1984年版『ゴジラ』が指し示した、パニック映画としてのゴジラ。それは『ゴジラVSビオランテ』の完成によって、怪獣同士の対決という平成ゴジラシリーズの方向性を決めることとなりました。
いざ本作を紐解いてみると、ビオランテよりも人間同士の駆け引きや自衛隊の登場シーンのほうがはるかに長いということに気づかされます。しかし、そうした点が『ゴジラVSビオランテ』の魅力を損なうことはなく、むしろ子ども向け作品とは一線を画した、完成度の高い作品に仕上げているのです。
今回はそんな『ゴジラVSビオランテ』の感想や解説、そして考察を紹介します。なお、本記事はネタバレを多く含んでいます。公開から既に四半世紀以上が経過している作品ですが、未視聴前に読まれる場合はご注意ください。
目次
映画『ゴジラVSビオランテ』を観て学んだこと・感じたこと
・平成最初のゴジラは核からバイオテクノロジーへ
・とにかく凄い、ゴジラから日本を守る自衛隊の本気
・時代を経てなお色あせないビオランテの造形
映画『ゴジラVSビオランテ』の作品情報
公開日 | 1989年12月16日 |
監督 | 大森一樹(本編) 川北紘一(特撮) |
脚本 | 大森一樹 |
出演者 | 桐島一人(三田村邦彦) 大河内明日香(田中好子) 黒木翔(高嶋政伸) 三枝未希(小高恵美) 権藤吾郎(峰岸徹) 白神源壱郎(高橋幸治) |
映画『ゴジラVSビオランテ』のあらすじ・内容

三原山で5年ぶりにゴジラが動く気配があることを確認した国土庁。今度こそゴジラの被害を未然に防ぐべく、国土庁はゴジラの体内における核エネルギーの活性化を抑える、抗核エネルギーバクテリアの必要性を示唆しました。国土庁から依頼された白神博士は、ゴジラ細胞を1週間借りることを条件として、抗核エネルギーバクテリアの開発に協力します。
やがて、芦ノ湖には見たこともない巨大なバラの形をした怪獣が姿を現します。ちょうど同じ頃、抗核エネルギーバクテリアの奪取に失敗した他国のエージェントによって、三原山が爆破。ビオランテの目覚めに呼応するかのようにして、ゴジラが再び姿を現します。
映画『ゴジラVSビオランテ』のネタバレ感想
【解説】新たなスタッフによる平成ゴジラシリーズの幕開け

映画『ゴジラVSビオランテ』は、ゴジラシリーズ第17作目にして、平成最初のゴジラ作品です。本作は1984年版『ゴジラ』からちょうど5年が経過した日本を舞台としており、まさに前作からの続編となっています。言い換えるならば、1954年に公開された初代『ゴジラ』から続く、シリーズ第3作と位置づけることもできるでしょう。
作品のキャッチコピーに「超ゴジラ それはゴジラ細胞から生まれた」とあることからもわかるように、本作に登場するビオランテはゴジラ細胞から生まれた存在です。いわば、ゴジラが自分の分身と戦う物語になっています。
『ゴジラVSビオランテ』の監督を務める大森一樹は、平成ゴジラシリーズの代名詞ともいうべき存在です。シリーズ第18作目『ゴジラVSキングギドラ』でも監督を務めたほか、『ゴジラVSモスラ』『ゴジラVSデストロイア』では脚本も担当しています。
一方、特撮監督には川北紘一が採用。それまでのプロレスじみたゴジラの動きを排し、光線の撃ち合いを主軸とするようなゴジラを誕生させました。しかし、だからといって格闘シーンがおざなりになっているというわけではありません。ビオランテの触手がゴジラに絡みつき、さらには腕を貫いて体液が吹き出すなど、本作の内容にはかなり生々しい演出も含まれています。
音楽はドラゴンクエストでも有名なすぎやまこういちが担当しています。ゴジラシリーズ音楽の生みの親である伊福部昭のBGMと、すぎやま調のシンフォニックな音楽が妙にマッチしているのが印象的です。なお、前作1984年版『ゴジラ』で音楽を担当した小六禮次郎は、すぎやまこういちの弟子にあたるとされています。
【解説】権藤の名ゼリフ!作品を彩る魅力的なキャスト

主人公のひとり、科学者の若きエースである桐島一人を演じるのは、「必殺シリーズ」でもおなじみの三田村邦彦。公開当時は36歳であり、本作では若手ながらも少しずつ渋みを備えた演技をみせます。
また、桐島の恋人であるヒロインの大河内明日香は、元キャンディーズのメンバーである田中好子が演じました。本作と同じく1989年に公開された『黒い雨』では、日本アカデミー賞をはじめ数々の映画賞で主演女優賞を総なめにしています。惜しくも田中は2011年に病気で亡くなっており、生きていればもっと多くの作品で彼女の活躍が見られたのではと思うと悔やまれます。
もうひとりのヒロインである超能力少女の三枝未希は、第2回東宝シンデレラでグランプリを受賞した小高恵美が担当。清楚ながらも少し不思議な感じのする少女を上手く演じています。その後、小高は『ゴジラVSデストロイア』まで6作連続で同じ役を演じました。なお、第1回東宝シンデレラは1984年版『ゴジラ』でヒロインを演じた沢口靖子であり、本作では白神源壱郎の娘、白神英理加として登場しています。アメリカの共同機構による破壊工作で亡くなる場面から、三枝未希のアップに切り替わるシーンは、女優交代を感じさせる演出となっています。
そして、本作で主人公やヒロインよりも圧倒的な存在感をみせるのが、自衛隊に所属する黒木翔と権藤吾郎でしょう。高嶋政伸が演じる黒木翔は防衛大学を主席で卒業した若きエリートであり、上官からは「噂のヤングエリート集団」と揶揄されることも。上官に対しても物怖じせずに意見を貫き、ゴジラ殲滅のためなら手段を選ばないなど、私情を挟まずに指揮を執る姿が印象的です。本作の最大の特徴であるゴジラと自衛隊の戦闘シーンは、彼の指揮と大胆な戦略によって展開されることとなります。
一方、権藤吾郎を演じるのは、渋みのある演技で後年まで活躍した峰岸徹です。一見して粗野な感じを与える自衛官ですが、ベテランならではの機転を生かした高い判断力と行動力を有しています。物語の後半、高層ビルから抗核エネルギーバクテリアの詰まった砲弾をゴジラに撃ち込むシーンは、ゴジラファンの間ではあまりにも有名でしょう。「薬は注射より飲むのに限るぜ、ゴジラさん」と言いながらビルの崩壊に飲まれていく様子は、ゴジラやビオランテを押さえて本作一番の見どころといえます。
ちなみに、権藤が死亡した高層ビルとは、大阪ビジネスパークにあるTWIN21のことです。東宝からビルの運営会社へ、ゴジラがTWIN21を破壊するシーンがあると伝えたところ、運営会社が「ゴジラに破壊されるなら本望です」と快諾したというエピソードがあります。
なお、1954年に公開された初代『ゴジラ』でも銀材の和光ビルや松坂屋が破壊されるシーンがありますが、こちらはそれぞれの会社が怒り狂ったそうです。その後30年近くを経て、ゴジラが国民的怪獣になったというのがよくわかるエピソードだといえるでしょう。
【解説・考察】核からバイオテクノロジーへ、ゴジラ細胞争奪戦が物語に深みを与える

本作に登場するビオランテは、白神博士が人工的に生み出した怪獣です。亡くなった娘の細胞とバラの花を掛け合わせた品種が死にかけていたところへ、ゴジラ細胞を注入した結果、偶発的に生み出された存在として描かれます。
ゴジラ細胞とはその名のとおり、ゴジラの体を構成する細胞のこと。1984年版『ゴジラ』において、ゴジラが新宿で自衛隊と交戦した際に剥がれ落ちた皮膚から抽出したものであり、不死の性質のほか、核エネルギーを食べる性質も持ち合わせています。驚愕すべき性質を持ったゴジラ細胞を使って技術革新を成し遂げようと、本作ではさまざまな勢力が暗躍することになるのです。
その勢力とは、ゴジラ細胞を使って砂漠に強い小麦を作り、アメリカを出し抜こうとするサラジア共和国。遺伝子工学の分野で市場独占を狙うアメリカの共同機構バイオメジャー。そして、ゴジラ細胞を使ってあらゆる核兵器を無力化する「抗核エネルギーバクテリア」を作ろうとする日本です。ゴジラとビオランテの戦いの裏で、ゴジラ細胞をめぐって繰り広げられる三つ巴の争奪戦が、物語に深みを与えます。
日本が開発を進める抗核エネルギーバクテリアは、ゴジラの体内における核反応を無力化するため、本作におけるゴジラ殲滅の切り札となります。しかも、あらゆる核兵器を無力化し、世界のパワーバランスを塗り替えるような兵器です。そのため、サラジア共和国もバイオメジャーも、ゴジラ細胞だけではなく抗核エネルギーバクテリアをも執拗に付け狙うこととなります。
バイオテクノロジーを中心とした人間同士による争いは、それまでゴジラ作品の主軸であった、核による人間の愚かさというテーマからの移り変わりを思わせます。実際、本作のプロデューサーである田中友幸は、人類の脅威になるものとして原爆や核の次には遺伝子工学や科学が台頭してくると考えていました。こうしたプロデューサーの思惑や狙いは、本作において大人向けの作風を醸成させることに成功したといえるでしょう。
しかし、ゴジラシリーズでも人気の高い本作は、結果として前作を下回る興行収入となってしまいました。そのため、次作以降はファミリー向けの娯楽路線を辿ることとなります。もし本作の興行収入が前作を上回っていたならば、その後の平成ゴジラシリーズはさらに深みのある作品が連なっていたのかもしれません。
【解説】シリーズ中もっともイケメン顔なゴジラ、そして動くビオランテ

『ゴジラVSビオランテ』は1984年版『ゴジラ』の直接の続編でありながらも、登場するゴジラの造形は前作からかなり変化しています。顔は幾分小さく、そして白目の部分が無くなっており、全体的にスタイリッシュなフォルムとなっているのが印象的です。その造形は全ゴジラ作品中もっともイケメンと称されることがあります。
そのイケメンのゴジラが、人間でも動物でもない、まさに「怪獣」の動きを表現しているという点は、意識的に見てみると興味深く感じられることでしょう。怪獣めいた独特の動きをもたらしたのは、前作からゴジラのスーツアクターを務める薩摩剣八郎。彼はその後、『ゴジラVSデストロイア』までスーツアクターを担当しています。
ビオランテの造形もまた、「素晴らしい」の一言。ビオランテは2つの形態に変化し、第1形態となる花獣形態では大きなバラの姿にグロテスクな触手を絡ませた姿をみせます。そして、第2形態となる植獣形態では、植物の胴体にワニのような頭部を持ち、さらに凶悪な姿を晒すことに。特に、その大きな口はゴジラを丸呑みできそうなくらいに大きく、迫力に満ちているのが特徴です。
作中では、主人公の桐島がギリシャ神話に登場するキメラについて触れるシーンがあります。そのキメラとは、まさにビオランテの比喩といえるでしょう。白神博士の手による、植物と動物を組み合わせたような異形の姿は、怪獣というよりも人工的に生み出されたキメラ=怪物といったほうが正しいかもしれません。ビオランテのリアルな造形は怪獣としてもあまり類を見ないデザインであり、一見の価値があります。
そんなビオランテが「動く」シーンはまさに圧巻です。ゴジラの数倍の大きさをほこるビオランテの植獣形態は、実際の造形物ですら3メートルもあり、当初は動かない予定だったといいます。しかし、動かないままでは迫力に欠けるため、特撮監督の川北が動かすことを提案。実際に動かすにはピアノ線32本に加えて、20人ものスタッフが必要だったそうです。
巨大怪獣として名高いキングギドラですら、必要としたスタッフの数はせいぜい5~6人だったというので、その凄まじさがうかがえます。画面の奥から触手を唸らせながらゴジラへと迫る様子は、ぜひ大きな画面で見て欲しいシーンのひとつです。
【解説】ビオランテよりもはるかに多い自衛隊シーン

『ゴジラVSビオランテ』というタイトルでありながら、実際にゴジラとビオランテが交戦する回数はビオランテの各形態で1回ずつ、計2回だけです。しかもメインの植獣形態にいたっては、スケジュールの関係で撮影する時間が少なくなっており、時間的な物足りなさは否めません。ただ、雨風のなかでゴジラとビオランテが死力を尽くして戦うシーンは、他の怪獣映画ではなかなか見られない迫力があります。
そんなビオランテとの戦闘シーンよりも、本作では自衛隊とゴジラの交戦シーンのほうがはるかに多くなっています。三原山から再び姿を現したゴジラは、東京湾に近づこうとしてさっそく自衛隊の包囲網に捕まることに。その後、大阪、若狭と舞台を変えながら、ゴジラは計3回も自衛隊と交戦することとなるのです。なお、黒木は三枝の超能力も自衛隊の戦力としてカウントしていたので、これを含めるとゴジラと自衛隊の交戦は4回になります。
それぞれの交戦シーンでは、黒木の理論的に思えるような説明が挿入されるのが印象的です。これまでにない対ゴジラへの戦略的かつ細かな分析が、交戦にリアリティを与えています。
また、前作以上に現実じみた自衛隊の準備や展開シーンも見逃せません。それもそのはず、本作からは当時の防衛庁が撮影に協力。その協力体制は東宝特撮史上における最大規模といわれるほどであり、力の入れようは半端ではありません。なお、劇中に登場する自衛官役はすべてエキストラである一方、登場する自衛隊車両や自走砲、そして戦車の運転は、すべて現役の自衛官が運転しています。
【解説】特撮ロマンが凝縮されたスーパーX2、またもや超兵器のオンパレード

平成ゴジラシリーズに欠かせないものといえば、やはり自衛隊内における超兵器の存在でしょう。本作ではスーパーX2と、マイクロウェーブ6000サンダーコントロールシステムという2つの超兵器がゴジラを苦しめます。
スーパーX2という名前を聞いて、ゴジラファンならピンとくるはず。もちろん、スーパーX2とは、1984年版『ゴジラ』に登場した首都防衛戦闘機、スーパーXの後継機のことです。防御力はスーパーXの2倍に引き上げられ、さらに無人コントロールも可能とスペックが底上げされています。
そして、目玉はなんといってもスーパーX2 の前方に備えられた、ファイヤーミラー。人工ダイヤモンドを利用したこの兵器は、ゴジラの熱線を受けて1万倍にして跳ね返すという、まるで小学生が思いついたかのようなトンデモ設定を持っています。
一方、マイクロウェーブ6000サンダーコントロールシステムとは、試作段階の人工気象装置のことです。人工的に雷雲を発生させ、稲妻による高周波で対照の分子を振動させて加熱するという兵器であり、その設定から超巨大な電子レンジと称されることも。
作中ではゴジラの体内を上昇させ、体内に埋め込まれた抗核エネルギーバクテリアを活性化させるために使用されます。若狭湾近くに設置されるこのシステムは非常に大がかりなものであり、準備に奔走する自衛隊の姿も必見です。
ツッコミどころも多いがぜひ見て欲しいゴジラ作品

前作以上にリアリティを持った怪獣映画として高い完成度をほこる『ゴジラVSビオランテ』。しかし、細かな部分を見ていくと、ところどころで粗が目立ちます。
たとえば、ビオランテを作った張本人である白神博士が罪悪感を一切持っておらず、まるで自分に責任はないかのような言動をする点には、ひっかかりを覚える人も多いことでしょう。また、いくら遺伝子工学の権威とはいえ、世界情勢を揺るがしかねないゴジラ細胞を白神博士へ簡単に貸し与えてしまう展開も、ずいぶん安直に感じられます。
そしてなによりも、ラストで一時的に戦闘不能となったゴジラが、再び起き上がり海へ向かっていくのを喜んでいるという点。ゴジラはただ海へ逃れているだけです。脅威が去ったわけでもないのに自衛隊が安堵しているのは明らかにおかしいといえるでしょう。
しかし、こうした粗い部分を差し引いてもなお、本作には一見の価値があります。バイオテクノロジーに翻弄される人間たちの攻防、黒木の指揮による自衛隊の交戦シーンやスーパーX2の奮闘、そして権藤の活躍。これらを見れば、なぜゴジラシリーズで本作が傑作と呼ばれるのかがわかるはずです。こんなゴジラ作品があったのかと、はまる人には深くささる作品となっています。