映画『プラダを着た悪魔』は『レ・ミゼラブル』でアカデミー助演女優賞を受賞したアン・ハサウェイ主演のヒューマンドラマです。ファッション誌の裏側をスタイリッシュに描いていて、全世界で大ヒットを記録しました。
本作の衣装にはプラダなどのラグジュアリーブランドが数多く登場していて、ファッションにも注目が集まりました。
今回は映画『プラダを着た悪魔』の感想・解説を書いていきます。若干のネタバレも含まれているのでご注意ください。
目次
映画「プラダを着た悪魔」を観て学んだ事・感じた事
・ファッションが好きな人にオススメの作品
・職場環境は人の雰囲気をかえると感じた
・転職を考えている人に観てもらいたい
映画「プラダを着た悪魔」の作品情報
公開日 | 2006年11月18日 |
監督 | デヴィッド・フランケル |
脚本 | アライン・ブロッシュ・マッケンナ |
出演者 | ミランダ・プリーストリー(メリル・ストリープ) アンドレア・サックス(アン・ハサウェイ) エミリー・チャールトン(エミリー・ブラント) ナイジェル(スタンリー・トゥッチ) ネイト(エイドリアン・グレニアー) |
映画「プラダを着た悪魔」のあらすじ・内容
アン・ハサウェイ演じるアンドレア・サックス(以下、アンディ)は、オシャレに無縁でやぼったい雰囲気の女性。ジャーナリストを夢見てニューヨークにやってきて、世界的有名ファッション雑誌のカリスマ編集長ミランダ・プリーストリーのアシスタントとして働くことになります。
ミランダは傲慢な態度で人使いが荒く、これまでにもアシスタントが次々と代わっていく悪魔のような編集長でした。ひたむきに働くアンディはミランダから少しずつ認められていくようになり、ファッショナブルで美しくなっていきます。
ラグジュアリーブランドファッションに身を包む主人公の美しさに息をのむスピード感ある爽快な作品です。
映画「プラダを着た悪魔」のネタバレ感想
ファッション誌で働く女性を描いた作品
『プラダを着た悪魔』は、世界的有名ファッション誌で働く女性の洗練されていく姿がテンポよく描かれていて、観ていて爽快感を感じさせます。
登場するラグジュアリーブランドのアイテムも美しく、ファッションショーを観ているようで見応えがあります。
出演者も個性的でインパクトのある演技が光ります。カリスマ編集長のブラック上司ぶりや仕事と恋に悩む新米アシスタントの成長していく姿は、転職を考えている人の共感をよぶでしょう。
1番の見どころはブランドファッションの数々
本作の1番の見どころは、なんといってもラグジュアリーブランドのファッションです。冒頭から次々と有名ブランドの洋服や小物が登場し、ファッションショーのようにいろいろなアイテムを着こなす出演者たちは圧巻です。
ミランダ初登場シーンのときに持っていたバッグやパリコレのパーティーで着ていたドレスはプラダです。映画タイトルに冠しているだけあって、重要シーンにはプラダのアイテムが登場しています。
【解説】ファッションに無頓着な女性の解放をシャネルジャケットが演出
映画の初めのアンディは「ファッションに無頓着」な女性として描かれています。ファッションに興味ないことが彼女のアイデンティティのようなもので、同僚からそのことを指摘されたりもしています。
また、アシスタントの仕事を始めたときは、上司からの指示にメモをとらない仕事のできない女性としても描かれています。
本作でアンディはヴィヴィアン・ウエストウッドをよく着用していたようですが、仕事中に着ているジャケットやパリに同行する時につけていたネックレスはシャネルのものです。
ファッションに無頓着だったアンディが洗練され、同僚から履いているシューズを聞かれた時も「シャネルのブーツ」と笑顔で答えています。
シャネルは女性を窮屈なコルセット(女性を縛るもの)から解放させて、仕事のできる服をつくったデザイナーとして知られています。「ファッションに無頓着」という凝り固まった自意識を解放させ、生き生きと働き始めたことをシャネルアイテムが演出しているようでした。
エルメスのお皿やフェラガモのケースも登場
アン・ハサウェイが身にまとう衣装以外にも、ブランド品が多く登場しています。何気に持っている紙袋やタイを入れているケースなど、よく見るとブランドロゴが書かれています。
他にも、アンディはミランダからの依頼で用意したステーキを「いらない」と言われてしまいます。その時にお皿ごとゴミ箱に捨てるシーンがあるのですが、そこで使われているのはエルメスのお皿です。アンディが持っている紙袋や、ナイジェルが初登場シーンで持っているタイケースなどがフェラガモです。
ラグジュアリーブランドのショッパーは、季節や年度によってデザインや素材がかわります。ブランドの顧客によっては「あの時のショッパーが好きだった」ということもありますが、今はもう見ることができないショッパーのデザインを本作を通じて観ることが出来るのです!
カリスマ編集長ミランダ(メリル・ストリープ)の演技がリアル
映画では、メリル・ストリープ演じるカリスマ編集長のミランダ・プリーストリーが登場します。ミランダは新人秘書が次々と辞めていくほど、傲慢な仕事ぶりで部下からはおそれられている存在です。
彼女が最初に登場する出社シーンでは、お高く留まっている編集部の先輩たちが慌てながらオフィスや身だしなみを整えるシーンがあります。ここは映画の序盤の見どころです。
ファッション業界の人間は会社の上層部やデザイナーと会うときに、とてもプレッシャーを感じるものです。上司がやってくるとなると、オフィスや自分の身だしなみを整えるようなところがあるので、ミランダの登場シーンは業界をリアルに描いていると思いました。
映画では他のスタッフがミランダにエレベーターを譲ゆずるシーンもあり、ミランダは一般的な上司より恐れられている存在ということがわかります。
そして、ミランダは2週間でアシスタントをクビにしたり、公私混同で仕事を依頼したり、不遜な態度で歯に衣着せぬ発言をしたりと恐ろしいタイプの上司です。メリル・ストリープが演じるミランダのの演技は本作の魅力の一つですね。
公私混同で仕事を依頼してくることは問題ですが、それ以外の傍若無人ぶりはどこか憎めません。「新人に期待している。新人がついてこられるか確認している」と感じさせるからでしょう。アンディが洗練されて仕事をしっかりこなすと、ミランダは嬉しそうな笑顔を一瞬見せるなど良い面も多いです。
アンディに感情移入しながら視聴していると「厳しい上司に認められた」達成感を疑似体験することができます。
ミランダは人間くさくて美しい
ミランダは「プラダを着た悪魔」と評されていますが、個人的には悪魔には感じませんでした。公私混同してくることは問題ですが、それ以外の無理な依頼や不遜な態度をとってくる人はどの業界にもいそうなものです。
ミランダは離婚歴があり、子どもを大切に育てています。ミランダは気合が入りすぎているだけで、もっと肩の力を抜いて余裕があれば笑顔にもなれるし、多少のミスにもイライラしないですむと思います。
しかし、それができないのは私たち同様、必死で生きているからなのでしょう。
ミランダが仕事と交通機関の影響で子どもの発表会に行けなくなり、落ち込んでしまうシーンも描かれていましたが、どんな怖い上司も私たちと同じ人間なのだと感じさせるワンシーンでした。ミランダの場合は、発表会に行けなくなったのはアンディのせいだと言って八つ当たりをしてしまいます。
八つ当たりしてくる上司は会社によってはいるかと思いますが、そういった人間臭さがまた良かったですね。
【考察】ミランダが怖いのはプレッシャーを感じてるから
ミランダに怖い印象を受けるのは、仕事で失敗することができないプレッシャーをミランダ自身が感じているからだと思いました。
編集長は雑誌の代表です。日本の雑誌編集部の場合は編集長のみ社員で、それ以外は契約社員や業務委託契約のスタッフ、外注企業であることも多いものです。雑誌の評価は編集長の評価へと直結するので、編集長というのは相当のプレッシャーを背負って仕事をしているので、ミランダも失敗できないプレッシャーで厳しくなっているのかもしれません。
映画の冒頭でミランダがモデルを酷評したり、アシスタントの仕事を否定したりするシーンもあります。物事に対して批判的なミランダだから、悪い評価を下したりケンカ腰になったりするのではなく、少しでもいいものを作ろうと必死だから妥協が許せないのだと感じました。
メリルストリープはコート投げのシーンで30回のNG
ミランダがアンディの仕事中のデスクにコートを投げつけるシーンがありますが、このシーンはメリル・ストリープにとって難しいものだったそうで、30回以上も撮り直したのだとか。
しかし、それは本作でメリル・ストリープのイメージが傲慢なものにならないように、マスコミ向けに「傲慢な演技は難しかったアピール」をしているだけのような気もしました。
ミランダの吹き替えの声は夏木マリ
メリル・ストリープの日本語吹き替えの声は夏木マリが声を担当しています。夏木マリのイメージと本作のメリル・ストリープのイメージがあっていて、吹き替え版で見るのもおすすめです。
品があるけど芯のある気の強い女性像を演じています。ソフト版のミランダは夏木マリでなく宮寺智子が担当しています。
ちなみに、夏木マリと言えば映画「千と千尋の神隠し」の湯婆婆の声も演じましたね。
アン・ハサウェイは最初から美しい
アシスタントになる前のアンディは冴えない女の子という設定ですが、最初から相当な美しさを兼ね備えています。もう少し冴えない印象には仕上がらなかったのか?とも思いました。
たしかに、映画の最初の頃に着ている服は洗練されていないのですが、もともとのスタイルがいいので着こなせてしまっているのですよね。
映画はアンディが濡れた髪で身体にタオルを巻いて服を選ぶシーンから始まり、“美女”としての先入観ができてしまっています。ナチュラルメイクのアン・ハサウェイの肌も格別に綺麗です。
普段着に着替えたアン・ハサウェイの髪の毛はボサボサでブローをしていないようですが、地毛が綺麗なので、ラフにセットした美女という印象です。
だからといって、『ハリーポッター』シリーズのハーマイオニー並みにボサボサヘアに仕上げると、今度は現実味がなくなります。ハリウッドスターの美人主演女優をさえない女性にかえる演出は、映画業界で求められる技術なのかもしれません。
仕事の忙しさとうぬぼれから恋人と疎遠に
アンディは仕事が忙しくなったことと洗練されていく自分への自惚れから、恋人や友人とすれ違います。人が羨むような仕事をするようになっても、仕事で成果が出せるようになっても、自惚れることなく周囲の人を大切にしようと考えさせられました。
自分を失っていくアンディは、クライマックスで本当に大切なものに気づきます。突然思い切った行動に出て圧巻のラストを迎えます。
アンディの仕事ぶりに疑問を感じるところも
アンディは最初モタモタと働いていますが、しだいにテキパキと働くようになっていきます。業務内容は主に雑用で、編集者としての仕事はあまりしていません。まだ入社して数カ月ですので、雑用がメインの仕事だったのかもしれませんが、もう少し仕事を続けていたら得るものは大きかったと思います。
また、最後のアンディの選択には疑問を感じました。ミランダの命令は公私混同ですし、プライベートの時間も邪魔されるものです。
しかし、上司に言われて買い物に行ったり、資料を用意したり、コケにされたり、不条理を感じたりはどの業界にもありそうなものです。途中で仕事を放棄するアンディには「最後まで仕事しろ」とちょっと憤りました。
雑誌「VOGUE(ヴォーグ)」での実体験を小説化?続編も?
本作の原作者のローレン・ワイズバーガーはファッション雑誌「VOGUE(ヴォーグ)」で働いていました。その時の体験をもとに書いたとも言われています。出版業界も結構狭い業界なので、「大物編集長を批判するような暴露本を出して著者は大丈夫なのか」と心配にもなりました。
ローレン・ワイズバーガーの著作に「プラダを着た悪魔 リベンジ!」などの続編が出ています。他にも、大手出版社の編集者の恋愛を描いた「ハリー・ウィンストンを探して」も執筆しています。暴露本のような小説を出した彼女のこれからの作家人生にも注目です!
モデルとなった編集長アナウィンターは沈黙をつらぬいていた
カリスマ編集長ミランダのモデルであるVOGUE編集長アナ・ウィンターは、本作が公開された時コメントを発表しませんでした。
初めてコメントを出したのは2016年“Women of the Year”の授賞式の時で、本作の原作に触れて「プラダのとても広い心、そして広いヴィジョンを祝福したい」とコメントしたそうです。
たしかに、プラダはよくこの映画の制作に許可をしましたよね。映画にはプラダや他のラグジュアリーブランドのアイテムも登場し、アイテムお披露目会のような映画だったから許可したのかもしれません。
日本で公開される映画タイトル『プラダを着た悪魔』は“プラダの数ある顧客のなかに悪魔もいる”と感じさせるもので、顧客層の広いブランドともイメージできます。この和約は、プラダジャパンに少し配慮したのかとも思いました。
ブランド名が出ることを許可したプラダに驚き
ラグジュアリー業界は、自社のブランド名やブランドロゴを出す雑誌やメディアを厳選します。理由は色々あるのですが、ブランドイメージを損なわないように細心の注意をはらうからです。
それなのに、プラダは本作の映画タイトルにブランド名を盛り込むことを許しています。正式に使用許可をとって許諾しているのかは不明ですが、ブランド名を盛り込んだ本作の公開を阻止していません。これには衝撃を覚えました。映画の内容も、ちょっととがった内容で、『ティファニーで朝食を』のティファニーとは違っています。
映画の原題は『The Devil Wears Prada』で、直訳すると「悪魔はプラダを着ている」です。「場合によってはブランドイメージが失墜する可能性もあるのに、プラダは名前を使われてもいいのかな。ブランドイメージを損なう可能性があっても、映画タイトルで宣伝したいほど、会社の業績がよくないのだろうか」と他人事ながら思ったものです。
結果、本作は大ヒットして、プラダのイメージも損なわれていないので、映画タイトルにブランド名を使うことを許可した責任者の判断は素晴らしかったと思います。
職場環境は自分の雰囲気をかえる
アンディはファッションを扱う出版社で働いているうちに、オシャレで洗練されていきます。ファッション業界で働いているうちにファッションが好きになるというのも、業界あるあるかもしれません。
毎日、最新のアイテムをみているうちに興味がわいてくるので、接触回数が多いほど親和性が増すという単純接触効果の研究結果もあります。自分が憧れている業界があって、その業界の人たちのような雰囲気になりたいなら、勇気を出してその業界に転職してみるのもいい選択だと感じました。
映画と原作はラストなどが少し違う
映画と原作は設定が少し違います。原作はもっとミランダが嫌な上司に描かれていて、映画のラストは原作にないエピソードも盛り込まれています。原作と映画の好みは分かれるところですが、映画のほうが好きという人も多いようです。
映画のほうがより感情を揺さぶるように演出されていて、ミランダとアンディの関係が良好に描かれています。冒頭部分も映画はスタイリッシュでおしゃれな演出が目を引き、「いよいよ映画が始まる」といったワクワク感のあるオープニングです。
オープニング曲の「Suddenly I See」は秀逸
本作の魅力を高めているのは、オープニングに使われているケイティー・タンストールの「Suddenly I See」という曲です。
本曲は大ヒットして、同曲が収録されているアルバム「Eye to the Telescope」は全世界で400万枚を売り上げました。イギリス人のケイティー・タンストールは2008年のSUMMER SONIC出演で来日もしています。
アップテンポのメロディも爽快ですし、日本語訳も秀逸です。「突然わかったの。これが私のやりたいこと」という歌詞は、何かを頑張ろうとしているときに聴くとテンションがあがります。PVは電車が疾走するアニメーションと歌うケイティーが合成されていて、イギリスのコメディアンのモンティ・パイソンの映画をどことなく彷彿させます。
今年公開なら予告編は違う切り口になりそう
映画の予告編は、その時代のトレンドに合わせた内容に編集され、たくさんの観客を映画館に呼び込むためにつくられます。そのため、場合によっては映画の内容と予告編の雰囲気が少し違う作品も存在します。
例えば、映画『ノー・マンズランド』はシリアルな反戦映画なのに、予告編はコミカルなコメディタッチに仕上がっています。予告編と内容のあまりの乖離にちょっと問題になりました。
本作『プラダを着た悪魔』もオシャレなファッションムービーとして予告編が編集されていますが、2018年に予告編を作るなら違う切り口になると思います。
ひょっとしたら「ブラック上司と決別して自由を手にした女性」として描かれかもしれません。本作はファッション以外にも仕事に悩む女性という切り口でも見応えのある作品だと思います。2006年頃につくられた予告編だけに騙されず、仕事に悩んでいる人はぜひ一度ご覧ください。
映画「プラダを着た悪魔」は仕事の悩みを一蹴してくれる作品
映画『プラダを着た悪魔』の感想と解説を紹介しました。
本作は、ラグジュアリーブランドのアイテムが続々と登場するスタイリッシュな映画です。ブラックな上司に悩む女性の姿も描かれていて、仕事に悩む人は共感する部分も多いのではないでしょうか。
ブラック上司を演じきったメリル・ストリープの演技力は圧巻ですし、悪印象をもたせずどこか愛されキャラにしあがっているのは、メリルの演技力のたまものだと思います。アン・ハサウェイ演じるアンディのラストの選択に疑問を感じるところはありますが、自分に与えられた仕事を夢中でしているうちに、本当にやりたいことを見つける姿には感動を覚えます。
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