『銀魂(実写版)』は福田雄一監督によるドラマ映画です。マンガの実写化にありがちなコスプレ感を逆手にとった、不思議な映画でした。
今回はそんな『銀魂(実写版)』の個人的な感想やネタバレ解説、考察を書いていきます!
目次
実写映画「銀魂」を観て学んだ事・感じた事
・学ぶものはない。銀魂はやはりコメディ
・少年マンガの実写としては比較的マシな方
・もしキャストが無名だったら、同じ人気が出ただろうか?
実写映画「銀魂」の作品情報
公開日 | 2017年7月14日 |
監督 | 福田雄一 |
脚本 | 福田雄一 |
原作 | 空知英秋 |
出演者 | 坂田銀時(小栗旬、田中悠太) 志村新八(菅田将暉) 神楽(橋本環奈) 高杉晋助(堂本剛、大西統眞) |
実写映画「銀魂」のあらすじ・内容
江戸時代末期、「天人(あまんと)」と呼ばれる宇宙人が江戸に襲来し、幕府を屈服させた上で街を好きに開発しました。主人公坂田銀時は、仲間とともに天人が闊歩する江戸で万事屋を営む男です。
ある日、旧知の仲であった桂小太郎が姿を消すとともに、紅桜という謎の刀を探すよう依頼を受けました。仕事を進めるうち、銀時の前に怪しい男が現れ……。
実写映画「銀魂」のネタバレ感想
銀魂は「よくできた実写」なのか?
本作は、週刊少年ジャンプの顔だった超有名ギャグマンガの実写化作品です。少年マンガの実写化というと、十年以上前から「ロクでもないものが多い」と言われがちであることは、論を俟たないと思います。
世のマンガ好きが心のオアシスにしていた作品が、見るに堪えない映画に焼き直しされたことは、もう何度もありました。『デビルマン』に『DRAGONBALL EVOLUTION』『ジョジョの奇妙な冒険』『鋼の錬金術師』……。いまさら列挙するのも野暮かもしれません。
一方で、成功例があるのも事実です。『カイジ 人生逆転ゲーム』『デスノート(2006)』『るろうに剣心』等は、品質・収入共に成功した作品と言っても間違いないでしょう。本作も、比較的こちら寄りに語られることが多いように見受けられます。少なくとも2017年の興行収入ランキングでは、邦画で第三位という好成績を残しています。
ただし、興行収入が良いからといって、品質が高いとは限らなかったりします。例えば2015年公開の『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』と『映画 暗殺教室』は酷評を受けがちですが、意外にも同年の収入ランキングで『ラブライブ!』『ポケモン』『ガルパン』『クレヨンしんちゃん』らを抜いて14位・18位につけていたりします。理由を考察すると話題が逸れすぎ(かつ、大人の事情に対する邪推が多分に含まれ)ますのでさておきますが、お金はクオリティや動員数、評判とは必ずしも比例しません。
ではこの『銀魂(実写版)』はどうなのか?というところを、改めて評価してみます。なお公正のため、以下に筆者の立場を記します。
・マンガもアニメも時折見ていたため、雰囲気は掴んでいるつもりです。ただし毎週追いかけていたわけではなく、コミックも買ってはいません。熱心なファンではありません。
・本作と度々引き合いに出される、『勇者ヨシヒコシリーズ』は鑑賞していません。
・イケメンを好む趣味はありません。
「コスプレ映画」と言われるだけはある
本作はマンガの原作者・空知英秋に、「コスプレ映画」とネタにされてきました。マンガの作風からしても本心かどうか測りかねるところではありますが、的を射た表現だと思います。通常、映画に対して「コスプレっぽい」という感想を呈した場合、けなすことになります。先述した悪い実写映画も、こう呼ばれがちなのをご存知の方も少なくないでしょう。
その点で本作は、コスプレっぽさを拭うことを完全に諦めています。そもそも緊張感に欠ける見た目をした宇宙人が多数登場しており、リアリティの追及などいくら頑張ってもムダなのかもしれませんが、それにしたって寄せることさえしていません。
照明やカメラワークの調整、CG合成などであたかも現実にいるような存在にする……といったことは一切なく、出演しているのはコスプレした人間と着ぐるみの人間とエキストラの人間です。いま話題の『名探偵ピカチュウ』は完全に逆、絶対にいないはずの存在を現実に生きているかのように映して人気を博していますが、『銀魂(実写版)』はいるかもしれない存在までリアリティを消滅させています。万事屋にせよ真選組にせよ、非常に作り物くさい出来栄えとなっています。
しかし、だからこそ銀魂らしさが出せるのだと言っても、マンガやアニメをかじった方には違和感がないことかと思います。劇中のチープさ、特にエリザベスという意味不明の生命体の雑さもネタにして笑わせるあたりは、かなり「らしい」部分と言っていいのではないでしょうか。その点ではうまくやったなと思います。
視覚的な演出も同様で、背景の簡素な合成感や、うごめく生体兵器の安っぽさもそのまま出しています。これがアメコミ映画であれば大バッシング間違いなしですが、銀魂であれば許されるというものでしょう。突然わざとらしいスポットライトが使われたりするあたりも、通常の映画であればあまりに安易な演出となりがちですが、いわゆる2.5次元ぽさだと思えば受け入れやすいです。
総じて、少年マンガから取り払うのが難しい作り物っぽさを上手く利用した点は評価できます。これは銀魂だからこそできる離れ業で、また別の少年マンガを同じような作風でやられたらコケることは目に見えていますが、少なくとも本作ではしっかりとハマっています。
銀魂らしいパロディネタは面白い
銀魂といえば、あらゆる角度からパロディを飛ばしてくることが特徴の一つにあります。本作でもそこのキレは健在で、素直に笑わされました。冒頭から出演者のネタを用いたり、あるTV番組の体裁を持ち出してくるあたりは、長年培われた銀魂の雰囲気をしっかり昇華していると思います。
それをクライマックスの直前に持ってくるあたりも、また「らしさ」が出ているのではないでしょうか。出してくるネタもなんとも際どく、ムロツヨシ(平賀源外)のコントっぷりや早見あかり(村田鉄子)のバラエティっぽい反応も相まって、よいコメディになっていました。映画としての演技とは言えないのですが、「銀魂だからなあ」と思わされるのは確かです。
キャストに大人の事情しか感じない
本作には小栗旬に菅田将暉、岡田将生に堂本剛と、名の知れたイケメンが多数出演しています。起用そのものが悪いとは言わないのですが、映画として見終わった際に「彼らの採用は正解だった!」「いい演技が見れた!」とは決してなりませんでした。それこそ、コスプレをした素のイケメンを見せられている、という感想を抱いたのが正直なところです。もしかすると世のイケメン好きにはその方が好まれるのかもしれませんが、筆者は好ましい印象を持てませんでした。
根底にあるのは、映画である以上、プロによる生々しい演技を見せて欲しかったという気持ちです。邦画で少年マンガが原作、しかもコメディということでかなりハードルを下げたつもりではあったのですが、それにしたって「既存のキャラクターへの没入」も「キャラクターの新たな解釈」も、「主要キャラクターの感情の移り変わり」も感じられなかったのは残念です。人物の投影がごく表面的であるか、あるいはほぼゼロだったとしか思えません。
特に顕著だったのは主人公の小栗旬で、最初から最後まで「チャラチャラしたコスプレイヤー」にしか見えませんでした。「普段の気だるげな銀時」「口先とは裏腹に情に厚い銀時」「若き日の、荒々しい銀時」といった感情のメリハリはまるで見受けられず、ずっと素の小栗旬を見せられていました。
小栗旬のファンにはその方が嬉しいのかもしれませんし、筆者が小栗旬を嫌いなわけでもありません。それでも、「銀魂だから力がこもってなくてもいいや」という雰囲気にちょっと甘えすぎなのでは?という疑いは拭えません。その他、菅田将暉にせよ堂本剛にせよ菜々緒にせよ、「コスプレだなあ」という枠の中に納まっていたように思います。佐藤二朗もそうですが……まあ、彼の場合はいつものことですね。何をやっても佐藤二朗です。
もっとも、こうした問題の責任が役者側にあるのかは怪しいところです。なぜなら、製作会社側に良い映画を作ろうという気持ちがあるようには思えないからです。先述しましたが、『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』『映画 暗殺教室』がそうだったように、「少年マンガ原作かつイケメンが映ってさえいれば、低予算でクオリティが低くても一定の収入は得られる!」とでも考えているだろうことが見え透いています。しかも現にその通りになっていることを、数字が証明してもいます。
本気で良い映画を作ろうとするなら、潤沢な資金にモノを言わせて役者にじっくりと役作りをしてもらうのが筋です。しかし、本作のどこをとっても予算が多いとはまったく思えません。邦画業界ではまったく珍しいことではないですが、相変わらずハリウッド映画と比べたら雀の涙ほどのお金しかかかっていないと見受けられます。舞台や小道具もそうですが、定説通りCGの質の低さが顕著であることが物語っていました。
どうしても低予算で情熱のこもった映画を作ろうとするなら、無名の役者を引っ張りこんでしっかりと役作りをさせた上で臨めばよい話です。もちろんそれにはそれで苦労がありますし、なかなか上手くできないからこそ『カメラを止めるな!』が評価されたのも事実です。それにしたってそうした姿勢が一切見られない以上、情熱がないということになるでしょう。とにかく多くの有名人を起用して、一人一人のネームバリューで客を呼び込もうとするのは、芸術に対する怠慢だと思います。
わずかな準備期間と短い撮影期間、情熱をかけるには少なすぎるギャラゆえに、多忙な役者たちが入れ込まなかったとしても、あまり責められません。結局は邦画業界の問題なのでしょう。
ただし、この中で橋本環奈だけは異彩を放っているように見受けられました。彼女だけは、既に確立している神楽というキャラクターに寄せた演技を見せてくれました。もちろん、超人的な怪力が身に着いたわけでも、アクションが売りの洋画顔負けのスタントがあったわけでも、声が釘宮理恵になったわけでもありません。それでも顔の作り方や喋り方には努力を感じました。主要キャラのほとんどが「誰それのコスプレをした、素の有名人」だったのに対し、「神楽を演じた橋本環奈」だったことは考慮したいです。
【ネタバレ】映像の質がひどいのになぜ紅桜篇なのか
予算が少ないなら予算が少ないなりに、序盤のような純コメディ路線で行くことも可能だったと思います。しかし本作はなぜか、中盤からシリアスな展開に入っていってしまいます。上映時間のすべてで笑いをとるのが難しいのはわかりますが、それにしたってもっとうまいやり方があったのでは?と思わずにはいられませんでした。
劇中では何度か戦闘シーンが挟まれるのですが、ハッキリ言ってどれもあくびが出るものでした。ハリウッドのアクション映画とは比べるまでもありませんし、なんなら映画よりもずっと予算が少ないであろう、地上波放映の仮面ライダーや円谷プロの特撮作品の戦闘シーンの方が、まだ見ごたえがあると思います。
人間の動きや演出に凝っているわけでもなく、CGでできた敵の見栄えもあまりにチープです。原作の設定が江戸時代の終わりかつ、銀時がかつて名を馳せた侍だったからといって、時代劇的な殺陣が見れたわけでもありません。アクションシーンこそ「実写映画ならでは!」と言える表現方法があったはずなのですが、一切そういったものがなかったのは不誠実に思えてなりません。
さらに言えば、この程度の映像しか作れないのに、なぜこの紅桜篇をチョイスしたのかが理解できません。原作は映画公開地点で単行本が69巻も発売している超長寿マンガであり、実写に適した(かつ、低予算でも映える)エピソードはもっと他にあったであろうことは想像に難くありません。「コレがベストだ!」という具体的なアイデアが提示できないのは筆者の勉強不足なのですが、少なくとも紅桜篇は不適切だったのではないでしょうか。この「エピソードのチョイス」という件はあまり他のブログやレビューサイトで取り沙汰されていないのですが、撮影に詳しい方や銀魂の熱心なファンの方に伺ってみたいところです。
不思議なのは、後半の出来が特に良くない分、二回以上スクリーンで鑑賞する価値を見出せないにも関わらず、かなり良い興行収入を叩きだしている点です。国内で38億超という数字は、少なくない人が複数回観に行ったと考えた方が自然ですが、そうしたくなるほどの奥深さがあったとは思えなかったのですが……。これもイケメンの力なのでしょうか?
【考察】ベテラン声優のすごさを改めて感じた
これは映画とは直接関係ないのですが、本作に物足りなさを感じた分、アニメにあったクセの強さが恋しくなりました。その原因は杉田智和・阪口大助・釘宮理恵ら、ベテラン声優による主要キャラの演技にあるものと思います。いまさらあえて言わなくても、という話であることは百も承知なのですが、改めて第一線で活躍する声優が第一線に居続けている理由を感じずにはいられませんでした。
まったくもって当然のことですが、杉田智和による「オイィィィ!!」は杉田智和にしか発声不可能です。そもそも「オイィィィ!!」というセリフ自体、声に出すと野暮ったいことは否めませんが、そこを独特の味に仕上げているのはベテラン声優の演技力の賜物なのだと思わされました。一般人が言うのはもちろん、この映画の中で何度も聞くことになる「オイィィィ!!」にもなんとも言えないまがい物感が付きまといがちです。それがアニメにはなかったのは実はスゴイことだった、と別人による坂田銀時を見たことで気づかされたのは興味深かったです。
【評価】光る点もあるにはあるが、邦画の悪い部分も目立つ
『銀魂(実写版)』は、原作がもつ芸風……もとい世界観をうまく利用し、鑑賞する側の厳しい目を逸らしてくる、なんともズルい映画でした。笑える部分はありましたが、それもほとんど原作の勢いを借りただけに過ぎません。
言ってしまえば、本作の半分は原作からの流用に過ぎませんし、四分の一は芸風を損なわない脚本・パロディの力だったと思います。残りの四分の一、要は「実写映画だからこそ」という部分で評価できる部分はほぼ無いに等しい状態でした。本作でできたことはほぼ全てアニメでも出来たでしょうし、杉田智和や阪口大助が小栗旬や菅田将暉らに変わったことによって生まれた魅力も感じられませんでした。
それでも売れてしまうあたりに、邦画業界に対する虚しさを覚えたというのが正直な感想です。なにより本作がいくら売れようが原作者の懐に入る額は変わらず、「ほとんどの金は集英社、サンライズといったうす汚い悪徳企業」に入る(原作者談)のが一層残念です。
総じて人に勧めたくなる要素に乏しく、せいぜい「キャストが豪華な同人作品」といったところかな、と思いました。
(Written by 石田ライガ)
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