映画「ROMA/ローマ」は「ゼロ・グラビティ」「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」などの監督として知られるアルフォンソ・キュアロンが監督・脚本を手がけました。
2018年のヴェネツィア国際映画祭では最高賞にあたる金獅子賞を受賞し、現在はNetflixが独占配信をしています。
世界の批評家が選ぶ2018年のベスト映画ランキングでは、ROMA/ローマが1位に選ばれていて、評価の高い作品です。そんな映画「ROMA/ローマ」のあらすじや個人的なネタバレ感想、解説を書いていきます。
目次
映画「ROMA/ローマ」を観て学んだこと・感じたこと
・白黒映画ながら映像描写がキレイ
・心に傷を追う女性と一歩前に進む姿
・本当の家族の形とは何なのだろうか?
映画「ROMA/ローマ」の作品情報
公開日 | 2918年12月 |
監督 | アルフォンソ・キュアロン |
脚本 | アルフォンソ・キュアロン |
出演者 | クレオ(ヤリッツァ・アパリシオ) ソフィア(マリーナ・デ・タビラ) アントニオ(フェルナンド・グレディアガ) フェルミン(ホルヘ・アントニオ・ゲレーロ) テレサ(ヴェロニカ・ガルシア) |
映画「ROMA/ローマ」のあらすじ・内容
タイトルはROMAですが、舞台は1970年代のメキシコで、メキシコの首都であるメキシコシティが描かれています。
メキシコで暮らすソフィ家には医師のアントニオと妻のソフィ、4人の子供と祖母のテレサ、住み込みの使用人・クレオが住んでいます。
主にクレオ目線で物語が進んでいき、家族の在り方などが描かれています。
映画「ROMA/ローマ」のネタバレ感想
冒頭の車庫の廊下を洗うシーンの音がいい
映画の冒頭、床一面のタイルのみが映し出され、水の流れる音やブラシでこする音が聞こえます。このシーンがかなり長く、初めはお風呂の掃除でもしているのかと思いましたが、見進めてみると車庫であることがわかります。
ここでの水の音が海の波の音のように聞こえ、タイルをただ映しているだけでも耳がとても心地いいんですよね。
この水の音は映画のラストの海のシーンとも繋がっているように感じられ、「嫌なことは水に流す」というメッセージを勝手に感じました。
「つらい環境で頑張る使用人の話」ではなかった。そして子供たちが可愛い
ROMAのあらすじを見ずに映画を視聴しましたが、初めはヒドイ扱いを受ける使用人の話かと思っていました。しかし、ソフィア家に仕えるクレオはヒドい扱いを受けることはなく、子供たちからも好かれています。
個人的に好きなシーンが、序盤のクレオとペペの会話です。洗濯をしているクレオの横で、ペペとパコがおもちゃの銃で遊んでいます。ペペはパコの後ろをとり、銃を撃つ真似をしますが、パコは「僕のゲームだからお前が死ぬんだよ」と言い、ペペは「なら遊ぶのヤダ」と返します。
この子供らしい遊びが平和でほっこりするシーンなのですが、次のシーンもさらに良いんですよね。
一人になったペペは仰向けになり寝転びます。そこにクレオが「どうしたの?話を聞かせて」と声をかけますが、ペペは「話せない 死んでるもん」と返します。話せないと言いながら会話してしまっているのが子供らしくて可愛らしいんですよね。
そしてクレオもペペと一緒に寝転び、「ねえ死んでるのもイイね」と呟きます。このシーンがとてものんびりしていて、日常的でとても好きなシーンでした。
ROMAの前半は静かなシーンが多く、白黒映画で色味もないため、わりと眠くなる映画です。その日常っぽさが映画の良いところでもあるんですけどね。
フェルミンがクズ男だった
クレオの彼氏であるフェルミンはわりとクズでした。フェルミンだけに限らず、ROMAに登場する男性陣はダメ男が多いです。ソフィアの夫であるアントニオも若い女性と浮気をしていましたしね。
クレオはファルミンと映画を見ている途中、整理が遅れていて妊娠したことを告げます。映画は終わり間際でしたが、フェルミンはトイレに行ってくると映画館を出ていき、それっきり戻ってきません。
時が経ち、クレオはフェルミンを尋ねて再び妊娠していることを伝え、父親がフェルミンであることも伝えます。それに対してフェルミンは「そんなはずない お前もガキも殴られたくなければ黙れ」と言い、格闘技の型を見せて大声で脅します。
どの時代、どの国にも彼女に子供ができると逃げてしまう男はいるんだなぁと感じました。子供を育てたくない、子供を作りたくないのであれば避妊をしろ!!
フェルミンのクズっぷりを見てから、ホテル(?)の室内で見せたシャワーカーテンのポールを使った格闘技の型を見ると笑えてきます。全裸のフルチン(モザイク無し)でポールをぶん回し、一通り型を見せて「アリガトウゴザイマシタ」って、やっぱりろくな男じゃないですよ。これは後に繋がる”フェルミンはヤバイ奴”という伏線だったのかもしれません…。
フェルミンが参加した抗議運動は実際に起きた事件?
クレオとテレサがベビーベッドを買いに来た中、街では大きな抗議運動が起きていて、突然街中に銃声が鳴り響きます。
ROMAの時代背景は1970年代のメキシコとなっていますが、劇中では1971年の新年を祝っているシーンがあり、ルイス・エチェベリア・アルバレス大統領(その当時の実際の大統領)の名前が登場していることから、この抗議運動が1971年10月に実際に起きた「コーパスクリスティ大虐殺」という事件であることがわかります。
メキシコシティで起きたこの大虐殺は120人の抗議者が殺害されたものです。日本の文献があまりないので分かりづらいのですが、これは警察VS学生運動というわけではなく、Los Halcones(準軍事組織)VS学生運動という構図で、抗議に参加した学生たちが多く殺害されたようです。
Los Halcones(準軍事組織)はどういうものかというと「国の軍ではない武力を持つ集団」を指します。分かりやすくいうと、日本赤軍や人民解放軍の様なものです。日本赤軍は国内のテロ組織として認定されたので、Los Halconesは悪い集団なのかというと、そういうわけでもありません。
あくまで「国の軍ではない武力を持つ集団」なのでその時々で解釈がかわります。日本赤軍の様なテロ組織のを指すこともあれば、「テロに対抗して武力を持つ集団」のことをLos Halconesと指すこともあります。国の軍は軍人で構成されますが、Los Halconesは民間人や傭兵、私兵など、様々な人たちから構成されます。
説明が長くなってしまいましたが、実際に起きた事件がROMAの中では描かれているわけですね。
そして学生運動の騒動の中、クレオたちの元に逃げこんだ人を撃ち殺した集団の中にフェルミンもいました。クレオはこんな男と離れて良かったと思いましたね。
ビーチに旅行。離婚を子供に告げる中、横で結婚式
ソフィアは子供たちを連れて旅行に出かけます。そして、荷物を引き取ってもらう間に旅行をしていること、夫のアントニオと離婚をすることを子供たちに告げます。
仲のいい夫婦だと思っていた子供たちは悲しみと驚きを隠しきれませんが、ソフィアはつらい顔を見せず「これは冒険だ」と言い気丈に振る舞います。アントニオは6ヶ月も仕送りをしないダメ夫ですし、シングルマザーとして4人の小さな子供を育てるのは中々大変だと思います。
夫は医師だったのでそれなりの収入があったわけですから、それが無くなりソフィアが全て負担しなくてはならないのは厳しいものがありますよね。
レストランを出てアイスを食べているソフィアたちの横では、結婚式を挙げてる夫婦たちが映し出されています。離婚をして意気消沈のソフィアたちの横で、幸せそうな結婚式というのはあまりに酷すぎませんか…。
幸福と不幸、光と闇の対比を描いたシーンでした。
海のシーンで描く「家族のあり方」
ラストの海のシーンが、ROMAという映画の中で一番好きなシーンでした。ROMAの象徴ともいえるシーンですね。
ビーチに来たソフィア一家とクレオですが、クレオは泳ぐことができないので、子供たちはソフィアから波打ち際で泳ぎなさいと言われます。そして、クレオが少し目を離した間に、ソフィとパコは波にのまれて溺れてしまいます。
このシーンのカメラの撮影方法がとても上手くて、カメラが右から左、左から右にしか移動しないんですよね。カットを変えれば海の中にいる子供たちがどんな状況であるか一目でわかるのですが、左右に移動するクレオを追うように撮影されているので状況がわかりません。状況がわからないからこそ、子供たちは波にのまれて死んでしまうんじゃ?という不安や緊迫感を与えるシーンになっているのです。
そして、子供たちが溺れていることに気づいたクレオは海の方へと走ります。そこで映る海の波が結構大きいので、小さな子供たちであれば簡単にのまれてしまいそうな印象を受けます。
泳げないクレオが海の中にどんどん入っていき、水位がお腹から胸のあたりまでの深さになっても子供たちは見つかりません。そして、大きな波にぶつかり浜辺の方へと身体が押し流される様子が映し出されます。
もう子供は助からないか…と思った時、パコとソフィが水面から顔を出します。ここでホッとした方は多いのではないでしょうか。ROMAという映画はクレオの赤ちゃんが死産になったり、ソフィアが浮気をされて離婚をしたりと、このシーンまでにつらい状況に陥る場面がいくつかありました。この流れから行くと、子供たちが波にのまれて死んでしまうことも予想されましたが、そうはならずに安堵しました。
浜辺にあがったクレオたちの元にソフィアがかけより、家族全員が一つになって抱き合います。ここも素晴らしいシーンですよね。そこでクレオは「欲しくなかった 生まれて欲しくなかったの」と心の声を明かします。
赤ちゃんを死産した時に抱きかかえ、涙を流したクレオでしたが、この涙は悲しさや罪悪感、申し訳なさなど、様々な感情が入りまじった涙だったのかもしれません。そして、クレオは泳げないながらも、自分の命を落とす覚悟をして海に飛び込み、子供たちを助けます。血の繋がりはないけれど、躊躇なく海に飛び込んだクレオはソフィア家と本当の家族になったのです。
家に帰宅。子供たちに救われ一歩を踏み出す
旅行から帰って来たソフィア一家とクレオたち。アントニオが自分の荷物と本棚を家から持っていき、家には積み上がった本がたくさんあります。
部屋の配置も変わっていて、新しい部屋、印象の変わった家に子供たちは大はしゃぎです。離婚や海で溺れてしまうなど、散々な目にあったわけですが、子供たちの無邪気さとテンションの高さには暗い気持ちも忘れてしまいます。子供たちの元気さには救われますね。
「冒険しよう ディズニーランドにいきたい」という子供たちの声に対して、ソフィアは「ディズニーはいけないけどオアハカに行こう」といいます。オアハカはディズニー映画「リメンバー・ミー」の舞台にもなったメキシコの地で、キレイな場所でもあります。
そして、ソフィア一家とクレオは家族の絆が今まで以上に強くなり、これまでの日常を取り戻すのでした。
ラストの飛行機「Para Libo(リボへ)」はどんな意味?タイトルROMAの意味は?
物語のラストでは洗濯物を干すクレオと、その頭上を飛ぶ飛行機、「Para Libo(リボへ)」の文字で終わります。初めはリボという地名があるのかな?と思いましたが、調べてみるとどうやら違いました。
リボとは、ROMAの監督であるアルフォンソ・キュアロンの乳母の名前だそうです。アルフォンソ・キュアロン監督はインタビューで「ローマという映画は非常に個人的なもので、私の記憶から生まれたもの」と答えています。
幼少期の記憶からインスピレーションを受けた作品であり、「リボへ捧げる」という意味があるのでしょう。飛行機のカットも「天国にいるリボに届け」という意味があると感じました。
また、リボは先ほども書いたオアハカ出身の方だそうです。この映画のどこまでが実話なのかは分かりませんが、実在の人物に影響を受けて作られた映画だったのですね。
そしてタイトルが「ROMA/ローマ」なのに何故メキシコが舞台なの?と疑問に思った方も多いかと思います。
「ROMA」とはメキシコの「ローマ・コンデサ地区」という場所が舞台になっていることからタイトルがつけられました。国のROMAではないということです。
オバマ前大統領が選ぶ2018年のベスト映画に「ROMA/ローマ」が選ばれなど、映画祭の受賞歴や批評家の評価も高い作品です。(ちなみにオバマ前大統領は日本の万引き家族もオススメ映画として紹介しています。)
現代に作られた映画でありながら白黒で表現するのも新しく、今までにない作品を見たい!という方におすすめの映画です。