督です。
アメリカと日本、双方の怪獣映画の歴史や伝統を意識しながらも、本作からは単純なオマージュには落とし込まないというギレルモ・デル・トロの意思が感じられます。
【解説】オタク心をくすぐるイェーガーの設定
KAIJUと同じ、もしくはそれ以上の魅力でもって大活躍するのが、イェーガーと呼ばれる二足歩行型の巨大ロボットです。
イェーガーとはドイツ語で狩人のこと。突如出現したKAIJUの存在に為す術もなかった人間が、国同士の利害を超えて団結し開発したロボットです。2015年に第1世代が初起動。その後、本作のメイン舞台となる2024年には第5世代がロールアウトしています。
イェーガーの特徴は、原則としてパイロットが2名いないと動かせない点にあります。イェーガーの操縦には、パイロットの脳とイェーガーの操縦システムを同調させる「ドリフト」と呼ばれる方法が必要です。しかし、パイロットが1名だけでは脳神経が操縦システムの負荷に耐え切れません。そのため、ドリフトでは右脳と左脳、それぞれを担当する2名のパイロットが必要になるのです。
なお、ドリフトした2名のパイロットのシンクロ具合は数値で表されます。もちろん、これは『新世紀エヴァンゲリオン』におけるシンクロ率の影響に違いありません。
遠隔操縦ではなく、人間が直接ロボットに乗り込むという設定。なぜそのようなリスクを冒すのかという点に対して、明確な説明はありません。なぜなら、そんな説明は不要だからです。オタクにとって巨大ロボットといえば、人間が乗り込むものなのですから。
イェーガーはローリーとマコが乗るアメリカ製のものだけではなく、ロシア、中国、オーストラリアの機体も登場。1機たりとも同じデザインがない点が、ロボット好きをうならせます。しかも、設定やスペックの細かな設定が、それぞれのイェーガーを魅力的にしているのです。
ローリーたちのイェーガー「ジプシー・デンジャー」は第3世代の機体です。多くの近接装備を持っており、あらゆる状況に対応しやすいのが特徴。また、回路がアナログ式であることから、KAIJUの電磁場攻撃の影響を受けない唯一の機体です。この点がストーリーでも重要な役目を果たします。
一方、ロシアの「チェルノ・アルファ」はもっとも旧型の第1世代でありながらウラジオストクを6年以上も守ってきたという実績の持ち主です。中国の「クリムゾン・タイフーン」はトリッキーな動きと必殺技「雷雲旋風拳(サンダークラウド・フォーメーション)」を操る第4世代の機体。そしてオーストラリアの第5世代イェーガー「ストライカー・エウレカ」はパワー、スピード、装甲などあらゆる面においてほかのイェーガーを大きく上回る性能を持っています。
ちなみに、雷雲旋風拳に過度な期待はしないようにしましょう。
また、巨大ロボットといえばガンダムに代表されるようなビーム兵器などを使用するイメージがあるかもしれません。しかし、イェーガーはいずれも徒手空拳、もしくは近接武器を中心に戦います。
もちろん、この設定にはきちんと理由があります。それは、強酸性の猛毒であるKAIJUの体液、カイジュウ・ブルーをできるだけ飛散させないため。オタクが好む作品においては、細かな行動への理由の有無がしばしば重要なポイントとなるのです。
【考察】なぜ日本人にここまでウケたのか
興行収入的にも大きな成功を収めた『パシフィック・リム』ですが、特に日本においては、異常なまでにウケているといえます。国内の名だたるクリエイターをはじめ、特撮やアニメ好きにはもちろんのこと、一般の人も好意的に捉えていることが多いようです。
実際、公開年となる2013年以降、いくつもの映画館でたびたび4DX上映や爆音上映会が実施されています。これは、本作が4DX上映や爆音上映会と相性が良いというのもありますが、理由はそれだけではないでしょう。
『パシフィック・リム』が日本でヒットした理由、それはやはり本作と日本との親和性が関係しているように感じられます。この親和性について、2点ほど考えてみました。
ひとつめは怪獣や巨大ロボットというジャンルが、日本人にとって単純に馴染みの深いジャンルだからでしょう。今はアニメを見ないという人であっても、幼い頃にはこうした作品を見たことがあるのではないでしょうか。
だれもがそんな記憶を持っているなか、『パシフィック・リム』をネタ的なB級作品としてとりあえず観た人も多いはず。しかし、蓋を開けてみればど派手なSFアクション映画として、大人の鑑賞に十分こたえるものだったことを理解したのではないでしょうか。そして鑑賞後は、ノスタルジックを最高の形で想起させてくれたことに気づかされるのです。
そしてもうひとつは、『パシフィック・リム』がひさびさに特撮の目玉とも呼べる作品となったからではないでしょうか。
たとえば、ニチアサで放送している平成仮面ライダーやスーパー戦隊は歴史も長く、毎年必ず作品が入れ替わるほどの人気ぶりですが、やはり見る層が限られています。また、ウルトラシリーズに至っては2007年に『ウルトラマンメビウス』が終了後、2013年の『ウルトラマンギンガ』が開始するまで、新たなシリーズ作品を発表していませんでした。
一方、邦画においては状況は一段と寒々しいものであったといえます。一応、漫画やアニメの実写化を中心にいくつかの特撮映画はあったものの、どれも大きなヒットにはつながっていません。また、日本がほこる怪獣映画『ゴジラ』においても、2004年の『GODZILLA FINAL WARS』を最後に、目立った動きはありませんでした。なお、『シン・ゴジラ』が公開されたのは『パシフィック・リム』のさらに3年後の2016年です。
そんな特撮の冬の時代に、突如国外から彗星のごとく出現したのが『パシフィック・リム』でした。しかも、そこには「ハリウッドが誰よりも日本のオタク文化を愛する監督と、約200億円もの予算を投じて、怪獣VSロボット映画というB級作品を真剣に作ってみた」結果が詰め込まれていたのです。この点は、新しい作品に飢えていた日本の特撮ファンにとって、大きな衝撃だったのではないでしょうか。
登場人物の心情描写が薄いという難点はあるものの、A級をはるかに凌ぐクオリティで真面目に作られたB級作品である『パシフィック・リム』。食わず嫌いとしておくにはもったいない一作です。
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※2019年7月現在の情報です。