映画『風の谷のナウシカ』は宮崎駿原作・監督のSFファンタジーです。徳間書店“アニメージュ”で連載されていた同名漫画を映画化しました。
子どもから大人まで楽しめる作品で、公開から35年たった今も人々を魅了しています。
文明が衰退し荒廃した世の中を舞台にナウシカという少女が活躍する物語で、環境保護・反戦・核兵器根絶というメッセージも込められています。
今回は観るたびに新しい発見のある映画「風の谷のナウシカ」の感想と解説を紹介します。ネタバレも少しあるので、まだご覧になっていない方はお気を付けください。
目次
映画「風の谷のナウシカ」を観て学んだ事・感じた事
・子どもから大人まで楽しめる作品
・自然との共生について考えさせられる
・女性の活躍する冒険物語が好きな人におすすめ
『風の谷のナウシカ』の作品情報
公開日 | 1984年3月11日 |
監督 | 宮崎駿 |
脚本 | 宮崎駿 |
出演者 | ナウシカ(島本須美) アスベル(松田洋治) クシャナ(榊原良子) ユパ(納谷悟朗) 大ババ(京田尚子) |
映画「風の谷のナウシカ」のあらすじ・内容
1,000年続いた巨大産業文明が衰退し、「火の7日間」という戦争によって有毒物質が放出された世界を舞台にしたSFファンタジーです。
環境は汚され、人々は住処を失い、地上に点在している限られた場所に小国をつくって暮らしていました。
海風が入り込むことで汚染からまぬがれている谷の小国の姫ナウシカを主人公に、腐海を焼き払おうとする大国トルメキア、トルメキアに奪われた巨神兵を奪還しようともくろむペジテ市などが登場します。反戦と自然との共生についてのメッセージも込められた作品です。
映画「風の谷のナウシカ」のネタバレ感想
『風の谷のナウシカ』のメッセージ
『風の谷のナウシカ』は環境保護・反戦・核兵器根絶というメッセージが込められた作品です。物語は、腐海という汚染された森の広がる世界を舞台に描かれています。
ナウシカが生きている世界では、環境が汚染され風の谷など一部地域以外ではマスクなしで生きられません。ナウシカは防護マスクをつけて森に入り、汚された環境のなかから生活に使える物資を探します。これは核兵器により汚染された状態を彷彿させます。
人類は文明発展を願ってきましたが、結果として自然を破壊し、生活範囲を狭めてしまうという皮肉が描かれているようでした。
また、大国トルメキアやペジテ市などとの関係を描くことで、反戦と戦争の悲しさを訴えていると思いました。トルメキアは、風の谷の人間が巨神兵輸送中の船を狙撃したと誤解して風の谷に攻め込みます。トルメキアに襲われた風の谷の人々は、風の谷の安全を保障してもらうために、トルメキアに協力せざるを得なくなります。
映画のなかでトルメキアは好戦的な国として描かれていますが、好きで戦っているわけではないと感じます。「自分たちの生活をおびやかす腐海を浄化させたい」と考えているのです。私利私欲のために起こってしまう戦争もあるかもしれませんが、人の命と生活を守りたいために、争いへと進んでいってしまう戦争の恐ろしさと悲しさを感じました。
風の谷のナウシカの原作と映画は少し内容が違う?
本作は、宮崎駿監督が“アニメージュ”というアニメ雑誌で連載していた漫画をアニメ映画として制作したもので、原作と映画本編の内容は少し異なります。
原作は、トルメキアの皇女クシャナがもっとナウシカと親しくなっています。クシャナは権力を求める皇女でなく、世界平和を望んでいる人物と感じさせます。ナウシカと巨神兵の関係も少し違っていて、巨神兵はナウシカのことを「ママ」と呼んでいます。
でも、冒頭でナウシカがキツネリスと仲良くなるシーンなど、ところどころは同じです。このシーンは、映画のほうがダイナミックに描かれていてBGMもよく感動します。「ナウシカは人以外の生き物と通じ合える」ということを、映画のこのシーンのほうがより感じさせられました。
英題は『Warriors of the Wind(風の戦士たち)』
本作は、アメリカでも公開されていて『Warriors of the Wind(風の戦士たち)』という英語の題名がつけられています。
腐海の浄化作用はカットされ、上映時間も20分ほど短縮され、ナウシカの名前も変更されるなど大幅な改変がされています。宮崎駿監督は朝日新聞の連載を通じてこの事実を知り大変お怒りになったそうです。上映時間が20分もカットされたら、かなり内容が変わってしまいますよね。本作は、物語の大切な部分が比喩的表現でそっと組み込まれているので、そこもカットされてしまっていないか心配です。
改変なしのナウシカ英語版は2005年にDVDで発売されていて、海外のファンは改変されていない『風の谷のナウシカ』を視聴する機会があります。私も英語字幕の『風の谷のナウシカ』を持っていますが、改変されていませんでした。
『風の谷のナウシカ』の本編がつまらないと感じる人も?
『風の谷のナウシカ』をつまらなく感じる人もいるようです。映画が荒く作られているところや、似たような作品をほかに見かけること、原作と違うことなどが理由にあります。
本作は、1984年に制作された作品です。今のアニメーションと比べるとイラストがそこまで作り込まれていないように感じるかもしれません。本作は多数の漫画や漫画家の卵に影響を与えたので、『風の谷のナウシカ』に似たような作品がたくさん世に出回っています。それによって「すでに観たような展開」と感じるかもしれませんが、世に多くみられる作品の原点といえるのが『風の谷のナウシカ』です。
どんな作品でも「原作と内容が違うからつまらない」という意見はよくあります。原作通りに制作すると、グロテスクになりすぎて、老若男女に愛される作品には仕上がらなかったと思うんですよね。
『風の谷のナウシカ』で語られる反戦や環境保護などの世界観は、子どものときに触れておいたほうがいいものです。子どもが観ることのできる作風に編成することで、成長中の子どもたちでも観ることのできる作品になったと感じました。
また、子どもが観られる作品にしたことで、漫画家やクリエーターになりたい子供達にクリエイティブな刺激を与えることもできたと思います。
海外からの評価は良好、日本でのテレビ放送視聴率も高い
『風の谷のナウシカ』は海外からも高評価を受けている作品です。アメリカやアジア、フランスなど世界各地で好評です。
フランスでは、2006年に劇場公開もされました。各メディアからも「普遍的価値の高いアニメ」として賞賛され、映画が公開されるときは、街中に『風の谷のナウシカ』の宣伝ポスターやポップが飾られていたそうです。
そして、『風の谷のナウシカ』は劇場で公開されたのち、“金曜ロードSHOW!”で18回放送されています。前回は2019年1月4日に放送されて、視聴率10.4%でした。
テレビの視聴率が低迷しているなか、2桁の視聴率をたたき出したのは健闘したと思います。「ナウシカで10.4%なら低い」という声もありますが、DVDが安くなり、動画配信サービスなどが普及し、20回近く放送している映画でこの数字が取れるのは十分すごいですよね。
個性的な登場人物やキャラクターから目が離せない
本作には、ナウシカ以外にも個性的で魅力的な登場人物がたくさん登場します。人気の登場人物は、風の谷を支配しようとするトルメキア軍のクロトアです。
クシャナ殿下の指示に従う有能な部下のようですが、失脚したと思われたクシャナが復活すると「短ぇ夢だったな」などとのたまう薄情ぶりです。少し斜に構えているのも魅力ですね。映画『レオン』のゲイリーオールドマン演じるノーマン・スタンスフィールドと少しイメージが被りました。
他にも人ではありませんが、巨神兵という戦闘民族のような巨人の兵も話題になりました。眠っているところを無理やり起こして戦わせるので、顔からエネルギーを吐き出している最中に身体が崩れ落ちてしまう恐ろしさです。クロトアの発する「く、腐ってやがる!早すぎたんだ」という言葉も有名ですね。
王蟲(オーム)というダンゴムシ形の生き物も話題になりました。怒りで身体の表面についた目が赤く変色するのは、当時画期的な設定でした。漫画『HUNTER×HUNTER』に登場するクラピカも怒ると目が赤くなりますが、『HUNTER×HUNTER』11巻で作者の冨樫義博は「クラピカのモデルは王蟲」と公式にコメントを出しています。
声優陣が作品を魅力的に彩る
『風の谷のナウシカ』の登場人物の声優も実力派がそろっています。ナウシカは、島本須美で、宮崎駿監督初の長編アニメーション『ルパン三世 カリオストロの城』のヒロイン役です。
ラストに銭形警部が「ヤツはとんでもないものを盗んでいきました。あなたの心です」という有名なセリフがありますが、その話題作のヒロインを演じていたのですね。人を引き付ける魅力のある声の持ち主なのかもしれません。
クロトアは、歌手フランク・シナトラ出演映画の吹き替えを担当した家弓家正です。悪役を演じる声優として活躍しました。
王蟲の鳴き声はギタリストの布袋寅泰がギターを奏でたそうです。劇中の物音を作る専門の仕事があるようですが、王蟲は布袋寅泰が担当していたとは驚きです。
【考察】ナウシカがラステルを助けようとしたときの謎
映画の冒頭部分で、ペジテ市のラステルという姫の乗った飛行船が墜落して、ナウシカがラステルを助けようとします。苦しそうにしているラステルの胸元をゆるめてあげようとボタンを外しますが、驚いた表情をしてボタンを元に戻します。ラステルはどういった状態だったのでしょうか。
腐海の瘴気を吸ったため肺がやられたという意見や、墜落による衝撃で身体が痛ましい状態になっていたという意見などがあります。私も後者の理由で、ボタンを締めなおしたのだと思います。
原作の漫画にはラステルを助けるシーンはありますが、ボタンを外すシーンはありません。
反戦について考えさせられる皇女クシャナ
この物語はクシャナを通して、お互いの正義がぶつかることで起きる戦争の悲しさが描かれていると感じました。
クシャナはナウシカと並んで活躍するトルメキア王国の皇女です。公開当時は『天空の城ラピュタ』と同様、女性が活躍する物語は注目をあびていたこともあり、クシャナもかなり人気を集めました。
映画のクシャナは冷酷そうで目的のためには手段を選びません。非道な人間のようですが、自国トルメキアの民の命を守るために戦っています。クシャナは富のために世界を征服したいのでなく、自国民を守るために戦っているのです。
クシャナがいるトルメキアも風の谷もお互いが大切な家族を持っていて、家族を守るという理にかなった正義を持っています。トルメキアは「自国民のために人体に有害な腐海を焼き払いたい」と考え、風の谷は「蟲の怒りから谷を守るために腐海には手を出さないほうがいい」と考えています。それぞれ理にかなった正義をもっていて、心優しい人です。でも、正義を通すための手段が違うために衝突が起き、戦争につながるという悲しさを感じました。
王蟲の迫力によってナウシカのカリスマ性がアップ
王蟲は本作の魅力の一つです。王蟲や巨大なトンボなどの登場により、虫が好きなちびっこ世代の心もとらえました。
王蟲の特徴として、脱皮をすること、怒るとルビーのように赤くなる目は14個ついていること、節を動かして前進すること、前足のような部分で怪我を治せることなどです。
怒ったら目が赤くなって我を忘れるという設定はインパクト大です。軽い怒り程度でしたら、ナウシカが光る弾を放つと正気になっておとなしくなります。ナウシカのすごさをアピールさせるためにも、王蟲はほぼ無敵で力の強い存在と描かれている気がします。そんな王蟲を時として操り、助けてもらえるナウシカに観客はカリスマ性を感じました。
ナウシカの服の色がかわる謎のシーンの解釈
ナウシカの謎といえば、服がかわることです。最初に着ている服は青色で、ペジテでとらえられたときに赤色の服に着替え、最後は青色になります。途中で赤色になるのは、着替えたからと分かるのですが、最後になぜ青色の洋服になるのか不思議でした。伝説のイメージが“青き衣をきた人”なので、それに合わせて演出しているのだと思っていました。
服の色が青く染まるのは、王蟲の子どもの血を浴びて青く変色してしまっているからです。原作漫画を読むと、ナウシカは巨神兵とももっと激しい戦闘を重ねて衣が青く染まっています。
ルネサンス期の芸術家ラファエロの“美しき女庭師”という絵画では、聖母が赤い衣を着て青いマントを羽織っている姿が描かれています。衣の赤は犠牲の血を表していて、青は天上の真実を表現しているそうです。
宮崎駿監督作品のなかには、インド神話や宗教的な意味合いのものが込められていることも多いです。ナウシカの服の色がかわることにも「犠牲を経て真実に近づいた」というような意味が込められているのかもしれません。
【解説】巨神兵は漫画版ではオーマとよばれナウシカを慕う
映画に登場する巨神兵の末裔は、漫画版では“オーマ”という名前の付けられた人工物の神様のような存在です。
制御するのに秘密の石が必要な存在です。オーマが卵から孵化したときに、秘密の石をもっていたのがナウシカだったことから、ナウシカを母として慕うようになります。映画版の巨神兵は、クシャナが命令して動かしていますが、漫画版はナウシカが操ります。
オーマが「ママ・・・ママ・・・」とナウシカを呼ぶ姿から、可愛くも見えます。映画の巨神兵とはかなり異なる存在ですので、映画版の巨神兵と漫画版のオーマは別の生命体と理解したほうがいいかもしれません。
ナウシカは最後死ぬの?
ナウシカが王蟲の群れに襲われるシーンがあるので、悲しい結末になったと感じる人もいるかもしれません。
でも、大丈夫です!ナウシカは生きています。原作でも生きています。危機的状態だったけど生き抜いたという生命の強さを描いているのだと思います。
怒りで我を忘れた王蟲によってナウシカは意識を失いますが、我を取り戻した王蟲によって怪我を治してもらい、息も吹き替えします。風の谷に伝わる伝説と重なり、本作の一番の見どころのクライマックスシーンになります。
「最後にナウシカはどうなった?」と考えることができるように、いろいろま伏線があるのも本作の面白さだと思います。
「風の谷のナウシカ」には強いメッセージ性がある
『風の谷のナウシカ』の感想と解説を紹介しました。本作は、反戦・自然との共生・核兵器根絶などのメッセージが込められた作品です。
原作漫画とは少し内容が異なり、映画版は編集や演出がされています。「漫画版のほうが内容も深くておもしろい」という声もありますが、編集と演出をすることによって、子どもから大人まで楽しめる作品になっています。
映画ならではの演出で、観賞後に爽快さと「自然を大切にしよう」という気持ちがわいてきます。腐海、王蟲、巨神兵など人類にとって脅威を感じる存在とも、共生していこうとするナウシカに強さを感じます。クシャナやクロトアといったサブキャラクターも個性豊かで魅力的です。
海外からの評価も高い作品です。公開から35年たった今も世界中で愛され続ける『風の谷のナウシカ』をもう一度見てみてください!