映画『名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)』は、すでに長寿アニメとして広く知れ渡っている「名探偵コナン」シリーズの劇場版第23作目にあたる作品です。今作は日本を飛び出し「シンガポール」を舞台にした大迫力のアクションが見どころの一つとして宣伝されていました。
また、人気キャラクターである怪盗キッドや京極真が登場するという事もあり、公開前からコナンファンからの期待が非常に高い作品でもありました。
今回はそんな『名探偵コナン 紺青の拳』の個人的な感想や解説、考察を書いていきます!なお、公開間もない上に「推理もの」という作品の特質上、ネタバレには特に注意してください。
目次
映画『名探偵コナン 紺青の拳』を観て学んだこと・感じたこと
・映画の作り全てにコナンへの愛を感じる
・京極と園子をメインキャラに据える決断が大当たり
・「シンガポールって爆破の許可が出るのか」ということを学んだ
映画『名探偵コナン 紺青の拳』の作品情報
公開日 | 2019年4月12日 |
監督 | 永岡智佳 |
脚本 | 大倉崇裕 |
出演者 | 江戸川コナン(高山みなみ) 毛利蘭(山崎和佳奈) 毛利小五郎(小山力也) 怪盗キッド(山口勝平) 鈴木園子(松井菜桜子) 京極真(檜山修之) |
映画『名探偵コナン 紺青の拳』のあらすじ・内容
19世紀末、海賊船とともに海底に沈んだとされていた伝説の秘宝「紺青の拳(フィスト)」。
そして時は流れて現代。シンガポールの大富豪は、失われた秘宝のサルベージを試みます。そのかいあって、海底からついに伝説の秘宝が姿を現しますが、時を同じくしてシンガポールでは殺人事件が発生。事件現場には、怪盗キッドによる血染めの予告状が残されました。
一方、シンガポールで空手の大会に出場する京極を応援するべく、蘭と園子はシンガポールを訪れます。コナンはパスポートがないため現地には向かえないはずでしたが、コナンの能力を利用したかったキッドによって「拉致」されシンガポールを訪れることに。
こうしてシンガポールに降り立ったキッドはさっそくお宝を盗みにかかりますが、そこには京極が待ち構えていました。
キッドと京極。二人のキャラクターをキーにした物語が異国で繰り広げられることになります。
映画『名探偵コナン 紺青の拳』のネタバレ感想
興行収入はシリーズ最高ペースの初動と大ヒットが予想される
コナンシリーズは原作・TVアニメともに非常に長寿の作品となっており、若年層の間ではすでに「ドラえもん」や「サザエさん」に近いレベルの国民的知名度を誇ります。さらに、その人気は衰えるどころか近年になって加速している節もあり、売り上げベースの全盛期は今現在であるという見方もできます。
そして、この好調な記録は劇場版においても例外ではありません。実際、現在の劇場版コナンシリーズは6作連続でシリーズ最高興行収入を更新しており、今作を待ち望んでいたのはコナンファンだけではないことがよくわかります。昨今は「映画離れ」が叫ばれ、特にこれまで映画界を支えていた洋画の収入が落ち込む中で、右肩上がりの興行収入を記録するコナンに注目が集まるのはある意味当然といえるでしょう。
こうして「鳴り物入り」で封切られた今作は、前評判を裏切らない快調なスタートを決めています。公開3日間の興行収入を見ても、前作の『ゼロの執行人』を上回る過去最高のペースで推移しています。さらに、今年は天皇陛下の生前退位に伴う10連休のGWという超大型連休が待ち構えており、数字上過去最高の記録を更新するのはほぼ間違いないといっても過言ではありません。
ただ、もちろん売り上げ先行で面白さに欠けるという事は全くありません。筆者もコナンシリーズのファンですが、キッドや京極の登場と活躍はファンの期待に十二分に応えるものでしたし、初見の方もシンガポールで繰り広げられる大規模アクションを楽しめるように作られています。
コナンのように長寿のシリーズは「古参ファン」と「ライトなファン」のどちら向けに比重を置くかが問われるため構成が非常に難しいのですが、その点は実に見事な魅せ方で両者を満足させています。
今作で監督を務めたのはシリーズ初の女性監督・永岡智佳でしたが、コナン愛と「女性らしい視点」が上手にミックスされていた作風には、彼女の貢献が大きいような気がします。特に、園子と京極の「ラブコメ」シーンは完成度が高く、詳しくは後述しますが園子ファンはこの一点だけで今作を見る価値があると断言できるほどです。
従来のコナンシリーズにも真一や蘭のラブコメ要素は多少ありましたが、それを映画の中心的な部分に持ってくるというのは良い意味で「コナンらしくない」と感じました。こうした構成や園子の魅力を最大限発現させたのは監督の功績が大きいのでしょう。
京極・キッドという二大人気キャラクターがスクリーンで大活躍
今作の注目度が公開前から高かった一つの要因としては、準レギュラーながらレギュラーキャラクターをしのぐほどの人気を誇る「怪盗キッド」と「京極真」の出演が事前に公開されていたためでしょう。特にファンの期待が大きかったのは「京極の映画初出演」という点です。
キッドはサブキャラではありますが、コナン映画には定期的に出演しています。実際、前回に登場したのは約4年前に公開された映画『業火の向日葵』であり、それ以前にも大体同じような間隔で映画にも登場しています。ところが、同じく人気サブキャラクターである京極の映画出演は実質的に今作が初めてであり、Twitterなどでもコナンファンが盛り上がっていたのは彼の出演についてが中心であったような気もします。
そして、この二人はド派手なアクションで映画を盛り上げていました。キッドは相変わらずクールでスマートですが、同時に「卑劣」ではない悪役という彼の良さが全面に出ているキャラクターとして描かれていました。京極は原作やアニメでも描かれていたような「最強の空手家」という側面をいかんなく発揮し、獅子奮迅の大活躍を見せていました。筆者は公開前に有志ファンが作成していた「京極はこれほどスゴイ!」というようなまとめを見て思い出したのですが、京極には拳銃や大人数が全く意味を成しません。
ただ、今作では園子との関係に思い悩む一面も描かれ、園子との関係が原因で拳が鈍る場面も見られました。古風で日本男児的な性格をしている格闘家が色恋に思い悩むというのは「王道」のストーリーではありますが、そのあたりもよく描けていたと思います。
また、劇場版コナンならではの「町全体を巻き込んだ大規模アクション」ももちろん健在でした。もっとも、京極やキッドを出演させている時点でそうした展開があることはおおむね予想できたのですが、個人的には予想の範疇を超えてきた気がします。
その理由として、今作はシンガポールの実在する地域を舞台にアクションが繰り広げられるのですが、実在の建物や文化財を容赦なく爆破させるのです。通常、実在する町や地域を舞台にした作品では「イメージを守る」という理由で、アニメやCGであっても破壊の許可が下りないことも多いです。特に、シンガポールは中国からの移民である「華僑」の国であり、そういった面には厳しそうなイメージを持っていました。
しかし、キッドや京極はシンガポールで暴れまわり、町があれよあれよと破壊されていきます。コナン映画に町の爆破はつきものですが、この内容に許可を出したシンガポールという国家の懐の深さを感じました。
【解説】園子の魅力が全面に押し出されている
今作で今までのコナンシリーズには見られなかった特徴として「園子と京極のラブコメシーンを強調している」というものがあります。園子と京極が付き合うことになる一連のエピソードは取り上げられていましたが、劇場版で彼らにスポットライトが当たったのは初めてのことです。
そして、今作は何より「女性(ヒロイン)としての園子」がこれ以上ないほど魅力的に描かれているという特徴があります。これまでの園子は、あくまで「蘭の友人」であり「鈴木財閥のお金持ち」という側面が強調して描かれがちでした。そのため、コナンシリーズのヒロインとして園子を認識しているファンはほぼ皆無だったといってもよいでしょう。
もっとも、「実は園子が一番魅力的な女性なのでは」という主張そのものは頻繁に見かけました。これまでの作品でも彼女の魅力は随所に散見されましたし、蘭や灰原とはまた違う「良い女」という一面があったのは事実です。
しかし、今作の園子はそうした「脇役の粋な女」という立場ではなく、作品の中心ヒロインとしてその魅力を全面に発揮します。特に、京極を相手にわがままを言うシーンや、自分の行動を反省してしおらしくしているシーンなど、これまでの「脇役」という立場では見られなかった新しい一面が描かれており、その見せ方も「わがままでイライラする」と感じることはなく、純粋に「園子ってこんなに可愛かたっけ?」と思わされるものでした。
そして、京極もまた園子同様に悩み、葛藤しながら物語は進行していきます。京極は設定上最強のキャラクターなので、脚本的にはある程度能力に制約を設ける必要があります。そうしなければ、京極が無双して危機を回避できてしまうからです。恐らく園子のヒロインとしての一面を強調することで、京極の能力に制限をかけるという脚本上の都合が作用していたための構成だったのではないかと推測します。
そうして計算されたものであったとしても「脚本の都合」という嫌な一面は全く顔をのぞかせることなく、自然な形で描写されています。そのため、「脚本的なノルマを消化しつつ、制約を魅力的に変える」という難題を見事にクリアしてきたといえるでしょう。
作品そのものに大きな欠点もなく、劇場版コナンシリーズの最新作として高い完成度を誇るため、今年公開されたアニメ映画では現時点でトップの作品と考えられます。
【解説】次回作は赤井秀一がメインであることが判明
今作の映画は劇場版コナンシリーズの中でも良作に分類される作品であることはここまで解説してきましたが、作品のラストでは次回作の予告が行なわれていました。映画を見に行っていても、エンドロールを見ずに退室してしまった方の中には初めて知ったという方もいるかもしれません。
ちなみに、劇場版コナンシリーズではエンドロール後に次回作の予告をするのが慣例になっているので、今後コナンシリーズを視聴される際にはエンドロール後までしっかりと視聴し続けることをオススメします。
予告では『機動戦士ガンダム』でシャア役を務めた池田秀一の声によって、「届け、はるか彼方へ」というセリフが読み上げられたのち、次回作が2020年のGWに製作されることが正式に発表されました。そのため、これまで同様1年周期での新作劇場版公開というペースに変化はありません。
そして、コナンファンなら池田秀一の声を聞いた瞬間に、次回作の中心人物を言い当てることができたでしょう。そう、コナンにおける池田秀一といえば、FBIの捜査官にしてミステリアスなキャラクター「赤井秀一」役を務める人物です。したがって、次回作のキーキャラクターは赤井秀一であると考えて間違いなさそうです。
この赤井秀一という人物も、今作に登場するキッドや京極と並んで人気のあるサブキャラクターです。ミステリアスな性格と大人の魅力から女性・男性人気共に高く、人気投票では常に上位に顔をのぞかせます。また、キャラクター名が声優と似ていますが、これは原作者の青山先生がシャアおよび池田秀一の大ファンであったことからキャラクター名と声優が決められたことによるものです。
したがって、次回作も今作同様に人気キャラクターを起用した「鳴り物入り」の作品として期待されることは明らかです。今作同様に素晴らしい作品を仕上げることはできるのか、筆者としては来年が非常に楽しみになってきました。
【考察】コナンシリーズは「時代に合わせて進化する」タイプの作品
ここまで見てきたように、コナンシリーズは長寿アニメとしての地位を完全に確立しています。現在3~40代の方からすれば、「コナンは最近のアニメでしょ」という認識がまだあるかもしれませんが、高校生からすれば生まれる前から劇場版が公開されているのも事実です。
また、海外における知名度も非常に高く、もはや日本を代表するアニメの一角を占めているといっても的外れではないでしょう。
そこで、ここではコナンシリーズを「ほかの長寿アニメ」と比較して作品の特質を考えていきます。
まず、長寿アニメには大きく分けて二通りの作り方があるように思えます。一つは、「いつまでも変わらない魅力」で勝負するタイプの作品です。これは、『サザエさん』や『こち亀』などに代表される作品にみられる傾向で、とにかく基本に対して忠実であり、時代を超えた普遍性で勝負していくように感じます。
もう一つは、「時代に合わせて変化していく」タイプの作品です。大半の長寿アニメはこちらに属するような気がしますし、コナンも分類するとすればこちら側の作品でしょう。「時代に合わせた変化」というのは、上手にやらなければ古参のファンにそっぽを向かれてしまうことに繋がりかねません。
以前記事を書いた『ドラゴンボール』シリーズなどはこうした「悪い変化」を示してしまっている作品であり、直近で公開された「ドラゴンボール超 ブロリー」の映画もファンとしては不満の残る作品でした。
では、コナンシリーズはどうなのか。筆者の考えですが、コナンシリーズは時代に合わせてさまざまな変化を取り入れている一方、作品の根幹となる部分がしっかりしているので古参のファンであっても安心して鑑賞できるシリーズになっていると思います。
例えば、今作では新たに「ラブコメ」の要素を押し出し、園子と京極の関係性に焦点を当てています。しかし、あくまで根本的な部分である「推理」と「アクション」による悪党との対決がメインに描かれという作品の根幹もしっかりと作りこまれており、その部分にブレがありません。
また、コナンシリーズの映画に関しては「原作へのリスペクト」を感じることがとても多いです。これは製作陣にある空気感が理由なのかもしれませんが、新しいことに挑戦する作品でも「こんなのはコナンではない」と言いたくなるような作品はそれほど多くありません。もちろん、実験的な手法が上手くハマらなかったがゆえに作品としての評価が芳しくないものはありますが、全体としては非常に設定をしっかりと守っているシリーズといえます。
やはり、毎年新作を作っているために、制作のノウハウが忘れられることなく着実に伝えられているのが大きいのかもしれません。
(Written by とーじん)