映画『遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENTION(ザ・ダーク・イリュージョン)』は、1996年に連載を開始した世界的カードゲーム漫画『遊☆戯☆王』シリーズの20周年を記念して製作された劇場版作品です。
劇場版作品としては4作目(日本公開分で換算すると3作目)に相当しますが、本作最大の特徴は原作者の高橋和希が製作総指揮を担当する「正当な続編」であるということです。
そのため、本作は同シリーズのファンにとって非常に衝撃的なサプライズとなり、筆者としても「続編超楽しみ!」という思いと、「蛇足にならないだろうか…」という思いが同居した不思議な作品でした。
今回はそんな『遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENTION』の個人的な感想や解説、考察を書いていきます!なお、ネタバレには注意してください。
目次
映画『遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENTION』を観て学んだこと・感じたこと
・原作や旧アニメへのリスペクトが素晴らしい!
・蛇足どころかシリーズに足りなかったものを上手く補足できている
・現代的なハイテク技術との融和も見事
映画『遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENTION』の作品情報
公開日 | 2016年4月23日 |
監督 | 桑原智 |
脚本 | 高橋和希 桑原智 彦久保雅博 |
出演者 | 武藤遊戯(風間俊介) 海馬瀬人(津田健次郎) 真崎杏子(齊藤真紀) 城之内克也(高橋広樹) 獏良了(松本梨香) 藍神(林遺都) |
映画『遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENTION』のあらすじ・内容
数々の死闘を経て、かつての「もう一人の自分」であり、「闇遊戯」として知られた人格・アテムとの別れを選択した武藤遊戯。アテムは遊戯のもとを離れ、彼を生み出す触媒であった「千年パズル」も地中へと封印されました。
こうしてアテムや数々の呪縛と決別した遊戯たちはこれまで同様普通の高校生として生活し、気づけば卒業を目前に控えていました。
将来の夢であったゲームクリエイターを目指す遊戯を筆頭に、かつての仲間たちはそれぞれの進路を選択していきます。
そんな彼らのもとに現れた「藍神」という謎の少年。彼の存在が、遊戯たちの日常を脅かします。さらに、地中深くに封印された千年パズルを追い求める海馬瀬人。彼らの物語はふたたび動き始めることになるのです。
映画『遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENTION』のネタバレ感想
長年シリーズを支えてきたキャストやスタッフが勢ぞろい!
本作のスタッフやキャストは、製作総指揮・脚本に原作者の高橋和希がクレジットされていることからも分かるように、そうそうたる面々で構成されています。本作は二度製作されたシリーズアニメのうち、『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』(通称:テレ東版)に準拠したスタッフで構成されています。もっとも、もう一つのアニメ(東映版)に関しては早期に打ち切りになっているので、皆さんのイメージする遊戯王はテレ東版だと思います。
本作の監督は「遊戯王ZEXAL」シリーズでも監督を担当した桑原智で、脚本の彦久保雅博もシリーズに関わり続けてきたお馴染みのスタッフです。さらに、音楽担当はシリーズ初参加の池瀬広やシリーズに貢献してきた中村和宏、光宗信吉らがクレジットされており、まさしく細部にわたるまでこだわりぬいたスタッフが終結しています。このあたりはやはり20年にふさわしい力の入れようです。
また、特に注目すべきは作画監督に加々美高浩という人物が起用されていることでしょう。加々美はかつてテレ東版でも素晴らしい作画を披露したことで語り草になっており、ファンの間ではお馴染みの人物です。彼の作画を待ち望んでいたファンも多く、まさしく待望の人選といえるでしょう。
さらに、声の出演を担当する声優もお馴染みの同一キャストが担当しており、我々にとってお馴染みのボイスを堪能することができます。特に著名なキャストとしては海馬役を務める津田健次郎などが思い浮かびますが、アニメ放送から15年以上の歳月が経過したとは思えない迫力ある演技を聞かせてくれます。
他にもテレ東版から引き続き登板しているキャストがほとんどですが、大半の声優が現役バリバリで活躍しているうえ、同シリーズは今でもメディアミックスが途絶えることなく新たな派生作品を生み出しているためか、演技の方向性にもいい意味で変化がないのは好印象です。実際、声質そのものが変化していない場合であっても、続編まで時間が経過してしまうと声優が演技を忘れてしまうことは少なくなく、ファンをガッカリさせてしまうことも。
このあたりはやはりスタッフが勢ぞろいしていて、演技指導などもキチンと理解されていることがそれを防いでいるのかもしれません。ファンの我々だけでなく、スタッフやキャストも「遊戯王と共に育った」といえる面々なので、細部にわたるまで遊戯王愛や原作リスペクトが感じられるのは大変好印象です。
【解説】設定・時間軸はアニメではなく原作最終回の続編にあたる部分
本作が「完全新作劇場版」であることは宣伝などでよく知られていると思いますが、完全なる新章や外伝ではないため設定や時間軸については少し解説を要します。
まず、本作の舞台設定は「原作漫画準拠」になっています。そのため、スタッフやキャストが同じでアニメ化されたテレ東版とのつながりは厳密にいうと存在せず、一部キャラの過去や設定が原作準拠になっているという特徴があります。
具体的な点を挙げていくと、例えばテレ東版では海馬がアテムと遊戯の別れとアテムの冥界行きを見届けていたのに対し、漫画版はそのシーンがなかったため海馬とアテムはデュエルで海馬が破れて以降触れ合い事がないまま姿を消したことになっています。この点は本作の肝である「海馬がアテムに執着する」という一面を理解するためには必ず押さえる必要があり、アニメしか見ていないとその動機を抑え損ねてしまいます。
したがって、本作の視聴にあたってはテレ東版アニメをすでに視聴済みというライトファンの方であっても、合わせて原作漫画も読了されることをおすすめします。
次に、本作の位置づけは「原作漫画最終話1年後の続編」にあたります。そのため、あらすじでも触れましたがすでにアテムは遊戯のもとを離れており、原作漫画における数々の死闘を経験した遊戯たちが日常へと復帰したところから物語が続いていきます。
こうした作品の性質から、本作は初代遊戯王を愛してきたオールドファンを対象にしている節があるため、繰り返しにはなりますが本作の魅力を余すところなく味わうには原作漫画とテレ東版アニメを押さえておくことは欠かせないと考えられます。
ただし、後述するように作画や演出もかなり現代風にアレンジされ、映像面やシナリオ面は非常に洗練された作品となっています。そのため、作品の設定を深く理解することができなかったとしても、単純なカードゲームアニメとして十分に楽しむことができる作品ではあります。ここから遊戯王の世界に入って、原作やアニメを後追いで見ていくのも悪くないでしょう。
さらに、カードゲームとして広く普及していることもあり「デュエル」面を楽しむことも十分に可能です。原作では唐突にカード効果が追加され、現実のカードゲームとは全く異なる戦略が必要になることも少なくありませんでした。しかし、本作はカード効果や用語説明は最小限になっていながら、戦略的な部分に注目してもデュエルを楽しむことができます。
作画やカードバトル、上映スタイルなどがしっかりと現代風に
ここまで、本作が原作漫画やテレ東版アニメと深いつながりがあることに触れてきました。しかし、その「深いつながり」は、決して作品の古臭さを裏付けるものではないことも指摘しておかなければなりません。
実際、昨今の「リバイバル」ムーブメントによって、数年や長い時は数十年にわたって休眠状態にあった、かつての名作アニメを復活させるということは珍しくありません。これは新作やオリジナル作品が低調な売り上げを示すのに対し、固定ファンがいる作品は安定した売り上げが見込めるという守りの映画製作スタイルでもあります。
そのため、作品の中身そのものも守りに入ってしまう場合が少なくなく、オールドファンを喜ばせる要素が満載の一方で、作品に馴染みのない方や若めのファンからすると、新作にもかかわらず「古臭い」と感じられる作品もあります。
しかし、そのあたりの「現代化」と「押さえるべき慣例」の両立を、本作はしっかりとこなしている印象がありました。それは、作画やデュエル、上映スタイルを分析してもよく分かります。
まず、作画は大枠の部分で変化はないものの、原作者の高橋や名物作監の加々美によって上手にデジタル技術が生かされているため、絵の部分で古臭さを感じるということがありません。同時に演出についてもしっかりと進化が確認でき、遊戯王スタッフの実力を痛感します。
また、先ほども触れたようにデュエルの面もかなり現代風に寄せられています。もともと原作漫画が「本格的カードゲーム漫画」になったのは、連載開始からしばらく経過した後のことです。そのため、作中では論理的な頭脳戦というより、「友情・努力・勝利」を掲げる少年ジャンプ作品らしいバトルの要素が強調されていました。
本作でももちろんそうした熱さは引き続き維持されながら、現実世界で大流行したトレーディングカードゲームとしての領域を大きく逸脱しないよう工夫されています。特に、原作漫画では現実に存在する同名カードと同一の存在ながらカードテキストが全く異なるものであり、現実では再現不能な戦略も少なくありませんでした。
さらに、本作は公開時点でアニメ作品としては二例目であった4DXおよびMX4Dというスクリーン以外の効果を加える上映スタイルが採用され、技術的な面からも全く古臭さを感じさせません。
【解説】海馬やバクラの「フラグ」を回収し、原作の穴を埋めている
本作に対して「蛇足かも…」という心配を抱いていたことは冒頭でも述べましたが、シナリオ面で言えば蛇足どころか原作の描写不足やフラグを見事に穴埋めし、作品としてもキチンと見せ場が用意されている素晴らしいものでした。
まず、本作の「もう一人の主役」というにふさわしい海馬に関する補足は見事でした。先ほども少し触れたように、原作準拠の本作世界戦では海馬はアテムときちんとした形で別れをかわすことができておらず、煮え切らない思いを抱えていました。
アテムを追い求めた海馬は、遊戯に再会しても「お前ではなくアテムと戦わせてくれ」と迫りますが、遊戯はすでに千年パズルの中にアテムがいないことを悟っています。それでもアテムとの再会を諦めない海馬は、パズルのピースを求めて遊戯と対戦することになります。
しかし、そこで遊戯と戦う海馬は、彼がデュエリストとして自身と対等な立場にいることを実感します。その後パズルの暴走によって遊戯と海馬は共闘関係となり、海馬の危機についにアテムが出現します。こうしてアテムと再会するという目標を達成した海馬は、研究を重ねついにアテムが存在する冥界への高次元ジャンプを実現させ、念願のバトルを叶えるのです。
こうして物語を書き出していくと、本作の主人公は紛れもなく海馬瀬人であることが良く分かります。実際、高橋も「海馬というキャラをもう少し描いてみたい」というのが本作制作の動機であると語っており、その目的が達成されている作品であるといえます。
さらに、謎の少年・藍神をめぐる設定が明かされていくと、原作でフラグを立てられながらファンの間では謎の人物とされていた「シャーディー」の過去も同時に明かされていきます。彼は藍神たちの保護者でもあり、同時にバクラの手で殺害されていた人物でもあったのです。
そのため、遊戯に敵対的な思いを抱いているように見えた藍神の復讐対象はシャーディーであり、原作に存在しその意味が分からないとされていた「シャーディー!5年前なら奴はすでに…」というバクラの台詞も意味が通るものになりました。
このように本作は原作で描き切れなかった部分を補足する役割まで担っており、蛇足どころかファンの抱えていた謎を解明してくれました。さらに、単純な物語としても海馬の思いは我々の心に響くものであり、ファンであれば涙なしにはいられない展開に仕上がっています。
【考察】これだけの期間を経てあえて続編を製作した理由
ここまで、本作が遊戯王という作品の続編にふさわしい仕上がりになっているということを解説してきました。文面を見てもお分かりいただけると思いますが、本作はシリーズを応援し続けてきた筆者にとって大変に満足のいくものです。
ただ、一つだけ考えるとすれば「どうして今になって続編を製作しようと考え、それが実行に移されたのか」という点ではないでしょうか。実際、20周年の節目とはいえ原作漫画の完結からは長い時間がたっており、わざわざ本編との関連が強い続編にしなくても外伝的なストーリーに仕上げても良かったはずです。綺麗に完結している作品だけに、続編を作ることには少なからぬリスクもありました。
しかし、それでも素晴らしい続編が制作された理由は「作者の後悔を晴らす」という目的と、「遊戯王という作品を製作陣が愛していた」ことの二点であると考えています。
まず、作者は本作の公開にあたって残されたインタビューの中で、海馬についてもう少し書き残したいという発言をしていたことは紹介しました。他にも、原作漫画の終盤はやや駆け足気味になってしまったことがあり、過去のインタビューで「書きたかったことを入れるスキマがなかった」という発言も残していて、本作が誕生する最初の段階は、あくまで作者由来のものであると推測できます。そして、作者本人が乗り気であったからこそ全面的な協力を得られたことは言うまでもないでしょう。
次に、本作からは製作陣による遊戯王へのリスペクトが伝わってくるという点にも触れておきます。確かに、作者が続編を望んでいたとすれば売り上げを見込めるタイトルなのでそれを製作することは難しくないでしょう。しかし、スタッフやキャストを含め、これまで同シリーズを支え続けてきた面々が一堂に会するというのは、やはり現場レベルで愛されている作品であったことを意味していると思います。
シリーズに育てられ、これを愛していた製作陣だからこそ、ファンの望んでいる需要をしっかりと押さえた作品を製作することができたのでしょう。それゆえに、仕事でありながら彼等もまたファンの一員であり、遊戯王シリーズの正当な続編を製作できることを意義に感じていたのではないでしょうか。
こうして原作者の想いと製作陣の原作愛が揃ったからこそ本作は製作され、我々ファンの高評価につながったのだと思います。
(Written by とーじん)