映画『ドラゴンボール超 ブロリー』は、国民的アニメ「ドラゴンボール」シリーズの劇場版第20作目として公開された映画です。ただ、これは「ドラゴンボール」シリーズとしては20作目ということであり、2015年より放送が開始された「ドラゴンボール超」シリーズとしては3作目にあたります。
今作は、かつて映画限定のキャラとして登場し、現在でも高い人気を誇るキャラクター「ブロリー」を再び登場させるという、ファンサービスの意味合いも強い映画です。もちろんドラゴンボールらしい大迫力の戦闘シーンは健在で、初見の方でも十分に楽しめる内容になっています。
今回はそんな『ドラゴンボール超 ブロリー』の個人的な感想や考察を書いていきます!なお、原作漫画やアニメのネタバレには注意してください。
目次
映画『ドラゴンボール超 ブロリー』を観て学んだこと・感じたこと
・ブロリーというキャラクターの魅力を再確認
・旧アニメと比べると作画や演出の進化を実感
・「変わらない良さ」もあると学びました
映画『ドラゴンボール超 ブロリー』の基本情報
公開日 | 2018年12月14日 |
監督 | 長峯達也 |
脚本 | 鳥山明 |
出演者 | 孫悟空/孫悟天/バーダック(野沢雅子) ベジータ(堀川りょう) フリーザ(中尾隆聖) ブルマ(久川綾) ブロリー(島田敏/森下由樹子) パラガス(宝亀克寿) |
映画『ドラゴンボール超 ブロリー』のあらすじ・内容
ドラゴンボール界では、世界の存亡を賭けて行なわれることも珍しくない武道大会。武の頂を目指す悟空とベジータは武道大会「力の大会」に参加し、宇宙の猛者と戦ったことで彼らに感化され、さらなる修行に明け暮れていました。
しかし、ブルマが集めていた6つのドラゴンボールと捜索用レーダーが突如盗まれてしまいます。犯人の姿はおぼろげながら防犯用カメラに写っており、犯人の身なりからかつて悟空が打倒したフリーザの手先であることを見抜きます。
フリーザは「力の大会」で自身の武勇を示し、破壊神ビルズと天使ウイスに活躍を認められて復活していました。
悟空とベジータは、復活を契機にフリーザがドラゴンボールを使って悪だくみをしていると考え、最後となる7つ目のドラゴンボールを回収するべく「氷の大陸」へと向かいます。
氷の大陸で犯人を見つけた二人は、まず6つのドラゴンボールを回収しようと犯人に襲い掛かかりますが、そこにフリーザ軍本隊が襲来し、戦いは一筋縄ではいかない様相をみせます。
そしてフリーザ軍の中には、謎のサイヤ人ブロリーとパラガスの姿が…。
映画『ドラゴンボール超 ブロリー』のネタバレ感想
「変わったキャスト」と「変わらぬキャスト」が融合している
今作は、40年以上もの間続いている大人気シリーズ「ドラゴンボール」の最新作にあたります。そのロングランな性質上、キャストも多少入れ替わりつつ今作までシリーズが続いてきました。
今作の監督を務める長峯達也は、『ハートキャッチプリキュア!』や『冒険王ビィト』などの監督でも知られ、アニメ界では比較的実績のある人物です。しかしながら、「ドラゴンボール」シリーズで監督を務めるのは「ドラゴンボール超」になってからのことで、「シリーズの継続性」という意味では多少不安がなかったわけではありません。
また、声の出演に関しても多少の変更があります。今作は劇場版オリジナルキャラクターとして、チライとレモという人物を登場させています。彼らの声は水樹奈々と杉田智和が担当しており、「ドラゴンボールシリーズ」で声の出演を務めるのは初めてとなります。
さらに、これまでの「ドラゴンボール」シリーズでは、1作目からブルマの声を担当していたのは鶴ひろみでした。しかしながら、彼女は2017年11月16日に病気により亡くなってしまったため、後任として久川綾がキャスティングされています。
このように、キャストや声に若干の変更があったものの、全体としてはそれほど違和感なく「ドラゴンボールらしさ」を感じることができました。その理由は2点考えられます。
まず、1点目は新たなキャストを支える経験豊富な面々の存在でしょう。今作は脚本を原作者の鳥山明が務めているほか、悟空役でお馴染みの野沢雅子をはじめとする1作目から継続して声の出演を務める声優陣が健在です。それゆえに、多少の変更があっても「らしさ」を感じるには十分な面々がそろっているほか、演技や作品指導などを手厚く行うことができたのも大きいでしょう。
また、2点目は新規キャストに経験豊富な人材を採用した点でしょう。監督の長峯もアニメ界では実績のある人物であり、新たに採用された声優陣も数多くの作品で声の出演を続けている実力者揃いです。そのため、作品への溶け込みが早かったものと推測できます。もし仮に新人監督や素人声優を起用していたら、恐らくかなりの違和感を覚える結果になったことでしょう。
悟空とベジータVSブロリーの戦闘シーンは「超」迫力
「ドラゴンボール」シリーズの見どころといえば、やはり大迫力の戦闘シーンでしょう。これは1作目から変わることなく近年の作品まで一貫して引き継がれています。特に、「スーパーサイヤ人」や「かめはめ波」といった魅力的な設定や大技は視聴者に強いインパクトを与え、コスプレや物まねをするファンも世界中に存在します。
そして、今作でもそういった魅力はもちろん健在です。特に、今作には「最強のサイヤ人」という設定で作り出されたブロリーも存在し、その巨体に立ち向かう悟空やベジータとの間に繰り広げられる戦闘シーンは圧巻の一言です。最初はお手並み拝見とばかりにスーパーサイヤ人化すらせずにブロリーと戦いを繰り広げますが、ブロリーの力に歯が立たなくなっていきます。
恒例のフュージョンでゴジータとなった悟空とベジータはようやく本領を発揮し、圧巻の実力を見せブロリーを打倒するのです。このように、まずブロリーがどれほどの脅威かを存分に示したのちに、それを打倒するゴジータの圧倒的なパワーを描くという見せ方には、構成の妙を感じました。
さらに、今作の戦闘シーンそのものも非常にキャラがよく動き、エフェクトなどの演出面もかなり気合が入っています。この点に関しては過去のシリーズよりも明確に上回っている点であり、戦闘シーンのクオリティはシリーズ随一といえるでしょう。これにはやはり旧作を放送していた時期と比べて作画技術の向上が目覚ましいという理由が挙げられます。
ただ、それを差し置いても同時期に公開された他作品より戦闘シーンのクオリティは高いといえます。したがって、これだけの戦闘シーンを作るためにはかなりの手間・人材・資金が惜しみなく投下されているのは間違いないでしょう。よく動く戦闘シーンが好きな方は、シリーズに興味がなくても必見の内容になっています。
【解説】サイヤ人の過去を重点的に描いている
今作はブロリーを扱うという構成上、悟空やベジータを含めたサイヤ人たちの「過去」を重点的に描いています。ブロリーについては旧作からの変更点も多いので単体で後述しますが、ここでは新たに公開されたサイヤ人たちをめぐる地球到来以前の歴史を整理します。
まず、サイヤ人たちを滅ぼしたフリーザが軍を掌握したのが、「ドラゴンボール超」の時間軸の41年前の出来事であることが明かされます。また、その時期にはちょうど戦闘能力を測る装置でもある「スカウター」が開発されたことも新たに明かされています。
さらに、「ドラゴンボール」の世界で活躍するベジータが惑星ベジータの王子であったことは以前から語られていますが、このベジータは4代目にあたることが初めて言及されています。つまり明かされていた先代のベジータ王は3代目であったことを意味し、その前にも二人の王がいたことになるのです。ただし、その二人の王に関する詳細は明かされていません。
また、悟空の父親であるバーダックについては以前から「たったひとりの最終決戦」などで明かされていましたが、今作には悟空の母親にあたるギネという人物についても詳細が明かされています。ギネは野心に満ち溢れたバーダックとは異なり、心優しい理想的な母親として描かれています。しかし、作中ではバーダック同様亡くなっていることも明かされました。
加えて、バーダックについても息子である悟空への接し方が旧作とは異なって描かれています。「たったひとりの最終決戦」では、ポッドに入れられた息子悟空の戦闘能力をスカウターで計測し「戦闘力2か…ゴミめ」と吐き捨てます。このシーンは、良くも悪くも戦闘民族としてのサイヤ人を象徴的に描くシーンでした。
しかし、今作では悟空をポッドで地球に飛ばす際の動機が異なっています。旧作では「戦闘力の低い悟空でも侵略できる星」という理由で地球へ飛ばされた悟空ですが、今作では「戦闘力の低い悟空でも生き残れる星」という理由で地球へと送られています。ここにはバーダックが関与しており、旧作では描かれなかった親心をみせています。
今作ではサイヤ人の過去にまつわるエピソードがいくつか追加されているほか、部分的に旧作とは異なる描かれ方をされています。ただ、全体的にはあくまで旧作で語られなかった、あるいはほんの少ししか触れられていなかった部分を補完するという意味合いが強いように感じました。
そのため、いわゆる「ドラゴンボール」シリーズの「正史」との整合性が意識されており、パラレルワールドとしてではなく、歴史の流れに組み込まれることを想定して過去が描かれています。
【解説】旧ブロリーと今作のブロリーに関する設定の違い
先ほどは旧作と比べて設定をいくつか加えていることに触れてきましたが、それはもちろんブロリーも例外ではありません。それどころか、ブロリーに関する設定は長身であることや戦闘力を除いて大幅に変更されており、旧作のファンが戸惑うほど別のキャラクターとして描かれています。
まず、旧作のブロリーは悟空に対して強い憎しみをもっています。これは赤ん坊のころに悟空に泣かされた過去を強い恨みとして記憶し続けていたためです。その後、その力を恐れたベジータ王によって殺されかけており、息子のベジータにも特別な感情を抱いています。この「ベジータに殺されかけた」という部分のみは、今作とも共通している設定の一つです。
惑星ベジータが爆発した際、能力が覚醒したことにより逃げのびたブロリーは、成長するにつれて力を暴走させるようになっていきます。それ恐れたパラガスによってコントロール装置をつけられており、パラガスは彼を恐れながらも強大な戦闘力を利用するようになります。しかし、ひとたび覚醒したブロリーはまさしく「悪魔」と呼ぶにふさわしい行動・言動をみせ、本人も「俺は悪魔だ」と自称するほどです。
しかし、今作のブロリーは上記で挙げた要素の大半が改変されています。今作ではそもそも、悟空のことを映画内で出会うまで知りませんでした。また、ポッドで飛ばされたブロリーをパラガスが助けに来たという設定が追加され、2人きりで41年もの間生活しているため、以前のような好戦性は鳴りを潜めています。
さらに、パラガスによって復讐の道具として育てられたにも関わらず、父のことを敬愛している様子が描かれています。旧作ではブロリー自身がパラガスを殺害していることを踏まえると、かなり大きな改変と言えそうです。
こうした今作のブロリーの内面を整理すると、強大な戦闘力をもちながら戦闘を好まず、父によって復讐に利用される純粋な心をした人物として描かれています。ここまでの比較でもわかるように、旧作とはほぼ別人格として描かれているといっても過言ではなく、同じ部分を探す方がかえって難しいという状態になっています。
【考察】今作のブロリーは「ブロリー」である必要があったのか
ここまで今作の見どころや過去作との違いについて紹介してきました。映画全般としては基本を押さえた作品に仕上がっており、特に戦闘シーンはよくできているというのは前にも述べたとおりです。したがって、単体の作品としては佳作と評することができるかと思います。
今作に限らず「ドラゴンボール超」シリーズ全般に言えることとして「どうにも蛇足感が拭えない」というものがあります。2015年に放送が始まった本シリーズは「ドラゴンボールGT」以来の完全続編として位置づけられ、原作者の鳥山明が自らストーリー原案を務めるなど、ファンの間でも相当の期待感をもって歓迎されました。
あくまで個人的な感想ですが、新規で追加されたキャラクターや設定に今ひとつかつてのような魅力を感じないだけでなく、過去作の設定などを揺るがすような改変も多く、正直なところ蛇足感が否めません。そのため、「ドラゴンボール」シリーズを全般的に俯瞰したうえで今作を評価すると、その部分を解消してくれるまでには至らなかったという印象がありました。
特に気になったのは、ブロリーの設定がほとんど改変されているという点です。先ほども書いたように、性格面に関してはほぼ旧作の面影がなくなってしまっています。これでは、わざわざブロリーを再び劇場版で起用した意味がなくなってしまうように感じるのです。
鳥山明は今作でブロリーを起用することはディレクターの提案で、自身はブロリーというキャラクターを覚えていなかったとコメントしています。その提案理由は「日本だけでなく海外でもブロリーは高い人気を博しているから」というものでした。そのため、ブロリー人気にあやかる形で今作に登場したといえるでしょう。
この点に関して、個人的には「ブロリーが人気だと分かっているならば、大幅な改変は避けるべきだった」と感じました。私もブロリーというキャラは知っていましたし、どうしてファンに受けていたかも知っているつもりです。ブロリーは強大な力をもち、それでいて悪魔的な残虐さをもち合わせている「カリスマ的な悪役」というイメージがありました。しかし、今作ではそうした部分はほとんど描かれません。
つまり、今作のブロリーは「ブロリーの姿をした別人」ということもできます。そのため、私のようにかつてのブロリーを知っているファンの中には、この改変を疑問に思った方も少なくないのではないでしょうか。
ただ、これは今作のブロリーが「キャラクターとして出来が悪い」ということを意味しているのではありません。今作のブロリーは今までとは違った側面で魅力的なキャラクターだと感じましたし、これはこれでアリだと考えています。
筆者としては「今作のブロリーは『ブロリー』である必要があったのか」ということをどうしても感じざるを得ないのです。これだけ設定を変える必要があるのであれば、完全に別個の新キャラクターとして描いたほうがよかったのではないかと感じました。