映画『スノーデン』はオリバー・ストーン監督による伝記スリラー映画です。ショッキングな実話をベースにしながら、ドラマとしてうまく仕上がっていました。
今回はそんな『スノーデン』の個人的な感想やネタバレ解説、考察を書いていきます!
目次
映画「スノーデン」を観て学んだ事・感じた事
・さすがアメリカ、やることが汚い
・主人公のヒーローっぷりがすごい。とても真似できない
・とっつきにくいニュースがストーリー仕立てで観やすい
映画「スノーデン」の作品情報
公開日 | 2016年 |
監督 | オリバー・ストーン |
脚本 | キーラン・フィッツジェラルド オリバー・ストーン |
出演者 | エドワード・スノーデン(ジョセフ・ゴードン=レヴィット) リンゼイ・ミルズ(シャイリーン・ウッドリー) ローラ・ポイトラス(メリッサ・レオ) グレン・グリーンウォルド(ザカリー・クイント) |
映画「スノーデン」のあらすじ・内容
エドワード・スノーデンは実在する愛国的なアメリカ人の青年です。9・11に触発されて軍に志願したものの怪我により除隊した後、コンピュータの能力を買われてNSAにスカウトされます。
才能を買われて様々な仕事を任され高級取りになりつつ、心を許せる恋人リンゼイとも出会います。順風満帆な人生を送っていた彼でしたが、仕事を続けるうちに合衆国の悪行に気づいていきます。
2013年6月、危険を顧みずに内部告発に踏み切った彼は、一体何を知ってしまったのでしょうか?
映画「スノーデン」のネタバレ感想
信じられないような実話の伝記映画化
『スノーデン』は、2013年にメディアを通じて公にされた、アメリカ合衆国のとある陰謀を軸にした映画です。NSA(National Security Agency: アメリカ国家安全保障局)による非人道的行為を、元局員のエドワード・スノーデンが暴露したというもので、当時は世界的なニュースとなりました。
誇張抜きで全人類に関わる事態ながら、日本ではあまり報道されなかったため、ご存知の方はそう多くはないと思います。しかし、間違いなくインターネットを使う上で多少なりとも知っておきたい事実の一つです。
このニュースについて、今になって知ろうとすると、ごく基礎的な部分ではあるものの米国の政治体制やデータ処理の仕組みなどを勉強する必要が出ると思います。その点本作は、かなり感覚的に理解できるように作られてもいます。その意味で、構えずに観られる映画に仕上がっています。事件の重要性を加味すると、社会的な意義もある作品と言えるかもしれません。
政治要素があるけど観やすい
メインストーリーが政治や社会問題と密接に絡んでくる映画は、気楽に観れないことが少なくありません。世間が知らない不都合な真実を映像化しようとすると、物語に求められるヤマやカタルシスに乏しくなってしまうからです。初めから開き直って、ドキュメンタリーとして作ることもできますが、ドキュメンタリーという形式そのものが単純な娯楽を得にくいものであることは、おわかりいただけると思います。
そこをなんとか頑張ってストーリー仕立てにしても、なんらかの問題が出てくることもあります。例として、本作と同じオリバー・ストーン監督の代表作である『JFK(1991年)』を挙げましょう。これは、1963年のケネディ大統領暗殺事件に隠れた陰謀に焦点を当てたミステリーで公開当時は人気となり、興行収入も1991年のランキングでは『羊たちの沈黙』に次いで六位という成績を残しています。
ただ、これを今になって観ると、米国内の雰囲気が21世紀現在とはかなり違っているのに加えて、具体的な人名・組織名を多量に上げすぎているので、ちんぷんかんぷんになります。63年当時の情勢や、ケネディ大統領暗殺事件に元から詳しい人には面白いのでしょうが、製作年以後に生まれた世代にとっては、かなり理解に苦しまされることになります。第88回アカデミー賞で作品賞を受賞した、トム・マッカーシー監督『スポットライト 世紀のスクープ』なども、『JFK』より程度は軽いながら、似たような問題があったりします。
他には、クリント・イーストウッド監督『アメリカン・スナイパー』も挙げられます。こちらはイラク戦争の英雄を元に戦争の真実を盛り込んだ映画で、筆者も大好きな一本ですが、ある問題があります。それは、明言されないメッセージが多く、物語の奥底に秘められた意味を探ろうとすると行間を読む必要があるため、結果的に難解となり、視聴者の感想がてんでバラバラになってしまうことです。
肝心な部分を明言しないことにはメリットもあり、下手に右翼的・左翼的だと決めつけられにくくなったり、それぞれが好きに解釈する楽しみが生まれたりもします。ただ、どちらにしても単純な娯楽性にはやや遠いものがありますし、少なくとも気楽に観れないということには間違いなくなってしまいます。
あるいはキャスリン・ビグロー監督『デトロイト』だと、黒人の受難に目を向けすぎたために、そもそもストーリーに必要なカタルシスが欠落してしまったりしていました。こうなるともう、「ドキュメンタリーとして割り切った方がよかったんじゃない?」ということになってしまいます。
その点で本作は、前知識不要でかなり気楽に鑑賞しながら、政治的・社会的問題を知ることができます。劇中の時代は2005年から2013年と比較的新しく、誰もが利用するインターネットがテーマであるため、日本人にとっても身近に思えます。途中で日本への影響に言及されることもあり、大統領暗殺事件やイラク戦争のように「日本人には無関係なこと」とはならないのもポイントです。
さらに、終始主人公のエドワード・スノーデンを中心に進行していくため、感情移入もしやすく、ダレがドコでナニをしている人かもかなか理解しやすくなっています。しかも主人公が味わった緊迫感や達成感も、追って味わえるようになっています。政治的なものはちょっと……と普段は敬遠している人も、不自由せず観れることでしょう。
なお、本作と同様にシンプルで観やすいながら政治・社会問題を知れる作品というと、ケン・ローチ監督『わたしは、ダニエル・ブレイク』などがあるでしょうか。扱っている問題はまったく別種ですが、気軽に教養を深めるつもりでいかがでしょうか?
【解説】シチズンフォーとの違いは?
この『スノーデン』とまったく同じ題材を扱った映画に、ローラ・ボイトラス監督『シチズンフォー スノーデンの暴露』があります。筆者個人の意見としては、この二つはどちらが優れているということはなく、相互に補い合う関係にあると考えています。
『シチズンフォー』は純粋なドキュメンタリーとして製作されており、エドワード・スノーデンや彼に協力したジャーナリストらの本人が出演した上で、問題をより詳細に扱っています。第87回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞するなど品質は非常に高いですが、要は本質的にドキュメンタリーなんです。娯楽性は特に意識されていませんし、全体的にお堅くできていることは否定できません。
対する本作は「(この問題における)話の中心は僕じゃない(国の不正の方だ)」「(自分の)人格に焦点を当てすぎて論点をそらされるのが心配」といったスノーデン本人の意思に逆らって彼を中心に据えるなど、一部に創作・模作的な部分を含んではいます。しかしそのおかげで、圧倒的にとっつきやすく出来ているのも事実です。
以上のことから、はじめに『スノーデン』を鑑賞し、一連の問題が気になった方には『シチズンフォー』も観ることをオススメします。
伝記として面白くした彼女・リンゼイの力
本作が『シチズンフォー』になかった親しみやすさを持っているのは、スノーデンの恋人であるリンゼイ・ミルズを重要人物として扱ったことが大きいでしょう。リンゼイは本来、米国の悪行にも、スノーデンの公開行動にも一切関係がありません。あえて言うなら、ほかの一般人と同じように国からの被害を受けていたくらいです。事件に対する貢献もまったくありません。
『スノーデン』『シチズンフォー』両作の登場人物は、ほとんどが(少なくとも英語版の)wikipediaに個人のページが作られているのに対し、リンゼイには無いことからも、社会的知名度は特になかったことがわかります(本作の公開で上昇したきらいはありますが)。
リンゼイに、内面的に何か変わった部分があるか?というと、そういうことでもありません。スノーデンの天才性からほどよい距離を置きながら、ごく普通に愛し合う女性として描かれています。時にすれ違いながらも仲睦まじく生活していく二人は、どこにでもいるカップルでしかありません。そんな普通さが、英雄的に思われがちなスノーデンの人間味を出しつつ、最後の行動の勇敢さを際立ててもいます。
歴史的・社会的・政治的な観点からは、リンゼイの存在は完全に不要です。しかし英雄のドラマを彩るうえで、彼女は絶対に欠かせない存在でした。それに気づき、うまく盛り込んだところは、本作の褒めるべきポイントだと思います。
【ネタバレ解説】日本も危険?NSAの非人道行為とは
元職員であったスノーデンは、極秘にNSAの情報を盗み出し、それをイギリスの大手新聞・ガーディアン紙を通じて公開しました。それはどのような情報だったのでしょうか?
実は、スノーデンが2013年に暴露した情報の目玉は、劇中ではあまり言及されませんでした。それは一体何なのかというと、「PRISM(正式名US-984XN)」というプログラムによるデータ収集に、主要IT企業が協力していたという事実です。主要IT企業というのは、Microsoft、Google、Yahoo!、Facebook、Apple、AOL、Skype、YouTube、PalTalkの九社です。冗談のような顔ぶれですね!WindowsもMacBookも、AndroidもiPhoneも危険ということになります。
“PRISM”は何かというと、調査対象となった個人による九社のサービスの利用状況を盗むものです。それだけでも恐ろしいですが、それ以上に問題となったのは、各企業が自らこれに協力したという文言でした。一番早くから協力していたMicrosoftで2007年から、一番遅いAppleも2011年から(生前のスティーブ・ジョブズが抵抗していたというウワサも)データを提供していたということで、世界に衝撃を与えました。
“PRISM” の調査対象になっていたのは、2013年当時で約11万7000人だったということですが、やろうと思えばもっと増やすこともできたでしょう。上記の企業によるサービスを利用している以上、一般的な日本人を対象にして盗聴を仕掛けることもできていました。今ではもうやっていないと思いたいところですが……本当のところはなんとも言えませんね。
そんなわけで現実には”PRISM”とスノーデンの告発は切っても切れない関係にあるのですが、こと映画となると大人の事情で明言できなかったようです。各企業からいちゃもんをつけられて、公開できなくなるおそれがありますからね。こればかりはオリバー・ストーンも対処できなかったようです。結果的に劇中では、NSAが超常的なハッキング能力で企業にアクセスしていたということにされ、その他にスノーデンが目の当たりにした様々な悪行もまとめて報道されていました。
なおスノーデンは、これらに関するすべての情報を公開しつくしたわけではないそうです。弾を残しておくことで、米国がうかつに手出しできないようにする目論見があると言われています。果たしてそれが本当なのか、本当だとしたら、どんな情報を抱えているのか……気になりますが、知りたくないような気もしてきますね。
【考察】スノーデンの行動は本当に無意味?
レビューサイトにおける本作の感想を見てみると、驚いたことに「スノーデンは市民をかえって危険に晒した」とか「暴露したところで意味がない」といった話が見られます。彼の行動を正しく理解するためにも、これらについて少し考えてみます。
まずは「スノーデンは危険をもたらしたのか」についてです。これについては、あらゆる点で100%否定することができないのは確かです。しかし、暴露せずに放置しておけば安全だったわけではないですし、代償として払わされるものが大きすぎる上、市民に選択の余地がなかったことが問題になっています。
もし放置されていたら、劇中のパキスタン人のように、政府から周囲の人間を根掘り葉掘り調査され、破滅させられる人がさらに増えていたはずです。彼やその家族は特に問題なく暮らしていたと思われますが、立ち入った部分を調査されたために悲劇に見舞われました。ああしたことが起こるのは、人道的に正しいとは言いにくいはずです。しかも調査には市民の同意がなく、無断で行われていたのも気味が悪いところです。
一応NSAは、名目上テロの抑制を掲げていましたし、それに少なからず寄与していただろうことを考えれば、それを制限したスノーデンの行動は危険を増やしたとも言えます。しかしNSAのそれは完全にやりすぎで、権力の濫用に他なりませんでした。それを擁護することは、少なくとも筆者にはできません。
もう一つ、「暴露したところで意味がない」という意見については、真っ向反対したいところです。たとえ相手が合衆国政府という巨大なもので、個人には絶対立ち向かえないとしても、敵がいることに気づかないよりはましだからです。絶対に見られたくないデータの保存について、素人ながらに気を遣うことはできます。それにいつか同じことを合衆国だけでなくそれ以外の国がしているかもしれないと頭に入れておくだけでも、有事の際には役立つかもしれません。
特に劇中で一度言われていた、「もしも日本が合衆国の同盟国でなくなったら、ウィルスによってすべての電力がストップするようになっている」というものは極めて判りやすいと思います。個人で発電することはほぼ不可能ですが、日本の外交に目を向けつつ、適宜避難道具を用意しておくと、本当にそうなった場合生死を分けうるでしょう。
もちろん、悪行は裁かれなければならないという点でも、暴露される必要がありました。最終的に盗撮行為をオバマ前大統領に認めさせただけでも、社会的な意義があります。ゆえにスノーデンは英雄として扱われているのです。決して無意味ではありません!
【評価】政治問題を素朴なテイストに仕立てた良作
政治や情報工学の専門的見地からすると、『スノーデン』は必ずしも完ぺきとは言えないかもしれませんし、何か新しい事実を盛り込んだわけでもないと思います。役者の演技に、これといって魅力的なものがあったわけでもありません。もしこれがフィクションだったら、ごく普通の凡作ということになっていたと思います。
しかし、難解に思われがちな現実の出来事を、世間一般の人にもわかりやすく仕立てたという点で、揺るぎない価値があります。とにかく見やすいため、より多くの人に観てもらいたいところです。
今後のネット社会を生きていく上で、頭の隅に入れておきたい作品でした。
(Written by 石田ライガ)
映画「スノーデン」の動画が観れる動画配信サービス一覧
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