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『心が叫びたがってるんだ。』ネタバレ感想・解説・考察!『あの花』スタッフが「本音で伝える」ことの大切さを描く

【解説】長井龍雪・岡田麿里・田中将賀が描く新しい青春物語

本音で話すことは、誰だって難しいものです。相手や、もしくは自分を傷つけることになるかもしれません。だからこそ、人は自分の気持ちを隠し、言葉や態度で取り繕って相手と接するのでしょう。

今時そんな本音の大切さを、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のスタッフがストレートにぶつけてきたのが、映画『心が叫びたがってるんだ。』です。

もちろん、「本音で話すことが何よりも大切だ」という、説教くさい映画ではないのでご安心を。そこにあるのは過去のトラウマで声を出せなくなった女子高生と、本音を隠しながら生活するクラスメイトの少し甘酸っぱい青春物語なのです。

今回は『心が叫びたがってるんだ。』の感想や解説、考察について紹介します。読み進めるにしたがってネタバレが多く含まれているので、鑑賞前に読まれる場合はご注意ください。

映画『心が叫びたがってるんだ。』を観て学んだこと・感じたこと

・『あの花』スタッフ再集結!「本音で伝える」ことをテーマに描いた物語
・ストレートな青春物語に滲む、岡田麿里のエッジの効いた脚本
・ラブストーリー一辺倒ではない青春物語を見たい人におすすめの作品

映画『心が叫びたがってるんだ。』の作品情報

公開日2015年9月19日
監督長井龍雪
脚本岡田麿里
出演者成瀬順(水瀬いのり)
坂上拓実(内山昂輝)
仁藤菜月(雨宮天)
田崎大樹(細谷佳正)

映画『心が叫びたがってるんだ。』のあらすじ・内容

映画『心が叫びたがってるんだ。』のあらすじ・内容(C)KOKOSAKE PROJECT

成瀬順は空想力のたくましい夢見がちな少女。彼女はいつか憧れの王子様と一緒に、近所の山にそびえ立つお城へ行きたいと願います。ある日、お城の近くへ行った順は、そこから父親が見知らぬ女性と出てくるのを目撃しました。そのお城とは、ラブホテルのことだったのです。

順が母親に父親の様子を告げたことがきっかけとなり、両親は離婚。自分が去って行くのはお前のせいだと父親に言われ、順はひどく傷つきます。

そんな順の前に、たまごの形をした妖精が現れます。たまごは、順がこれ以上災難に遭わないように、その口を閉じてしまおうと言いました。こうして、順は声を出せなくなってしまいます。

それから年月が経ち高校生になった順。ある日彼女は、クラスメイトの坂上拓実、仁藤菜月、田崎大樹と共に、地域ふれあい交流会の実行委員に指名されます。それは、声を出せない彼女にとって、小さな波乱の幕開けとなるのでした。

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映画『心が叫びたがってるんだ。』のネタバレ感想

【解説】長井龍雪・岡田麿里・田中将賀が描く新しい青春物語

【解説】長井龍雪・岡田麿里・田中将賀が描く新しい青春物語(C)KOKOSAKE PROJECT

『心が叫びたがってるんだ。』通称『ここさけ』は、2015年に公開された日本のアニメーション映画です。

幼少期のトラウマが原因で話せなくなった、ヒロインの成瀬順。同級生の坂上拓実、仁藤菜月、田崎大樹と共に任命された「地域ふれあい交流会」実行委員の活動を通じて、少しずつトラウマを克服し、やがて心から自分の伝えたいことを言葉にしていくという物語です。

順の成長物語である一方、恋愛要素を押さえた青春物語でもあるのが特徴。しかし、ベタベタな青春や恋愛とは一線を画した雰囲気も持ち合わせており、年齢や性別を問わず、誰でも楽しめる作品となっています。

 

製作会社はA-1 Pictures。アニメ「ソードアート・オンライン」シリーズや「アイドルマスター」シリーズ、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』など、数多くのヒット作を手がけています。

『ここさけ』は、2013年に公開されヒットした映画『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。(あの花)』のスタッフが作り上げた作品です。『あの花』と同じく監督に長井龍雪、脚本に岡田麿里、そしてキャラクターデザインを田中将賀が務めており、公開前から話題となっていました。

長井龍雪は日本のアニメーション監督兼演出家。代表作はアニメ『ハチミツとクローバーⅡ』や『あの夏で待ってる』、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』などがあります。『あの花』は長井が35歳の時に監督を務めた作品であり、その丁寧な演出に定評があります。

脚本家である岡田麿里の代表作は、アニメ『花咲くいろは』や『凪のあすから』、「WIXOSS」シリーズなど。2018年に公開された劇場版アニメ『さよならの朝に約束の花をかざろう』では、初の監督も務めています。監督の長井とはタッグで仕事をすることも多いのが特徴です。

田中将賀は、本作で総作画監督も担当。アニメ『ダーリン・イン・ザ・フランキス』や『家庭教師ヒットマンREBORN!』のほか、2019年に公開された劇場版アニメ『天気の子』でもキャラクターデザインを担当しています。

こうしたスタッフとA-1 Picturesによって製作された『ここさけ』は、『あの花』に比べてファンタジー要素や感動的な要素は控えめである一方、青春要素の強い物語となっています。

【解説】言葉を話せない順を表現する水瀬いのり

【解説】言葉を話せない順を表現する水瀬いのり(C)KOKOSAKE PROJECT

本作のヒロイン、成瀬順を演じるのは水瀬いのり。アニメ『Re:ゼロから始める異世界生活』のレムや『キラキラ☆プリキュアアラモード』のキラ星シエルなど、若手ながら既に多くの作品で主要なキャラクターを演じています。また、『心が叫びたがってるんだ。』の実写版では、高校の女子高生役としても出演。興味がある人は、ぜひ観てください。

喋れないキャラクターを声優が演じるケースは、そう多くはないでしょう。『ここさけ』に近い時期の作品でいえば、2016年に京都アニメーションが製作した『映画 聲の形』で西宮硝子を演じた早見沙織や、2019年のテレビアニメ『どろろ』で百鬼丸を演じた鈴木拡樹などがいます。

喋らない、もしくは喋れないキャラクターも呼吸はするし、言葉にならない声を発するものです。そのため、こうしたキャラクターをアニメで表現するためには、作画や演出技術はもちろん、声優の演技力が欠かせません。

 

順は引っ込み思案な性格ながらも、心はおしゃべりであり、喜怒哀楽の感情が豊かなキャラクター。彼女の特徴を喋らずに表現した水瀬の演技力は必聴です。

しかも、作中で菜月からも評価されるように、とても綺麗な声をしているのが特徴。ミュージカルのシーンでは、その透き通るような声を下地とした高い歌唱力が遺憾なく発揮されています。今後の活躍が楽しみな声優のひとりといえますね。

【解説】バランス良く描かれる順、拓実、菜月、大樹の関係

【解説】バランス良く描かれる順、拓実、菜月、大樹の関係(C)KOKOSAKE PROJECT

『ここさけ』の物語は成瀬順、坂上拓実、仁藤菜月、田崎大樹の四人を中心に進んでいきます。地域交流会の実行委員をするまでは無関係だったはずの彼らの関係が、バランス良く描かれるのが本作の魅力のひとつです。

順は過去のトラウマから、声を出すと腹痛を引き起こす体質を持っており、友人らしき友人ができないでいました。声を出せないのは母親の前でも同じであり、親子の関係もすれ違ったままです。

そんな彼女のもとに現れた最初の理解者が拓実です。父親の影響で音楽を趣味かつ特技とする彼は、交流会の出し物として教師からミュージカルを提案されると、一定の興味を示します。気持ちを歌に乗せて表現する……と呟く拓実に順は妙な親近感を覚え、彼に自分の素性を告白することとなります。

物静かで冷めた様子はあるものの、決して順のことを否定しない拓実。しかも、アコーディオンやピアノを使って即興で歌うなど、他の生徒にはない特技も持ち合わせている。そんな拓実は、順にとってはじめての友人となり、やがてそれ以上の感情を抱く存在となっていきます。

 

一方、同じく交流会の実行委員に指名された菜月は、チアリーディングの部長であり、リーダーシップに優れた優等生。表面上は拓実や順、大樹とはじめて打ち解けた様子を見せる彼女ですが、実は中学時代に拓実と付き合っていたことが明かされます。

しかし、当時の菜月と拓実は付き合っていたにもかかわらず、実際には手も繋いだことのないような関係です。その原因には、拓実の家庭の問題がありました。拓実も順と同じく、自分の進路のことが原因で中学時代に両親が離婚しており、大変な日々を送っていたのです。菜月はそのとき、拓実の状況を支えてあげることができませんでした。その結果、うやむやなまま付き合いがなくなってしまったのです。

作中では、大樹が菜月に対して付き合っている奴はいないのかと聞いた際に、菜月はいると答えています。誰か作中で明らかにされていない別の相手がいるのかと思いきや、実はその相手とは拓実のこと。菜月は今でも拓実のことを少なからず想っていることが少しずつ明かされます。

もちろん、菜月にとって、拓実が必要以上に順と仲良くなるのは、あまり面白くありません。順の素直さに対して仕方のないことだと思う反面、嫉妬に近い感情も隠しきれないでいます。

 

一方、菜月に対して、野球部のエースだった大樹が気のある素振りを見せる……ように見えるシーンがあります。付き合っている相手を尋ねているシーンも、そのひとつ。しかし、面白いことにこれは本作屈指のミスリードといえる部分です。

作中では野球部のエースとチアリーディング部の部長は、毎年必ず付き合っているという伝統が説明されます。そして何よりも物語の構成上、明らかにヒロインに位置する順が、拓実とくっつくという展開は誰もが考えるところでしょう。そのため、大樹が菜月にアプローチしているように見えるのは、当然のことです。

大樹としても、菜月に対して何か思うところはあったのかもしれませんが、彼が菜月の交際関係を尋ねているのは、彼女へのアプローチというわけではないのです。

ほとんどネタバレになってしまいますが、順と拓実と菜月の関係、順に嫉妬する菜月、そして菜月ではなく順に対する大樹の様子に注目して見てみると、本作はより面白く感じられるはずです。

【解説】『悲愴』と『Over the Rainbow』、ミュージカル「青春の向う脛」の構成の妙

【解説】『悲愴』と『Over the Rainbow』、ミュージカル「青春の向う脛」の構成の妙(C)KOKOSAKE PROJECT

順たち四人が実行委員を任された、地域ふれあい交流会。そこで上演されるミュージカル『青春の向う脛』は次のような話です。

貧しい暮らしをしていた、ある少女。少女はお城の舞踏会に憧れており、自分もそこへ行きたいと願っています。しかし、舞踏会だと思っていた場所は実は処刑場であり、そこでは毎夜罪人たちが罰を受けていたのでした。

処刑場でも今の生活から抜け出せるのなら……と、少女はあらゆる罪を重ねます。しかし、町の人はみなあてずっぽうに犯人を捜すため、少女が罪に問われることはありません。

 

そんな少女のもとに、謎のたまごがやってきてこう言います。この世でもっとも邪悪な罪は、言葉で人を傷つけることだ――。

あらゆる言葉で村の人々を傷つける少女。しかし、彼女は罪に問われることはなく、代わりに村から追い出されてしまいます。そのショックで、少女は言葉が話せなくなってしまいました。

森に迷い込む少女は、そのまま倒れ込んでしまいます。そこへ、森にやって来ていた王子が駆け寄り彼女を優しく介抱しました。

王子と出会い、やがて彼を好きになった少女の心は王子への愛の言葉であふれていきます。しかし、声を出せない少女は、その気持ちを伝えられないことにもどかしさを覚えます。

 

そんなある日、王子が暗殺されそうになる事件が発生し、少女に容疑が向けられます。声が出ない少女は疑いを晴らすことができません。王子の必死の弁護もむなしく、少女は処刑台に送られます。

絶望する王子。涙する少女。その少女の涙が地上に落ちたとき、奇蹟が起きるのでした。大地が芽吹き、花が咲き、鳥がやってくる。少女の心のなかの言葉が、歌に乗せて紡がれていく――。

その歌によって、王子も人々も、少女の本当の気持ちを理解します。そして、誰もが少女の罪を赦してくれるのでした。少女がみんなの優しさや心への感謝を伝えたいと思ったとき、失ったはずの言葉が戻ってきた……という話です。

 

もちろん、この話は順の過去の経験がモチーフになっています。言葉による罪もたまごの存在も、かつて彼女が経験し見てきたものです。作中では、ミュージカルの上演に意欲を見せる順が、自分の過去の話を物語にしてほしいと拓実に提案しています。

そのため、このミュージカルにおいて少女が順、王子が拓実を思わせるのは自然なことです。偶然にも配役もそのようになっています。

しかし、順は後述するある出来事がきっかけとなり、ミュージカル当日に失踪してしまうことに。彼女を見つけて連れ戻すまでの間、菜月が順の代役を務めることとなります。

そして、少女が村から追い出され、声を失い心の歌を歌う場面で、順が少女の心として登場。二人一役の体制で話が進んでいくという「奇蹟」が起きるのです。

 

ラストで歌われるのは、ベートーヴェンの『ピアノソナタ第8番 悲愴』に合わせた『心が叫びだす』。そして、ミュージカル『オズの魔法使い』で歌われる『Over the Rainbow』に合わせた『あなたの名前呼ぶよ』。この2つの歌が、調和の取れた旋律で同時に歌われます。

『心が叫びだす』は、悲しいという気持ちすら受け入れてこの世界を愛するという歌であり、順と大樹が歌うことに。そして『あなたの名前呼ぶよ』は、美しいこの世界を通じてあなたを愛するという歌であり、拓実と菜月が歌うことに。

ミュージカルの物語と順の視点、ヒロイン二人の表裏、それぞれの歌の意味と歌い手の組み合わせが、綺麗なハーモニーを奏でていく……。こうした関係にも注意して見ると、本作をさらに楽しめるでしょう。

【解説・考察】『ここさけ』のタイトルから言葉と心の機微を考える

【解説・考察】『ここさけ』のタイトルから言葉と心の機微を考える(C)KOKOSAKE PROJECT

『心が叫びたがってるんだ。』というタイトルのとおり、本作は心や気持ちを伝えることが重要なテーマとなっています。

しかし、冒頭から順の言葉に対するトラウマを描いているように、作中では心ではなく、先に言葉へ焦点を当てているのがわかります。

気持ちを伝えるのは言葉です。ここでいう言葉とは、単に声や文字だけではなく、身振りや手振り、歌といった表現なども含まれます。心と言葉は不可分なもの。本作では、心と言葉の関係が、登場人物ごとに形を変えて描かれていきます。

順は声を出すことができないものの、その挙動はとてもおしゃべりです。身振り手振りから、考えていることを拓実にすぐ見抜かれてしまいます。

 

そんな順が拓実や菜月、大樹との会話に用いるのが、携帯電話のメッセージ機能です。その入力スピードは尋常ではないほどに速く、彼女が日頃から声の代わりに携帯電話を駆使していることがわかります。

当初の順にとって、声は必ずしも言葉を伝えるための重要なものではありません。しかし、声が出せないというのは、母親やクラスメイトに対して、何を考えているのかわからないという印象をあたえる原因にもなっています。そのため、彼女は現状のままでいることを良しとはしません。

そこで、歌が重要な役割を果たします。自分の気持ちを歌で表現すれば腹痛が起こらないと知った順。彼女は歌こそ自分の探していたものだと言わんばかりの様子で、練習に打ち込みます。そうして、ミュージカルは滞りなく上演されるはずでした。

 

交流会の前日、順は偶然にも拓実と菜月の会話を立ち聞きしてしまいます。その内容とは、かつて二人が付き合っており、会話の内容から二人がまだ少なからず互いを想っているというもの。二人の話を聞いて順はショックを受け、逃げるようにその場をあとにします。

そうして、順は再び幼少期に自分の声を封じたたまごと再会することに。たまごは順に、君は心がおしゃべりすぎる、中途半端に閉じ込めるのは終わりにしようと告げます。

その結果、順は声を取り戻しますが、彼女はミュージカル当日に失踪してしまいます。喋るから誰かが不幸になる、言葉が誰かを傷つけるのだと、順は自分を見つけてくれた拓実にそう言い、ミュージカルの舞台に戻ろうとはしません。

順の失踪の直接の原因には、拓実と菜月の関係があります。声が出せず、まさにコミュ障そのものだった順が、突然に自分を理解してくれた拓実を信頼するのは当然でしょう。しかも、顔立ちもそこそこイケメン。さらっと楽器を演奏しながら歌詞を乗せるといった特技を披露するなど、他の男子学生にはない特徴を持っているのも大きなポイント。順が拓実に恋心を抱くのも無理のない話です。

順の「言葉が誰かを傷つける」というセリフは、おそらく過去の自分に対して放ったものであると同時に、図らずも自分を傷つけた、拓実と菜月の会話そのものを指しているとも考えられます。言い換えればそれは、心に思ったことをそのまま出すと相手を傷つけるという「本音」への恐怖なのでしょう。

「本音」は、出しても出さなくてもやっかいなものであり、同時に大切なものです。

本音の大切さを最初に示したのは、大樹でしょう。彼は、故障によってチームに迷惑をかけているという気持ちを抱いています。その気持ちは自身のフラストレーションと混ざり合って歪に形を変えていき、彼はチームに当たり散らし、さらには声を出せない順を役立たず呼ばわりするなど粗暴な発言へと繋がっていくのです。

その結果、後輩からは陰口をたたかれ、さらには拓実にもその気持ちを見透かされることになります。気がつくのが遅かったとはいえ、「迷惑をかけた」「申し訳ない」と素直にチームメイトや順へ謝った大樹は、おそらく四人のなかで最初に本音の大切さを理解したといえるでしょう。

 

一方、拓実も菜月も、自分の本当の気持ちを隠していました。本音が言えなかったから、二人の関係はうやむやな状態となり、お互いに誤解を招いています。

二人の本音がさらけ出されたとき、傷ついたのは順です。いつの間にか拓実のことを好きになっていた順。けれども彼女は、本音を隠していた拓実の気持ちに気がついていませんでした。

順にとって本音は過去に自分を傷つけたものであり、そして今また、自分を傷つけるものです。本音でまた傷つくくらいなら、あるいは誰かを傷つけるくらいなら、何も喋らないほうが良い。そのことへの自覚が、彼女をミュージカルの舞台に立たせることを恐れさせたのでしょう。

心の叫びとは本音の叫びであり、大樹、拓実、菜月の様子からもわかるように、言葉は必ずしも本音を伝えるとは限りません。

その意味では、順だけが最初から本音で伝え続けていたのでしょう。クラスメイトの前で「私はできるよ」と歌ったり、その挙動で自分の心を見抜かれたり、あるいは大樹に対して素直な気持ちをメッセージで伝えたり……。順の言葉には、最初から嘘偽りのない様子が生き生きと描かれていることに気がつくのです。

【解説・考察】坂上拓実とたまごの妖精の声優がどちらも内山昂輝である理由

【解説・考察】坂上拓実とたまごの妖精の声優がどちらも内山昂輝である理由(C)KOKOSAKE PROJECT

順の声を封印した、たまごの妖精。それはファンタジーの存在ではなく、彼女が自分で作り出したものです。

幼少期の順は、いつか王子様と一緒にお城へ行きたいと願っていました。たまごの妖精は時に王子へ姿を変えることもあります。そのため、彼女にとってたまごの妖精とは、理想の王子が姿を変えたものでもあると考えられるでしょう。理想の王子の言葉なら、聞く気にもなるからです。

たまごの妖精と坂上拓実の2つのキャラクターを演じるのは、どちらも声優の内山昂輝です。このことは何を意味しているのでしょう。それは、たまごの妖精も拓実も、どちらも順にとっての王子様だったということなのかもしれません。

先に述べたとおり、声を出せない順に手を差し伸べた拓実は彼女の思いを後押しし、クラスに居場所を作り、友人をもたらしてくれた存在です。順の目には、拓実はまさに王子様そのものとして映っているはずです。

しかし、拓実がミュージカル内の王子や、順の理想の王子と異なる点がひとつあります。それはもちろん、最終的に順の手には届かないということ。拓実の恋愛感情は、最初から菜月に向けられていました。

結果として、拓実の存在、いや拓実の本音は順の心に蓋をしてしまいます。結果的にそれは順の声を封じたたまごの妖精と、同じことをしているといえます。だから、たまごも拓実も同じ声優なのでしょう。

 

ただし、順が自分で作り出したたまごの妖精とは違い、拓実は彼女の目の前にいる、現実の存在です。拓実の気持ちを知ったとき、順は心を閉ざそうとしましたが、それを許さなかったのもまた拓実なのです。

思わせぶりな様子でそこまで順を追い詰めた拓実のことを酷いと思う人もいれば、彼の存在があってこそ順は復活できたのだと思う人もいるでしょう。

自分や相手を傷つける心。けれども、言わなければ伝わらないのが心。

心のままに叫ぶことの大切さという、ひどくあたりまえのテーマを青春物語として高いレベルで昇華させたのが、本作『心が叫びたがってるんだ。』です。

ストレートすぎるテーマに忌避感を覚える人こそ、だまされたと思って見てください。そこには少し甘酸っぱいながらも、心と本音に対して真摯に向き合う青春物語が描かれています。

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※2019年9月現在の情報です。

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