映画『パピヨン』は、実話をもとにスティーブ・マックイーンとダスティン・ホフマン主演で70年代に映画化され話題となった不朽の名作が、チャーリー・ハナムとラミ・マレック主演で現代に蘇った脱獄伝記映画です。
45年前の『パピヨン』の監督は「猿の惑星」で有名なフランクリン・J・シャフナー監督でしたが、今回の監督はマイケル・ノアー監督という期待の新星。2017年に公開された映画ですが、『ボヘミアン・ラプソディ』の影響も相まって、今かなり注目を集めている話題作です。
今回は、映画『パピヨン』を観た感想やネタバレ、45年前のパピオンとの違いなどの解説・考察を書いていきます!
目次
映画「パピヨン」を観て学んだ事・感じた事
・名作『パピオン』を現代の映画として新しく楽しめる
・男同士の絆や友情に胸が熱くなる!
・作品を知らない人でも楽しむことができる
映画「パピヨン」の作品情報
公開日 | 2019年6月21 |
監督 | マイケル・ノアー |
脚本 | アーロン・グジコウスキ |
出演者 | アンリ・シャリエール/パピヨン(チャーリー・ハナム) ルイ・ドガ(ラミ・マレック) セリエ(ローランド・ムーラー) ブレトン(トミー・フラナガン) ニネット(イヴ・ヒューソン) |
映画「パピヨン」のあらすじ・内容
1931年のパリ。胸元に蝶(パピヨン)の刺青をしていることから“パピヨン”と呼ばれている金庫破りのアンリ・シャリエールは、殺人の濡れ衣を着せられ身に覚えのない殺人罪で終身刑となってしまいます。
収監先は南米フランス領のギアナの絶海の孤島にある刑務所で、過酷な強制労働と看守たちの横暴な扱いを受けながらゴミのように扱われる日々が続き、脱獄を決意したパピヨンは、通貨偽造をした罪で終身刑になったドガに目をつけます。
囚人たちがドガのお金目的に命を奪おうとするなか、身の安全を守ることと引き換えに脱獄資金を提供してもらうこととなったパピヨンは、死と絶望が支配する劣悪な環境の刑務所から生きて帰るべく脱獄を試みます。
パピヨンもドガも、最初は利害関係から手を組んだものの、やがて不思議な絆と友情が芽生えていくのでした。
映画「パピヨン」のネタバレ感想
45年ぶりの不朽の名作が人気俳優主演で蘇った!
作家アンリ・シャリエールによって、実際にあった壮絶な体験に基づいた伝記本としても有名です。パピヨン役をスティーヴ・マックイーン、ドガ役をダスティン・ホフマンが演じた 1974年の『パピヨン』をリアルタイムで鑑賞した人も多いと思います。
現に映画館に足を運ぶと団塊世代の男性が特に多く、マックイーンの演じるパピヨンを懐かしいと思うであろう世代が目立ちました。
『パシフィック・リム』や『キング・アーサー』が出世作となったチャーリー・ハナムも、当時のマックイーン同様に二枚目で男らしい“パピ”役を演じ上げ、角度によってはパピを演じた若かりし頃のマックイーンを彷仏とさせるシーンも見受けられました。
一方で、動画役を演じたラミ・マレックも、当時のダスティン・ホフマンのような繊細で器用な演技が印象的でした。
原作が同じのため、大きくストーリーから外れると言う事は無いものの、脚本によってスポットライトの当て方が違ったのが今回のポイントです。そのためカットされたシーンや出てこなかった登場人物も存在しており、当時の映画の再現として鑑賞すると少し物足りなく感じるのではないでしょうか。
ですが、本家ではあまり触れられていなかったパピヨンが刑務所に入るまでのストーリーが盛り込まれていたりと、昔からのファンでも楽しめる作品になっていたと思います。
俳優・監督の伸びしろを感じれる作品となっていた!
リメイク版のパピオンを鑑賞しに行った人の中には、ラミマレックを目当てに映画館に足を運んだ人も多いのではないでしょうか?
大ヒット映画『ボヘミアン・ラプソディ』のフレディ・マーキュリー役を演じたことで世界の一躍トップスターにの仲間入りをしたラミマレックですが、リメイク版のパピヨンの公開日はなんと2017年と『ボヘミアン・ラプソディ』よりも1年も前のことなんです。
また、パピヨンを演じたチャーリーハナムは、過去の作品の影響から“筋肉俳優”と呼ばれるほどキャラが固定されていたのですが、どちらも見事に登場人物を再現し、かつ本家に負けないほどの演技を見せてくれたと思っています。
本家のパピヨンが好きな人や、当時主演となったスティーヴ・マックイーンやダスティン・ホフマンの熱狂的なファンも多く、リメイク映画の出演や登場人物を演じきることに想像を絶するプレッシャーがあったに違いありません。
チャーリーハナムは、これまでの屈強な男のイメージを覆すかのような演技、ラミマレックはなかなか当たり役がなかったキャリアからの“第二のダスティン・ホフマン”には、彼らの演技の伸びしろを感じさせられます。
監督も、実は無名にも近いほど日本どころか世界的に見てもあまり知られていない監督がメガホンを撮っていて、それはそれでプレッシャーが大きかったはずです。
他の作品も日本では公開されていないものが殆どなので、代表作と比べることは出来ないものの、独特な表現力と映像美はこれからの活躍に期待出来そうです。
というより、こんな超有名作品をリメイクした時点で、その度胸をたたえてあげるべきとも言えそうですね。オリジナルのほうの『パピヨン』を知らない世代も増えているので、このタイミングでの、俳優選びと脚本のチョイスにはセンスを感じました。
独房シーンの静寂は映画館のほうがリアル!
本家『パピヨン』にも登場した、パピヨンが独房に入るシーンがあるのですが、その独房ならではの静寂を保ったシーンの静けさは、家では体験できない緊張感や孤独感、不安を表現した名シーンとして見どころになっています。
劇場に足を運んだ私からしても、あの妙な静寂とドキドキ感は、「音を立ててはいけない」と思わされるほど緊張したシーンとして仕上がっています。
現に、それまでは演出音楽がひっきりなしの状態なので、周りも咳をしたりポップコーンを食べている状態なのですが、独房シーンの時だけは劇場内が静かになってしまうほどの印象的な場面です。
まさに劇場が独房になったかのような名場面は、見事に本家から引き継がれた素晴らしい出来栄えでした!
【解説】本家の『パピヨン』と焦点が違った!
この映画を観に行った人の中には、本家の『パピヨン』を鑑賞した人はどれくらいいるのでしょうか。
ストーリー、俳優陣共に人気を博した大ヒット映画ということもあり、若い世代でも本家を鑑賞したことのある人は多いかもしれません。
2017年リメイク版は、初見の人も楽しめるような評価にはなったものの、昔の『パピヨン』を知っている人たちからすると、物足りなさを感じたり、記憶をぬり返すほどの映画にはならなかったのでは?と個人的には思います。
前作との一番の相違点は、パピヨンとドガの関係を描いた部分にスポットライトが当たっていたストーリー性が強いところです。この映画を観た後に本家『パピヨン』を鑑賞したら、きっとドライな友情に思えてしまうのではないでしょうか。
逆に言えば、本家を知っている人からすると、パピヨンとドガの友情がストレート過ぎて、少し違和感を覚えるかもしれません。
劇中で例えるなら、ココナッツのシーンや骨折したドガを連れて行こうとするシーン。本家が「ヤシの実だ、よく噛め」と少し素直じゃないような友情表現なのに対し、「これから毎日ココナッツを入れるよ」とまるで恋人からのラブレターのような文章に違和感を覚えた人も多いはず。
また、今作では骨折をしてしまったドガが見捨てられそうになった時に、真っ先に「ドガは連れて行く」と言い出したのはパピヨンでしたが、本家の方では「置いていけ!」と真逆のセリフを言ってしまうようなドライっぷり。
最後まで鑑賞すれば、どちらも友情や絆のストーリー性はきちんと入っていますし、脚本も良いのは変わりない作品なのですが、本家はもっと人間味があるような男くさいような印象なので、リメイク版は展開が早いように感じる人もいるかもしれませんね。
ですが、初めて見る人にとってはこちらが基準となるため、「ちょっと冷た過ぎない?」と本家に物申したくなるシーンもありそうです。どちらにしても良い作品には変わりないものの、大きな違いを感じる点ではありましたね。
【解説】現代映画ならではの”見せ方”に賛否両論…?
リメイク版の『パピヨン』は最近の映画ということで、映像がやはり新しさを感じる映画となっていました。
南米のビーチを映したシーンはより鮮やかで「自由」へのイメージを彷彿させる一方、キャストたちがイマドキの俳優陣ということも加わり、時代背景が何となくイメージしづらいほど“ある意味キレイ過ぎる”と感じる人も多かったはずです。
初めて見た人にとっては時代背景の説明があるからこそ頭では理解できるので問題はないかもしれませんが、本家を知っている人にとっては刑務所や劣悪な環境が少し小綺麗に映ったかもしれません。
ただ、バイオレンスなシーンやスプラッターシーンが本家よりも少なかったため、血しぶきやグロ系が苦手な人でもより見やすい作品に生まれ変わっていたと思います。
また、パピヨンが全裸で殴り合いをするシーンの躍動感や、独房に入っている時のやせ細った姿などは、現代の映像美でこそできる躍動感やリアルな映像で鑑賞できたと思うので、また違った映像の素晴らしさを見ることができました。
これはある意味、“血しぶき”や“汚れ”などの演出や、特殊メイクに頼らずともリアリティを追及した監督の技量がうかがえたようにも思いますね。
【解説】カットされた部分と新しい追加シーン
リメイクでは出てこなかった、本家での名シーンでもあるワニのシーンや“G”を食べるシーン。有名な見どころシーンとあって、カットされていたのは本家のファンにとっては残念だった気もします…。
ただ、パピヨンが独房に入っている時のドガの様子などもカットされていたのですが、確かに余分なものが取れてよりスマートになったような気がします。
本家ではカット数を多くすることで不器用な男の友情を再現していた(せざるを得なかった)のですが、リメイク版は2人ともの絆の深さがより鮮明に表現されていたため、鑑賞者に余計なシーンを見せなくても上手くまとめられていたのが高ポイントです。
また、余計な登場人物を極限まで減らしているため、純粋にパピヨンとドガの行動に注目できるのが見ていても分かりやすかったところと言えます。
新しく追加されたシーンでは、パピヨンの刑務所に入る前のシーンが印象的。
本家ではあまり詳しく語られていなかった部分だったため、2つの作品を観て初めてパズルのピースが繋がったような気持ちになり、本家『パピヨン』ファンも嬉しかったのではないでしょうか。
その点、ドガがどれほど過酷な人生を送ったかのシーンがリメイクにはなかったので、そこも本家の通り「守ってもらうなんて人生で初めての経験だ」というひと言があったら、もっと二人のそれまでの生活の様子が表現できた気がします。
また、後半に進むにつれてストーリーの相違点も増えてくるのですが、本筋はあまり逸れていないため、編集やカット割りにもたつきがなくストーリーもきちんと展開出来ているので、カットされていても作品としては見やすく感じました。
ラストシーンにも新要素としてパピヨンの脱獄後のストーリーが盛り込まれていたので、本家を観て「最後これどうなるの?」と気になっていた人の謎が解けたのではないでしょうか?
まさに45年ぶりのタイムカプセルのような作品に仕上がっていたので、ファンとしては嬉しいですね。
【考察】ラストの2人の真意とは?
ラストシーンの胸が熱くなったシーンと言えば、何と言っても2人が別々の道を選択したシーン。結果は本家のオチとは変わらないものの、この作品での真意と本家での真意はまた違ったところにありました。本家を見ていない人にネタバレするのは嫌なので控えますが、この作品上でのドガの真意は、蝶がサナギから羽化をしたような彼の変化にあります。
パピヨンに頼ってばかりだった彼が、大切な友人パピヨンを守るために人を殺めた時から、もう以前のドガとは違うドガになっていたのです。パピヨンも男だからこそ「連れて行く」とは言わずに1人で脱獄することになったのですが、彼への友情として、ラストシーンで初めて「ルイ!」と名前で呼びました。
男らしい友情と絆の深さを感じさせられるラストシーンは、前半、中盤からの伏線もきちんと張られていて見度とな着地が出来ていた気がします。
初めても元々のファンも1度見てほしいリメイク作品
この作品は本家『パピヨン』を知っている人も知らない人も楽しめる作品です。
本家は男くささや泥臭さなど男性に特に人気で、無言で伝える空気感や口下手でも分かり合える独特な友情や絆の表現は、男性の方が共感できる部分が大きいのかな?という印象を受けます。
一方で、リメイク版では本家独特の男くささや血なまぐささがない、バイオレンス要素が控えめで新しい友情の見え方ができる作品となっていたので、原作やストーリーを知らずにまっさらな気持ちで観ても非常にいい作品となっていました。
ただ、やはり本家『パピヨン』を知っている人からすると、その記憶を塗り替えるに匹敵するほどの作品か?と言われると少し心細くはあります。
ですが、スポットライトの当て方を変えることで何だかサイドストーリーを観ているような、映像の美しさに別の魅力を観させられる映画ということも間違いない映画となっていました。
リメイクという表現よりも「リボーン」や「リニューアル」と言った表現が合う気がしますが、原作ファンであればどちらの作品も好きなのではないでしょうか。
違った発見という意味では、本家ファンもまた新しい魅力を発見できるスパイスになると思います。本家『パピヨン』を一度は観ている人でも、初めて観る人でも充分に楽しめる作品だったので、本家『パピヨン』ファンには食わず嫌いをしてほしくないなといったところです。
また、初めての人にとっては、『パピヨン』という素晴らしい作品に巡り合えるきっかけとなってくれる作品なので、チャーリー・ハナムやラミ・マレックがお目当てという人も充分に楽しめ、作品のすばらしさに感動すると思います。
名作中の名作なので、映画好きなら新旧問わず一度はどちらも観てほしいですね!