映画「文豪ストレイドッグス DEAD APPLE」は「ヤングエース」で連載中の漫画を映画化した作品です。
太宰治や芥川龍之介、中島敦といった実在する文豪が登場するこのアニメですが、文豪にちなんだ異能力を駆使したアクションシーンが迫力満点でした!
今回は映画「文豪ストレイドッグス DEAD APPLE」の個人的な感想やネタバレ解説を書いていきます。
目次
映画「文豪ストレイドッグス DEAD APPLE」を観て学んだ事・感じた事
・国語が好きな人はもちろん、苦手な人でも文豪に親しめる!
・「文スト」のテーマのひとつである「救済」が描かれている
・既存&新規キャラクターが多数登場し、キャラ同士の絡みがみれる
映画「文豪ストレイドッグス DEAD APPLE」の作品情報
公開日 | 2018年 |
監督 | 五十嵐卓哉 |
脚本 | 榎戸洋司 |
出演者 | 上村祐翔(中島敦) 宮野真守(太宰治) 小野賢章(芥川龍之介) 谷山紀章(中原中也) 諸星すみれ(泉鏡花) 中井和哉(澁澤龍彦) |
映画「文豪ストレイドッグス DEAD APPLE」のあらすじ・内容
不可解な「霧」のなかで、異能力者たちが自らの力によって命を断つという事件が発生します。
関与が疑われる異能力者・澁澤龍彦(しぶさわたつひこ)の確保を依頼された武装探偵社でしたが、社員の太宰治が行方不明となっていました。
異能力が暴走する街で、中島敦と泉鏡花はポートマフィアの宿敵・芥川龍之介と手を組み、事件解決に奮闘します。
原作でお馴染みの探偵社員やポートマフィアはもちろん、テレビシリーズには未登場の内務省異能特務課・辻村深月(つじむらみづき)、新キャラクター・澁澤龍彦なども登場します。
また、織田作之助や坂口安吾、フョードル・Dも活躍するので、原作ファン必見の映画となっています。
映画「文豪ストレイドッグス DEAD APPLE」のネタバレ感想
「自分の異能力との対決」が中二病っぽい
「まよい、あがき、さけぶ。だって僕は生きたかった」。
このキャッチフレーズの通り、生きるために戦う姿が描かれている映画でした。主人公・中島敦はまだまだ未熟な探偵社員ですが、それ故、同僚の泉鏡花と宿敵であるポートマフィアの芥川龍之介と協力し、事件を解決しようと奮闘します。
「文豪ストレイドッグス」というのは「少年の成長」や「救済」をテーマにしていますが、「中二病」も描いた作品だと思うんです。
テレビアニメの第1シーズンのオープニング「TRASH CANDY」の歌詞に、「中二病なしに生きるこの世界を想像してごらんよ。つまんないぜ」というフレーズがあります。
実在した文豪をモチーフにしたキャラクターが、小説タイトル名の付いた技を繰り出す。拗らせた中学生が考えそうな内容ですよね。
「文豪ストレイドッグス DEAD APPLE」の最大の敵は、自分自身の異能力。自分から分裂した異能力と戦うのです。
攻撃パターンも欠点も知り尽くした自分自身の異能力は手強く、なかなか倒せません。なんとか勝利を収めた鏡花と芥川に追いつこうと戦う敦は「自分にとって異能力とは何か?」を考えます。
自らの異能力によって苦しめられた経験を持つ敦。虎に変身してしまうという能力を持っていたため、過去には孤児院で虐待を受けたり、挙げ句の果てには追いだされたりしていました。
自らの異能力は憎しみの対象だったのです。しかし、戦いの中「生きるために異能力を使っている」という事実に気がつきます。そう気づけた時、自らの異能力に勝利し取り戻すことができたのです。
この各キャラクター達が自分の異能力と戦うシーンは、自分自身の影と戦っているように描かれており、アニメとしてとてもわかりやすいです。ジブリ映画の「ゲド戦記」にもありますが、少年が大人になるにはまず自分自身の暗い部分と対峙しなければなりません。
また、監督自身が「この作品には、光や色に意味がある」と語っている通り、白い霧、白虎、骸砦の三人組の白装束、ドクロの白から、死のリンゴの赤へと変わっていきます。ドクロや白装束も中二病っぽいですよね。
「夜の霧」で始まり「朝焼け」でラストを迎えるストーリー展開も最高です。登場人物たちが迷い、足掻き、叫んでいた夜が開け、綺麗な朝焼けで終わりを迎えます。
中二病感満載の内容なのに絵が美しく、ストーリー展開もこだわりが散りばめられているため、「いい映画を観たなぁ」という気分にさせてくれる作品でした。
敦と芥川、太宰とフョードル、中也と安吾、敵対する者同士が手を組む
今作は劇場版ということもあり、敦と芥川、太宰とフョードル、中也と安吾など、普段敵対する者同士が手を組むというストーリー展開も楽しめます。原作ではなかなかお目にかかれないキャラクター同士の絡みを、アニメで見ることができるのです。キャラ同士の絡みが好きなファンには、たまらない内容です。
敦と芥川が喧嘩しながらも、目的のために行動を共にするシーンは、思わず笑ってしまいますよね。そこに冷静な鏡花が加わり、シュールな漫才コンビのように見えてしまいます。
敵対している福沢諭吉と森鴎外が、手を組むシーンも最高でした!正義の象徴である武装探偵社の社長・福沢と悪の化身ポートマフィアの首領・森。お互いが自分の異能に手こずっていて、全く決着がつきません。そこで取った行動が、福沢が森の、森が福沢の異能力を倒すという選択でした。
老剣士と熟練の医者という渋い2人が背中合わせに戦う姿に、悶えたファンも多いのではないでしょうか。
また、もともと「武装探偵社」の物語なので、アクションだけではなく頭脳戦も健在。各キャラクターそれぞれ胸に秘めた思惑があり、その思惑がぶつかり合うさまが推理小説のようです。
なかなか胸の内に秘めた思いが読み取れない太宰とフョードルの掛け合いを、「どういう意味で言っているのか?」と考えてみるのも面白いかもしれません。頭脳派の2人なので、セリフひとつひとつに裏があるのがわかってしまい、言葉通りに受け取れません。
クセのある2人が、心から手を組みたいなんて思っているわけないですもんね。原作者もフョードルが一番嘘を吐いていると語っており、澁澤には「君の求めている能力というのは、太宰くんの異能無効化だよ。取り出すには、殺すしかないよ」と吹き込み、太宰には「澁澤を止めるために、2人で協力しよう」と言っています。
頭脳派として描かれている太宰と澁澤を相手に、嘘を吐くフョードルが強大な敵だとわかるエピソードです。フョードルの何を考えているかわからない、妖しい頭の良さは原作にも繋がるので、ファンはこの映画を観ておくべきでしょう。
中也が安吾に呼び出されるというシーンは、映画だけではよくわかりませんが、入場者特典である小説「太宰、中也、十五歳」にヒントがあり、色々と考察してしまいます。政府側の人間である安吾が、なぜポートマフィアの幹部である中也を呼び出せたのか?
「荒覇吐」であった中也と政府にはどんな関係があるのか?「荒覇吐は政府が作った説」や、「中也は政府に借りがある説」など、ファンの間で議論されていますが、原作でも答えが出ていないためまだまだ謎は残ります。
「双黒」結成に悶絶!
「双黒」時代の太宰と中也が、龍頭抗争で共に戦うシーンは鳥肌ものです。かつて、ポートマフィアの主要戦力として裏社会で恐れられていた太宰と中也。2人は十代ながらも、「子供だから」と相手を油断させ、大人顔負けの強さで敵を殲滅します。
「人間失格」という異能無効化が使える頭脳派の太宰と、「汚れちまった悲しみに」という重力を操ることのできる格闘派の中也。向かうところ敵なしの2人は、「双つの黒」としてその名を轟かせていました。しかし、原作の漫画では「元双黒」としての2人は描かれているものの、実際に戦っていた頃のエピソードは描かれていません。
過去の2人を見せてほしい!そんなファンの要望に答えてか、映画の冒頭で「双黒」時代の2人の活躍を観ることができるんです。
司令塔として太宰が中也に指示を出し、バイクに乗った中也が壁を滑走。映画ならではの豪快な演出に、冒頭から引き込まれました。
ラストの、中也が太宰を死から救うシーンにも感動します。「白雪姫」を彷彿とさせる赤いリンゴに刺さっていた果物ナイフで刺された太宰ですが、そんな太宰を助けるために巨大な龍が暴れる中、「汚れちまった悲しみに」の最高形態である「汚濁」状態の中也が飛行機から飛び降り、元相棒の名前を叫びながら暴れるのです。この汚濁状態は、中也は自分で止めることができず、暴走が続けば死んでしまいます。止める方法は、太宰の異能無効化の能力のみ。
意識のない太宰を救うために中也は汚濁状態になるのですが、これって太宰のことを信じていないとできないことだと思います。頭の良い太宰は、自分が死にかけても中也が助けてくれるというところまで予測しフョードル達と手を組んだふりをし、また中也も太宰の計算高いところを信頼し、命がけで助けに向かったのです。
映画入場者特典の「太宰、中也、十五歳」に書かれているとおり、中也はいまでも太宰の忠犬なのだなとわかる部分になっています。散々、いがみ合っている2人ですが、やっぱり相棒なんですね。
敵にも「救済」を向けているのが良い!
かつて太宰はポートマフィアの最年少幹部として、殺戮を繰り返していました。そんな彼の夢は「自殺をすること」です。
しかし、頭の良さ故、自殺を試みても自分が助かるシュミレーションを無意識のうちにしてしまい、毎回自殺に失敗してしまうのです。そんな彼を救ったのは、かつての友人・織田作之助の死に際の言葉でした。
「人を救う側になれ。どちらも同じなら良い人間になれ。弱者を救い孤児を守れ。正義も悪もお前には大差ないだろうが、そのほうが幾分か素敵だ」
この言葉により、太宰はポートマフィアを抜け、探偵社員としてヨコハマの街を守る仕事を始めたのです。織田から向けられた救済を、孤児であった敦に向ける太宰。「文豪ストレイドッグス DEAD APPLE」ではこの救済を、悪役であるはずの澁澤にも向けています。
異能力者が自らの力により亡くなるという事件を引き起こし、世界中を恐怖の渦に巻き込んだ澁澤。そんな事件を起こした理由は「退屈だったから」。これもまた「中二病」の要素を感じます。彼は異能力者としても強く頭も良いため、「私の予想を超えるものなどこの世に存在しない」と言い放っています。
どこか、かつての太宰を思い起こさせますね。
これと対照的に描かれているのが、主人公・敦です。孤児院から放り出され、行くあてもなく彷徨っていたところを太宰に助けられ、彼を親のように慕っています。
敦は「仕事があること」「帰る家があること」「人のために役立つこと」に喜びを感じ、「生きること」に執着しています。映画では、自らの異能力と戦う中で孤児院時代の記憶を思い出すのですが、それは澁澤を殺した記憶でした。
敦は異能力により傷つけられても再生をします。その実験をしに澁澤は孤児院を訪問。そして、敦を拷問したのです。自らの身を守るため澁澤を殺してしまった敦の「だって僕は生きたかった!いつだって少年は生きるために虎の爪を立てるんだ!」というセリフがグッときます。
「消えない傷、それが異能力」というキャッチコピー通り、異能力を保持している人間は、決して幸せ者ではないのです。それでも生きるために足掻く姿が美しく、少年漫画としての熱さを感じさせます。
そんな生きる活力に溢れた虎の能力を持つ敦という人間は、澁澤にとって退屈を拭い去るかもしれないものでした。太宰は敦を守りたい反面、“幽霊”となった澁澤も救いたいという思惑を抱えて、彼は骸砦の三人衆として手を組んだのではないでしょうか。
昔の文豪のみならず、現役作家もキャラクター化
太宰治の「人間失格」、芥川龍之介の「羅生門」など、日本人なら誰もが知っている文豪が小説にちなんだ異能力を駆使して戦うアニメとなっていますが、劇場版には辻村深月と澁澤龍彦の様な最近の作家も登場します。
異能力「きのうの影踏み」を操る辻村深月は現役の直木賞作家で、内務省異能特務課の異能力者として活躍します。スピンオフ作品はありますが、原作漫画では主要キャラクターとの絡みがなかったため、劇場版でアニメとなって動いている姿を目にし、喜んだファンも多いはずです。
「文豪ストレイドッグス」シリーズの良いところのひとつに、文豪の名前や作品を覚えられる点があります。中島敦の「月下獣」、与謝野晶子の「君死給勿(きみしにたもうことなかれ)」、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」……。授業であれだけ覚えられなかった作者名とその関連キーワードが、かっこいいキャラクター化された途端、頭に入ってくるのです。
十代のファンが多い漫画ですが、わたしも学生の頃に出会っていたらなぁとこのアニメを見て思います。国語の授業を受けている現役学生はもちろん、国語が好きだった大人も楽しめる作品です!
テレビシリーズと同じスタッフが集結
この映画はオープニングがGRANRODEOの「Deadly Drive」、エンディングがラックライフの「僕ら」。原作者の朝霧カフカや漫画家の春河35が全面協力しています。
アニメーション制作はボンズで、声優陣もテレビシリーズと同じということで、アニメを毎週追っていたファンにとってありがたい制作陣です。特に、オープニングで「Deadly Drive」を流しながらキャラクター紹介をしてくれる演出は、ファンはもちろん初めて観た方も「かっこいい!」と感じると思います。
また、作中で亡くなってしまったためもう登場しないと思われていた織田作之助が、ちょっぴり出ていたシーンも最高にファン思いの内容でした!声優の諏訪部順一の声も、渋くてかっこよかったですよね。
原作漫画はもちろん、関連小説やテレビシリーズのエピソードも交えて映画化されており、DVD特典の「BEASTー白の芥川、黒の敦ー」と「太宰、中也、十五歳」に収録されている特別対談からも汲み取れるように、制作陣がこの作品を愛しているのが感じられます。
テレビシリーズが「ただいま」で終わり、劇場版は「いってきます」で終わるのがニクい演出となっています。映画公開後、テレビシリーズ第3弾の制作が決まったのも、嬉しいニュースです。
「出し惜しみはしないで作ろう」という制作陣の意気込みがファンに届き、ファンの熱意が公式に届いた。これも作品を作り続けたいスタッフと、作品を観続けたいファンとの「救済」の連鎖ではないでしょうか。
そんな一連の出来事も、映画を楽しむ要素のひとつだと思いました!