映画『ブラックパンサー』は、『スパイダーマン』や『X-MEN』を手掛けた、マーベルスタジオによって制作されたヒーロー映画です。
本作の監督やキャストは半分以上が黒人で構成され、アフリカ系のスタッフが集結。本作の興行成績は人気映画『アベンジャーズ』を超え、北米最大のヒット作となりました。
今回はそんなヒット作となった『ブラックパンサー』のネタバレを含む個人的な感想と解説を書いていきます。ネタバレを含んだ感想となるので、未視聴の方はご注意ください!
目次
映画「ブラックパンサー」を見て学んだこと・感じたこと
・マーベルでは異色のヒーロー映画
・社会問題を反映した物語で、考えさせられる
・「賢者は橋を作り、愚者は壁を作る」という今の世界に向けられたメッセージ
映画「ブラックパンサー」の作品情報
公開日 | 2018年3月1日 |
監督 | ライアン・クーグラー |
脚本 | ライアン・クーグラー ジョー・ロバート・コール |
出演者 | ティ・チャラ(チャドウィック・ボーズマン/田村真) ウンジャダカ ”キルモンガー”(マイケル・B・ジョーダン/津田健次郎) ナキア(ルピタ・ニョンゴ/皆川純子) オコエ(ダナイ・グリラ/斎賀みつき) |
映画「ブラックパンサー」のあらすじ・内容
かつて「ヴィブラニウム」という鉱石から出来た隕石がワカンダに飛来しました。ワカンダはその隕石により、他の国よりも科学技術が発達し、高度な文明社会に発展したのです。
しかしその高度な科学文明ゆえに、ワカンダは世間からは身を隠して存続していました。
アベンジャーズの内乱後、ワカンダではティ・チャラが新たな国王として就任。偉大な父から国王の座を受け継いだティ・チャラは、不安を感じながらもワカンダのために新たな一歩を踏み出そうとしていました。
ある事件がきっかけとなり、ティ・チャラの前にキルモンガーという男が現れました。キルモンガーはティ・チャラの従兄弟です。そしてキルモンガーは、ティ・チャラに王位継承権を決める決闘を申し込みます。
映画「ブラックパンサー」のネタバレ感想
キルモンガーという悪役の魅力
『ブラックパンサー』の大きな魅力の1つは、なんといっても敵のキルモンガーです。キルモンガーはただの悪党とは言えないほど、キャラとしての魅力があります。
キルモンガーは、大国に虐げられている途上国や弱い国にワカンダの技術を提供して、大国に対して反逆を企んでいました。不当に虐げられている弱者のために大国に挑もうとするキルモンガーは、ダークヒーロー的な面を持ち合わせております。
一方、主人公でありながら正当な国王の血統をもつティ・チャラはキルモンガーや虐げられている弱者のためというよりは、自国の安泰を第一にしていました。
2人を比べると、どうしても辛い過去を持ち、対場の弱い人たちの味方であるキルモンガーの方が目立ちますよね。キルモンガーが行おうとしていることは大国への反抗でも、基本的には弱者に寄り添ったものです。そのような動機から、キルモンガーは完全には憎めないような魅力的な悪役でした。
この2人の立ち位置は対称的ですが、キルモンガーの動機はとても悪人のものとは思えません。むしろ、正当なダークヒーローのような印象もうけます。
さらにキルモンガーの過去を思うと、非常に泣けてきますよね。キルモンガーは故郷であるワカンダに思いを馳せながらも、大国に反抗しようとして殺された父のウンジョブを想い、父の思想を受け継ぎ成長しました。
キルモンガーは、故郷であるワカンダに思いを馳せながらも、自国のことばかり考えているワカンダが許せません。そのような故郷への想いを募らせながら、大国への反逆を目論むキルモンガーの心情はとても複雑なものだったでしょう。キルモンガーを実際に見ていると、とても心苦しくなりました。
実際にストーリーが進むと、キルモンガーに同情するばかりか、共感してしまう方も少なくないのではないでしょうか。
最終的にキルモンガーはティ・チャラに敗北してしまうのですが、ティ・チャラはキルモンガーの意志を引き継ぐことになります。そうしてワカンダは表の世界に姿を表わし、平和のために技術提供を行っていくのでした。
こうして、ティ・チャラの自国を守りたいという意志に加え、キルモンガーの意志も引き継いだワカンダは、世界と向き合っていきます。キルモンガーの必死の訴えと、悲しみは確かに身を結び、ワカンダを動かしたのです。
キルモンガーの願いをティ・チャラが受け継いで、新たな一歩を踏み出すルワンダ。とてもよくまとまっており、泣かせるラストだなと思います。
ワカンダの行く先を変えたティ・チャラとキルモンガー
『ブラックパンサー』は、父親と世代を越える物語でもあったのではないかと思います。
ティ・チャラの父親であるティ・チャカはキルモンガーの父、ウンジョブを殺しています。殺した理由は、ウンジョブが白人に虐げられている黒人や移民を開放するために、ワカンダの技術で大国に反逆しようとしていたからです。キルモンガーと同じように、父のウンジョブもワカンダの技術で弱者たちを助けたいという強い気持ちがあったのですね。
ティ・チャカはワカンダの技術が世界に公表され、ワカンダの存在が世界で公になることを恐れたからウンジョブを殺しました。
悲しいことに、ティ・チャカとウンジョブらは、お互いがわかり合うこともなく決別してしまいました。殺害という最悪な方法によってです。致したかなかっただけに、とても悲しいシーンでした。
そして、生き残ったティ・チャカはウンジョブの願いを引き継ぐことなく、ワカンダの秘密主義を貫き通します。ティ・チャカはこの時、どのような気持ちで国王を務めていたのかつい考えてしまいますね。事実を隠蔽していたので、なおさら気になってしまいます。
2人の父親らは悲劇的な結末を迎えてしまいましたが、息子のティ・チャラとキルモンガーは父達と同じ道をたどることはありませんでした。
ティ・チャラの時代では結果的にキルモンガーも死んでしまいますが、キルモンガーの意志を受け入れて、確かにワカンダを変えました。長い年月を経て、ウンジョブとキルモンガーの願いが、ワカンダの美しい夕日の中で聞き届けられたのはとても感動的です。
そして、キルモンガーの意志を引き継いだティ・チャラは、ワカンダの鎖国的な状態から、世界の表舞台にたち技術提供で世界平和を訴えていきました。これは、2人の父親であるティ・チャカとウンジョブでは成し得なかったことでした。
いざこざはあったにせよ、息子の2人は父達が成し得なかったことを成し遂げたのです。2人は父親を超えて、ワカンダの行く先を変えました。彼らは父親たちの過ちを乗り越えて、確かにワカンダを前進させたのです。
『ブラックパンサー』は、ティ・チャカらの世代を乗り越えて、変革し先に進む。そのような時代との決別もテーマも含んでいたのではないかと思います。
作中で使われているガジェット武器がかっこいい!
『ブラックパンサー』はヒーローアクション映画ですが、アクションシーンで大きく印象に残っているのは、ワカンダの戦士達が使うヴィヴラニウム製ガジェットです。
ワカンダはヴィヴラニウムの技術で他の国よりも高い技術力を誇っていますが、その差は圧倒的でカッコいいですよね。
例えば、序盤のカーチェイスで登場する遠隔操作する車なんて未来感に溢れており、手に汗握ります。他にもブラックパンサーが着用している衝撃を吸収して跳ね返すスーツなんて、子供心がくすぐられますよね。
ワカンダの女性が使うヴィブラニウム製の武器もかっこいいです。両腕からエネルギー弾を打ち出すものや、エネルギーの壁を発生させる装置が劇中では登場しました。
細かなところでも、スニーカーやブラックパンサーのネックレスなど、ヴィブラニウム性のアイテムにも拘っています。設定がとても気になるような作り込み具合ですね。これらのガジェットを扱う戦闘シーンは、見ていてとてもワクワクすること間違いなしです。
さらには戦闘機までもが登場しますので、まるで『スター・ウォーズシリーズ』や『007シリーズ』を思い出します。ある意味、映画ファンサービスと言ってもいいのではないでしょうか。
このように、『ブラックパンサー』では様々なハイテクなガジェットがたくさん登場します。
ガジェットや武器、戦闘機などが使われているところは、見ているだけでも楽しいです。このような未来感溢れるガジェットや武器が楽しめるというところも、『ブラックパンサー』の魅力の1つだと思います。
賢く強いワカンダの女性達
『ブラックパンサー』では強くて賢い女性達が劇中で大活躍します。ブラックパンサーのスーツや医療、ガジェットなどの研究をしているシュリのような人物や国王の親衛隊長として、キルモンガーに槍を振り回しながら果敢に戦うオコエ。
『ブラックパンサー』に登場する女性は、本当に逞しくてカッコいい女性たちですよね。作中でも彼女たちの活躍が光っていました。
『ブラックパンサー』は黒人が中心の映画となっていますが、同時にマイノリティーの立場にいる人々の映画でもあったのではないかと思います。
2018年の映画では『グレイテスト・ショーマン』のキアラや『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』でレジスタンスで活躍する人物は、皆マイノリティー的な人々で、社会的に立場が弱かった人が多かったです。
『ブラックパンサー』も例外ではなく、黒人中心で女性が逞しく活躍するとなれば、このようなマイノリティーに関する問題は避けて通れないのではないでしょうか。時代の流れとも言えますが、『ブラックパンサー』において女性が活躍するということは、社会問題を考える上でも必要不可欠の要素だったのではないかと思います。
「賢者は橋を作り、愚者は壁を作る」という名言
『ブラックパンサー』は単なる楽しいヒーロー映画であるだけでなく、非常に重たいテーマを抱えている作品です。その重たいテーマとは、現代の社会問題に関係があります。
黒人が主役の映画になっていますが、作中では黒人が白人に虐げられていた過去や、移民問題や奴隷問題に関する内容が示されています。
そのようなリアルで深刻な社会問題を背景に、『ブラックパンサー』の物語は構築されているのです。深刻な社会問題の背景を持ちながら、ワカンダという高い技術をもった国の視点で2つの考えが対立します。
1つはティ・チャラのような他国に干渉せずに自国だけを守り抜く考え。2つ目はキルモンガーのように、もてる技術で世界と関わっていくべきという考えです。キルモンガーは大国に反逆を企てるつもりでしたが、それは大国に虐げられている途上国を救いたいという、社会的弱者に寄り添った動機からでした。
今まで鎖国的な秘密主義を貫いてきたワカンダにとって、自国の技術を公開し表の世界へ働きかけることなどは、考えもしないことでした。世界のことなんて放っておいて、自国を優先すればいいという考えですね。
現代の国際情勢でもワカンダのような傾向が目立つのは、ニュースを見ていれば、なんとなくわかると思います。
しかし、外の世界を間近で見ている人物の考えは違います。例えば、実際に世界のスパイ活動を行っていた、ナキアはティ・チャラに世界とか変わっていくべきではないか、と提言していますよね。世界を実際に見てきた人と、そうでない人の感じ方が全く違うというのも、印象に残る点の1つです。
ワカンダの民は今までの風習からキルモンガーの意見には反発を覚えます。しかし、国王であるティ・チャラは父の過去やキルモンガーとの戦いで考えが変わっていきます。ティ・チャラも世界の問題に対して、ワカンダはこのままで本当に良いのだろうか、という気持ちが生まれたのでしょう。
キルモンガーはワカンダにとって異邦人のような扱いでしたが、ワカンダを変えた人物であることは間違いありません。ワカンダは外部から来た人間に影響を受けて、国の方針を変えました。外の世界との交流によって、ワカンダという国は変化して、国王でるティ・チャラも成長したのです。
2019年現在、世界ではアメリカを始めとする大国は、他国や移民の人々に対して「壁」を作ろうとしています。
これは『ブラックパンサー』におけるワカンダも同じことでした。自国を壁で守り、外からの他の文化や人種を受け入れないようにする。しかし、そのような壁は世界のためにはならないとこの映画では訴えているのです。そうでなければ、最後のエンディングで自国だけを守ってきたワカンダが、表の世界で技術提供を行うことに説得力がなくなってしまいます。
このようなメッセージを訴えるために、映画でのワカンダは、ティ・チャラの元で変革し新たな一歩を踏み出します。
「賢者は橋を作り、愚者は壁をつくる」
『ブラックパンサー』という映画は、このセリフが作品の全てを言い表している思います。キルモンガーとの戦いでワカンダは彼の意志を引き継ぎ、壁ではなく橋を作る道を選んだのです。この映画の一番のテーマは、現代で作られようとしている「壁」に対して、異議を唱える作品でもあると思います。
そして、ブラックパンサーというヒーローは、ワカンダを守る戦士だけにとどまらず、世界との橋を架ける存在へと成長したのです。悪役を倒し、自国を守るだけでないヒーローではなく、世界の橋となるヒーロー。それがブラックパンサーというヒーローの存在意義ではないでしょうか。
ヒーローものとしては面白くない?
『ブラックパンサー』は他のマーベル作品と比べると、かなり異色な作品です。内容はとてもシリアスですが、ここまで政治色が強いヒーロー作品も珍しいのではないかと思います。
さらには、今までヒーロー役は白人だったことに対して、黒人がヒーローとして活躍し、アフリカがアメリカの技術を圧倒しています。これらは今までのヒーロー映画にはなかったことなので、大きな反響がありました。
一番印象的なのは、はやりキルモンガーという敵役。今までのヒーロー映画では、明確な悪役がほとんどでしたが、キルモンガーははっきりした悪役ではありません。
主義主張のぶつかり合いであり、どちらが絶対的に正しいというわけではないのです。そのことから、爽快に明確な悪を倒すわけではないので、見ていてスカッとするような映画ではありません。『ブラックパンサー』は、そういう意味でもヒーローっぽくないヒーロー映画なんですよね。作中で使用されているBGMもヒーロー映画っぽくありません。
また、本作では政治色が非常に強い作品ですので、そういったテーマが好きでなく、純粋にエンタメとしてのヒーローアクションを楽しみたいという方には、不満だったのかもしれません。物語の背景からも、ニコニコと楽しめるようなものではないことは明らかです。
しかし、『ブラックパンサー』が王道ヒーロー映画として登場したのは非常にインパクトのある事実。マイノリティーの視点で描き、明確な悪がいないヒーロー映画はまさに異色であり革命的なヒーロー映画です。『ブラックパンサー』が今までのヒーロー映画に、一石を投じる映画であったことは間違いありません。
確かに本作は、王道のヒーロー映画としての娯楽性は多少欠けるところがあるかもしれませんが、非常に意欲的でありながら、時代を映した革命的な作品であることは間違いない映画です。
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