映画『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを君に』は、ロボットアニメながら難解で複雑な世界観によって社会現象を巻き起こした深夜アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の完結編として公開された作品です。
本作に関してはその作品内容が複雑なだけでなく、そもそも作品公開に至るまでの過程が非常に複雑なため、本記事ではそのあたりについても解説を加えていきたいと思います。
ちょうど今年には実質的なリメイク作となる『シン・エヴァンゲリオン新劇場版』が公開されるので、結末の違いを予想しながら楽しむのにも今鑑賞してしまうのが最適かもしれません。
今回はそんな『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを君に』の個人的な感想や考察を書いていきます!なお、ネタバレには注意してください。
目次
映画『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを君に』を観て学んだこと・感じたこと
・相変わらずの難解さだが、各種演出は流石の一言
・ラスト初見時は茫然としてしまった
・解説、考察サイトを合わせて読むと分かることも多い
映画『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを君に』の基本情報
公開日 | 1997年7月19日 |
監督 | 庵野秀明 鶴巻和哉 |
脚本 | 庵野秀明 |
出演者 | 碇シンジ(緒方恵美) 綾波レイ(林原めぐみ) 惣流・アスカ・レングレー(宮村優子) 葛城ミサト(三石琴乃) 碇ゲンドウ(立木文彦) |
映画『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを君に』のあらすじ・内容
NERVが全ての使徒を打倒し、地球の平和は守られたかに思われた。しかし、NERVの管理組織ゼーレおよび碇ゲンドウの計画は、使途を全て倒すことではなくその結果として人類すべてを単一の生命へと昇華させる「人類補完計画」の実施であった。
計画を実行に移すべく、ゼーレは支配下にあった戦略自衛隊をNERVの本部であるジオフロントへと送り込み、施設の乗っ取りとサードインパクトの発生を目論みます。
これに対して組織として抵抗を続けるNERV職員一同でしたが、もともと少数精鋭の組織であったために数の面で不利な立場に置かれてしまいます。
絶体絶命に思われた彼らでしたが、残された希望はやはりエヴァの存在。しかし、肝心のパイロットが様々な事情によりエヴァに乗ることができない状態にありました。
果たして、彼らはふたたびエヴァのパイロットとしてNERVの危機を阻止することができるのか…。
映画『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを君に』の感想
【解説】TVアニメや映画シト新生(Death/Rebirth)との関係性
まず、冒頭でも述べたように本作は単なるアニメ作品の劇場版とは言い切れない側面も多く、制作の過程が非常に複雑なものになっています。そのため、長年エヴァを追いかけている方でなければ理解が難しそうな面を解説していきます。
そもそも、本作はTVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の完結編にあたる作品です。テレビ作品が劇場版作品を完結編にあてることは珍しくありませんが、前提として本作の場合はテレビ放送版が我々の目から見た場合に未完成の状態にありました。
エヴァに搭乗して使途を倒していくあたりは非常に面白い作品なのですが、終盤になるとパイロットの面々が精神に支障をきたし、彼らの精神世界を映し出すようなシーンが多くなります。
そして、最終的にはエヴァを見たことがない方々ですら知っているかもしれない「僕はここにいてもいいんだ!」という発言から登場人物に祝福されるというような「おめでとうエンド」によって作品が締められているのです。
このシーンに関しては当然ながら様々な考察がなされていますが、一般的な視聴者層からすれば「いや、根本的な問題何にも解決してなくない?」と思ってしまうわけで、庵野監督もその部分の作り直しに乗り出すことになったようです。そのため、当初はアニメ終盤の二話をリメイクした『シト新生』と、完全新作劇場版をリリースする予定でした。
ところが、庵野監督の映画作りは難航し、リメイク部分の制作スケジュールが大幅に押してしまったのです。ここで当初の予定通り映画を公開することが絶望的になり、最終的に講じられた策が『シト新生』では単純なアニメリメイクの「Death編」と完全に仕上げることができなかった「Rebirth編」をセットで公開し、完全新作を廃案にしたうえでその空いた公開スケジュールに「Rebirth編」と、その続きをセットにした完結編の本作が当てられることになったのです。
つまり、『シト新生』の後半部分と本作の前半部分である「Air編」は内容がほぼ同一になっているので、その内容を知っている方はわざわざ二回見なくてもいいのかもしれません。ただ、近年制作されたDVDには重複を避けるためそもそも「Rebirth編」がカットされていることも少なくないので、『シト新生』を視聴済みとはいえ無条件で前半を飛ばすと訳が分からなくなってしまうかもしれません。そこは注意が必要です。
Air編はアスカの覚醒や量産型エヴァの出現など、見所も多い
さて、公開までの過程を整理できたところで作品の内容を解説していきます。まず、先に述べた重複部分である「Air編」に関しては、エヴァにしては内容も熱くエンタメ作品らしいハイクオリティなパートであると感じました。
ざっくりと内容を解説していくと、戦自に追い込まれて絶望的な境遇へと追い詰められるNERVと、この苦境で覚醒するアスカの物語なわけですが、二つの見せ場が対照的な形でそれぞれの魅力を高めあっているように感じました。
前半部の苦境に関しては、これまで暗く死人も多い作品ながら「直接的な人対人の対決によって非戦闘員が死傷する」というシーンが多くなかったため、戦自がネルフに侵攻してきて容赦なく職員を殺害していく光景は非常に衝撃的なものでした。
特に印象に残ったのはミサトとシンジの別れで、これまで作戦担当ながらシンジたちの保護者的な側面をもち合わせていたミサトが戦闘で活躍していること自体にまず驚きましたし、シンジを逃がして一人敵に突撃していったミサトの姿ももちろん強烈に覚えています。
こうして我々視聴者がネルフの面々と同じように絶望的な気分へと追い込まれたところでアスカが覚醒し、戦自の面々を爽快になぎ倒していくので、ここで感じるカタルシスはかなりのものがありました。
個人的にアスカが好きというのももちろんあるのですが、暗い気持ちを吹き飛ばしてくれるような暴れっぷりは単純に格好よかったですし、やはりタイトル通りエヴァが登場してはじめて作品がスタートするような、そんな気持ちになりました。
加えて、作品の最後ではゼーレが遣わした「量産型エヴァ」なる未知の強敵が空中を旋回するというこれまた強烈な引きによって幕を閉じるのですから、ここまでの展開と総合して「いったいこれからどうなってしまうのだろう!」というワクワク感が最高潮になったことを覚えています。
筆者のような一般的エヴァファンとしては、Air編は非常に満足のいく内容に仕上がっていたと思います。続く「まごころを、君に」編はとにかく難解で複雑なので、良くも悪くも同じ映画内で雰囲気が一変してくるのは間違いありません。
「まごころを、君に」編は訳がわからない複雑な展開だらけ
Air編が終わると後半部に相当する「まごころを、君に」編が開幕するのですが、それなりに王道路線を貫いていた前半部から一転して訳の分からない展開が連発してしまいます。
スクリーンに映し出される光景は、ひたすらに訳の分からないものばかり。特に場面によってはアニメ映画を見ているはずが突然実写映像が流れるなど、終始皆さんも混乱しっぱなしだったのではないかと思います。
そして、極めつけは赤くなった世界に二人で生き残ったシンジとアスカが、後述するようにとんでもない結末を迎えることになります。そのため、筆者はリアルタイムで視聴こそできなかったものの、当時を知る方々に言わせれば「映画館全体がわけの分からない展開を処理しきれず、見終わった観客が呆然と会場を後にしていた」と評されるほどです。
確かに、その光景が目に浮かぶような展開に彩られていることは事実でしょう。この部分についてはある程度予備知識がないと「そもそも何が映し出されているのか」ということさえつかめず、ただ茫然と映像を眺めることになってしまいますので、詳細こそ考察系サイトに譲りますが基本的な部分については解説を加えていきます。
まず、映し出されている意味不明な光景の大半は「シンジの心象世界を映像化したもの」になります。これはアニメ版でも描かれていたので分かっている方も多いかもしれませんが、そもそもこれを認識できないと映像が輪をかけて意味不明なものになってしまいます。もっとも、それが分かったところで映像を理解するのは難しいですが、今回の場合は「意味を理解しようとすることに大きな意味はない」ともいえるでしょう。
なぜなら、映像はそもそもシンジの心の中に浮かんでいる思考を写したものであり、個別のワンシーン自体に深い意味があるわけではありません。ただ、全体としてシンジの「絶望」が描かれているというのは事実で、映画としてはその絶望を乗り越え「自分はここにいてもいい」「誰かがそばにいてもいい」という境地に至るまでを描いた作品になります。
これこそが映画の主題なので、要素だけを抜き出してみるとそれほど解釈の難しい作品ではないのです。作中の映像は極めて難解に作られているので、これを映像面だけから読み取るのは至難の業です。私自身も関連作品を繰り返し視聴し、有識者の方の意見を読んで初めて分かったことも多いので、映画鑑賞後は解説系の専門サイトを読み込むくらいがちょうどいいのかもしれません。
【考察】最後でアスカの首を絞めるという衝撃的すぎるラストシーン
上記で述べてきたように、映像自体は極めて難解ながらもテーマについては、まあ理解できないこともありません。しかし、本作の謎は通常であればそうしたものが解けるはずのラストシーンにおいて、それを決定的にしてしまうのです。
人類補完計画のトリガーであったシンジですが、「自分はここにいてもいいし、誰かがそばにいてもいい」という心境に達し自身の死と補完を拒否。その結果として世界には自身と、自身が存在を許したパートナーのアスカだけが生き残ることになるのです。ここまでは、言われればまだ納得することができるでしょう。
しかし、そこでシンジは突然目の前に倒れているアスカの首を絞め始めます。その最中に目覚めたアスカは、いったんすべてを受け入れたかのようにシンジの頬を撫でるのです。ところが、そのアスカを見て恐怖からか首絞めの力を緩め、手を離したシンジ。この彼の姿を見たアスカは「気持ち悪い」という一言を残し、作品は幕を閉じるのです。
正直、見ていた方も文章だけで読んでいる方も、恐らく初見でこのシーンに納得できた方はいらっしゃらないのではないでしょうか。もちろん私も例外ではなく、何もかもが唐突なうえに、いきなり終わる映画を前に「は?」という言葉しか出てこなかったことを覚えています。
こうして我々エヴァファンの間に大きな謎を残していったラストシーンは、当然ながらマニアたちの間で大激論が交わされることになりました。その結果としてまだ黎明期であったインターネット上でも「サイトを立ち上げてエヴァという作品の考察を行なう」という流れが出来上がっていきます。
関連記事:『エヴァンゲリオン新劇場版:序』ネタバレ感想・解説・考察!基本はリメイクも考察しがいのある映画
したがって、このシーン一つで無数とさえ思えるような仮説が存在し、それをここで一つ一つご紹介するのはスペースの関係上難しいです。ただ一つ言えることは、このシーンが実際に首を絞められた庵野監督の知人女性が体験したエピソードをもとに構成され、さらにアスカが発した「気持ち悪い」というセリフ自体は、声を担当する宮村優子が監督に「あなたが目覚めたときに男が隣でアレな妄想(察してください)をして楽しんでいたらどう思う?」と聞かれた際の返答をもとにしています。
このあたりの話については関係者から実際に語られていることなので信頼できそうですが、逆に信ぴょう性の高い話ほどシーン解釈そのものには繋がらないのも本作の特徴で、製作陣はもはや観客が混乱するのを楽しんでいる節もあると思います。
【評価】内容は非常に難解だがマニア受けする作品
この作品に関しては、先にも少し触れたように基本的には訳が分からないものの、一部の熱狂的なファンを生み出すという評価の難しいものになりました。ただ、良くも悪くも本作がエヴァというシリーズ全体の難解さと考察対象としての地位を確立させたような印象があり、後の作品やエンタメ界に与えた影響は非常に大きなものがあります。
我々一般的なファンからすれば受け入れがたい側面こそ否めなかったものの、一方で一部の熱狂的なファンや業界人にとっては衝撃作として受け入れられることになりました。
ただ、普通のファンがこの作品を許容できないのは実のところ製作陣、というよりは庵野監督の思惑通りだったのです。監督はエヴァの大ヒットにより、作品のファンたちが求める「こうしてほしい、こういう展開を望みたい」という欲求の嵐に晒されることになりました。
そこで彼はこうした風潮に嫌気がさし、それをあえて裏切ってやろうという魂胆で生み出されたのが本作だったのです。つまり、この作品の根本に隠された思想を分かりやすく表現してしまうと「反アニメオタク」という方向性が見え隠れしていますし、ある意味で観客に対して説教を行なうような、そういう一面をもち合わせた物語であったのでしょう。
もっとも、現代であれば炎上は確実にも思わしき衝撃の展開は良くも悪くもこの作品を「伝説的なもの」に昇華させ、単なる一アニメから芸術作品として本作を捉えるファンも増えていきました。そして、エヴァという作品の知名度および名声も衰えるどころか日増しに高まっていき、新劇場版シリーズの公開を経て2019年現在も国民的アニメとしての地位を確固たるものにしています。
こうした事実をまとめていくと、このエヴァという作品はある意味で「時々ふと観客の望まないものを作り続けてきたからこそ、今の地位を築けている」という見方もできるのかもしれません。本作の前半部およびテレビアニメの前半部のような、王道エンタメで一般ファンの心をつかみ、一方で唐突に極めて難解な演出を挿入することで複雑な展開を解き明かしたいコアファン層やアニメ関係者を心酔させる。
こう考えていくと、同じく完結編に相当するシンエヴァが、我々の望む形で公開されるかどうかも定かではない、という事実が見えてくるのかもしれません。
(Written by とーじん)
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