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映画『それでも夜は明ける』ネタバレ感想・解説・考察!出演者の名演から黒人差別、奴隷制の闇を知る

映画「それでも夜は明ける」のあらすじ・内容

映画『それでも夜は明ける』はスティーヴ・マックイーン監督による歴史映画です。奴隷制の闇を見せてくる、非常に重厚な作品でした。

今回はそんな『それでも夜は明ける』の個人的な感想や解説、考察を書いていきます!

目次

映画「それでも夜は明ける」を観て学んだ事・感じた事

・人が人をいじめる構図は、昔も今も変わってない
・「これでマシなほう」という事実が悲しみを浮き彫りにする
・一度は観ておきたい。でも二回観るのはしんどい……
・苦しい人生を表した作品として、意外と若い人にウケそう

映画「それでも夜は明ける」の作品情報

公開日2014年3月7日
監督スティーヴ・マックイーン
脚本ジョン・リドリー
原作ソロモン・ノーサップ
出演者ソロモン・ノーサップ / プラット(キウェテル・イジョフォー)
パッツィー(ルピタ・ニョンゴ)
エドウィン・エップス(マイケル・ファスベンダー)
ウィリアム・フォード(ベネディクト・カンバーバッチ)

映画「それでも夜は明ける」のあらすじ・内容

映画「それでも夜は明ける」のあらすじ・内容

主人公ソロモン・ノーサップは、自由黒人として米国北部で暮らしていました。ヴァイオリニストや大工を仕事に、妻や子どもと共に当時の黒人としてはかなり幸せに過ごしていました。

1941年のある夜、彼は白人の二人組に薬を盛られ、昏睡状態のまま誘拐されます。その後彼は奴隷市場に出され、身分も名前も捨てられて商品として売られてしまいます。

はじめに買われた家はまだ人間扱いしてくれたものの、とある危険に晒されたために別の家へ転売されます。そこは黒人を人とも思わない、エドウィン・エップスの綿花畑でした……。

1953年に解放されるまでの、ソロモンの地獄の日々が描かれます。

映画「それでも夜は明ける」のネタバレ感想

【解説】奴隷解放の直前を描いた実話

【解説】奴隷解放の直前を描いた実話© 2013 – Fox Searchlight Pictures

本作は、ソロモン・ノーサップという黒人が1853年に出版した自伝を元にした映画です。詳細部まで全てとは言い切れないものの、この本の歴史的信ぴょう性は高く、実話である可能性も非常に高いとされています。

自伝の根幹を成しているのは、ソロモンが1841年に誘拐され、それから12年もの間奴隷として働かされた体験です。自由黒人として幸せに暮らしていた彼が突如として奴隷にさせられ、苦しんだ様子が描かれています。

単に悲痛であるだけでなく、あくまで19世紀の出来事であるため、そこまで昔ではないということがなお辛くもあります。日本で言ったらペリーの来航が1853年ですからね。江戸時代が終わろうという年に、ソロモンが運よく生還したということになります。

 

そんな19世紀半ばの恐ろしい様子を、真に迫るタッチで描いたのがこの『それでも夜は明ける』です。実話であることをとても信じたくなくなるような、残酷極まりない現実をまざまざと見せつけてきます。

下手なホラー映画のように過度の流血に頼ってはいないため、暴力シーンが苦手という人でも少し我慢すれば観れるでしょうし、基本的にPG12指定に留まっています。それゆえに生々しくもなっています。歴史上確かに存在した(あるいは今も残ったままの)人種差別という怪物を観ることができるでしょう。

出演者らの演技が全部スゴイ!

出演者らの演技が全部スゴイ!© 2013 – Fox Searchlight Pictures

本作の魅力は、なんといっても出演者たちの演技です。奴隷にする側・される側双方が、見事に映し出されています。第86回アカデミー賞で作品賞を獲得できたのは、この出演陣全員の演技力の高さゆえだと筆者は考えています。

黒人奴隷たちについて言えば、蔓延する「生気のなさ」を一人一人が表しているのがスゴイです。ムチで撃たれないように嫌々労働する様子、奴隷市場の目も虚ろな様子……そのすべてに境遇への絶望が漂っているところには、個人の努力というより製作現場全体の気の入りようを感じます。序盤で「奴隷根性」という言葉が出てきますが、まさにそれが表れているといったところでしょう。周囲の黒人たちがそのような状態だからこそ、妻と子供のところへ戻ろうとガムシャラに生きる主人公の姿が映えるのもいいですね。

黒人の中でも異彩を放っているのは、後半に登場するパッツィー(ルピタ・ニョンゴ)です。「黒人女性で、奴隷としては優秀であり、それゆえにアメを与えられることもあればムチを喰らうこともある」という奴隷制のメンドクサイ部分を一手に担ったような役割を見事に演じきり、アカデミー賞でも助演女優部門で受賞しています。

この功績ゆえか、ニョンゴはのちに『ブラックパンサー』でもヒロイン役を演じていますね。『スター・ウォーズ』エピソード7でも、主人公にライトセーバーを授けるマズ・カナタ役に選ばれています。スターウォーズでは完全に宇宙人の格好をしていたため、クレジットを観ない限り見抜くのはほぼ困難ですが!

 

対する白人の側も、うまく描き分けているのがポイントです。21世紀の日本に住むわたしたちからすると、奴隷を使う側の人間をどこか画一的な悪役と見なしてしまいがちですが、実際にはそうでないことを見せつけられます。人種に関わらず平等に接する北部の白人、北部の中に紛れて黒人を騙す白人、仕事のために仕方なく奴隷を使う白人、自らの幼稚さを奴隷のせいにする白人、奴隷を徹底的に道具扱いする白人、自らの気まぐれで奴隷を振り回す白人、イギリスやフランスに影響されて奴隷制の過ちを説く白人……。実利の面でも精神の面でも、多様性があったことがよくわかります。

そして、それぞれの白人の役作りもまた見事です。役柄を顔だけで表せるような配役も評価できますが、それぞれが違った雰囲気で人間の弱さ・愚かさを表現しているところにゾワゾワしてきます。

非常に身勝手なプランテーションの支配人を演じたマイケル・ファスベンダーがなにかと注目されがちで、彼も間違いなく名演をしていますが、ほかの白人たちも負けず劣らずの表現力を見せてくれます。そんな中でふらっとブラッド・ピットが現れて、かなりオイシイところを持っていくのはなかなかユニークです。

ちなみに、単なる話題作りのためのカメオ出演ではなく、彼は本作の製作に大きく関わっています。

【解説】タイトルは元の英語から離れすぎ……

【解説】タイトルは元の英語から離れすぎ……© 2013 – Fox Searchlight Pictures

本作の邦訳は『それでも夜は明ける』となっているのですが、個人的にこれはマイナスポイントかなと思っています。原題である “Twelve Years a Slave” をそのまま邦訳して「十二年間、奴隷として」という名前で日本人に売り出すのに抵抗があった、という気持ちはわからないでもありません。原題と邦題がかけ離れているのは今に始まったことではありませんし、変えること自体はしょうがないのかなと思います。

そうは言ってもなぜこの邦題なのか、意味がわかりません。筆者が確認した限り劇中でこのようなセリフはありませんでしたし、物語の展開としても思い当たる節がありません。いったいどの夜を指して、また朝が来ると言っているのか……?劇中に黒人たちが苦しむ夜があったのは確かですが、それは昼も同じです。白人のワガママを聞かされるのに、時間帯は関係なかったとしか思えません。

 

もし、主人公の境遇を指して夜にたとえたのなら、むしろ風味を損ねています。不遇の人生を歩む人に対して、「明けない夜はない」と言うのはかなりベタですが、この慣用句の意味するところは本作の結末とはだいぶ違っています。「明けない夜はない」が、その人にとって明るい時代が訪れるという願いを込めて言うものなのに対して、本作はラストに至ってもなお苦い味わいが残ります。まるで影がなくなるかのようなこの邦題からは、そのほの暗さが消えてしまっているように思えてなりません。主人公にとっての「夜」はともかく、黒人全体の「夜」は本作中の時代にはまったく終わっていないのです。

「奴隷」というワードを日本の市場にあまりウケそうにないと判断したのは、ある種仕方がないようにも思えます。だからと言って、こんな古臭いタイトルにしてなんの映画かすぐにわからなくしてしまったのは、果たして正解だったのでしょうか……。間違いだったと思うのは私だけでしょうか。

黒人差別と日本のいじめの類似も見つかる

黒人差別と日本のいじめの類似も見つかる© 2013 – Fox Searchlight Pictures

本作では最初と最後を除いて、ほぼ全編で白人による黒人差別の様子が描かれます。「差別」という言い方をすると非常に大げさな気がして、なんだか日本には関係ないように思えるかもしれませんが、本作でとめどなく起きる差別行為は、必ずしも未知の行動には見えないはずです。なぜなら、21世紀の今でこそ「差別」と呼ばれているものが、構造的にはいじめやハラスメントと同様だからです。

もちろん現代日本で、19世紀のようなムチが使われたりはしていないでしょう。警察が機能しているので、暴力に訴えることもそうそうないと思います。しかし、加害者側・被害者側ともに、精神的な部分ではかなり類似があるように見えるんです。そのため、肉体的なダメージがないだけで、人が人を虐げる様子はかなり似ているように思えてきます。

それは特に、奴隷を虐げる白人たちの言い分によく表れています。ソロモンを誘拐した二人組が「かわいそうに」と他人事のように言うあたりは、いじめを見て見ぬふりをする周囲の人間と重なります(どの口が言うんだという感じですが)。幼稚な大工の白人がソロモンの優秀さをねたんで嫌がらせをする様子は、優等生いびりと同じようなものです。それがエスカレートして徒党を組んで殺そうとする……というのは、さすがに今はないと思いますが。

 

この殺そうとした後のシーンも印象的です。幼稚な大工はソロモンの首を吊らせようとしたのですが、監督官に見つかって失敗します。結果ロープはゆるみ、ギリギリつま先だけが地面につくぐらいで止まります。それから監督官がソロモンを助けるかと思いきや、無視してどこかに行ってしまうんですね。さらに、その様子を遠巻きに見ていた黒人たちも、外に出て遊んだり、作業を始めたりします。おそらく全員、ソロモンがどういう状態にあるかは見えています。にも関わらず誰も助けに入らないんです。

なぜ助けてあげないのでしょうか。おそらく監督官にとっては「助ける義理はない」というところでしょう。別の黒人にとっては「変に手出しして、怖い白人から目をつけられたくない」とでも考えているのでしょう。確かに実利的にはそうかもしれませんが、ヒトとしては非常に冷たい話です。それと同時に、苦しんでいる人に手を差し伸べない現代人と重なるようにも思えたりします。「触らぬ神にたたりなし」と言うのは勝手ですが、差別を見過ごす19世紀の人間と、やっていることは同じなのではないでしょうか。

【考察】結末はハッピーエンドでも、バッドエンドでもない

【考察】結末はハッピーエンドでも、バッドエンドでもない© 2013 – Fox Searchlight Pictures

結果からすれば主人公は奴隷から解放され、再び家族の元に戻ることができました。まるでそれがハッピーエンドであるかのようにも見受けられますが、そうとは言い切れないことが差別問題の難しさを表しています。

まず、主人公にとってこの結末は、「12年の歳月を失って元に戻っただけ」です。その間に得た物は何もなく、子どもたちの成長を見届けることすら叶いませんでした。その上、彼を誘拐した白人たちも、裁判で罪が認められることはありませんでした。その苦しみをはかり知ることは出来ません。いくら自伝が当時のベストセラーになったといっても、印税が慰めになったりはしなかったに違いありません。

 

また、その他大勢の黒人にとっては、閉幕後もまだまだ受難の時代が続きます。ソロモンの自伝と同時期にストウ夫人が『アンクル・トムの小屋』を出版して黒人差別への問題意識が高まりますが、事実的な動きはありませんでした。リンカーンが大統領に就任したのをきっかけに1861年から南北戦争が始まり、翌62年には奴隷解放宣言が出され、65年にリンカーンの側(北部)が勝利したことで法的な平等が謳われ始めますが、それでも社会全体が差別をやめるには百年以上の月日が必要となりました。

2019年の今となっては、だいぶ改善されたのは間違いありませんが、それでもまだ完全と言えるかはわかりません。完全だとしたら『ゲット・アウト』や『グリーンブック』といった映画は作られていないような気もしますし……。

悲しいことですが、ほとんどの黒人が解放されていないということは、劇中の黒人たちもほぼあのままということになります。誘拐された際の船でソロモンに知恵を授けた男も、奴隷市場で引き裂かれた親子も、ほとんどが幸せになれないままで一生を終えたことでしょう。彼らの中には、秘密結社・地下鉄道の力を借りるなどして脱走した人もいるかもしれません。しかし、それも全体から見たら大した数にはなりません。南北戦争前に死んだ人も、戦争中に死んだ人もいるでしょう。ソロモンが綿花畑を去るときのパッツィーの姿には、そうした未来が内包されているようにも感じられます。

 

それにもし脱走できたり、南北戦争を生き延びて奴隷という身分から解放されても、仕事ができなければ野垂れ死ぬことになります。劇中ソロモンが何度も訊かれたように、当時の黒人の大半は文字の読み書きすらままなりませんでした。手紙が書けて、土木作業ができて、バイオリンも弾けるソロモンだからこそ、自由になった後で(白)人並みの生活を送ることができたのです。逆に奴隷としての作業しかできない黒人は、自由になったところで活かす術を持ちません。結局そうした人々はシェアクロッパー(分益小作人)として、奴隷と大差ない生活を送ったといいます。

結論として、『それでも夜は明ける』を通じて得をしたのは、白人だけとしか言いようがありません。主人公含む黒人が一方的に損をしている以上、希望の少ない物語ということになります。歴史的にもそれが事実なのですが、まるでハッピーエンドのように締めくくったのは監督の心意気によるものです。ただし、この物語が19世紀の米国に広まったことが、黒人の自由に影響したことも事実です。本作は、黒人たちのハッピーエンドの足掛かりの一つなのだと言えるでしょう。

【評価】確かな演技に支えられた、血肉による名作

【評価】確かな演技に支えられた、血肉による名作© 2013 – Fox Searchlight Pictures

『それでも夜は明ける』のベースは、当時のベストセラーとは言え、あくまで19世紀の書物です。生半可な制作では、古臭いだけの映画になっていたに違いありません。それをオスカー獲得という名誉に押し上げたのは、効果的な脚色と俳優陣による数々の名演技です。この二つによって、力強く、今後も色あせることのないであろう映像を作り出しています。

21世紀の日本で奴隷制が発生するのはさすがにありえませんし、本作の鑑賞が実生活で役に立つということはないでしょう。しかし米国史の教材としては非常に優れています。なによりも、演出や特殊効果に頼らず生身の人間の生き様見せるという点で、指折りの名作であると断言できます。派手な絵面や精巧な脚本は置いておいて、「浴びるほどの名演が観たい」という方にオススメの一本です。

(Written by 石田ライガ)

映画「それでも夜は明ける」の動画が観れる動画配信サービス一覧

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