余命宣告された母親の生き様を描いた映画『湯を沸かすほどの熱い愛』。
切ない部分もありますし、子供や家庭内の問題を描いた魅力的な映画だったとは思うのですが、母親ではない自分にはどうしても共感できない部分があるような映画でしたね。
今回はそんな『湯を沸かすほどの熱い愛』についての詳しい感想と考察をご紹介していきます。感想と考察ではネタバレを含みますので、映画ご視聴前の方やネタバレを避けたい方はご注意ください!
目次
映画「湯を沸かすほどの熱い愛」を観て学んだ事・感じた事
・母親だと共感、感動、泣ける映画なのかも?
・問題に家族で立ち向かっていく家族愛がお好きな方に
映画「湯を沸かすほどの熱い愛」の作品情報
公開日 | 2016年10月29日 |
監督 | 中野量太 |
脚本 | 中野量太 |
出演者 | 宮沢りえ(幸野双葉) 杉咲花(幸野安澄) 伊東蒼(片瀬鮎子) オダギリジョー(幸野一浩) 篠原ゆき子(坂巻君江) 松坂桃李(向井拓海) |
映画「湯を沸かすほどの熱い愛」のあらすじ・内容
一家の大黒柱としてパートをしながら家事をこなして娘を育てる母・双葉。
夫が1年前にふらっと蒸発したために営んでいた銭湯・幸の湯を休業することになり、苦労することも多く、やっと落ち着いて平凡に幸せな日々を送れていると思っていたところに、娘が学校でいじめにあっているということを知ります。
さらにパート先で突然倒れてしまい、すでに体中に転移している末期がんであること、余命が2~3か月という宣告を受けました。
突然の余命宣告に戸惑いながらも、双葉は娘のために「絶対にやっておくべきこと」を決め、思い残すことがないようにと行動を始めることに。まずは探偵に依頼し、1年前に蒸発した夫・一浩を探すことから始めたのですが…。
映画「湯を沸かすほどの熱い愛」のネタバレ感想
個人的に好きだった映画と似ているということもあり期待していたのですが、自分が経験したことのない母親をテーマにした映画だったためか、どうしても共感できない部分や納得できない部分があり、思っていたよりかは感動したり心動かされたりはしませんでした。
ただ切ないなと思う部分がないわけではありませんし、おそらく母親であれば共感して感動できる部分の多い映画だと思われるので、全国のお母さんにおすすめな映画です!
好きな作品とテーマは似ているものの…
ごくごく普通の幸せな日々を送っていたある日、突然病気・余命を宣告されることから始まるストーリーが、個人的に好きだった映画『ボクの妻と結婚してください。』『最高の人生の見つけ方』と似ているなと感じました。
ただ大きく違うのが今作は女性目線で親子愛をテーマにした映画という点です。
『ボクの妻と結婚してください。』は男性目線で夫婦をテーマにした映画でしたし、『最高の人生の見つけ方』は男性目線で友情をテーマにした映画だったので、今作とテーマは似ているものの受ける印象は全く違うものになっていました。
また、登場人物たちに暗い過去があるためか、他の2作品よりも作品の雰囲気が重めになっているという点も大きな違いでしたね。
3作品の内どれが良いのかというのは、どんなテーマの作品が共感できるのか、好きなのかという個人の好みによって変わってくるので一概には言えませんが、個人的には男性目線の方が共感しやすく感動する部分が多かったので、どちらかと言えば他2作品の方が好きでした。
今作も自分の死が間近に迫っていても娘のためにできることをやろうと動き回り、蒸発していた夫を探し出して、休業していた銭湯を再開して、2人の娘の問題を何とかしようと真正面から向き合っていて同じ女性としてすごいなとは思えるのですが、なぜか納得いかない部分も多かったです。
特に物語が進むにつれて、「そうなるだろうか?」「なんでそうなるの?」と違和感や疑問に感じてしまう部分が増えてきてしまって、そこが気になって感動する瞬間を逃してしまっているように感じました。
おそらくですが他2作品が大切なパートナーをテーマにしていたのに比べ、今作は自分が経験したことのない母親・親子愛というものをテーマにした映画だったために、身近に感じにくく共感できない部分や納得できない部分が多くなってしまったのだと思われます。
なので今作はどちらかと言えば母親目線で共感できる方、問題に家族全員で立ち向かっていくような家族愛を描いた作品がお好きな方におすすめな映画ですね。
母親からのブラが切ない…
ただ母親ではなくても女性として共感できる部分、切ないなと感じる部分はありました。
特に自分の命が長くないことを知った双葉が、娘のためにブラをプレゼントするというのは切なかったですね。
スポーツブラでも今は大丈夫だろうと思っているものの、将来的には必ず必要になるからと笑顔で渡していますが、いざ必要になったときに自分は側にいてやれないだろうと思っているからこそ早めに渡しているのだと思うと、切なさを感じずにはいられませんでした。
自分が同じ年頃だった時とどうしても重ね合わせて考えてしまいますし、娘にはこれからもっと女親が必要になる機会が増えるわけですから、その時のために早めに準備しておこうという母親の愛には泣けましたね。
そして蒸発していた夫に大切な娘を託さなければならないというのも、女性としては切ないものがありました。
浮気して1度は自分たちを捨てたような無責任で頼りにならない男に…病気さえなければこのまま一生会わないまま終わっていたような男に、自分が大切に育ててきた娘を託さなければならないというのはツラいというか、苦渋の決断だったと思います。
さらには同じように1度は娘を捨てた実の母親にも娘を託さなければならないわけですから、心配で心配でしょうがなかったことでしょう…。
母親目線での親子愛というのはイマイチ共感できなかったのですが、妻目線・娘目線のものは共感できたので、女性特有の表現には同じ女性として切なさを感じましたね。
宮沢りえさんの怖いくらいの演技
今作の主役双葉役・宮沢りえさんの、母親としての愛情・熱意・切なさみたいな表現、病魔に侵されていく怖いくらいの名演技も魅力的でしたね。
母親を経験したことのない自分には共感できない部分も多かったのですが、双葉のしていることが娘を想っての真っすぐさ・言動であることは理解できたので、母親の偉大さや母親だからこその深い愛情というものはしっかりと感じることができました。
そして母親としての名演技だけでなく、病人としての名演技もすごかったです。
前半部分の病気による手のしびれ、体調不良などの細かい表現、後半の「死にたくない」とこっそりと涙を流す姿も良かったのですが、何と言っても映画終盤のやつれはててベッドに横になって呼吸をするだけという姿。
本当に病気なのではないだろうか?大丈夫か?と心配になるくらいの姿で、正直言って怖いくらいでしたね。
さすがに長く愛され続けている、そして活躍し続けている女優さんは違うなと思わざるを得ない、驚くばかりの名演技でした。
【解説】伏線が隠されているのがGOOD!
淡々と家族問題と立ち向かう母、病魔に抗いながらも家族のためにと動き回るというだけでなく、ストーリーの中に母親に関する伏線がいくつも隠れていたのが良かったですね。
どんでん返しの展開や伏線を探したり考察するのが好きな者としては、こういったテーマの映画の中にもそういった映画を深読みする部分、視聴後も楽しめる様な要素が隠されていたのは嬉しかったです。
例えば、安澄の実母が双葉ではなかったという展開。あれだけ愛情深い母親でまさかそんな展開が隠されているとは思わなかったので驚きましたね。
ただよくよく最初の方を観返してみれば、毎年蟹を送ってくる坂巻君江という謎の女性が登場していたこと、その蟹のお礼の手紙を娘に必ず書かせていたことから想像できなくもないという見事な伏線で、今作の中で一番驚いたポイントでした。
そして、双葉もまた母親に関して暗い過去があるという展開。鮎子の話の時に過去の回想シーンが入るのですが、それでは施設のような場所に預けられる少女と微笑み去る母親というシーンで、母親に置き去りにされたものの家で一浩と暮らしていた鮎子とは一致しませんよね。
あれ?とは思っていたものの双葉の過去のことだとは思っていなかったので、これまた驚いた伏線・展開でした。
こういったテーマの映画だとどうしても感動の方がメインになりがちで伏線やどんでん返しの要素がない場合が多いのですが、今作は母親をテーマにした切なさの中に母親に関する伏線までしっかりと隠されていて、視聴しながら驚いたり視聴後まで楽しめる要素があって良かったです。
娘・安澄の学校でのいじめ問題
病気さえなければ平凡な日々だと思われたのですが、そんな日々には娘・安澄の学校でのいじめ問題が隠れていました。
学校に行きたがらない様子があるものの、制服を汚されるといった陰湿ないじめを受けていてもできるだけ母親には知られたくない、母親には心配を掛けたくないと気丈に振舞っていて、そんな娘のことを察してか双葉も笑顔で変わらずに接しているシーンは何とも切なかったですね。
ただ、いじめのことを知ったうえで、まだ娘を無理やり学校に行かせようとしているのはいかがなものだろうかと思ってしまいました。
いじめ問題は非常にデリケートな問題ですし、学生の場合は将来に関わってくることでもあるので学校に行かなくていいというわけではないのですが、ただ学校に行け!というだけでは何の解決にもならないのではないでしょうか。
ただ学校に行け!学校に行け!と言ってもいじめで心を傷付けられてトラウマになる可能性がありますし、最悪の場合は自ら命を絶ってしまう可能性だってあるわけですから…今作のようにただ学校に行け!と言っただけで事態が好転していくというのには疑問がありました。
また、娘が体操服を脱いだのも良い選択ではなかったのではないかと…。
下着姿で吐いてしまったことでもしかしたら面白がった同級生がさらにいじめをヒートアップさせていた可能性もありますし、もし下着姿がどこからか盗撮でもされていたら…ネット上にアップされてしまったり、そのことでより事態が悪化していた可能性も考えられます。
自分はどうしてもネガティブな方向にばかり考えてしまうためか、今作の娘が勇気を出して学校に行った・体操服を脱ぎ捨てていじめ問題を解決するという展開は、どうしても納得がいきませんでした。
実母と再会させる必要性があるか?
安澄と双葉に血縁関係がなかったという展開は非常に驚きましたし、最初に登場していた坂巻君江が実母という伏線は良くできていて、ストーリーの中で深みが出る良い展開だったのと思うのですが、無理やり実母に会わせた点に関しては納得がいきませんでした。
自分の死後に何かのきっかけで知ってしまうよりかは、自分の口からと実の娘ではないことを伝える、実母の名前や素性を教えるというまでは理解できますし共感できるのですが、無理やり実母に合わせるというのは共感できません。
年頃的に娘には女親が必要だと思っての判断なのかもしれませんが、だからと言ってそれは大急ぎで済ませていいことではないですし、名前と素性さえ知っていれば娘だけでも会いに行けるわけですから、強制的に実母と会わせるべきではなかったのではないでしょうか。
実母のことを知る権利はありますし、本人が会いたいと言うのであれば会わせれば良いとは思いますが、いじめ問題に悩んでいる最中で難しい年頃なわけですから、娘本人の中で少しずつ消化・解決していくのが良いのではないかと個人的には思ってしまいます。
もっと言えば、まだ1番最初に言わなければならない自分の病気のことと余命のことは伝えていない状態で実母の問題を先に解決しようとしたのも疑問でしたね。
実母とどうしても会わせたいのであれば、旅行だと嘘つかずに自宅で実母のことを話し、自分の余命のこと、年頃的に女親が必要になるであろうことを伝え、それで会いに行こうとちゃんと伝えた方が良かったのではないでしょうか。
子供とは言え彼女にも意志や想いがあるはずですから、そこの工程を飛ばして無理やり実母に会わせたのが個人的には納得できませんでした。
映画「湯を沸かすほどの熱い愛」の考察
双葉が病魔に侵された状態で銭湯を再開した理由、双葉の母親について考察していきます。
あくまでも個人的な考察なのでこれが正解というわけではありませんが、参考程度に見て頂けると幸いです!
銭湯を再開した理由
夫にすぐに仕事をしてもらうため、外で勤めるよりも身体的には楽になるから、家族と過ごせる時間が増えるから、娘に少しでも可能性を残したい等の理由から、長く休業していた銭湯を再開させたのだと思われます。
病気の状態でも生活していくため、治療のためには必ずお金が必要になりますが、病気の身体ではなかなか外で働くのは難しい…そこで自宅でできる仕事=銭湯ということになったのではないでしょうか。
銭湯の仕事であれば夫は経験があるわけですからすぐに始められますし、番台・掃除などの簡単なことは子供達でも手伝うことができます。
そして、何よりも家業であれば娘たちに継がせることが出来ますよね。
万が一にでもいじめが原因で娘が「外では働けない」となったときに、銭湯で父と一緒に働けるように…娘が働ける場所を残せるように、働かないにしても変わらず帰ってこれる場所を残せるように、働く場所の選択肢を増やせるようにという考えだたのではないでしょうか。
双葉の母は向井の義母?
双葉の母とバックパッカー・向井の家族構成が近いように感じたので、もしかしたら双葉の母と向井の義母は同一人物なのかもしれません。
向井の名前が向井拓海。
現在の母が3人目。
腹違いの弟が2人。
父親は建設業者社長で資産家。
訛りのない言葉から住まいはおそらく東京。
双葉の母の名前がむこうだ みやこ。
建設業者の妻。
娘夫婦と孫と住んでいる。
東京住まい。
裕福そうな大きな家。
名前がどういう字を書くのかは不明ですが『向田』だとすれば向井の苗字と似ていますし、東京住まい、父親・夫が建設業者社長、裕福そうな家庭環境など、共通点は多いと思います。
向井には弟が2人いるのに対して双葉の母親は娘と住んでいる点に関しては、弟2人の方はすでに1人立ちしているか自分たちの母親側についていっており、娘は母親側の連れ子なのではないでしょうか。母親側の連れ子であれば、父親側の連れ子である向井が兄弟としてカウントしていない理由も頷けますし。
元々双葉には姉妹がいたのだけれども金銭的な理由からか再婚するためか1人を施設に預けることにし、もう1人は再婚した家庭で育てることにしたのではないでしょうか。
向井が目的なく突然旅に出た原因もここにあり、家を出て結婚していた母親側の連れ子が出産を機に同居することになり、居心地が悪くなった向井が家を飛び出したいということだと思われます。
切なく、伏線もあり魅力的な映画だとは思う
切ない場面あり、伏線あり、宮沢りえさんの名演技ありの魅力的な映画だったと思います。
ただ母親の経験がない私には子供の問題に関しては理解しきれていない部分・共感できない部分があるためか、どうしても違和感や疑問に感じてしまう部分もありました。
おそらく母親だと「わかるわかる」と共感できる、自分と重ね合わせて泣けるような映画になっていると思うので、自分も母親になる機会があればまた観直してみたいと思います。