映画『ピーターラビット』は、可愛らしいウサギと人間の交流を描いた作品です。ただし、その交流は決して穏やかなものではありません。お互いの主張を賭けた、死人が出るかもと思わずにはいられない激しい争いの連続に、本当にあの児童文学が原作なのかと目を剥くことになるでしょう。
しかし、コメディ作品としての非常にレベルの高い作品となっているので、難しく考えずに笑いたいときにおすすめの映画となっています。
今回は映画『ピーターラビット』の詳しい感想や解説、考察を紹介していきます。なお、ネタバレを含んでいるのでご注意ください。
目次
映画『ピーターラビット』を観て学んだこと・感じたこと
・古典児童文学の別解釈?最初から最後まで笑いっぱなしのコメディ
・人間っぽく表情を変えるピーターラビットたちの動きに注目
・難しく考えずに笑いたい人におすすめの作品
映画『ピーターラビット』の作品情報
公開日 | 2018年5月18日 |
監督 | ウィル・グラック |
脚本 | ロブ・ライバー ウィル・グラック |
出演者 | ピーターラビット(ジェームズ・コーデン) トーマス・マグレガー(ドーナル・グリーソン) ビア(ローズ・バーン) ベンジャミン(コリン・ムーディー) |
映画『ピーターラビット』のあらすじ・内容

イギリスの湖水地方に、あるウサギが住んでいました。彼の名前はピーターラビットといいます。青い上着がトレードマークでちょっと自信家、けれども家族思いなのが特徴です。
ピーターは、いとこのベンジャミンや三つ子の妹たち、そしてピーターラビットたちを心から愛する女性ビアに囲まれて、幸せに暮らしていました。
ある日、潔癖症で動物嫌いのトーマスがやって来たことで、ピーターラビットの状況は一変します。自分たちのテリトリーを邪魔するだけではなく、さらにはビアもトーマスになびいていく始末。ピーターラビットはあの手この手でトーマスを追い返そうとしますが……。
映画『ピーターラビット』のネタバレ感想
原作『ピーターラビット』を初めて実写映画化した作品

映画『ピーターラビット』の原作は、20世紀初頭に活躍したイギリスの絵本作家、ビアトリクス・ポターによる同名の絵本作品シリーズです。ルイス・キャロルによる『不思議の国のアリス』と並んで、イギリスにおける児童文学の古典とも評される『ピーターラビット』は、今や世界中で愛読されています。
もちろん、日本でも馴染みの深い作品ですが、読んだことはないものの、名前やキャラクターを知っているという人も多いのではないでしょうか。それもそのはず、ピーターラビットは、ご長寿料理番組である「キューピー3分クッキング」のイメージキャラクターとして過去に使用されていたことがあるのです。もしかすると、この番組のイメージが強いという人もいるかもしれません。
映画『ピーターラビット』は、原作シリーズの1作目となる『ピーターラビットのおはなし』と、続編『ベンジャミンバニーのおはなし』を一部含んだ内容になっています。冒頭、ピーターラビットの父親が畑の主人であるマクレガーに捕まってパイにされた話や、ピーターラビットが畑で野菜を食べ散らかすシーンは1作目の内容です。また、ピーターラビットの特徴である青い上着がマクレガーに奪われ、農場の案山子にかけられるシーンは、続編にも見られます。
しかし、原作を忠実に再現した映画かといわれると、実はまったくそのようなことはありません。原作に見られるような場面はほかに存在せず、あとは基本的に映画オリジナルの話が繰り広げられることになります。しかも、本作のジャンルは単なるファミリー映画というよりもむしろコメディであり、そしてまさかのアクション映画でもあるのです。原作からは想像もつかないようなアクションシーンとコメディタッチな展開の連続は、いろんな意味で楽しめることでしょう。
ピーターラビットをはじめとする動物たちのアニメーションがとにかく凄い!

2017年から2018年にかけて、『パディントン2』や『プーと大人になった僕』のように、動物やぬいぐるみを擬人化した作品が多く生まれました。どの作品も、現実の世界で動物たちが動き、人間と話しているような様子が非常にリアルな質感でもって表現されています。
『ピーターラビット』もまた、例外ではありません。作中ではイギリスの湖水地方を模した舞台を駆け回るピーターラビットたちの様子が生き生きと描かれています。その様子は、まさに、現実に出てきたピーターラビットそのものだといえるでしょう。現実との境界すら意識させないアニメーションの質感は、はじめからピーターラビットがここにいると無意識に錯覚してしまうほどです。
しかも、ピーターラビットたちは人間くさく会話し動き回る一方で、ウサギらしさを十分に残しています。実際、彼らの表情はくるくると変化するものの、決して人間のように誇張された表情をするわけではありません。原作が擬人化されたウサギを動物として写実的に描いていると評されることがあるように、本作もあくまでウサギとしての表情や動きをしっかりと描いているのがわかります。擬人化という手法はどうしても人間の特徴に寄せてしまいがちですが、ピーターラビットの動きは、人間と動物の絶妙なバランスを見事に再現しているといえるでしょう。
もちろん、現実にピーターラビットがそこにいるわけではないので、撮影中の俳優は何もないところへ話しかけたり、動物に触れる仕草をしていたりすることになります。しかし、その演技とアニメーションとの間に、ズレを感じることはまったくありません。こうしたズレを徹底的に無くすための丁寧な撮影もまた、見どころのひとつです。
また、本作のアニメーションが凄いのは、何も3Dだけではありません。作中では一部2Dによるアニメーションが印象的に使用されています。このアニメーション、原作の『ピーターラビット』の挿絵がそのまま紙面で動き回っているかのようなリアルさを伴っているのが見逃せないポイントです。
リアルさを追求した実写化も良いものですが、もしこの2Dアニメーションで『ピーターラビット』を作り上げたら、いったいどんな作品になっていたのか……。そう思わずにはいられない魅力があります。
トーマスとピーターラビットのし烈な争いに笑いっぱなし

映画『ピーターラビット』の物語の中核を成すのは、畑の主人であったマクレガーの急逝に伴い、彼の家と土地を相続した甥のトーマスと、ピーターラビットたちとの争いです。マクレガーの農場は、ピーターラビットが2代にわたって憧れた土地でした。しかもピーターラビットにとって、マクレガーは自分の父親をパイにした仇敵です。
マクレガーの死後、主が不在の家や土地を手に入れたことは、ピーターラビットや動物たちにとって思いがけない幸運だったといえます。その家や土地がトーマスによってもう一度管理されることになるため、ピーターラビットは面白くありません。しかもトーマスは超がつくほどの潔癖症で動物嫌いであるため、対立は自然とエスカレート。さらに、ピーターラビットたちと仲良くしていた人間の女性であるビアがトーマスへ急接近していくため、彼女を巡ってピーターラビットの敵対心は頂点に達します。
そんなピーターラビットとトーマスの争いは、し烈を極めます。それはもう、人間対動物というレベルをいささか超えてしまっているといえるでしょう。動物が農場へ侵入しようとするのを防ごうとするトーマスは、害獣駆除の専門店で駆除に必要な道具を購入します。
そのひとつが、家の周囲に設置した電気柵です。ピーナッツバターを塗りたくった電気柵で、トーマスはピーターラビットたちを一網打尽にしようとしていました。しかし、人間並みの知性を持ったピーターラビットはすぐにその罠を看破し、逆に電気柵をかいくぐってトーマスの家へ侵入されることに。虎挟みをはじめとする道具を駆使してトーマスに反撃するなど、ピーターラビットたちは人間顔負けの活躍を披露。さらには逆に配線を付け替えてトーマスの家にあるドアノブへ電流を流すという離れ業までやってのけます。
家と畑を守ろうとして、数々のトラップを用いて争う様子は、どことなく往年の名作『ホーム・アローン』を彷彿とさせます。同作はひとり家に残された少年ケビンが家族の帰宅を待つ間、家の内外にさまざまなトラップを仕掛けて空き巣を撃退しようとするコメディです。ドアノブに触れた途端に電流が流れて飛び上がるシーンは、同作のトラップを思い出さずにはいられません。
やがてトーマスとピーターの争いは激しさを増していき、ついにはトーマスがダイナマイトを持ち出すことになります。スローモーションでダイナマイトや野菜を投げつけ合うシーンは、戦争映画の名作である『プライベート・ライアン』を参考にしたとのこと。もちろん、ここまでくるともう児童文学の要素は欠片もありません。しかし、コメディ映画として、絶対に死人が出ない争いを描くことに成功しており、その様子は笑いを誘います。ダイナマイトによる爆発は、ピーターラビットの家が破壊されるところまで行き着き、ようやく収束を迎えます。

各キャラクターの性格がわかりやすい

トーマスとピーラーラビットによる争いを主軸に置く『ピーターラビット』の物語は、非常にわかりやすく出来ています。その物語をわかりやすく展開するために、登場するキャラクターの性格もまた非常にわかりやすく、バラエティに富んでいるのが特徴です。
主人公のピーターラビットは、両親亡きあと家族の中心としてみんなをまとめる役割を担いながらも、自信家で向こう見ずな性格をしています。亡くなった両親のことを思い出して時にしんみりすることも。また、自分が悪いことをしたと思ったらきちんと謝ることができる、素直な性格の持ち主です。
ピーターラビットのいとこであるベンジャミンはちょっと頼りないところがあり、身なりや服装をあまり気にしない性格。ピーターラビットの無計画な行動に振り回されながらも、彼のことが大好きであとを付いて回ります。
長女のモプシー、次女のフロプシー、三女のカトンテールは、三つ子でピーターの妹。彼女たちもまた、それぞれわかりやすい性格をしています。モプシーは自分が長女であることを誇示する読唇術の使い手。この読唇術が作中できちんと成功する試しはなく、毎回とんちんかんで笑える誤訳をもたらします。
フロプシーはお姉さんぶって話すモプシーと揉めることがあるものの、なんだかんだと彼女が長女であることを認めている様子です。三女のカトンテールだけなぜか非常に目立つ性格をしており、とにかくやんちゃでけんかっ早い性格をしています。あばら骨の本数だけ床にダイビングをしてみせたり、トーマスとの争いにおいてランボーのような姿で応戦したりするなど、ちょっと異質な存在感を放っているといえるでしょう。一度見ると忘れられないインパクトがあります。
そのほかにも、ダイエットしなきゃと言いながらいつも食べてばかりのブタ、間の抜けた行動でピーターラビットたちをヒヤヒヤさせるアリクイ、ミュージカルのように急に歌い出す鳥たち、マイペースで行動するおばさんハリネズミと、どのキャラクターも個性たっぷり。こうしたキャラクターたちがピーターラビットと共にトーマスの家で起こす騒ぎには、台詞回しも含めてコメディ作品の要素に溢れています。
また、登場する人間たちの性格もわかりやすいといえるでしょう。マクレガーの甥であるトーマスは極度の潔癖症かつ几帳面であり、動物嫌いの性格と共にいささかオーバーな行動で笑いをもたらしていきます。同時に、勤務する玩具メーカーで玩具の目利きにすぐれた才能を発揮するなど、ビジネスマンとしても優秀な面を持ち合わせているのが特徴です。
画家のビアも喜怒哀楽の感情が豊かであり、ピーターラビットをはじめ動物を愛する素直な性格をしています。こうした裏表のないキャラクターたちによる物語に、展開が読みやすいという部分があることは否めません。しかし、美麗な景色とリアルな動物たちの姿に彩られた非常にわかりやすいコメディとして、いつでも、誰でも頭を空っぽにして見られるという魅力があります。
【解説】子どもに見せるときにはちょっと注意が必要かも

単純に笑いを誘い、観客を楽しませるのがコメディ作品の特徴のひとつです。しかし、人を傷つけたり、貶めたりすることによって起こる笑いは、行き過ぎると白けるだけではなく、時に不快な感情を呼び起こすこともあります。もちろん、映画『ピーターラビット』は基本的に大人も子どもも一緒に楽しむことができる作品ですが、全編を通じて争いを主軸にしたコメディとなっているため、笑いが持っている危険な部分も少なからず見られます。そのため、子どもへ見せるときにはちょっとした注意が必要になるかもしれません。
笑いが不快感をもたらすかもしれないシーンのひとつは、トーマスのアレルギーに関する描写でしょう。作中ではトーマスがブラックベリーに対するアレルギーを持っていることが明らかになります。ピーターラビットは彼のアレルギーを利用して、農場でのトーマスの口にブラックベリーを放り込むことに。トーマスはアナフィラキシーショックで意識を朦朧とさせながらも、持っていた注射器でなんとか一命をとりとめます。
アナフィラキシーショックに関する描写そのものは、ほかの映画でも見ることがあり、決して不快感をもたらすことはありません。しかし、問題は本作におけるアナフィラキシーショックもまた、笑いを誘おうとするための材料に使用されていることです。コメディタッチな台詞や音楽にあわせてトーマスが気を失う場面に、笑い以外の要素は見られません。そのことがかえって、アナフィラキシーショックが笑いにつながるという図式を作り上げてしまい、現実のアレルギーにおける危険性を茶化しているといえいます。
おそらく、制作者側も気になってはいたのでしょう。作中ではピーターラビットが、アレルギーに関する内容についての抗議をしないでねと、観客へ向かってメタ発言を行うシーンがあります。しかし、アナフィラキシーショックによる死亡の可能性も考えると、流石に行き過ぎたシーンだったといわざるを得ません。実際、アレルギーを持った子どもの親からは当該シーンにおける抗議が殺到し、配給元のソニー・ピクチャーズが謝罪する事態となりました。
このように、いささか過剰な争いのシーンやコメディに傾倒しすぎた雰囲気、倫理的に配慮を欠く部分が散見されることから、観る人によっては不快感を覚える可能性があるのも事実です。イギリスをはじめ、ファミリー映画として成功を収めた本作は、間違いなく子どもと一緒に楽しめる作品になっています。しかし、場合によっては視聴する前後に子どもへの配慮をしてあげたほうが良いかもしれません。
【解説・考察】原作好きからは非難される可能性も?『プーと大人になった僕』との違いとは

『ピーターラビット』と同じく2018年に公開された映画、『プーと大人になった僕』。イギリスを舞台とし、児童文学の金字塔を原作に持ち、どちらも擬人化された動物やぬいぐるみが主人公であるなど、共通する部分が多くあります。しかし、両方の作品を見れば、あらゆる違いがあることがわかります。
一番の大きな違いは、やはり原作の続編もしくは実写化としてふさわしいかどうかです。『プーと大人になった僕』では、監督のマーク・フォスターが娘と一緒に楽しめるような作品を目指したと語っています。プーたちとの再開を通じて、大人になった主人公のクリストファーをファンタジーの世界へ復活させるという展開には、失ったものを取り戻すというエンターテイメントの王道が詰まっているといえるでしょう。
しかも、原作『クマのプーさん』の魅力を最後まで大切に描ききったことで、あり得たかもしれない続編と思わせるような出来になっているのです。さらに、クリストファーが少年から大人へ成長していく過程は、原作者ミルンの息子の生涯に対するオマージュとなっており、あらゆる意味で原作を大切に扱っているのがわかります。
一方、『ピーターラビット』は作品単体で見た場合、アクション映画やコメディ映画としては非常に良く出来ています。しかし、これがポターの著した原作『ピーターラビット』の忠実な実写化かどうかと尋ねられれば、誰もがノーと答えるはずです。おそらく原作者のポターがこれを見れば憤慨するだけでは済まないことでしょう。そのくらいに、原作に対する2作のスタンスには大きな違いがあります。
こうした違いは、2作の優劣を表すものではありません。確かに『プーと大人になった僕』は原作を大切に扱った作品となっていますが、かえって原作を知らなければ作品を完全に楽しむことができないというジレンマを抱えています。他方、映画『ピーターラビット』は明らかに原作を無視していることから、逆に原作をまったく知らなくても楽しめるという利点があるのです。終始コメディに徹した作りは悪くなく、むしろ随所で観客を楽しませようというサービス精神に溢れています。どちらも魅力的な作品であることには違いはありません。
形式的に共通点の多い『プーと大人になった僕』と『ピーターラビット』。両方を見比べてみて、その違いを楽しんでみるのも面白いでしょう。たとえばプーもピーターラビットも、どちらも擬人化され、2足歩行をしているという点は同じです。しかし、2作のアニメーションではプーがぬいぐるみであり、ピーターラビットが動物であることの特徴を、それぞれ表情を使ってうまく表現しています。プーの表情はあまり変化することがないものの、無生物であるぬいぐるみに命が籠もっているという点を繊細に表現しているのです。ピーターラビットの場合は、人間と動物のバランスを保ちながらも、動物として表情が柔和に変化するのが見て取れます。ほんの少しの差ではあるのですが、見比べると違いが顕著にわかるはずです。
さらには同じくイギリスと舞台とした『パディントン』も一緒に見比べることで、さまざまな違いが見えてくるはずです。特定の時期に集中して、このように複数の共通点を持つアニメーションが一度に発表されることはそうそうありません。ぜひ3作とも順番に見て、それぞれが放つ魅力に溺れてみましょう。
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