映画『劇場版シティーハンター 新宿PRIVATE EYES』は、かつて『週刊少年ジャンプ』に連載され、同時期に放送されたTVアニメシリーズとともに大ヒット作品となった『シティーハンター』を、約20年ぶりに再アニメ化した作品です。
本作の特徴はなんといっても「シティーハンターらしさ」が20年という時を経ながらも、ほぼ完全に再現されているという点でしょう。
今回はそんな『劇場版シティーハンター 新宿PRIVATE EYES』の個人的な感想や考察を書いていきます!
作品の考察も書いているので、ネタバレには注意してください。
目次
映画「劇場版シティーハンター 新宿PRIVATE EYES」を観て学んだこと・感じたこと
・20年の時を経ても変わらない『シティーハンター』の魅力を再認識
・製作スタッフの原作に対するリスペクトに感動しました!
・「変わらない」ということの良さも悪さも学べた
映画「劇場版シティーハンター 新宿PRIVATE EYES」の基本情報
公開日 | 2019年2月8日 |
監督 | こだま兼嗣 |
脚本 | 加藤陽一 |
出演者 | 冴羽リョウ(CV 神谷明) 槇村香(CV 伊倉一江) 進藤亜衣(CV 飯豊まりえ) 御国真司(CV 山寺宏一) 野水冴子(CV 一龍斎春水) 海坊主(CV 玄田哲章) |
映画「劇場版シティーハンター 新宿PRIVATE EYES」のあらすじ・内容
シティーハンターの異名で知られる凄腕のガンマン冴羽リョウは、相棒の槇村香とともに様々な仕事をこなしていました。
そんな折、リョウのもとにある依頼が届きます。依頼の内容はボディーガードで、依頼主は美女モデルの進藤亜衣という人物でした。美女に目がないリョウはこの依頼を快諾し、彼女をあの手この手で困らせるなど、相変わらずのスケベっぷりを発揮します。
一方の香は、IT企業の社長御国真司と出会います。真司は亜衣がキャンペーンガールを務める企業の社長として香に再会すると、彼女に積極的なアプローチをかけ、さらに真司は香の幼馴染であったことが発覚し、香の心は揺れます。
こうして、さまざまな思惑が錯綜しながらもボディーガードを務めていると、やがて亜衣を狙う人物たちの素性が明らかになってきます。その正体は新宿に集う謎の傭兵たちでした。
なぜ亜衣は傭兵に命を狙われているのか。その背後には大きな陰謀が隠されていました。
亜衣と真司の登場によってすれ違いをみせるリョウと香は、果たして亜衣と街を守り切ることができるのでしょうか…。
映画「劇場版シティーハンター 新宿PRIVATE EYES」のネタバレ感想
TVアニメのオリジナルスタッフが勢ぞろい!
この映画では、なんとTVアニメ版の主要オリジナルスタッフや主要オリジナルキャストがほぼ勢ぞろいしています。これが最近のアニメの映画化ならば驚くことでもないですが、シティーハンターのアニメが最後に製作されたのは、なんと実に20年も前の話です。
にもかかわらずオリジナルメンバーが終結したということは、『シティーハンター』という作品がファンだけでなく、作り手をも魅了する作品であることの証明でしょう。
また、「旧作の再アニメ化」という俯瞰的な視点で考えると、スタッフを入れ替えればその点に関して過剰な批判に晒されるというリスクもあるので、それを避けるためという側面もあります。少々うがった見方ではありますが。
もちろん、ファンの立場としてはこれがうれしいのは間違いありませんが、一方で気になるのは「20年前から大きなイメージの変化がないか」ということではないでしょうか。20年という期間は、幼児が成人するのとほぼ同じ期間です。当然、人間は年を取るものなので、主要スタッフも20年の歳月を経ていることになります。すると、製作にあたってのスタンスや価値観から、声優の声質の変化まで、さまざまなものが変わっていても不思議ではありません。つまり、たとえオリジナルスタッフをそろえたとしても、彼らそのものが大きく変化していては、作品は別物になってしまうのです。
その結論としては「全く変わっていない」ということはありませんでした。やはり、20年という歳月は大きいということを実感させられます。しかし、一方でその変化は決して作品の出来を損なうものでもありませんでした。
確かに、さまざまな要素が当時の姿のままではありません。それでも、当時の姿を再現するために十分な努力が払われており、経過した歳月を踏まえればマニアでも満足のいく仕上がりになっています。
アニメ『シティーハンター』の楽曲もそのまま使われる粋な演出!
『シティーハンター』という作品の魅力の一つに、TVアニメ版で使用されていた楽曲が挙げられます。代表的なものとしては、アニメEDで流されたT.M.Networkの「Get Wild」などでしょう。この曲は、アニメのED曲でありながら国民的な人気を博し、今でも街中で耳にすることが多いほどの名曲です。
さらに、アニメでのEDへの導入演出は非常に評価が高く「止めて、引く」という独特な手法は後のさまざまな作品に大きな影響を与えました。
この映画では、こうした「Get Wild」をはじめとするアニメを盛り上げた楽曲が数多く流されています。通常、再アニメ化の際に旧作の楽曲を流すというのはきわめてまれな例です。これはマーケティング的な側面の事情が大きく反映しています。
例えば、『シティーハンター』のような超有名アニメの場合、その注目度は作品の出来に関わらず高いものがあります。それゆえに、売り出し中のアーティストを楽曲提供者として起用することで、アーティスト・映画配給会社ともにスポンサー料などの点でさまざまなメリットがあります。
しかし、そうしたメリットがありながらも、あえて旧作の楽曲を数多く起用したという点に、スタッフの「シティーハンター愛」を強く感じさせられます。こうした背景を理解することで、とにかく旧作とそのファンを大事にしている事実がわかります。
シナリオも「いつもの」王道な展開で進行していきます
『シティーハンター』という作品には、いわゆる「王道な展開」というものが存在します。わかりやすく例えるならば、ドラえもんによくみられる「困ったことに遭遇したのび太が、ドラえもんに泣きついて道具を貸してもらい、そこからトラブルが発生する」というようなものです。
『シティーハンター』の場合、たいてい「美女からの依頼を受けたリョウの美女好きが高じてセクハラまがいの騒ぎを起こしつつも、最終的にはかっこよく事態を解決する」というものでしょう。
この映画も、そうした「王道な展開」が採用されています。そのため、「予想を大きく裏切られる展開で衝撃を受ける」ということは、よくも悪くもありませんでした。これは賛否両論あるかもしれませんが、先ほどから何度も述べているように旧作を大切にするという作風が取られている以上、路線としては妥当なところではないでしょうか。
もちろん、『シティーハンター』のシナリオはもともと出来がいいので、それを基本路線として再現している今作も手堅いながらしっかりとしたシナリオ展開でした。
戦闘シーンの演出や作画、世界観などにも進化が感じられる!
ここまでは旧作を踏襲しているという意味で映画の長所を書き連ねてきました。しかし、変わっている点ももちろんあります。例えば、アニメーションの技術などがその代表例です。
そもそも、シティーハンターが放送されている当時はアナログ放送で、テレビもブラウン管というのが当たり前な時代でした。それゆえに、今の液晶や劇場でそれらを再生すると、当時は気が付かなかった演出や画質の粗を否が応でも実感させられます。また、作画の技術という点でも、デジタル技術が進歩したことによってキャラクターの描き方やモーションなども、当時に比べて格段に進化しています。そのため、仮に当時の姿をそのままに今作を製作していた場合、ハッキリ言ってかなり問題のある映画に仕上がってしまっていたことでしょう。
しかし、その点についてはしっかりと調整がなされていて、演出や作画や今風につくりかえられている点も数多く確認できます。これは当時の良さを全く失ってしまったわけではなく、しっかりと良さは引き継ぎつつ時代に合わせた調整がなされているという意味です。
ただ、ここに関してはそうした調整よりも旧作をそのまま再現することを意識している節があり、特に演出面では明らかに古さを感じる箇所もあります。こうした問題点は、後の項で詳しく解説していきます。
また、世界観についてもいくぶん見直しがなされています。『シティーハンター』連載当時の1980年代後半には、スマートフォンやドローンといった現代的な技術はほとんど存在しませんでしたが、今作は時代設定としては現代に舞台が変更されていて、そうした最新技術もしっかりと登場します。
中でも、ドローンは敵として作中で重要な役割を果たすので、現代的な要素をしっかりと作品に落とし込んでいるという点は評価できます。
【解説】北条司ファンを楽しませる粋な演出も満載!
『シティーハンター』原作者の北条司は、『シティーハンター』以外にもさまざまなヒット作を生み出している漫画家です。そんな彼の別作品である『キャッツ・アイ』に登場する同名の主人公たちも、世界的な大富豪にして怪盗という立ち位置で登場します。彼のファンにはたまらない演出といえるでしょう。
ただし、事前に予告などで登場を示唆していたわりには、やや端役であった印象は否めません。彼女たち最大の特徴である怪盗という立場も、あくまで設定の上でしかなかったのが残念でした。個人的には、何か盗むようなシーンがあってもよかったように思えます。
もっとも、キャッツアイが主役の映画ではないことも事実なので、そこで扱いに困ってしまったのかなとも感じました。
また、同じく彼の作品である『エンジェル・ハート』のフォローも行なわれています。この作品は、『シティーハンター』のパラレルワールドを描いた作品ですが、『シティーハンター』から引き継がれた設定やキャラクターも多いのが特徴です。
時間軸としては『シティーハンター』の10年後を描いた作品なのですが、その作中でリョウの相棒である香は交通事故で脳死状態になっているということが明かされます。『シティーハンター』では相棒兼ヒロインのような立場であった香の末路は、ファンに衝撃を与えました。おそらく、当時SNSがあったら大荒れしていたのではないかと思います。
しかし、今作の香は旧作同様にリョウのセクハラを咎めつつ、相棒兼ヒロインとしてスクリーンを駆け回っています。『シティーハンター』と変わらぬ姿をみせてくれることで、ファンも一安心したことでしょう。
【解説】世界観と演出の時代的なズレが気になった
先ほどから何度も説明しているように、世界観は現代を舞台にしています。しかし、演出などの基本的な部分は、1980年代の感性を基調としています。この部分でのミスマッチは、正直かなり気になりました。
端的に言ってしまえば、旧作をそのまま再現しようという気持ちが大きすぎるあまり、明らかに古臭さが否めないシーンがいくつかあるということです。
例えば、『シティーハンター』が描く美女とそれにまつわるギャグシーンに関して、古臭さが目立った印象です。『シティーハンター』ファンお馴染みのセクハラも、昨今の社会情勢を踏まえるとやや問題があるようにも感じられた上に、それを考慮しなくても「笑いのセンス」という部分が、80年代の感性で止まっているのはいただけないという印象を受けました。
さらに、「美女」のファッションや立ち振る舞いにもそれは及びます。例えば、亜衣がモデルのポーズを決めるシーン。彼女のポージングは80年代のモデル像そのままであり、現代のモデルがとるには、かなり古臭いポーズであることは否めません。また、ゲストキャラのキャッツアイの服装も、美女怪盗という設定がありながら全身タイツ姿で、現代的な感性とはかなりズレがあるようにも感じられました。
もちろん、そうした要素は『シティーハンター』を再現するという目標がある以上、避けては通れないのかもしれません。しかしながら、時代設定を現代にもってきているという世界観があるため、スマートフォンやドローンが普及している世界観にも関わらず、感性は80年代という不自然さが若干目立ちました。
【考察】20年前の作品を再アニメ化することの難しさ
ここまで書いてきたことを踏まえれば、この映画は明らかにオールドファンに向けて製作されているということがわかるでしょう。これにはアニメ界に漂うムードも大きく影響していると感じます。
昨今は、こうした旧作を再アニメ化するというのが一種の流行になりつつあります。その作業をする際に、まず一番初めに強いられる選択が「旧作の良さを全面に押し出す」か「現代的な価値観に合わせていく」というものになっています。どちらも一長一短なのは事実ですが、現代では特に前者の選択がなされることが多い印象です。その理由は二点考えられます。
まず、原作を過剰に改変することにアレルギーをもつアニメファンが増えているという現実があります。その背景には、2000年代前半までの製作スタイルという原因があります。近年になるまで、アニメ作品はある程度アニメ製作陣の「作りたいもの」を作っていた印象が強く、そのためにリメイクなどでは積極的な改変が行なわれていました。
しかし、近年はそうした改変に対する風当たりが強く、特に原作や旧作ファンがSNS上で情報を発信しやすくなっていることが影響しているように思われます。そうしたファンはもっている熱量や原作愛が違うので、意見が目につきやすいという事情もあります。
もう一点は、娯楽の細分化による影響があります。これはアニメも例外ではなく、国民的人気を得るのが非常に難しい時代になっています。そのため、一部のターゲットを明確に絞り、その層にウケる作品を作ることで採算をとるという方向性にシフトしているように感じます。その影響が今作にも感じられました。
実際、今作はハッキリ言って「一見さんお断り」といっても差し支えない内容になっているように感じます。しかし、かねてからのファンにとってはそれがかえって自分たちの理想的な映画に近づいていることを証明するものでもあります。
こうした事情が、この映画の長所でもあり同時に短所にも結び付いているとみるべきでしょう。また、作品のラストで続編を示唆するような演出が盛り込まれていることにも注目したいところです。
次回作が出るとすれば、その作品は今作と同様の路線を選択するのか、はたまた違った路線を選択するのか気になるところですね!