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『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』ネタバレ感想・解説・考察!ウォーターゲート事件直前に起きた実話

【評価】民主政治のありかたを魅せる良作

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』はスティーヴン・スピルバーグ監督による歴史・政治スリラー映画です。

歴史映画は一部のマニアにしか面白さがわからない造りになっていることもありますが、本作はスピルバーグの手腕によって非常に現代的な展開を迎えていきます。終盤にこめられた古き良きアメリカン・スピリットに、打ちのめされることでしょう。

今回はそんな『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』の個人的な感想や解説、考察を書いていきます。途中までネタバレは控えてありますので、鑑賞前にもどうぞ。

目次

映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」を観て学んだ事・感じた事

・我が身よりも人々のため!一人一人の勇気にシビれる
・難しい歴史の話をするようで、そうでもない。生き様の物語
・こういうことが日本でも起きてくれれば……

映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」の作品情報

公開日2018年3月30日(日本)
2017年12月22日(米国)
監督スティーヴン・スピルバーグ
脚本エイミー・パスカルほか
出演者キャサリン(ケイ)・グラハム(メリル・ストリープ)
ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)
ベン・バグディキアン(ボブ・オデンカーク)
トニー・ブラッドリー(サラ・ポールソン)
フリッツ・ビーブ(トレイシー・レッツ)

映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」のあらすじ・内容

映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」のあらすじ・内容© 2017 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO.

旧ソ連との冷戦関係から、60年代以後ベトナムに軍事介入を続けてきた合衆国。その状況を記した報告書「ペンタゴン・ペーパーズ」が、1971年に軍事アナリストのエルズバーグによって一般人の手に渡りました。

そのコピーが大手新聞社ニューヨーク・タイムズに渡り、全米を揺るがす一方で、地方紙のひとつワシントン・ポストは苦境に立たされていました。

ワシントン・ポストは社内外に問題を抱え、資金繰りにも苦慮していたからです。ワシントン・ポストの社員たちは、なんとか自分たちも「ペーパーズ」を入手しようとするのですが……。

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映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」のネタバレ感想

ウォーターゲート事件直前に起きた実話

ウォーターゲート事件直前に起きた実話© 2017 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO.

本作は、48年前に実際に起きた事件をもとに製作されています。今の日本ではまず聞くことのない事件ですが、当時世界的に非難を浴びていたベトナム戦争についての重大な秘密が暴かれたため、米国内では大きな問題となりました(そのときはまさか、続けてウォーターゲート事件というより大きな問題が発生するとは思ってなかったでしょうからね)。

この題材をスティーヴン・スピルバーグ、トム・ハンクス、メリル・ストリープら著名人が関わって作られています。じゃあ大作?……というとそうは言えず、スピルバーグが合衆国の社会状況を憂いで、『レディ・プレイヤー1』の製作期間にかぶる形で急きょ作ったとのことです。

数字の上ではあちらの方が製作費・興行収入ともにほぼ三倍ですから、こちらは規模としては小さいと言っていいでしょう。スピルバーグにとっては『ジュラシック・パーク』と『シンドラーのリスト』も似たような状況で作ったとのことですから、その意味でも驚きです。

とはいえ、ほとんど片手間で作ったと言ってもいいながらも、しっかりと仕上げているあたりさすがです。わざわざ調べなければ気づかないような完成度になっているのは監督の手腕によるものなのでしょう。ストリープをうまく使ったところも、単に過去をなぞるだけではなく、今に響くメッセージがこもっているところも感嘆するばかりです。

描かれるのは歴史のはざま

描かれるのは歴史のはざま© 2017 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO.

本作の題材は、歴史的視点からしてもさほど有名とは言えません。米国史上ではわかりませんが、世界史上で見るとどうしてもかすんでしまう一件です。作風も相まって、あまり「歴史を学ぶ」ということに適しているとは言えません。

1971年の合衆国はかなり落ち目にありました。それより前は黒人解放運動とベトナム介入によって大きく混乱していましたし、それより後はドルショックにウォーターゲート事件、それに伴う大統領の辞任があり、やはり荒れていました。

これら世界情勢やその後の合衆国の様子を直接変えた出来事に比べると、「ペンタゴン・ペーパーズの漏洩」はどうしても歴史的意義が高いとは言えません。「映画から米国現代史を学ぶ」という目的ならば、オリバー・ストーン監督作品の方が手っ取り早い気がします(もちろん、本作がムダになるとは言いませんが)。

 

なら本作が示しているのは何か?というと、さしずめ「現代における理想のアメリカン・スピリット」ということになるでしょう。「かつてこんなことがあったよ、忘れないようにしよう」という伝記的な話ではなく、「この精神を見ろ」というものであるわけです。なので結果として、本作が歴史としてどうこうとは言いにくくなっています。

そのぶん、歴史についての予習などはあまり必要ありません。「当時の合衆国はベトナム戦争に介入しており、開幕時からある程度のバッシングを受けていた」「この事件のあと、有名なウォーターゲート事件が発生した」くらいの漠然としたイメージがあれば十分でしょう。あとは、ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストの二つの新聞社が出てくることと、法的・経済的な各陣営の立場を読み取ることに気をつければ、特に困ることはないと思います。

エルズバーグを脇役にする構成が絶妙

エルズバーグを脇役にする構成が絶妙© 2017 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO.

「政府に対する内部告発」という事件は、不正を働いた政府の要人や告発者に目が行きがちです。ウォーターゲート事件では、重要人物のディープ・スロートの存在が語られましたし、映画「スノーデン」で描かれたような、エドワード・スノーデンによるPRISMの告発では彼に高い注目が集まりました。日本にも関係が深いところだと、崔順実ゲート事件で朴槿恵と崔順実の関係がよく報じられたことを覚えている方が多いかもしれません。

本作が独特なのは、それらと同じ内部告発事件を扱っていながら、告発した側・された側にあまりフォーカスを当てていないところにあります。機密文書を持ち出した男エルスバーグや政府高官は出てくるには出てきますが、大した出番はありません。

全世界のカトリック教会のスキャンダルを題材にした映画『スポットライト 世紀のスクープ』では、記者が調査を進めたこともあって記者たちが主役になっていますが、本作では最初に事件をスクープした新聞社ニューヨーク・タイムズや、担当記者ニール・シーハンの出番も大してありません。

 

他に主役を張れそうな立場の人間がいたにもかかわらず、本作はワシントン・ポストの内情をメインに話を進めていきます。ワシントン・ポストはこの事件について完全に出遅れていましたし、株式の公開などの手続きでかなりゴタついていました。常識的に考えれば、「それで主役はムリでしょ」と思わざるをえないほど後手に回っていますし、とても地味な問題を内部に抱えてもいました。

それでもあえてワシントン・ポストを中心に据えて面白くしてしまうのが、スティーヴン・スピルバーグのセンスなのでしょう。「そもそもなんで2018年に、ほぼ半世紀前の政治スキャンダルの映画化?」という疑問も、視聴してみれば解消してしまうのがスゴいところです。

【ネタバレ】本作はつまらない?結局見どころはどこなの?

【ネタバレ】本作はつまらない?結局見どころはどこなの?© 2017 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO.

本作の中には、これといって派手なアクションシーンはありません。この人!と言えるような主役がいるわけでもありませんし、作りとしては地味な部類に入るでしょう。そのためか、レビューサイトを見ると「どこが面白いのかわからなかった」といった人もいるようです。また高評価をつけている人も、必ずしも同じポイントを褒めているとは限らず、ある意味、不親切な設計とも言えるかもしれません。

それが良くないことかといえば、そんなことはありません。なにが面白いか?どこが大事か?といったことは、一人一人が鑑賞の上で判断した方が健全です。ある人が気にも留めなかった部分が、別の人にとっては救いになることだってありますからね。ハッキリした盛り上がりがなくとも、様々なシーンに繊細な味があれば、その作品は質が良いと言っていいはずです。

 

それはそれとして、せっかく鑑賞するなら多くの気づきが欲しいというのも自然な欲求でしょう。どんなところに着目すると、魅力を見落とさずに済むのでしょうか。

一つは、ワシントン・ポストの社主ケイです。中年の彼女は、男性中心のビジネス界に立たされ、才能豊かだった夫フィリップと比較されて無能の烙印を押され続けてきました。並みの人間なら、「自分は何をやってもダメなんだ」といじけてしまうところです。さらに後半になると、判事の命令を理由に反政府的な記事の掲載を複数人から止められもします。お金も肩書きもあるとは言っても、不遇の女性だと言って差し支えないでしょう。

それでも終盤、彼女がすべてのプレッシャーを押しのけ、逮捕や破産のリスクを背負いながらも発行の許可をします。そこにかかる勇気は、順風満帆に危険を進んできた男のそれとは比べ物にならないでしょう。家族から相続してきた会社の重み、路頭に迷うかもしれない従業員の重み、物怖じしていたそれまでの自分を変える重み……そのすべてが一度に襲い掛かったときの重圧は、想像もできません。それらを演じ分けたメリル・ストリープの演技も含め、彼女の勇気ある姿は大きな魅力と言えます。

 

ワシントン・ポストの重役たちの葛藤も見どころです。ワシントン・ポストはいまでは高級紙としての地位を確立していますが、当時は経済的に不安定でした。そこに属する役員や記者が、どうやって勢力を伸ばすか、競合他社をどう出し抜くか、自分たちの未来のために最適な選択は何かをかけてぶつかり合うさまには、発達した職業精神を強く感じます。会議は信念をぶつけ合ってこそだと思わされるものです。

編集局次長のバグディキアンがエルズバーグに接触するために一人で奔走するところも、手に入れた「ペンタゴン・ペーパーズ」を編集部の生え抜きで解読していくところも、仕事に打ち込む男たちのロマンを感じさせます。そこに女性が混じっているのもいいですね。どうしても割合が少なくなってしまっているのは少し残念ですが、そこは時代が時代なので仕方ない部分でしょう。だからこそキャサリンの勇気が映えるのも確かですし。社を守るために彼らと対立する顧問弁護士らも、決して悪人ではないだけに嫌えません。

あるいはそもそも、「特別出ずっぱりな主役がいない中で、全員が頑張っている」という作りそのものにも魅力があるとさえ言えます。終盤、新聞社が被告となった際、ブラック判事は「報道が使えるべきは国民だ。統治者ではない」と発言しました。この言葉が、そのまま本作の造りを象徴しているようにも思えます。

確かに、一人で大活躍して物語を統治する主人公や英雄ががいた方が、物語としてはわかりやすく、感情移入しやすいことでしょう。しかし現実にはそんな状況にはならず、一人一人が努力しぶつかり合って民主主義を作り上げていくのだということを、表しているのではないでしょうか。

【解説】物語の最後、ラストシーンはなんだったの?

本作の物語は、「ペンタゴン・ペーパーズを掲載した新聞各社が国との裁判に勝つ」というシーンで終わります。ですが最後の最後になって、それまで見る影もなかった警備員が登場し、民主党本部と書かれたドアを開ける映像が流れます。一見物語とはなんの関係もないように見えますが、一体なんなのでしょうか?

実はこれこそが、冒頭に記載した「ウォーターゲート事件」の幕開けを示しているのです。このあと警備員が警察に通報し、警察官が民主党内部に不審者を見つけたことで、事件が発覚します。不審者は盗聴器を仕掛けていたのですが、その差し金が実はニクソン大統領だった……ということで、事態がどんどん大きくなっていくんですね。

もちろん、こちらの事件はペンタゴン・ペーパーズとはほぼ関係がない(ニクソンが不利になったことで、棚ぼた的にエルズバーグが無罪になったという関係はありますが)ため、ワシントン・ポストらの記者たちの物語が続くわけでもありませんし、今のところ本作の続編もありません。とはいえ、世界史上でも有名な事件ではありますので、この先が気になった方は調べてみるといいでしょう。

【考察】日本でもこんなことが起きないものか……

【考察】日本でもこんなことが起きないものか……© 2017 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO.

日本人としては、本作の中の記者たちと、自分の国のマスコミとをどうしても比べてしまいます。そんなことをしたところでまったく不毛なのですが、「大きな企業全体にああした理念が通っている」という状態そのものが羨ましく思えてしまいます。

作中の記者たちは、ペンタゴン・ペーパーズという特ダネをスッパ抜くために躍起になっていました。特に前半はニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト問わず「発行部数を伸ばす」「競合他社に勝つ」ということを最優先していたことは間違いありません。

一部の判断が誇張されてはいますが、あくまで彼らが稼ぐために仕事をしていたことは明白です。終盤で、各新聞社がワシントン・ポストに続いて報道を続けたのも、同じような理由でしょう。

 

ただそれでも、本当に危険なときに目先の利益ではなく記者としての理念を貫き通したことは確かです。「合衆国政府は、ロクな結果を生まないとわかっていながらアジアの戦争にしゃしゃり出ていた」ということが判明した中で、政府の根回しで有罪になる可能性が極めて高いと知ってでもなお、国民に事実を明らかにしようとした姿勢には頭が下がる思いです。

もし現代の日本で同じような事態になった場合、保身に走らない報道機関はあるのでしょうか。筆者には想像できません。報道内容が内閣を忖度しているとか言われるのはここ最近のことではありませんし、報道機関そのものが腐敗しているとの話もよく聞きます。最近だと、京都アニメーション放火事件の被害者の実名が、遺族の同意なしに報道されてしまったりもしました。報道の精神なんてものが、この国に残っているとは思えません。

 

もっとも、日本だけが酷い状況にあるかというと怪しいのも確かです。もし今の米国の報道機関も70年代と同じような理念で動けているなら、本作が世に出ることはなかったでしょう。フェイクニュースに踊らされたり、情報が操作されたりは珍しくないのだと思います。そうでないからこそあえて作られ、上映され、評価された……と考えたほうが、流れとしては自然です。日本も米国も、あるいは先進各国が、すべて似たような状況にあるとしても不思議はありません。

だからこそ、本作の中の記者のような「真実を発信する魂」のようなものに強い憧れを感じるのも確かです。近いうちに21世紀のエルズバーグが現れ、21世紀のニール・シーハンが助け、21世紀のベン・ブラッドリーが続いてくれないものか……と願わずにはいられません。

ここ数か月の立場ある人間の不起訴処分や無罪判決のニュースを聞いていると、想像するよりもずっと難しいのだろうと勘ぐってはしまいますが、それでも国民のために動いてくれる市民のヒーローへの期待は止められないものです。

【評価】民主政治のありかたを魅せる良作

【評価】民主政治のありかたを魅せる良作© 2017 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO.

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は、過去の出来事を参照しながらも今に向けて力強いメッセージを放ってくる映画です。説教臭さがあるでもなく、国家礼賛のプロパガンダになるでもなく、むしろ人種や国を超えた民主政治の在り方を見せてくれます。

登場人物が非常に多く、またエルズバーグやニューヨーク・タイムズ側の功労者といった人物らへの説明がとても少ないうえ、娯楽性も少ないために誰でも気軽に楽しめる作品ではありません。

そういった庶民的要素は、すべて同時期に製作された『レディ・プレイヤー1』にこめられたと考えていいでしょう。それでも、わたしたち一人一人が社会に参画する上でどうあるべきかを知るためには、とてもいい映画です。

(Written by 石田ライガ)

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