映画「アナと世界の終わり」は、長年に渡って作り続けられてきたゾンビ映画にミュージカルの要素を合わせたコメディ映画です。
劇中のミュージカルシーンは魅力的でゾンビとの相性も抜群。現代的な人物描写や時代を感じさせる演出にも注目です。
今回は映画「アナと世界の終わり」のネタバレ感想や解説、考察を書いていきます。
目次
映画「アナと世界の終わり」を見て学んだ事・感じた事
・ミュージカルとゾンビを融合させた演出が見事
・新しい女性像を再現した人物描写
・ゾンビ映画にまた新たなページが加えられた
映画「アナと世界の終わり」の作品情報
公開日 | 2019年5月31日 |
監督 | ジョン・マクフェール |
脚本 | アラン・マクドナルド |
原作 | ライアン・マックベリー「Zombie Musical」 |
出演者 | アナ(エラ・ハント) ジョン(マルコム・カミング) ステフ(サラ・スワイヤー) クリス(クリストファー・ルヴォー) ニック(ベン・ウィギンス) |
映画「アナと世界の終わり」のあらすじ・内容

クリスマスを間近に控えた中、アナは高校卒業後オーストラリアに旅に出る計画を父に知られてしまい対立します。アナの友人ジョンとは微妙な距離感のまま、ステフやクリスといった生徒もさえない学生生活を送っていました。
そんな中、世界中に突如としてゾンビが大量発生します。平穏な街は一変し、サバイバル状態となった世界の中でアナたちは生き延びるために奮闘します。
その姿をミュージカルを交えながら描いたのが映画「アナと世界の終わり」です。
映画「アナと世界の終わり」のネタバレ感想

映画「アナと世界の終わり」は、ゾンビ×ミュージカルという異色のコラボレーションを実現した映画でもあります。ゾンビが襲来しパニック状態になりながらも華麗な歌とダンスを披露する様は、ギャップがあって面白く、ゾンビ映画に新しい視点をもたらしています。
宣伝を見た段階では、またアメリカがぐだらないコンセプトの映画を作ったな…と感じていたのですが、意外にもこの組み合わせはこれまでにない魅力を放っており、コメディとしても、登場人物の人間ドラマとしても楽しむことができます。
ゾンビという映画では普遍的な題材となっているものではありますが、映画「アナと世界の終わり」は、これまでにない新感覚な映画となっています。ここでは、映画「アナと世界の終わり」の感想を1つ1つの項目に分けて書いていきます。
【解説】コメディとして抑えておくべきポイントはしっかりしている

ゾンビ×ミュージカルということで、どう考えてもコメディ寄りの映画になっているのは想像に易かったわけですが、この映画はこの組み合わせにおいて、おそらく必須になりうる要素をしっかりと描いていました。
例えば、ミュージカルシーンでアナとジョンが歌いながら登校するというシーンがあるのですが、その段階では街がゾンビに襲われている状態でした。
しかし、彼らはそのことに気がつかず軽快な歌と踊りを繰り広げています。彼らの背後には彷徨うゾンビや、人を襲い喰らい尽くすゾンビたちがいる一方で、彼らは呑気に歌い踊りを続けています。
そのギャップがなんともいえない面白さを醸し出しており、ゾンビとミュージカルという異色の組み合わせを、異色なまま表現してコミカルなシーンとして実現していました。
このシーンは、コメディ寄りのゾンビ映画として有名な「ショーン・オブ・ザ・デッド」を彷彿とさせるものでもあります。
また、ギャップばかりではなく見事な融合も果たしています。アナたちがゾンビから逃げ惑う中で、アナの元カレでもあるニックをリーダーとするグループはゾンビたちと果敢に戦いを繰り広げます。
そのシーンがミュージカルになっているのですが、ゾンビをバッタバッタと倒しながら歌と踊りを披露する様は、ゾンビとミュージカルの見事な融合となっています。
歌詞の一節を紹介すると
「ゾンビ殺しなら 俺がクラスでトップ
お前らが隠れている間に ぶっ殺してやる
最大の防御は攻撃だ 俺は戦う戦場の兵士だ」
ミュージカル映画はそのシーンの状況や登場人物の感情などに歌をのせて描かれるものではありますが、ゾンビ映画でこれを盛り込むなら、このシーンが最適ともいえます。
このロックなナンバーを歌いながらゾンビたちをバットで殴り倒していく様は爽快そのもの。ゾンビを組み合わせないと、おそらく見ることができないであろうポップとバイオレンスが合わさったミュージカル映画の新しい演出ともいえます。
この映画は、ゾンビとミュージカルが見事に盛り込まれた娯楽性の高い作品となっています。コンセプトは確かに馬鹿馬鹿しいですが、それが逆に清々しく、完成度の高い歌と踊りとそれを彩るゾンビたちが魅力的です。
欲をいえば、ゾンビにも踊って欲しかったというのはあります。ゾンビが踊ってしまうと作品の世界観が崩れてしまう可能性もありましたが、なんとか縛り付けたゾンビがもがいている様が踊っているように見えたり、音楽に合わせてゾンビが登場するなども見たかったと思いました。
あとは、噛まれた登場人物が歌いながらゾンビに変わっていくみたいなシーンもそうですね。さすがにそれは求めすぎかもしれませんが、それでもこの映画はゾンビミュージカルという稀なコンセプトを見事に映画として昇華させています。
【解説】登場人物たちも魅力的

ゾンビ映画はどうしてもゾンビが登場することによって物語が勝手に動いていく部分もあり、映画として差別化を行なったり、魅力的にするためにはキャラクターの個性が重要となります。
この映画は高校が舞台となっています。高校生が登場し、卒業を間近に控える中で将来に向けた悩みなどを抱えています。そんな中でゾンビが登場し、それどころではなくなっていくのですが、そんな中でも登場人物たちが若者として成長をしていきながら、それぞれの青春を過ごしていく様は「ハイスクール・ミュージカル」のようでもありました。
主人公のアナは、卒業後に大学へ行かずにオーストラリアへ旅に行く計画を立てていましたが、父親に猛反対されてしまいます。父親とは対立してしまい気まずい関係になってしまう中、ゾンビの登場によって、それぞれの安否を互いに心配し合いながら関係を修復していきます。
アナも父親が心配する気持ちを理解しながら、父親もアナの願望を理解し始めます。まぁ、ゾンビが周りにうようよしているので、理解したところで父親はゾンビに噛まれて死んでしまうのですが、それでもこの映画の中でアナが精神的な成長を遂げていく様が描かれています。
さらに、魅力的な登場人物として挙げられるのがアナたちが通う高校の校長サヴェージです。
彼は高校を自分のものだと考えており、生徒たちを厳しく指導します。少しでも風紀が乱れるような現場を目撃すると激しく叱り、生徒たちからも嫌われていました。
そんな中ゾンビが襲来。学校に残されたその他の教師たちや生徒と共に潜んでいました。ゾンビ映画というものは、普遍的なテーマとして危機的状況に瀕した際に、人間の本性が現れるというものがありますが、サヴェージ校長はその典型でもありました。
普段の学校生活では、完璧な人間として生徒たちを厳しく指導するものの、危機的状況に陥った際には、マニュアルを読みながら対応を考えるなど、おおよそ柔軟性と即興性に欠ける人物であることがわかります。
教師たちの提案に対しても、マニュアルを改定してから対応をすべきという意見を言い、リーダーとして効果的なアイデアを出すことはできませんでした。
そして、最終的に教師や生徒たちから見放されてしまったサヴェージ校長。誰も彼の命令を聞く人はいなくなります。これまで校長という権力を振りかざして、自分の言いことに従わせていた一方で、ゾンビの襲来と共に自分がこれまで積み上げてきたものが崩壊します。
それに折り合いをつけることができなくなってしまったサヴェージ校長は、ついにブチギレてしまいます。学校に避難してきたアナたちをゾンビの教室に閉じ込めたり、日頃言うことを全く聞かない生徒や保護者などに対して怒りをブチまけます。
そして、終盤のシーンでサヴェージ校長とアナが対峙、ミュージカルシーンが始まります。このシーンでのサヴェージ校長の悪役ぶりは圧巻でした。
歌詞にも現れていますが
「黙れ クズども 私の言うことを聞け
私に注意しろと 言わなかったか?
もう私を止められない もう私を止められない
花が咲くまで長かったが 火がついて準備ができた」
ここぞとばかりに怒りをアップテンポのミュージックに合わせて歌い切るサヴェージ校長。普段真面目で厳しい人がキレたら怖いなと言うのを改めて感じさせてくれます。
このように映画「アナと世界の終わり」では、登場人物たちのキャラクターが明確になっており、ゾンビという使い古された題材ではありながら、魅力的なミュージカルと共に娯楽性に溢れる映画として確立されています。
【解説】現代っ子感溢れる高校生

ゾンビ映画は1930年代から制作されているジャンルでもあり、長年に渡って同じ題材を用いた作品が数多く作られています。その長い歴史もあり、劇中で過去のゾンビ映画を参考にして立ち振る舞いを考えるというメタ的な演出もあるなど、過去のゾンビ映画に対するリスペクトも感じられました。
そんな中で、この映画は新しいゾンビ映画の視点を与えています。その要素の1つには登場人物が時代に即しており、リアリティを作り出している部分にあります。
いわゆるミレニアム世代が主人公になっているこの映画では、そういった時代の高校生をリアルに描いています。
例えば、この世代といえばスマホやSNSを当たり前に使うような世代でもあり、友人間のコミュニケーションや他者からの共感、承認を重視するという特徴があったりします。
登場人物の中でもクリスは、スマホ片手にゾンビたちと戦う様や逃げ惑う姿を動画で撮影し、映像記録を残そうと奮闘します。また、スマホを落としてゾンビたちの方に行ってしまった時にも、自分の命よりもスマホの方が大事とばかりに、スマホを拾いに行きました。
こういった感覚も現代的なのかもしれません。ゾンビが襲来している中でも、どこかリアリティを感じずにふざけた雰囲気を出しているキャラクターや、ゾンビの襲来を目立つチャンスとばかりに逃げるのではなく、果敢に戦おうとする者など…。
そして、特徴的だったのが、ゾンビウイルスに感染した人たちがいる避難所での自撮り写真がSNSで流行するというシーンです。
このシーンを受けて「人類は滅亡した方がいいのかもしれない」というセリフが言われるのですが、どことなく私たちのリアルな現代社会を反映しているシーンともいえます。
危機的状況にも関わらず、どこかリアリティを感じることができず、自分の命よりも他のことを重視するような感覚。この時代に作るゾンビ映画に登場するキャラクターとしての特徴もしっかりと抑えられていました。
【解説】女の子の主人公・アナがめっちゃ戦う

これも今風な演出といえるのですが、この映画の主人公アナは女子高生なのですが、ゾンビとめちゃくちゃ戦います。赤と白のポップな武器を片手にゾンビを次々と殴り倒していく様は爽快そのもので、だんだんと武器に血が滲んでいくのもギャップがあって面白さを感じました。
過去のゾンビ映画では、女の子はたいていゾンビに怯え、逃げ惑いながら食べられてしまうか、最終的に生き残るかといった演出が多かったように感じます。
そんな中で、現代では過去の女性像を更新する考え方が広まっており、それを反映した結果、アナがめちゃくちゃ戦うという演出に繋がっています。アナは決して男性に守ってもらうわけではなく、自ら武器を手に取り勇敢に戦っていきます。その姿も現代的な女性像としてふさわしい人物の描き方であるといえます。
そして、主人公のアナはこの映画を通じて成長を遂げ、大人として自立していくことに繋がっていきます。
序盤では自分の願望を父親に反対され、冴えない高校生活を送るなど、閉鎖的な日常が流れていました。そんな中で、オーストラリアにいきたいという外の世界への興味を胸に秘めていた中でゾンビが襲来します。
人々がゾンビに襲われ、友人たちや父親の死を乗り越えていく中で彼女は成長をしていき、本当の意味での自立を達成していきます。そうした「1人の人間の成長物語」としても見どころがある作品です。
その他にも、セクシャリティに悩みを抱えているキャラクターや片思いの男の子、強い絆で結ばれたカップルなど、リアルかつ現代的な高校生の姿が描かれているからこそ、キャラクターに対する思い入れを強く持ちながら映画を楽しむことができます。
【解説】映画「アナと世界の終わり」の登場曲を聞こう!

映画「アナと世界の終わり」でミュージカルに使われた楽曲を紹介していきます。
劇中で使われた曲はサウンドトラックとして配信されていて、iTunesやApple Music、Spotify、youtubeなどから視聴可能になっているので、映画を見て楽しんだ方はぜひ映画を思い出しながら聞いてみてください。
ここでは、映画「アナと世界の終わり」で登場した楽曲を紹介していきます。
・Break Away
田舎の高校に通うアナたち、卒業後は街を出ていきたいという気持ちを抱えながらも閉塞的な日常を送っています。そんな彼の気持ちが歌われている曲です。
・Hollywood Ending
こちらも高校でのシーンで歌われています。退屈な日常を過ごす彼らが「映画のような結末は起きないようね」と諦めを感じながらも、やりきれない思いが歌われています。
・Turning My Life Around
軽快でポップな曲調で流れるこちらの曲、アナとジョンが新しい朝を迎えて気持ちよく登校するシーンで流れてきます。しかし、彼らの周りにはゾンビがうようよと・・・
・Human Boice
どこもかしこもゾンビだらけになってしまった絶望的な状況の中で、この先に不安を感じてしまうアナたちの気持ちが歌われています。
・Solder At War
プレイボーイで鼻につく性格のニックたちがゾンビを倒しまくりながら歌うロックナンバー。バイオレンスとロックが融合した曲です。
・Nothing Gonna Stop Me Now
サヴェージ校長の怒りが爆発したシーンで、日頃の不満を歌い上げる曲です。終盤で敵キャラとしての存在感を遺憾無く発揮するサヴェージ校長に注目です。
・What A Time To Be Alive
エンディングで流れるしっとりとしたナンバー。生きてるって最高!と歌い上げるさまは、ラストシーンにぴったりです。
映画「アナと世界の終わり」!世界が絶賛した青春ゾンビミュージカル
映画「アナと世界の終わり」は安易なコメディ映画と思いきや、ミュージカル映画としてもゾンビ映画としても、青春映画としても楽しめる物になっており、それぞれが見事に融合しています。
娯楽性も高く、新しい感覚が魅力的なのでぜひご覧になってみてください!