スタジオジブリ作品、ポケットモンスター、ドラゴンボール……外国人へ日本のアニメーション映画で好きな作品を聞くと、誰もが名前を知る作品が多く挙げられます。しかし、たまにコアなファンに遭遇すると、『AKIRA』というタイトルが挙げられることも。
1988年に公開された『AKIRA』は、当時の国内外へ大きな衝撃をもたらしました。近未来の東京を舞台としたサイバーパンクな世界観と、丁寧に作り込まれたアニメーションの融合は、決して真似できないジャパニメーションだという印象を強く残したのです。その出来は、あのスティーブン・スピルバーグもこういう作品が作りたかったんだと言わしめるほどです。
今回はそんな『AKIRA』の感想や解説、考察について紹介します。なお、ネタバレを多く含んでいるため、視聴前に読まれる場合はご注意ください。
目次
映画『AKIRA』を観て学んだこと・感じたこと
・近未来のネオ東京を舞台に、超能力と少年たちの複雑な関係を描いたSF作品
・2020年東京オリンピックの開催を予言?大友克洋の未来感を楽しむ
・難解な部分もあるが、アニメ好きには一度観て欲しい作品
映画『AKIRA』の作品情報
公開日 | 1988年7月16日 |
監督 | 大友克洋 |
脚本 | 大友克洋 橋本以蔵 |
出演者 | 金田(岩田光央) 鉄雄(佐々木望) ケイ(小山茉美) 敷島大佐(石田太郎) 竜(玄田哲章) |
映画『AKIRA』のあらすじ・内容

新型爆弾の爆発により、第三次世界大戦が勃発してから31年後の2019年。東京湾にはネオ東京と呼ばれる街ができあがり、人々は再び満たされた生活を送っています。しかし、その足下では反政府ゲリラと軍との抗争が続くなど、きな臭い動きが影を落としていました。
赤いバイクを駆り、仲間たちとともに暴走行為をくり返す金田。敵対する暴走族を追い回していたその日、仲間の鉄雄が年老いた容貌の少年を轢きそうになって転倒し、負傷します。そこへ突如現れる、軍の関係者。彼らは金田たちを無視すると、少年と鉄雄を連れ去ってしまいました。
やがて、金田たちの前に再び姿を見せる鉄雄。彼は超能力とも呼べる強大な力でもって、暴走をはじめます。
映画『AKIRA』のネタバレ感想
【解説】漫画と異なる部分も多い映画版『AKIRA』

映画『AKIRA』は1988年に公開された劇場版アニメーション映画です。原作の漫画は1982年から1990年まで週刊ヤングマガジンで連載されました。なお、原作者の大友克洋が映画の監督も務めているという非常に珍しい作品であり、単なる原作のアニメ化とは言い難い部分があります。
本作の制作費は約10億円。2000年以降の劇場版アニメ映画の制作費が平均でも1~3億円、高いもので10億円を超えてくるといった具合なので、当時としても破格の予算だったといえるでしょう。
また、作画枚数は約15万枚と、こちらも驚異的な枚数をほこります。『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』といった、同時期の名作でも作画枚数は約5~7万枚程度であり、単純に倍以上の作画が使用されていることになります。
実際、本作のアニメーションは他に例を見ないほどに良く動くのが特徴。セル画アニメの歴史的な作品として、国内だけではなく海外でも非常に高い評価を得ています。まさに、ジャパニメーションの到来を知らしめる一作となりました。
映画版『AKIRA』のあらすじについて、もう少し深く見ていきましょう。
1988年、関東地方で使用された「新型爆弾」が引き金となって、第三次世界大戦が勃発。それから31年の月日を経て復興した、2019年のネオ東京が舞台となっています。
急速な発展も高止まりし、復興の喜びも忘れて物質的な快楽を求めるネオ東京。その足下では、現行の政治体制に不満を持つ反政府ゲリラ組織と、軍との衝突が続いています。
主人公の金田は職業訓練校に通う学生であり、暴走族のリーダーです。ある日、敵対する暴走族との抗争中、金田のチームメンバーで幼馴染みでもある鉄雄は、老人のような顔をした少年・タカシと衝突しそうになります。
バイクの爆発によって大けがを負った鉄雄。少年を捕らえにきた軍は鉄雄の姿を見つけると、少年とともに連行してしまいます。警察に連行された金田は署内で反政府ゲリラのケイに出会い、彼女にアプローチをはじめます。その傍らで、戻ってこない鉄雄の身を案じてもいました。
職業訓練校でいつもの日常を過ごしていると、突然、鉄雄がひょっこりと戻ってきます。しかし、妙な幻覚を見て苦しんでいるなど、以前と異なる様子を見せる鉄雄に金田は戸惑いを隠せません。やがて、軍に連れ戻された鉄雄は、そこで超能力とも呼べる強大な力を覚醒させることに。
ケイや反政府ゲリラのメンバーが軍のラボへ乗り込むことを知った金田は、鉄雄を取り戻すために同行を申し出ます。しかし、金田に守られるだけの存在であることに強いコンプレックスを抱いていた鉄雄は、自分を助けにきた金田を逆に憎み、ついにはその力に飲み込まれてしまう――という流れになっています。
ストーリーの裏では、老人のような姿を少年たち、通称「ナンバーズ」と呼ばれる存在や、政府が長年隠し続けている「AKIRA」の存在が絡み合い、やがて物語は複雑な様相を見せていきます。
なお、映画版『AKIRA』は原作全6巻のうち、第1~3巻をベースに構成されています。登場人物や世界設定、基本的な物語展開は同じですが、細かな部分での違いも多くあります。
たとえば、鉄雄は病院のラボを脱出すると、そのまま敵対していた暴走族のリーダーを屈服させ、新しいリーダーとして他の暴走族を攻撃して回ります。また、原作で重要な役割を果たすミヤコは、映画版ではモブキャラのひとりであり、単なる怪しい新興宗教の教祖のような扱いです。
その一方で、映画版のラストは原作の終わりを思わせるような結び方になっているのも特徴。原作者と監督が同一であることから、映画版『AKIRA』は原作のアニメ版というよりも、オルタネイティヴな位置づけと解釈するのが正しいかもしれません。
【解説】「さん」を付けたくなる金田の主人公っぷり

本作の主人公は、間違ってもアキラではありません。というよりも、アキラは本作における象徴的な存在として、最後のほうに少しだけ登場するのみです。
本作の主人公は間違いなく金田でしょう。運動神経抜群でバイクテクニックは一流、不良然としているが、仲間のためなら進んで動ける性格の持ち主。特に、自分と同じ養護施設で育った鉄雄のことになると、より一層親身になります。まさに主人公のポジションに相応しいキャラクターです。
金田が魅力的なのは、その性格だけではありません。超能力や軍の存在が全面に押し出される本作において、金田はあくまで鉄雄を助けたい一人の少年です。
鉄雄や軍の力の前に、周りの友人や反政府ゲリラのメンバーが死亡していくなかで、金田は特殊な力を何一つ持たないまま、鉄雄と対峙することとなります。金田は主人公であると同時に傍観者でもあり、本作の物語を俯瞰する位置にいるのです。
後述する「金田のバイク」の存在もあって、金田の存在は非常に印象的です。大友克之のキャラクターデザインのせいもあってか、顔は三枚目でそれほどカッコいいともいえません。
しかし、鉄雄を助けたいという一心で軍に乗り込む姿や、友人が鉄雄の力によって殺されたことに怒り、軍から奪ったレーザーで対峙する姿には、仲間に対する想いが溢れています。そんな金田の様子は、普段はお気楽そうな感じであるからこそ魅力的に映ります。
また、鉄雄に対する口上も、金田の魅力のひとつ。鉄雄が抱えているコンプレックスを見抜いた金田は、彼をあおるように台詞をまくし立てます。自分を呼び捨てした鉄雄に対して放った「「さん」を付けろよデコ助野郎――!」の台詞はあまりに有名でしょう。
【解説】力を持ちながらも、金田より人間くさい鉄雄

金田と並び、もう一人の主人公とも呼べるのが鉄雄です。物語全体を俯瞰する立場にいる金田に対して、鉄雄は期せずして超能力を手に入れます。やがて人類が力を持っていくという本作のテーマを体現する人物であり、同時に被害者的な位置にいるといえるでしょう。
常にメンバーの中心にいる金田を見てきた鉄雄は、自分も金田と同じような力がほしいと、強いコンプレックスを抱えています。彼が金田のバイクに強い関心を示すのは、鉄雄にとって金田が力の象徴であり、そのバイクもまた、力の一部であると思っているからでしょう。
実際、作中では軍の施設を抜け出した鉄雄が金田のバイクを奪って走り去るシーンがあります。しかし、軍の処置によって超能力を手にした後は、特にバイクへ興味を示す様子はありません。自分自身が強大な力を手に入れ、金田を下に見始めたからなのでしょう。追いかけてくる軍や金田に対して、鉄雄は容赦無く自分の力を見せつけます。
作中では「ナンバーズ」と呼ばれる、超能力の才能を持った少年たちが登場します。一方、ナンバーズ以外に能力に目覚めたのは鉄雄のみです。金田すら持っていない力を、自分だけが操れるという優越感は、力を欲していた鉄雄の自我を醜く肥大させていきます。
しかし、鉄雄がどれだけ能力を行使しても、金田を仕留めることはできません。明らかに金田よりも強い力を手に入れたのに、その金田を倒せずにいる。膨れ上がる彼の自我は、アキラの影響を受けて、やがて自身の体そのものを崩壊させてしまいます。
他の誰でもなく、鉄雄が力を手に入れられたのは、力に対する際限なき欲求のせいだったのかもしれません。誰かに対するコンプレックスは誰でも持ち合わせているものですが、鉄雄の人間くささに対して、金田よりも共感を覚える人は多いのではないでしょうか。
鉄雄と金田という二人は水と油のようにして反目し合います。超能力や近未来の世界描写も秀逸ですが、本作の一番の魅力といえば、やはり二人の関係でしょう。「金田ァ!」「鉄雄ォ!」という呼び合いは、単純な台詞のなかに互いの想いが込められており、どうにも真似したくなってしまいます。
そんな鉄雄が消える直前に思い出すのは、幼少期に金田に助けてもらった記憶。心の底では金田の友人であり続けたかったのだという鉄雄の気持ちが、エピローグで金田に強く突き刺さります。
【解説】2020年の東京オリンピックも予見?1988年当時の未来予想図

本作の舞台であるネオ東京の場所は、東京湾の埋立地。乱立する高層ビルとそのすき間を縫うハイウェイや歩行者用デッキが印象的な街です。立体映像による広告がきらびやかに浮かび、まさに近未来の街といったイメージそのままであるといえます。
この記事を書いている2019年は、奇しくも『AKIRA』の時代と同じ年です。しかも、作中では翌年2020年に東京オリンピックが開催されることとなっています。
現実はようやく『AKIRA』に追いついてきたのでしょうか。今この時に『AKIRA』を見ることは、1988年から想像した現在の東京を知れるという点においても、非常に意味があります。フィクションとしていささか誇張されている部分があるとはいえ、現実の東京と比較をしてみるのも面白いでしょう。
とはいえ、ネオ東京の街そのものは、よくある近未来SFに出てきそうな都市の域を出ることはありません。公開当時の1988年からすれば十分に未来チックな都市なのですが、コイン式の電話や、軍用車両の車内におけるマイクといった細かなガジェットは、妙に古くさかったりします。また、商業施設の入り口に出ている「味のれん街」の看板などは、そのレトロさが妙なギャップを生み出します。
もちろん、こうしたレトロさは大友克洋が『AKIRA』に昭和のイメージを重ねているからでしょう。ところどころに大友の世界観を感じながら、ネオ東京の様子を観察してみてください。
【解説】世界が絶賛した金田のバイク

『AKIRA』と聞いて多くの人が最初に思い浮かべるのは、おそらく金田のバイクでしょう。フルカウルの車体に真っ赤なカラーが目を惹くそれは、1988年当時はおろか、いま見ても前衛的なデザインとなっています。なお、ABS搭載、12000回転の200馬力といったスペックは、2019年現在のモーターバイクでも一部実現されています。
原作では単なるガジェットのひとつだった金田のバイク。映画版『AKIRA』では、冒頭から敵対する暴走族を追いかけるために金田が搭乗し、主人公の相棒としての存在感を発揮します。その後、鉄雄に乗り逃げされたりしながらも、暴走する鉄雄のもとへと金田を運び、ラストでは満身創痍になりながらも金田とケイを乗せて、崩壊したネオ東京を走ってゆく様子が描かれます。
金田のバイクは、まさに映画版『AKIRA』の顔ともいえる存在です。そのデザインは公開当時からアニメ関係者のみならず、カスタムバイク関係者からも注目を浴びました。実際、さまざまなところでレプリカの制作が進められたといいます。
特に、2012年に開かれた「大友克洋GENGA展」で展示されたバイクは、劇中からそのまま飛び出してきたかのような造形を持ちながら、実際に走行もできるという代物。また、「成田山」をはじめとするステッカーがいくつも貼られているなど、細かなディテールにもぬかりはありません。
なお、実際に金田のバイクを作ろうとするとフルオーダーになるため、製作期間はもちろんのこと、費用もそれなりにかかるといいます。
【解説・考察】AKIRAは人類の覚醒を示すもの?

本作のタイトルでもある『AKIRA』。その正体はナンバーズの少年たちの友人であったアキラであり、強大な力を持っていた男の子でした。実は、かつて日本で爆発した新型爆弾の正体は、そもそも爆弾などではなく、アキラの力の暴走だったのです。
東京の崩壊後、政府はアキラの力の秘密を解き明かすため彼の体を解体し、研究します。しかし、成果は得られないまま、2020年開催予定の東京オリンピック会場の地下へ、バラバラにした体組織を封印してしまいました。
物語の終盤、ナンバーズがアキラを発見すると、体組織だけの存在であるにもかかわらず、アキラはその力を覚醒させ、金田と鉄雄を飲み込もうとします。醜い化物の姿となり、大切だったガールフレンドすら死なせてしまった鉄雄は、金田に救いを求めました。その金田もまた、どうすることもできず、光に飲み込まれていきます。
金田と鉄雄を助けたのは、ナンバーズたちでした。ナンバーズの少年たちは、金田にひとつのメッセージを告げます。
アキラやナンバーズたちの力は、人間にはまだ早すぎたのだといいます。もちろん、鉄雄もその力を制御することはできませんでした。けれども、いつかは自分たちにも使いこなせる時がくる……。
そのような内容を示唆しながら、ナンバーズのひとりであるキヨコは、ケイの存在を挙げます。ケイは実験や処置を受けた存在ではないにもかかわらず、キヨコの超能力を使ったメッセージを受信するなど、潜在的に高い能力を持っている存在として描かれます。
つまり、アキラやナンバーズ、そして鉄雄は、能力を使いこなすには未成熟な存在である一方、ケイのように、人間のなかにも超能力を使える存在は生まれつつある、ということが示されているのだといえます。
アキラやナンバーズが未成熟である理由は、アキラが街ひとつを消滅させていることや、ナンバーズの老化した様子を見れば一目瞭然でしょう。また、鉄雄は力に溺れて自我を制御できず、結果として身を滅ぼすこととなりました。能力を使いこなすには、人間としてもうひとつ先のステージへ登る必要があるのかもしれません。
なお、その後ケイが覚醒するような様子は原作にも映画にもなく、新人類の到来はもっと先の未来のこととなるのでしょう。
2019年7月に開催された「Anime Expo 2019」では、『AKIRA』の新しいアニメプロジェクトが発表されました。時代が『AKIRA』に追いついたこの年から、『AKIRA』の世界はどのように広がっていくのか。その先を見据えるためにも、ぜひ映画版『AKIRA』を見ておいてください。