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映画『ブラック・クランズマン』ネタバレ感想・解説・考察!現代アメリカの差別と分断を炙り出す映画

ブラック・ムービーの代表的存在でもある名監督スパイク・リーが送る、衝撃の最新作「ブラック・クランズマン」。1979年のアメリカを舞台にしながらも、現代のアメリカ社会をなげくようなストーリーは、多くの人の心に強い印象を残したことでしょう。

黒人の潜入捜査官が白人至上主義団体KKKに加入し、捜査を繰り広げるという一見するとコメディな雰囲気を漂わせながらも、その中には根深くも深刻な社会の分断が描かれています。この映画を見れば、現代のアメリカで何が起きているのか、その一端を垣間見ることができるでしょう。

今回は「ブラック・クランズマン」について個人的な感想やネタバレ解説を行なっていきます。

目次

映画「ブラック・クランズマン」を観て学んだ事・感じた事

・笑えない現代アメリカの差別と分断
・ロン・ストールワースのバランス感覚
・人種差別について何が問題なのかを深くえぐっている

映画「ブラック・クランズマン」の作品情報

公開日2019年3月22日
監督スパイク・リー
脚本スパイク・リー
原作ロン・ストールワース「Black Klansman」
出演者ロン・ストールワース(ジョン・デヴィット・ワシントン)
フリップ・ジマーマン刑事(アダム・ドライバー)
デービット・デューク(クファー・グレイス)

映画「ブラック・クランズマン」のあらすじ・内容

映画「ブラック・クランズマン」のあらすじ・内容

1979年のアメリカ・コロラド州コロラドスプリングス、アフリカ系アメリカ人のロン・ストールワースはこの地で黒人としては初めての警察官として採用されます。

同僚には人種差別的な態度を持つ人間がいながらも、我慢しながら資料室の仕事をこなしていきます。そんな日々を送っていた中で、ストールワースは配置転換を上司に要求し、潜入捜査官としての任務を受けることになります。

 

潜入捜査を行うために情報収拾をしていたところ、白人至上主義団体KKKの支部が構成員を募集している広告を発見し、ストールワースはここにコンタクトを取り、加入の意思を伝えます。

見事に加入に成功したストールワース、しかしながら、自分の見た目でKKKに潜入することはできないので、同じ潜入捜査官のフリップ・ジマーマン刑事に協力を仰ぎ、彼をKKKのストールワースの代役としてKKKに潜入します。

電話口ではストールワースが、対面ではフリップが、同じ人物を演じながらKKKの内部に潜入していく中で、ついにはKKKの最高幹部デービット・デュークへの接触にも成功します。

差別と偏見が根強い当時のアメリカ社会の中で、団結する黒人コミュニティと白人至上主義団体を対比的に描きながらも、黒人のストールワースによるKKKに潜入捜査が続いていきます。

映画「ブラック・クランズマン」のネタバレ感想

映画「ブラック・クランズマン」のネタバレ感想(C)2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED.

1979年のアメリカを舞台にした実話が元になっている「ブラック・クランズマン」。昔の話のように見えて、「これって今の話なんじゃないの?」と思わさせられるほど、現代と共通した問題を抱えていることに気付かされます。

今だからこそ作られた映画であり、今だからこそ観てほしい、おそらくスパイク・リーは溜まりに溜まった現代社会への嘆きをこの作品に昇華させたのだと思いました。

 

しかし、社会性が非常に高い作品でありながらも、全体的にはコミカルな雰囲気が漂ってもいます。社会性が高すぎて胃もたれがするといったこともないので、楽しく観て、考えさせられる映画といえるでしょう。

そういった意味では、2016年にアカデミー賞を受賞した「ゲット・アウト」にも通ずる作風であるといえます。実は「ブラック・クランズマン」の製作陣には「ゲット・アウト」の監督を務めたジョーダン・ピールが加わっていることを考えると、作品全体に漂っている空気と、それとは対比的な社会への批判的なメッセージのギャップに心動かされてしまします。

ここでは、「ブラック・クランズマン」の感想を1つ1つのトピックに分けて書いていきたいと思います。

【解説】主人公ロン・ストールワースのバランス感覚

【解説】主人公ロン・ストールワースのバランス感覚(C)2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED.

「ブラック・クランズマン」の主人公はコロラドスプリングスで、初の黒人警官となったロン・ストールワース。この人物のバランス感覚はこの映画において、重要な意味を持っていると感じます。

おそらくスパイク・リー監督もストールワースと同じ視点を共有しながら、この映画を作ったのではないかと思われるほどです。

 

「ブラック・クランズマン」では、白人至上主義団体と黒人団体の両方が登場します。潜入捜査官として勤務をすることになったストールワースがまず最初に接触を試みたのは、過激な思想を持つと疑われる黒人団体でした。

黒人団体の集会では、団体のカリスマ的存在でもあるクワメ・トゥーレの講演が行われていました。その演説の熱量と圧倒的なメッセージ性にストールワースは同胞として心打たれてしまいます。

白人社会の価値観に迎合するのではなく、黒人自身で自分たちの価値基準に誇りを持つ子を訴える。この序盤のシーンに私も目を奪われてしまいました。字幕を追わなくても、その熱量を感じ取るだけで、何が言いたいのかが伝わってくるほどでした。

 

しかしながら、講演後、クワメとコンタクトをとったストールワースは、黒人の解放に革命は必要なのかという質問を投げかけます。それに対してクワメは「武器を持ち、準備をしろ、その時は必ずくる」と答えます。

これに対して、ストールワースは難色をしめします。もちろんストールワース自身も黒人であるため、黒人団体の主張には感銘を受けていましたが、暴力的な解決法には反対の立場をとっています。

これには、警察として採用される際に行われた面接のシーンでその理由がわかると思います。もともとストールワースは大学を卒業しており、これまでの人生の中で、そこまでひどい人種差別は受けて来なかったことが考えられます。

そして、ストールワース自身も人種差別に対して、反対の立場を取りながらも、温和な姿勢を貫いています。そんな彼の考え方だからこそ、黒人団体に対する熱量のギャップを感じざるをえなかったのでしょう。

 

それに対して、白人至上主義団体KKKと電話口で接触をする際の、ストールワースも飄々としたものです。「標準英語」と「黒人英語」の違いを上手に使い分け、白人になりすましながら、コンタクトをとっていきます。

ときには、白人になりきるために自らを貶めるような発言も躊躇なくできてしまうほどです。そして、白人至上主義団体の集会を盗聴する際にも、いたって冷静を貫いています。

このストールワースのバランス感覚は潜入捜査官としての役回りとしてだけではなく、人種差別という現実的な問題に対しても、重要な指針となるものだと感じました。

黒人団体と白人団体の中間に位置しながら、冷静さを貫き、両者を同じように批判的な眼差しで捉える。おそらく彼のようなバランス感覚を持つ人がいない限りは、社会は分断を強めていくしかありません。

人種差別の問題に関しては、黒人がどうしても被害者として印象強くなってしまうことがあります。しかし、「ブラック・クランズマン」に登場する黒人集団は、少々過激な一面をのぞかせることがあります。確かに、言論に訴えかけるだけでは、当時のアメリカを動かすことは困難だったかもしれません。

そのような解決法では、永久に和解することなど叶わないのです。それは現代のアメリカにも共通することだと思います。人種差別のみならず、社会がさまざまな問題によって分断を抱えている状況の中で、過激な行動の犠牲になる人々もいます。

そんな中、相手に対しての憎しみが増幅するばかりで、分断の色はさらに強まっていきます。この映画で描かれるストールワースのバランス感覚は、私たちも大切にしなければならないと思います。

【考察】社会の分断の結果を深く描いた作品

【考察】社会の分断の結果を深く描いた作品(C)2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED.

「ブラック・クランズマン」のテーマは人種差別と社会の分断です。過激な思想を有する黒人団体と白人至上主義団体。社会が分断し、強く対立した結果何が起きるのか、この映画ではその部分をリアルに描いているといっていいでしょう。

この映画に登場する白人至上主義団体は、比較的温和な思想を持っているという特徴がありました。あくまで非暴力を標榜しており、側から見れば白人同士で集まっているだけの集団にも見えてしまいます。

しかし、団員の中には過激な行動を目論むものもいれば、過去に黒人から被害を受けた者までおり、問題の根深さが浮かび上がってきます。

 

どうしても人種差別の問題は強い感情を引き起こしてしまうものです。特に、被害者意識を持った場合は、その色が強く出てきます。一般的に「黒人は被害者」「白人は加害者」といった雑な認識が共有されていますが、実際のところは、その中にもさまざまな層があるはずです。

過去に白人警官から差別的な言動を受けたことで恨みを抱えている黒人女性や、黒人たちから暴力被害に遭った白人。どちらも人種を抜きにして考えれば、被害者であることは間違いありません。

被害者と加害者という関係性は人種に関係なく、誰もがどちらになる可能性があるものです。もちろん人種差別は根絶すべき問題ではありますが、怒りを原動力に過激な行動をとったために待ち受けるのは、問題の解決ではなく、社会のより根深い分断であると思います。

「ブラック・クランズマン」では、黒人団体の集会と白人団体の集会が交互に描かれるシーンがありますが、そのシーンはまさに分断そのものです。互いを憎み合い、理解し合おうともしていません。

これに関しては、白人至上主義団体だけが批判的に描かれているわけではないと思います。「ブラック・クランズマン」では、このような人種差別に基づく、社会の分断を批判的に描いていると思います。

【考察】現代だからこそ観てほしい「ブラック・クランズマン」の社会性

【考察】現代だからこそ観てほしい「ブラック・クランズマン」の社会性(C)2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED.

1979年を舞台にしている映画にもかかわらず「ブラック・クランズマン」では、現代社会を彷彿とさせるようなシーンが盛りだくさんとなっています。それだけ現代社会の差別や分断が深刻化しているということだと思いますが、40年前と比べて、なにも解決がされていない現状にもやもやしたりもしてきます。

特に、白人至上主義団体の最高幹部のデュークのスピーチの際「アメリカ・ファースト」という言葉がなんども登場してきます。トランプ大統領への当てつけのようなシーンでもありますが、映画の要所要所で時代設定を忘れてしまうほど、現代と共通するかのようなシーンが登場してきます。

現在のアメリカ社会を覆っている差別と分断の問題は深刻化を極めています。各地で過激なデモが行われ、対立する集団同士が激しく衝突する。その結果、犠牲になる人も少なくありません。

そして、そういった衝突が社会にさらなる溝を作っていくのです。「ブラック・クランズマン」を製作したスパイク・リーはそういった差別的な感情が招く、社会の分断を痛烈に批判しているといえます。

【解説】アカデミー賞の結果にスパイク・リーはご立腹?

【解説】アカデミー賞の結果にスパイク・リーはご立腹?(C)2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED.

「ブラック・クランズマン」で印象的なエピソードとしては、映画以外の場面で起きました。

アカデミー賞では、作品賞などにノミネートとなっていた「ブラック・クランズマン」。作品の完成度からも、社会的な意義においても本命視されていた作品でもありました。

結果としては脚色賞を受賞しましたが、作品賞は「グリーンブック」に取られてしまいました。そんな中、「グリーンブック」の名前が読み上げられた瞬間、スパイク・リー監督は会場から出ようとしたというエピソードがあります。

何しろ、作品賞を受賞した「グリーンブック」は「ブラック・クランズマン」と同じ黒人差別がテーマになってもいます。そして、社会の分断を徹底的に描いた「ブラック・クランズマン」に対して、「グリーンブック」はどちらかといえば、和解的なストーリーとなっています。

現実主義的な「ブラック・クランズマン」に対して、理想主義的な「グリーンブック」とでもいえるでしょうか。スパイク・リーにとっては、納得がいかないのも無理がないと言えるでしょう。映画なので、どちらが優れているかという問題でもないのですが、ブラック・ムービーを長年撮り続けてきた彼からしてみれば、オスカーをかっさらわれたと感じたのでしょう。

そんなスパイク・リーですが、過去にも作品賞を逃したこともあります。それを受けて、今回のアカデミー賞では、「誰かが誰かを乗せて運転しているときは毎回、俺が負けるんだ。まあ、今回は運転手と客が交代してたけどね」というコメントを残しています。

【解説】社会性は高いけど、娯楽作品として楽しめる作品

【解説】社会性は高いけど、娯楽作品として楽しめる作品(C)2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED.

ここまで色々と社会性の高い話題ばかりを描いてきましたが、シンプルに映画としても楽しめるほどの強度を持っている作品でもあります。黒人警官のストールワースが白人至上主義団体KKKに潜入捜査をするという突飛な物語もさることながら、相棒で白人警官のフリップが実際にKKKと対面する緊張感。

フリップ自身もユダヤ人であり、KKKからは差別的な眼差しを向けられる存在でありながら、その素性を隠し通す様、そして、捜査が続いていく中で、高まっていくハラハラ感には見逃すことができませんでした。

 

そして、社会の分断を深刻に描きながらも、全体的にはコミカルな雰囲気も漂っています。重たくなりすぎないように描かれ、作品として楽しめるような映画であることは間違いありません。

社会性の高さをアピールされると、もっと頭を空っぽにして観たいと思ってしまう人もいるかもしれません。そんな人でも、シンプルに楽しめるだけの面白さを持っている映画です。

クライマックスでストールワースが電話口からデュークに対して、ネタバラシをするシーンは痛快そのものです。電話口で笑いをこらえながら、話を続ける彼らの姿は誇らしくも、羨ましくも見える関係性でもありました。

「ブラック・クランズマン」に対して、口コミなどをみてハードルが高そうな映画と思ってしまうかもしれませんが、そこまで深く考えなくても楽しめる映画だと思います。

社会に批判を投げかける「ブラック・クランズマン」

社会に批判を投げかける「ブラック・クランズマン」(C)2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED.

今回は「ブラック・クランズマン」の感想を描いていきました。本年度のアカデミー賞は「グリーンブック」と「ブラック・クランズマン」という人種差別を題材にしながらも、対照的な映画が話題になりました。

「ブラック・クランズマン」は、なかなかに棘のある作品で、鋭い批判を社会に投げかけています。過去の実話でもありますが、現代の物語としても見れる、そんな作品だと思います。

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