映画『天空の城ラピュタ』は宮崎駿監督の長編アニメーション映画です。
天空から舞い降りてきた少女シータと、鉱山で働く少年パズーが空に浮かぶラピュタ城を目指すアドベンチャーファンタジーです。
本作には原作がなく、宮崎駿監督の初めての原作映画です。公開から30年以上たった今も、アニメ映画の金字塔として国内外から高い評価を受けています。
今回は「天空の城ラピュタ」の感想と解説を紹介します。ネタバレも含んでいるので、ご注意ください。
目次
映画「天空の城ラピュタ」を観て学んだ事・感じた事
・環境保護を訴えた作品
・自然環境を大切にしようと感じた
・考えさせられる冒険ファンタジーが観たい人におすすめ
映画「天空の城ラピュタ」の作品情報
公開日 | 1986年8月2日 |
監督 | 宮崎駿 |
脚本 | 宮崎駿 |
出演者 | パズー(田中真弓) シータ(横沢啓子) ドーラ(初井言榮) ムスカ(寺田農) モウロ将軍(永井一郎) |
映画「天空の城ラピュタ」のあらすじ・内容
空から落ちてきた不思議な少女シータ。意識のないシータはネックレスの石の青い光に包まれながら、ふわふわとゆっくり地上に降りてきて鉱山で働く少年パズーに助けられます。
天空に浮くことのできるこの飛行石は、かつて栄えた天空の帝国のラピュタ人がつくったものでした。
飛行石を求め、政府の特務機関や盗賊がシータを狙います。特務機関のムスカ大佐は、シータを捕まえラピュタを目指します。パズーはシータを助けようと後を追いますが・・・。
天空の城ラピュタをめぐる不思議な冒険を描いた物語です。
映画「天空の城ラピュタ」の感想
最高傑作『天空の城ラピュタ』は公開した時代にマッチした
『天空の城ラピュタ』はアニメ映画の最高傑作として評価の高い作品です。なぜ、こんなに評価が高いのでしょうか。
それは、公開当時の時代にマッチした作品だからだと思います。公開当時の日本はバブル景気が始まった時代で、景気がよく便利なものが次々に開発され、発展していっていました。
本作は、進みすぎた文明が崩壊してしまう様も描かれています。バブル景気に沸く日本人に対して警笛を鳴らすような作風で、それが当時の大人たちの胸をうったのではないでしょうか。
また、天空の城ラピュタの外観は、ブリューゲルの描く「バベルの塔」にも似ています。当初、ラピュタの名前は、“聖都バベルシュミ”だったともいわれています。バベルの塔とは、旧約聖書に描かれている巨大な塔です。天に届くほどの巨大な塔を作ろうとした人間に、神様が怒り人類は共通言語を失ったとされています。
バベルの塔に似ている外観のラピュタの映画は、自身の力を過大評価し、物質的豊かさを追い求める人類に対して警告するようでした。甘い日常に沸く当時の日本人に衝撃を与え、話題になったのだと思います。
子ども受けもよかった名作
当時、『天空の城ラピュタ』は子どもからも絶大な人気を集めました。パズーは賢く、ハキハキとした少年に描かれていて、盗賊ドーラがとらえられたときは縄を切りに助けに来るなどの機転もききます。シータはかわいくて理知的で、料理もできるしっかりものです。しかもシータは進んだ文明をもっていた国のお姫様です。
少年少女が憧れるような理想像の2人です。人類の危機を子どもたち2人が救おうとする設定に、観客の子どもたちは夢中になりました。
シータとパズーが線路から落ちたときは、シータの持っている石が2人の命を救います。“女性が男性を助ける”というシーンは、1986年に施行された“男女雇用機会均等法”に代表される女性の社会進出という時代背景にマッチしていました。男性並みに活躍するシータに憧れる女の子も多かったような気がします。飛行石のレプリカもおもちゃ屋でよく売られていましたしね。
また、当時は20世紀の終わりにさしかかり、子どもたちの間で「ムー大陸」や「ノストラダムスの大予言」などの“滅びた王国”や“空から落ちてくる不思議な何か”が話題になっていました。『天空の城ラピュタ』は、子どもが夢中になっている滅びる王国・世紀末・女性の社会進出がすべておさえられていました。
サブキャラクターや食事、伏線、曲なども抜かりない
本作は、脇をかためるドーラやムスカなどの他の登場人物のキャラも濃く、観客を飽きさせることがありません。「40秒で支度しな!」や「人がゴミのようだ」という名台詞は今も語り継がれ、数々のパロディを生み出しています。
パズーが作る卵焼きを乗せたパンも美味しそうで、今もネット上ではパズーのパンの作り方のレシピが出てきますし、主題歌「君をのせて」も名曲です。
また、作中には伏線がいくつもあります。たとえば、パズーが鉱山で働いているのも、シータが持っている不思議な飛行石への伏線だと思います。個性的なサブキャラクターや伏線など作品のあちこちに注目すべきポイントがあるのも、飽きることのない作品になっている理由です。
そして、本作では心に浮かんでいてもはっきり言えない本音を、盗賊ドーラがあっけらかんと発言してくれています。
盗賊なので口が悪くてもよくて、優等生的な発言をしなくてもいいので、世の中の大切なことを思いっきりのびのびと言ってくれています。
盗賊ドーラは打算的理由でシータを助けようとするのですが、自分に素直でとっても爽快感を感じさせるキャラクターです。
また、ムスカは世界征服を狙う悪人ではありますが、女性ウケのよさそうな面も兼ね備えています。たとえば、シータの身の回りの品をひと通り用意して「流行りの服は嫌いかな」などと発言し、逃げ出したシータを捕まえるときは「少女を傷つけるな」と指示を出したりしています。
そういった女性を大切に扱うような振る舞いは女性受けも良さそうです。仕事もでき、実は王族の末裔という人物です。
でも、シータを大切に扱っていたのはシータの能力を活用するためだけで、最終的にはシータの髪の毛を銃で撃つは、顔にも傷をつけるはで悪人さを披露してくれます。
海外からの感想も高評価
本作の海外からの評価は高いです。私は海外在住の友人が現地で買った『天空の城ラピュタ』のDVDをもらいましたが、友人の国でも人気の作品のようです。
帝国の発展や崩壊など複雑な要素は絡み合っていますが、シンプルなストーリー展開が軸となっていて勧善懲悪な作品なので、海外の人にも受けるのかもしれません。UK版Amazonで本作のレビューをみると星が4.5個ついていて評価が高い作品です。。
「バルス」の意味
パズーとシータが滅びの呪文として最後に唱える「バルス」。流行語になり、真似をした人も多いのではないでしょうか。今も本作がテレビで放送されるとき、「バルス」のタイミングに合わせてTwitterのタイムラインが賑わいます。
「バルス」の意味について考える人も多いかもしれません。私は、ラピュタの外観とバベルの塔が似ているので、「バベル」から派生したのかなと思っていましたが、トルコ語で「平和」を意味する「バルシュ」からきているという説もあります。
また、諸星大二郎作『マッドメン』のビジン語で飛行機を意味する「バルス」からきているという説もあります。
諸説ありますが、架空の国の言語が世界を救うという設定はインパクトがあります。ここで、「滅びよ!」や「終わらせよ!」といった私たちに理解できる言葉を使われるより、想像力が働きます。
意味が分からない言葉を使われるから人によって解釈が違い、ここまで語り継がれたりする名作になったのだと思います。
架空の設定がとてもリアル
ラピュタに住んでいた“ラピュタ人”や“飛行石”など、架空のキャラクターやアイテムがリアルに描かれていて、本当に存在しているかのようです。
私が子どもの頃に本作を始めてみたとき、飛行石は本当に存在しているのかと思いました。ラピュタも竜の巣も実在しているかのようなリアルさですよね。なぜここまでリアルに描けるのかと不思議に思うほどです。
漫画を描くとき、主人公以外のチョイ役でもフルネームで名前をつけて性格や趣味嗜好、特技など細かく設定した方がリアリティが出ると聞いたことがあります。本作の原案を考えるときも、かなり細かく緻密に設定を練ったのだと思います。
ちなみに、ムスカ大佐がシータに向けた銃は、“エンフィールド・リボルバー”という実在している銃です。ラピュタにいたネズミのような生き物は“ミノノハシ”という名前がつけられていて、『ゲド戦記』にも登場します。
こういった他のジブリ作品に登場する小ネタを探すのも醍醐味の一つです。
社会問題を訴えた作品
「ジブリのアニメは大人向けでもある」といわれている理由は、社会問題もテーマにしているからだと思います。『風の谷のナウシカ』は核兵器根絶を訴えているとされ、『千と千尋の神隠し』は環境保護について描かれているとされています。そして、本作『天空の城ラピュタ』は、進みすぎた文明への警笛と環境保護を訴えていると思います。
クライマックスでシータは「(人は)土から離れて生きられないのよ」と言います。文明の発展を願うあまりに自然を壊して工場を建てたり、海を埋め立てたりする人間に対して警笛を鳴らしているのではないでしょうか。
『天空の城ラピュタ』のその後
『天空の城ラピュタ』の後日談は、小説『天空の城ラピュタ』全編・後編で描かれています。
この本で紹介されていた後日談によると、シータは故郷で平和な暮らしをしていて、パズーから会いに行くという手紙が来るという内容です。パズーとシータは交流を続けていて、いずれ2人は結婚するという想像も膨らみますよね。
土と緑を求めるラピュタ人の悲しさ
天空の城ラピュタの悲しいところは地上にないものを求めて天空に作った城なのに、地上にあるものを大切にしていることです。
ラピュタには天空にないはずの土があり、緑があり、水があります。「地上で生活したらいいのではないか」と思わせます。ないものねだりで違う場所に住処を作ったのに、やっぱり求めているものは前いた場所と同じもの、というところに人間の悲しさを感じます。
また一方で天空の城ラピュタは、地上での戦争を嫌った王族が天空に逃げて造った城という説もあります。個人的には、オープニングの映像から考えて、ラピュタ人は地上の環境が悪くなったことと、地上を制圧するために天空を目指したのだと思います。
怖い雰囲気のロボットはモデルがいる
怖い風貌のロボットも人気の秘訣です。手が長くてバランスが悪そうですが、実際にあのような造形物を作ったら、あのバランスで動くことができるのでしょうか。
もともとは、『ルパン三世』のテレビシリーズで登場したロボット“ラダム”がモデルになっています。宮崎駿監督はこのロボットに愛着があり、テレビであまり活躍させてあげられなかったから映画にも登場させたようです。時代背景の違う登場キャラクターを使いまわしていいのかなという気もしますが、それくらい監督に愛されたロボットなのでしょう。
顔面から光線を出すところは、『風の谷のナウシカ』に登場する巨神兵を彷彿させます。ダンゴムシのように丸まってラピュタから排出されるところも恐怖です。
腕に羽のような突起物のあるタイプのほかに、お墓にお花を添えたり、小鳥の卵を守ったりとやさしい面をのぞかせるタイプのロボットもいます。戦士としてのロボットと、お手伝いさん的な役割を持つロボットと分かれていたのかもしれませんね。
全盛期のラピュタの内部構造
ラピュタの内部構造も気になりますよね。パズーたちが降り立ったラピュタは、王国の一部でしかありませんでした
オープニング映像には、全盛期の王国の全貌と思しきものが映っています。それによると、ラピュタ城は円錐型の大きな建物で、底にはプロペラのようなものがついています。建物の下部にはプロペラが等間隔で設置されていて、風を起こして浮いているようです。日本のお城のように、水の入っているお堀の真ん中に城のある敷地がいくつも浮いています。
これらを支える内部構造として予想されるのは、水を貯める施設があったこと、プロペラを動かしたり飛行石を守ったりする設備があったことです。クライマックスで登場する石碑の配置をかえることで、ロボット兵を動かす軍事施設もあったようです。パズーたちがラピュタに最初に降り立ったところは、物見やぐらの塔のような設備のところでした。
石碑に刻まれたラピュタ語の意味は?
ラピュタには石碑がところどころにあります。たとえば、ラピュタにたどり着いたパズーたちが見つけるお墓の石碑。ラピュタ語で文字が刻まれています。ロボット兵を動かすのもラピュタ語が書かれた石碑です。
映画のなかに登場するラピュタ語は、おばあさんがシータに教える「リーテ・ラトバリタ・ウルス・アリアロス・バル・ネトリール」というものがあります。「我を助けよ、光よよみがえれ」という意味です。
宮崎駿監督はこの言葉を「口から出まかせで考えた」と言っていたとされています。それが本当なら、石碑に書かれている文字もあまり意味がなかったりするのでしょうか。“三鷹の森ジブリ美術館”にも飛行石の石碑が飾ってあります。
ラピュタ全盛期も描かれているオープニングを考察
オープニングにはラピュタの誕生と発展、転換期、終末が紹介されています。風の力を神様の力ととらえていたのか、女神様のような人が口から風を吹くシーンが描かれていて、煙をもくもくと出す溶鉱炉のようなものも映っています。
私は、それは地上のシーンなのかなとも思いました。溶鉱炉からの煙で地上の環境が悪くなり、人々は空で暮らすことを求めている様が描かれているのかと思いました。
1986年は、まだ日本で公害の記憶が新しかった時代です。「科学技術を発展させようとして環境を汚した。フロンティアを求めても、ラピュタのように崩壊してしまうんだよ」ということの暗示のような気もしました。
オープニングでは、溶鉱炉のシーンのあと、航空技術が発展して天空で帝国を築いていく様が描かれています。落雷のあと、ラピュタ人かロボットか不明ですが、大量の何かが列をなして地上へと降りていく姿が映し出されています。
インド叙事詩「ラーマーヤナ」に酷似している
インドの最古の大長編叙事詩に“ラーマーヤナ”があります。叙事詩とは、物事を記述している文章で、民族の歴史や英雄、神話などが描かれています。
叙事詩に紹介されている物語とラピュタのストーリーが酷似しています。叙事詩のなかに、“シーター”というお姫様もでてきます。『天空の城ラピュタ』のなかでは、ムスカが「ラーマーヤナではインドラの矢とも伝えているがね」と言うセリフもあります。
劇中に“ラーマーヤナ”のタイトル名が出てきているので、本作はその叙事詩に影響を受けていることを公に明かしているのでしょうか。『天空の城ラピュタ』は“ラーマーヤナ”にくわえ、ガリバー旅行記の影響も受けているといわれています。
宮崎駿監督の映画『天空の城ラピュタ』のまとめ
今回は『天空の城ラピュタ』の感想と解説を紹介しました。本作は、公開後30年以上たった今も根強い人気をほこる名作です。環境を破壊して工場をつくり文明と科学の発展を願う人類に対して警笛を鳴らすような内容で、環境保護について考えさせられます。
シータとパズー以外にも、ムスカやドーラなどのサブキャラクターの個性も強烈で、名言ともいえる数々の名台詞うみ出しました。少年少女が活躍する物語や考えさせられる冒険物語が観たい人はぜひお楽しみください。