映画「シン・ゴジラ」は新世紀エヴァンゲリオンを製作した庵野秀明が監督を務めました。興行収入は81億円を超え、「無人在来線爆弾」というキーワードが話題になるなど注目を集めた作品です。
ゴジラとの戦いというよりは人間が事務仕事に追われているシーンが多いという評判もありましたが、大人の鑑賞に堪えうるゴジラ作品として評価を集めています。
今回は「シン・ゴジラ」の個人的な感想をネタバレ解説を含めて紹介します。
目次
映画「シン・ゴジラ」を観て学んだこと・感じたこと
・日本人の仕事に対するストイックさ
・日本人は捨てたもんじゃない。まだ頑張れるという強いメッセージ性
・ゴジラという子供向け映画が、大人が見ても共感させられるストーリーに
映画「シン・ゴジラ」の作品情報
公開日 | 2016年7月29日 |
監督 | 庵野秀明 |
脚本 | 庵野秀明 |
出演者 | 矢口蘭堂(長谷川博己) 赤坂秀樹(竹野内豊) カヨコ・アン・パタースン(石原さとみ) 大河内清次(大杉漣) 志村祐介(高良健吾) 安田龍彥(高橋一生) |
映画「シン・ゴジラ」のあらすじ・内容
ある日、突然に謎の水蒸気爆発が東京湾で起こります。総理大臣の耳にその話が入り、政府が調査を行った結果、水蒸気爆発の起こった原因はゴジラだと判明します。
ゴジラが何の目的で日本に襲来したのか、まったくわからないまま対応をするも、ゴジラの圧倒的な戦闘能力を前に自衛隊も役に立たず、日本だけではゴジラのせん滅が不可能となり絶望的な状況になります。
日本が、単独でゴジラをせん滅できないと判断した諸外国は、核兵器によってゴジラをせん滅しようと動きます。
しかし、日本でも単独でゴジラをせん滅できる方法論を発見した内閣副官房長官の矢口は核兵器の使用を阻止するために全力を尽くします。
映画「シン・ゴジラ」のネタバレ感想
映画「シン・ゴジラ」は、歴代ゴジラシリーズの中で最も大人向けの作品だと感じました。
1989年に公開された「ゴジラVSビオランテ」など、ゴジラシリーズの中には大人向けと呼ばれる作品もありましたが、シン・ゴジラに関しては完全に大人向けの作品に仕上がっています。
ゴジラは子供が見るような映画だろうと思っている方も「映画鑑賞中に子供だけが起きている」というような現象は避けられたのではないでしょうか。
テーマは虚構(ゴジラ)VS現実(日本)
シン・ゴジラがスタートして冒頭のシーンに、「すべてのゴジラファンに捧ぐ」というメッセージから映画がスタートします。庵野秀明監督からの熱意を感じるメッセージですが、ここまで言い切ってしまって良いのか?というくらいの強いメッセージで、視聴前から期待してしまいましたね。
シン・ゴジラのテーマは「虚構のゴジラと日本の現実」の対決になっています。
ゴジラを自然災害などに置き換えてみると鑑賞しやすいかも知れません。日本を襲った津波などの自然災害がありましたが、あの時に日本政府の中でこんな対応をしていたんだろうなと想像させる作りとなっています。
また、基本的にゴジラとの派手な戦闘シーンは少なめになっていて、どちらかといえばゴジラの出現に対して前例がないことを理由に、対処できない日本の対策や不備などが描かれており、社会人ならば「あー、こんなことあり得るよね」とうなずけるシーンが多々あります。
ゴジラ作品には珍しく、大人も共感できる描写が目立つ作品でした。
エンターテイメント性も一級品
現実的な描写が多く含まれるシン・ゴジラですが、ゴジラの特徴として、核攻撃によって小さな島のトカゲがゴジラのように狂暴化してしまったというテーマがあります。
日本と核爆弾という非常にシビアなテーマに対して、エンターテイメント性を盛り込んでいます。
シン・ゴジラの攻撃の結果、核放射性物質で東京周辺が危険地帯になるというシーンがあるのですが、ゴジラの吐く炎の迫力などが十二分に活かされています。
また、「無人在来線爆弾」なども登場します。無人在来線爆弾とは、無人の在来線の電車に爆弾を搭載する攻撃方法です。
無人在来線爆弾を使ってゴジラに対して攻撃を行ったり、様々な戦術を使って攻撃するシーンは見所です。
ゴジラだけが非日常的存在で他はすべて現実的
シン・ゴジラにおいては、ゴジラだけが非日常的な存在であり、後はすべて現実的でリアリティがあります。SNSで拡散されるゴジラの情報や、テレビだけの情報ではなくインターネット上で拡散されていく様子はまさに現代をとらえたシーンです。
ゴジラの登場以降も、日常的な雰囲気は消えることがなく、本当に現実社会にゴジラが出現したらこんな感じになるのだろうなというような、リアリティ溢れる描写がゴジラへの恐怖感を際立たせています。
もしもゴジラみたいに狂暴な生物が、普通に仕事をしている日常の中に出現し留まり続ければ、大パニックというよりは徐々に日常の中に恐怖として浸透していくのだろうなと感じさせられます。
内閣総辞職ビームとは
内閣総理大臣を乗せたヘリがゴジラの攻撃によって破壊されるシーンが、ニコニコ動画などでは内閣総辞職ビームと呼ばれて話題になっています。
ゴジラに自衛隊が総力戦を挑んで敗れるのはお決まりのシーンなのですが、ここで主役が切り替わるのも非常に面白いですね。
内閣総辞職ビームが放たれたあとは、一気に決定権が主演の矢口蘭堂(長谷川博己)に決定権が移り変わります。
一国の首相が一瞬で内閣総辞職ビームによって退場をさせられる展開に、びっくりする方も多いと思います。最初は主演は矢口蘭堂ではなく、大河内 清次(大杉漣)が主役なのかというほどの目立ちっぷりだったのに一瞬でヘリコプターごと破壊されて死亡します。
いままでの活躍は何だったのかというほどの扱いであり、かなり主役交代のスイッチとしては強引だなという印象ですね。
豪華すぎるキャストは自然災害シーンで活きる
シン・ゴジラに出てくる豪華すぎるキャストは、ゴジラによる被害拡大シーンで大きな意味を持ってきます。ゴジラによって被害が拡大していくシーンでは、様々な出演者がそれぞれの役割を全うしようと尽力します。
小出恵介さんなど有名な俳優の方でも出演時間はわずか数秒で、圧倒的に会議室での仕事の進捗確認のシーンが長いですが、豪華キャストを無駄遣いすることなく、それぞれの日常を描くことで活かされています。
また、映画には歌手であるKICK THE CAN CREW(キックザカンクルー)のKREVA(クレバ)なども登場していますが、目を凝らしてみないとわからないレベルで見つかりません。
豪華なキャストがやたらと使われているのにも関わらず、目立たないキャストもいるので、それを探すのも一つの楽しみ方かもしれません。
ゴジラの圧倒的な破壊シーンに戦慄
東京湾の水蒸気爆発シーンから、トカゲ姿のゴジラが登場する段階では、ゴジラの存在感はまるでありません。
あくまでもゴジラは脇役で、ゴジラという存在に対して「まあ自衛隊が動けばなんとかなるだろう、あんなトカゲ一匹」という感じで、ひたすら会議のシーンが流れるばかりです。しかし、ゴジラが成長して成獣となった段階で、一気にその破壊シーンがリアリティを帯びてきます。
ゴジラが吐く熱線により、一瞬で東京を破壊して炎の渦の中へ追いやっていきます。そもそもゴジラがまだ成長していない段階であれば倒せたはずなのに、こうなってしまうともう絶望感を感じるしかありません。
日本にありがちな誰も責任を取らない議論の最中に、大きくなってしまったゴジラという驚異的な存在。一抹の恐怖を感じた方も多いと思います。早く対処しないからゴジラが成長してしまい、ついには誰も手が付けられない状態になってしまったということですね。
石原さとみのへたくそな英語にも戦慄
石原さとみ演じるカヨコ・アン・パタースンの英語がこれまた日本人が聞いてもひどいもので、これが良いアクセントになっています。
アメリカのバリバリのエリートという設定で登場するので、せめて日本人が聞いてもいいと思うようなアクセントで話してほしかったのですが、これは仕方ありませんね。逆に「ああ、深刻になってみる映画ではないよね」と現実に引き戻してもらえます。
日本での核使用については真剣な展開が起こる
ゴジラを日本だけでは排除できないので、諸外国はゴジラの排除を行うために核兵器を使おうとします。
日本は核攻撃による被害に苦しんできた経緯もあり、核攻撃でゴジラをせん滅しようという展開に主人公以下、様々な登場人物が不快感を表明します。
このあたりは子供では少し理解できない可能性はありますが、大人も子供と一緒に鑑賞する際には歴史的な背景などを説明してあげるといいかもしれません。大人が個人的に見て解釈するのも良いシーンですし、子供と一緒になってゴジラの設定のベースとなる核爆弾と日本の歴史について語るのも勉強になるかと思います。
音楽は鷲巣詩郎! エヴァファンも納得
シン・ゴジラのBGMには、鷲巣詩郎作曲の音楽が使われています。また、会議のシーンなどでもBGMにエヴァの作品中で使われた曲が流れます。
エヴァンゲリオンファンであれば思わず、ニヤリとしてしまうような演出になっています。
名前も似ている!ヤシマ作戦とヤシオリ作戦
新世紀エヴァンゲリオンの中で登場する「ヤシマ作戦」とよく似た「ヤシオリ作戦」というネーミングの作戦が、シン・ゴジラの劇中でも登場します。
映画監督が庵野秀明監督なので、エヴァンゲリオンのファンも見に来ているだろうということを予想してか、思った以上にエヴァファンに対するサービスが旺盛ですね。
「礼には及びません、仕事ですから」の一言が最高に渋い
核兵器を使用せずに、ゴジラをせん滅できる可能性のあるヤシオリ作戦の総指揮をとっていた財前正夫(國村隼)の一言です。
ヤシオリ作戦を決行するために昼夜を問わず作戦の準備を進める財前統合幕僚長に対して、「ありがとうございます」と矢口蘭堂(長谷川博己)と伝えたところ、「礼には及びません。仕事ですから」と伝えるシーンがあります。
あれだけ無茶な仕事を上から押し付けられたのにも関わらず、仕事なので気にする必要はないと伝えられる現場の人って、あまりいないですよね。仕事人としてのプライドに非常に感心してしまうワンシーンです。
ゴジラをエヴァンゲリオンの使途に見立てている
シン・ゴジラに登場するゴジラを、エヴァンゲリオンに登場する使途と同一視する人もいますね。庵野秀明監督が監督しているので、そういった解釈になる方も多いと思います。
エヴァンゲリオンにおいては使途はいかなる自衛隊などの活用する兵器の攻撃を受け付けず、ノーダメージでせん滅していきます。今回のシン・ゴジラにおけるゴジラも、使途同様に自衛隊の兵器が一切通用しません。
しかもシン・ゴジラにはエヴァンゲリオンのような対抗兵器が登場しないため、非常にスリリングな展開になっています。
また、「以下、中略」など、エヴァ風のカットや表現が使用されているシーンも多くあります。
新世紀エヴァンゲリオンのアニメの中ではOKだと思われていた表現方法ですが、これだけ予算のかかった映画でも使用されたことで話題になりました。アニメの技法を実写映画で使うという、超ヒット作品を生み出した庵野秀明監督ならではの斬新な発想ですね。
総理大臣って大変だなぁという里見の感想に思わず共感
ゴジラ対策の仕事が忙しすぎて食べようと思っていたラーメンが伸びてしまった、里見の「ラーメンのびちゃった。総理大臣って大変だなぁ」というセリフの思わず共感してしまう会社の管理職の方も大勢いらっしゃると思います。
一国のトップになったにも関わらず責任重大な場面を任されてしまい、昼食も取ることができないほどに忙しい里見演じる総理大臣の姿に「会社で管理職やっているんだけど、俺もこんな感じだな」と思わず共感する方も多いかと思います。
トップになると責任が重くなって仕事が多くなって、やりきれないということが多々ありますが、そんなサラリーマンの共感を誘うワンシーンです。
誰も責任を取ろうとしない「ことなかれ主義」が描かれる
最初にゴジラが登場した瞬間から、登場する人物のほとんどが責任を取ろうとしません。
ゴジラの出現を海底火山の噴火と決めつけ、ノロノロと対策している間に上陸されてしまったり、上陸されてもまだ前例がないからといって全く動こうとしない官僚たち。そして、ついに内閣総理大臣自信も、ゴジラの熱線で死亡するという展開です。
誰も責任を取ろうとせず、だらだらと対応することで悲劇的な結果を迎えることになります。
危機管理の教科書としても非常に秀逸
準備をしていなければ、非常事態が起こっても何も対処することはできません。
ゴジラが出現してからの対応において、ほぼ政府が何もできずに東京を侵略されてしまった経緯に、「想定していない」「前例がない出来事」が起こったという部分があります。
3.11で津波被害が起こった際にも「前例のない出来事で対応が遅れた」という事実がありますが、まさにその危機に対して何も準備できておらず、いざ問題が起こったら法律論を展開して意思決定を先延ばしにするシーンがあります。政府の意思決定の遅さが皮肉っぽくもリアルに描かれています。
ゴジラシリーズの中でも異色の存在感
ゴジラシリーズの中でもシン・ゴジラは異色の存在感を放っています。
理由としては、過去のゴジラシリーズは主に怪獣バトルがメインになっていて、怪獣バトルを目当てにしてきた子供に、おもちゃなどを前売り券につけて大人が仕方なく連れてくるというのがこれまでのゴジラでした。
しかし、シン・ゴジラは子供が見ても正直、ゴジラがただ怖く映るだけではないかという描かれ方でした。容赦なく東京を放射能の海にしたり、自衛隊も全く歯が立たなかったり、登場シーンではグロテスクなトカゲの状態から登場するなど、子供にとってはただ怖いだけの作品かもしれません。
この国も捨てたものではないというセリフ
ゴジラ対策を行い、なんとかゴジラを撃退したあとに出てくる「この国はまだやれる」
というセリフに感動した人も多いのではないでしょうか。
ゴジラに対してなんとか核兵器の使用を阻止できた安堵感のあるシーンなのですが、日本人が総力を結集して一つのことに立ち向かえば、ここまでできるのだというこのシーンは良いですね。
映画「シン・ゴジラ」の最後
最終的にはゴジラを凍らせて倒します。ゴジラを倒すには凍結させるしかないとなりますが、この後にまだ問題は終わっていないことを思わせるシーンがでてきます。
ゴジラの尻尾に人間くらいの大きさの小型ゴジラがくっついている状態です。小型のゴジラが分裂し、再びゴジラと戦わなければならないのかもと思わされる絶望的なシーンです。
現実的で印象に残るシーンが多く、思わず誰かに話したくなる
シン・ゴジラは無人在来線爆弾やSNS使用シーン、エヴァンゲリオンなど、印象に残るシーンが多いです。
シン・ゴジラは興行収入が81億円を超えた話題作であり、年代問わず多くの人が視聴した作品です。放映が終わってからでも「面白かった」「つまらなかった」と会話のネタにできるのは良いですよね。
シン・ゴジラは細かい演出があるので何度見ても面白い
シン・ゴジラは細かい演出が非常に多く、何度鑑賞しても楽しめる作品になっています。
先ほども書きましたが、シン・ゴジラには有名な俳優であっても出演時間が短かったり、登場人物が多かったりするので、細かいシーンを何度も見ても十分楽しめます。
ストーリー展開も早口で次から次へとシーンが変わっていくので、セリフが聞き取れなかったシーンも個人的にはありました。再度確認することで「このシーンってこういう意味があったのか」と再発見があります。
単なる怪獣映画じゃない。シン・ゴジラ
シン・ゴジラはメッセージ性も強烈ですが、単なる怪獣映画だと思ってみた人の期待をいい意味で裏切ってくれる作品です。
様々な立場で働いている人、大人が見ても迫力満点で、非常に楽しめるエンターテイメント性とドキュメンタリー性の高い作品に仕上がっています。
往年のゴジラファンだけではなく、これからはじめてゴジラを見る人にとってもおすすめの一本となっています。シン・ゴジラを見て、特撮の世界に入門してみるのもありかも知れません。
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