映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、かつて人気を誇った近未来アクション映画「マッドマックス」シリーズの第4作として、3の公開から実に30年という時を経て公開された映画です。
当然ながらマッドマックスの世界観を受け継ぎつつも物語が現代流にアレンジされており、単なるリバイバル映画の枠を超えた傑作に仕上がっています。その結果は「アクション映画」に冷たい傾向があるアカデミー賞を、6部門を受賞していることからもご理解いただけるのではないでしょうか。
個人的にも、2010年代に公開されたアクション映画の中では最高傑作であると断言することができるほど好みの作品であり、製作陣には称賛の声を惜しまないつもりです。
今回はそんな『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の個人的な感想や考察を書いていきます!なお、ネタバレには注意してください。
目次
映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を観て学んだこと・感じたこと
・「マッドな世界」は爽快でやはり最高だ!
・豪快なアクションの裏にある熱いストーリー
・めちゃくちゃ丁寧に「バカ」をやっている
映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の基本情報
公開日 | 2015年6月20日(日本) |
監督 | ジョージ・ミラー |
脚本 | ジョージ・ミラー ブレンダン・マッカーシー ニコ・ラサリウス |
出演者 | マックス(トム・ハーディー) フュリオサ大隊長(シャーリーズ・セロン) ニュークス(ニコラス・ホルト) イモータン・ジョー(ヒュー・キース・バーン) リクタス・エレクタス(ネイサン・ジョーンズ) |
映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のあらすじ・内容
核兵器による大戦争の後、荒廃した世界は暴力がすべてを支配する空間へと変質していました。
砂漠化してしまって荒廃した荒野を生きる元警官のマックスは、自身が救う事の出来なかった数多の生命が原因で幻覚や幻聴に悩まされていました。
しかし、それでも生きるためにはこの世界を駆け回らなければなりません。マックスはこれといった目的もなく、ただ荒野を流浪していきます。
流浪の過程で囚われの身となったマックスは、シダテルという独自の社会を築く砦に囚われ血を利用されてしまいました。そこには彼と同様「子生み女」として従えられているワイブスたちがいましたが、砦の大隊長フュリオサの手によって彼女たちは連れ出されます。
砦の首領ジョーは怒り狂い、彼女たちの追撃を開始しました。その部隊にとっての「血液」として同じく連行されたマックスは、否応なく戦いに巻き込まれていくことになるのです。
映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のネタバレ感想
最新技術で蘇る圧巻の「マッド」な暴力と世界観が見事!
まず、本作で絶賛すべきポイントはなんと言っても「圧巻の映像」に他ならないでしょう。マッドマックスシリーズ最大の見せ場はここであり、他の要素がいかに優れていようともこの部分が弱ければ台無しになりかねないという、極めて重要なポイントです。
そして、筆者としてはこの部分が素晴らしかった時点でもう本作の評価が決まりました。生身の人間と近未来設定特有のCGが非常に上手く融合されており、荒廃した世界でありながらかつては進んだ文明が構築されていたことをしっかりと示唆しています。さらに、過去の作品に比べるとCG技術の向上によって映像面が超絶強化されており、この部分への力の入れようが想像できます。
ただ、こうした要素が強化された一方で、しっかりとシリーズ特有の「狂気」も受け継がれています。「血液袋」や「子生み女」といった気が狂ったような設定や、砦で独自の社会を築く大悪党など、お馴染みの要素がバッチリ残されています。もちろん言動や行動の全てが基本的に狂っているので、まさしくこの世のものとは思えないほどのダイナミックな世界観を楽しむことができます。
後ほどでも述べますが、本作はストーリーや社会問題などに関して、意外なほど緻密に作られています。しかし、たとえそれに全く気が付かなかったとしても、画面いっぱいに展開される狂った世界を楽しむだけでお釣りが返ってくるでしょう。そういう意味では、まさしく二度おいしいタイプの映画になっています。
もっとも、評論文を書きながらこんなことを言ってしまうと元も子もないのですが、本作の狂気あふれる魅力を文字情報で伝えることは、ハッキリ言って不可能です。マッドマックスを見たことがない方でも、本作に影響を受けている「北斗の拳」や「fallout」などの世界観が好きな方は必ず虜になるでしょう。百聞は一見に如かずということで、ぜひ映画を視聴してみてください。
荒れ狂う画面の裏には安定したストーリーが隠されている
本作がいかに狂気に包まれた映画であるかということについてはお分かりいただけたかと思いますが、一方でその裏にあるストーリーもしっかりしていたのが高評価に拍車をかけています。この手の映画は映像が本番なのも事実ですが、ストーリーが完全に破綻していては見ていて混乱してしまうでしょう。
そういった観点でいくと、本作のストーリーは決して「斬新」でもなければ「緻密」でもなく、狂気を妨害せず話をしっかりとまとめているという意味では優れたものでした。マックスが連れ去られて事件に巻き込まれるものの、彼の存在がフュリオサやニュークスといった砦側の人間たちに影響を与え、やがては味方として行動を共にする。そして、最後は悪を打ち倒しマックスは静かに去っていく。
一つ一つの要素を見ていくと、どれもありきたりといえばありきたりです。しかし、何度も言っているように本作の魅力は文字通り狂気の部分であり、表現が適当かはともかく物語の部分は破綻していなければ全く問題ないのです。むしろ、下手に小難しい物語を練って視聴者を混乱させてしまうのはもってのほかですし、脚本の緻密さ重視する方でなければ本作の脚本に不満を覚えることはそうないのではないでしょうか。
まとめると、本作のストーリーラインは点数でいえば80点くらいになるのかもしれません。破綻がなく安定しているものの、緻密さや斬新さがないという意味ではこの評価が妥当に思われます。
しかし、この点数を「マッドマックス」の脚本に求められる要素をどれだけ満たしているか、という観点から考えれば個人的には100点を与えてもよいのではないかと思います。シリーズファンの方は、「マックスの出番が少ない」ということを気にされるかもしれませんが、私見ではその点はあまり気になりませんでした。彼の出番や活躍が多くない分、フュリオサやニュークスがしっかりと主人公していましたし、これまでのヒーローがサポート役に回るという脚本も素晴らしいと思ったからです。
言い方は失礼かもしれませんが、マックスの活躍自体は前3作で十二分に楽しむことができるのではないでしょうか。個人的にはそう考えているので、少ない出番ながら存在感を発揮する本作の出来に不満はありませんでした。
【解説】本作の成功裏には数々の苦難と失敗が積み重ねられている
マッドマックスの世界観を見ていると、まるで製作陣も作中同様「ヒャッハー」しながら映画を撮っているような錯覚に陥りがちです。しかし、本作、つまり『マッドマックス4』が誕生するまでには、映画のバカ騒ぎからは想像もできないほどの水面下における苦労があったことを紹介していきます。
そもそも、監督が本作作成を決意したのは1998年と言われています。そこから脚本を練り上げ2001年ごろには撮影をスタートしたものの、9.11やイラク戦争といった国際情勢に振り回され製作がとん挫してしまいました。さらに、キャスティングやスキャンダルにも悩まされ、ようやく撮影がスタートしたのは2012年。ここからは怒涛の勢いで撮影が進行していったのですが、それを支えたのは監督周辺のスタッフ達でした。
それを象徴している出来事として、第88回アカデミー賞における本作の評価が挙げられます。本作は本国オーストラリアやハリウッドだけでなく世界的なメガヒットを記録したため、オスカーでは実に10部門にノミネートされました。その中で賞を取ったのは衣装や美術、編集や音響といった「脇役」に思われがちなスタッフたちであったのです。これは、監督を支えたスタッフたちの功績が、映画賞でも評価されたということを端的に表現しています。
さらに、この受賞部門には明らかなメッセージ性が見て取れるでしょう。賞を見ていくと、全体的に「世界観」を構築するための部門が高く評価されていることがよくわかります。これは、先ほどから何度も触れているマッドな世界観、つまり本作に欠かせないとされていた部分をしっかりと押さえているという事実が、ハリウッドでも認められたということなのではないでしょうか。
ただ、主要5部門を受賞できなかったこともまた事実として指摘しなければなりません。同年は圧倒的な作品もなかったため、ライバルの強さもそれほどではなかったでしょう。それを踏まえれば個人的には1部門くらいは取れても良かったと思わないでもないですが、言うまでもなく本作は賞レース向きの作品ではありません。にもかかわらず作品賞と監督賞の2部門にノミネートされたこと自体が本作の評価を端的に表していると思いますし、受賞できなかったことが残念とはいえ、むしろ大健闘の結果とも受け取れます。
そういった観点から考えても、オスカー受賞作より歴史に残るのはむしろこの作品ではないかとさえ思ってしまうのです。
【解説】フェミニズムや女性の意志という難しい問題が根底に
狂気溢れる世界観と安定したストーリーで人気を博した本作。しかし、先ほど少しだけ触れたように、よく見ていくと本作には狂気だけではない隠されたメッセージが潜んでいるのです。
まず、フュリオサの脱出に代表される「フェミニズム」の問題が挙げられます。シダテルにおいて大隊長という地位についていた彼女は、「子生み女」たちの現状や「緑あふれる大地」へのあこがれを胸に砦を脱出します。この行為は、ある種フェミニズムの表現方法として非常によくできています。
第一のポイントとして、フュリオサという女性が自らの意志で脱出を決意しているという点において、「女性の意志」が尊重されているように感じました。従来の映画であれば、ここは恐らくマックスの手によって脱出を果たしていたのではないでしょうか。しかし、本作では後にマックスと合流こそするものの、あくまで脱出そのものをフュリオサの意志として描いている点が良く出来ていると感じました。
次に、彼女が子生み女、つまりワイブスたちを助けるというシーンにも大きな意味があります。これは上記の点と近いのですが、危機的な状況にある女性を「女性」が助けるということ自体が重要なのです。
これも普通の映画であれば、マックスが彼女たちを助けるというのが筋のはずが、言うなれば「女性であること」を理由に男性によって隷属させられている彼女たちが、男性の手で助けられては仕方がないのです。仮にこうしてしまうと、本作で描かれている「女性の自立」というメタファーとずれてしまいますからね。
ただ、誤解しないでいただきたい点としては、これらの比喩を巧みに用いているということです。これでもかというほどフェミニズムを全面に押し出した映画ではなく、あくまで注意深く見ていくとこの図式が浮かび上がるというだけで、見方によっては単なるアクション映画としてのみ楽しむこともできます。昨今はオスカー狙いのある種「説教じみた」フェミニズム映画も少なくなく、主義・主張はともかく映画的な面白さに悪影響を与えている例がないとはいえません。
もちろんフェミニズムという考え方自体は尊重されるべきだと思いますが、それを表現するならば本作のように上手な形でやってほしいですね。
これぞ映画だ!と称賛したいほどの素晴らしい傑作
ここまで、ほとんど全編にわたって本作を絶賛してきてしまいました。内容的に「本作を過剰にヨイショしているのではないか」と思われてしまうかもしれませんが、本サイトで書かせていただいた記事の中にはかなり辛口な評論も寄稿しているので、いつも映画を絶賛してばかりというわけではありません。
言うなれば、それくらい高く評価したいと強く思える映画だったということです。確かに、マックスの出番が少ないという事実は欠点といえば欠点でしょうし、フェミニズム色の強さを敬遠される方もいるかもしれませんが、そもそも完璧な映画というものは存在しないでしょう。筆者は『ゴッドファーザー』シリーズの大ファンではありますが、同作にもやはり欠点はあります。
それでも、その欠点をまるで気にならなくさせてくれるような映画が、自分にとっての「完璧」な映画なのではないでしょうか。その観点からいけば、本作の出来は完璧と呼ぶにふさわしいものでした。実際、本音を言えば筆者は「アクション映画」というジャンル自体がそもそも好みではありません。これは趣味嗜好の問題なので自分でも理由を説明することは難しいのですが、ともかくそうした感性を持っているのです。
本作は「アクション嫌い」の筆者をも唸らせるような作品であることは間違いなく、普段からアクション映画を愛する方にとってはこれ以上ないほどの、マイベストムービーになる可能性を秘めています。加えて、深いことを考えなくても視覚的に楽しめる映画として完成度が高く、「エンタメ映画とはかくあるべし」というものを体現しているようにさえ感じました。
本作を楽しむのに、政治の知識は必要ありません。宗教の知識も必要ないでしょう。なぜなら、根本的な問題として本作は「理性」ではなく「本能」に訴えかけてくるような作風をしているからです。内容はやや過激なため、子どもや女性の中には本作を楽しめないという方がいても不思議ではありませんが、暴力や狂気に抵抗さえなければ、ただ映画の世界に没頭するだけで荒野を生きる人々の生きざまを十二分に味わうことができます。
ただし、唯一の懸念らしい懸念としては「続編に関する騒動」が挙げられます、本作のメガヒットもあり、続編の制作は既定路線になっているものと思われました。しかし、監督と配給会社の対立が災いして、予算をめぐって騒動が泥沼化しているというニュースが流れています。続編がつくられないのはやむを得ないとしても、内紛によって本作の評価に傷がつかないことを願うばかりです。
(Written by とーじん)
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※2019年8月現在の情報です。