映画「15時17分、パリ行き」は「硫黄島からの手紙」「アメリカン・スナイパー」などで知られるクリント・イーストウッド監督が手がけました。
この映画は2015年にフランスで実際に起きたテロ事件「タリス銃乱射事件」が元になってた実話であり、テロ事件に立ち向かう勇敢な3人の若者が描かれています。
「15時17分、パリ行き」の凄いところが、実際にテロ事件に立ち向かった3人の若者を映画の中でも本人役として起用している点です。他にも、この事件に関わった人が何人か登場するという、今までにない撮影方法をしています。
そんな映画「15時17分、パリ行き」を観た感想やネタバレ解説を紹介していきます!
目次
映画「15時17分、パリ行き」を観て学んだこと・感じたこと
・テロリストに立ち向かう男たちがカッコいい
・幼少期からの3人の絆が素晴らしい!
・主役を本人達が演じるという今までにない映画
映画「15時17分、パリ行き」の作品情報
公開日 | 2018年2月(日本では2018年3月) |
監督 | クリント・イーストウッド |
脚本 | ドロシー・ブライスカル |
原作 | タリス銃乱射事件(実際のテロ事件) |
出演者 | スペンサー・ストーン(本人) アンソニー・サドラー(本人) アレク・スカラトス(本人) ジョイス・エスケル(ジュディ・グリア) マーク・ムーガリアン(本人) イザベラ・リサチャー・ムーガリアン(本人) |
映画「15時17分、パリ行き」のあらすじ・内容
幼馴染のスペンサー、アンソニー、アレクの3人はヨーロッパに旅行に来ていて、アムステルダムからフランスのパリに行く高速列車に乗り込みます。
走行中の列車という密室の中で、銃を持ったイスラム過激派の男がテロ行為を行います。最悪な事態に遭遇してしまった3人はテロリストに立ち向かいます。
実際に2015年8月21日にフランス国内で起きた「タリス銃乱射事件」が描かれていて、テロリストに立ち向かう様子はリアリティがあります。
映画「15時17分、パリ行き」のネタバレ感想
実話ベースに進むストーリー。日常に突如起きるテロ事件が怖い
この映画は実際に起きたテロ事件が元に作られているので、旅行中のシーンや他愛もない会話はものすごく平凡です。仲のいい友達たちと旅行を楽しむ3人のアメリカ人ですが、その楽しそうな様子は万国共通ですね。
そして、その平凡な日常の中に「非日常的」なテロ事件が起きることで、テロに対する恐怖や突拍子のなさがリアルに描かれています。
日本でも東海道新幹線の中で刃物を持った男が殺傷事件を起こしたり、車内で焼身自殺をして火災を起こすなど、走行中の車内で起こる事件が稀にあります。こういった事件やテロ行為は多民族国家のアメリカやヨーロッパで起きることが多いですが、どの国や地域にいたとしても、自分がテロ行為に巻き込まれる可能性があるということが感じられました。
このテロ事件(タリス9364号列車内銃乱射事件)は2015年8月21日に起きていますが、その年の1月7日にはフランス国内で「シャルリー・エブド襲撃事件」が起きています。風刺新聞を発行する新聞社にイスラム過激派が乱入し、12人が死亡、11人が負傷した大きなテロ事件です。シャルリー・エブド襲撃事件は日本国内でもかなり報道されていたため、記憶にある方は多いかと思います。
そして、その2日後の1月9日にはユダヤ人専門のスーパーマーケットに人質をとった立てこもり事件が起き、5人が死亡しています。テロ事件が度々起きているフランス国内では、かなり警戒されていて、政府や警察も大きな対策をしているわけですが、どうしてもこういった事件を完全に防ぐことは難しいです。
もし自分が言葉もわからない異国の地でテロ事件が起きたらと考えると、その不安や恐怖は想像もつきません。
テロに立ち向かった「ヒーローの人生」を描いた映画
「15時17分、パリ行き」はテロ行為に立ち向かった「行動」よりも、立ち向かった3人の「人生」に重きを置いて描かれています。
この映画はスペンサー、アンソニー、アレクという3人が、幼少期に出会う瞬間から友達になるまでの様子が色濃く描かれています。この映画が実話であり、テロ行為に立ち向かった彼ら3人は有名人でもなく一般市民なわけです。勇気ある行動をした3人のヒーローが、どんな人物でどんな過去を送ってきたのかがざっくりとわかります。
ヒーロー映画に登場する主人公は圧倒的な力を持っているキャラクターが多く、通常の人間とはかけ離れていますが、この物語に登場する3人は私たちと同じ平凡な人間です。彼らの幼少期から今に到るまでの姿を見ると、完璧とは言えない人生を送っていることがわかります。
例えば、幼少期のスペンサーとアレクは学校の先生から注意欠如障害(ADD)を疑われます。授業に集中していないとの理由で、先生が注意欠如障害であると断言するのは賛否があると思いますが…。
そして、スペンサー、アンソニー、アレクの3人はよく校長室に呼び出される問題児です。似ている3人だからこそ友情が深まったわけですが、アンソニーは学校を転校してしまい、スペンサーとアレクも転校にによって離れ離れになります。
成人になったスペンサーは米軍のパラレスキューに入隊するため努力をしますが、奥行知覚のテストで不合格になります。不合格となったスペンサーはSERE(生存・回避・抵抗・脱出)の指導員になることを目指しますが、試験に寝坊してしまったことが原因で落第してしまいます。
スペンサーの人生の失敗を見てみると完璧な人間ではなく、どこにでもいる一人の若者だということがわかります。
偶然に偶然が重なる奇跡のストーリー
ヨーロッパ旅行に来ている彼らはローマやベルリン、アムステルダムなど、様々な都市を訪れています。度々フランスのパリの評判を尋ねますが、あまり良い返事は返ってきません。観光客が訪れる国ランキングの1位はフランスなので、それなりに人気がある国と思っていましたが実際は違うのでしょうかね?
映画の中では「フランス人の横柄な態度」について触れられていたので、フランスの評判が良くなかったのはそれが理由なのでしょう。実際にフランスに旅行に行った人は親切にされなかったのでしょうか。
スペンサーたちは行き先を決めず、行き当たりばったりの旅行をしています。バーで出会った知らないおじさんに、アムステルダムの良さを説かれアムステルダムに行き、クラブでお酒を飲みすぎてしまい二日酔いになっていましたね。
また、フランスを必ず訪れようと思っていたわけでもありませんでした。クラブで飲みすぎた次の日には、アンソニーとアレクがスペンサーに対して「みんな反対していたしパリに行くのはやめるか」と言います。
しかし、スペンサーはヨーロッパ旅行中に常々「大きな目標に向かって人生に突き動かされている」と言い、「明日、列車に乗る運命じゃないなら何かが俺たちを止める」とも言います。まさに、運命がスペンサーたちをパリ行きの電車に乗せ、テロリストを止めたのです。
さらに言ってしまえば、何車両もある列車の中でスペンサーたちが乗る列車にテロリストが現れるのも、偶然であり運命なのです。列車の中に乗った最初の席では、WiFiが使えないことを理由にファーストクラスへ移動しますが、この行動も結果的に見れば正し買ったわけです。
【解説】自分も傷つきながら人を助ける行動と祈りの言葉
テロリストに中で首元を撃たれてしまったマークの止血をするスペンサーは、自らも首と指を切られて出血しています。スペンサーは警察と医療班が来るまでマークに声をかけ続け、適切な処置を行います。
ちなみに、この負傷してしまったマークのその後ですが、こスペンサーの素晴らしい応急処置のおかげで一命をとりとめました。このテロ事件で負傷者は出ましたが、死者が出なかったのは本当に凄いことですね。
列車が駅に着き、車イスに乗せられたスペンサーはホッとしているように見えました。そして音楽が流れ、祈りの言葉が登場します。
主よ 私を平和の道具にして下さい
憎しみのあるところに 愛をもたらし
いさかいのあるところに 赦しを
疑いのあるところに 真実を
絶望のあるところに 希望を
暗闇にあるところに 光を
悲しみには 喜びを
私たちは与えることで 与えられ、赦すことで 赦され
死ぬことで 永遠の命を得るのですから アーメン
「フランシスコの平和の祈り」としても有名なこの祈祷文は、マザー・テレサやサッチャーといった著名人も演説などで引用して読み上げたことがあります。
この映画では、テロを起こした犯人アヨブ・エルカザニ (レイ・コラサーニ)のことが詳しく語られていません。イスラム過激派の彼がテロ行為に到るまでの過去がきっとあり、もしかすると不遇な境遇、つらい人生を送っていたのかもしれません。
もちろん、だからといってテロ行為が正当化されるわけではありません。しかし、悪い行動をした人を恨んで同じ仕打ちをしてしまえば、この負の連鎖は次の世代にも引き継がれてしまいます。ここで祈祷文が読み上げられたということは、このテロ行為を起こした犯人を許すことの表れだったのでしょう。このシーンが深くて個人的に泣けるシーンでした。
【解説】オランド大統領の実際のスピーチが映画に登場
テロ行為に勇敢に立ち向かったスペンサー、アンソニー、アレクの3人、犯人を取り押さえたイギリス人のクリス・ノーマンは、フランス政府からフランス国内の最高勲章にあたる「レジオン・ドヌール勲章」を授与されます。レジオン・ドヌール勲章はナポレオンが制定した最高勲章です。
その授与式では、当時のフランス大統領であるオランド大統領が登壇し、映像にも登場しています。オランド大統領のスピーチは実際の映像が使われていましたね。
演説の中で「危機に瀕した時は誰もが行動すべきなのだ」「イギリス、アメリカ、フランス異なる国籍の人たちが団結し悪に打ち勝った」「そして、自由を守り抜いた」と言い、この最高位のレジオン・ドヌール勲章の授与は勇気だけでなく、人命を救う行動をした「人間性の賞賛」とオランド大統領は言います。
アメリカに帰った3人はアメリカ国内でも賞賛され、軍人褒賞や勲章を授与されます。そして「地元サクラメントの英雄たち」と讃えられます。
国籍で人をくくってしまうのはあまり好きではないのですが、アメリカ人は「正義」のためであれば、危険を顧みずに行動する人が多い気がします。軍人であればなおさらです。
正義のために行動をし、その行動をした人に対して拍手や歓声を送るアメリカ人の感性がすごく素敵で良いですよね。
【解説】テロ行為に立ち向かった人、被害者が本人役で出演
「15時17分、パリ行き」はテロに立ち向かったスペンサー、アンソニー、アレクの3人が実際に本人役として登場するという今までに無い撮影方法ですが、この3人以外にも本人役として登場している人がいます。
犯人を取り押さえるのを手伝い、3人と一緒にレジオン・ドヌール勲章を授与されたクリス・ノーマン。そして、テロの犯人から銃撃されたマーク・ムーガリアン、そしてその妻イザベラ・リサチャー・ムーガリアンも本人役で登場しています。
全員無事だったとはいえ、テロリストはAK-47にナイフ、300発以上の弾を所持していました。列車の乗務員は乗務室に鍵を閉めて閉じこもっていて、乗客全員が殺害されることを覚悟していたと話しています。
乗務員の行動に賛否はあるかと思いますが、飛行機がハイジャックされた場合は、飛行機を操縦されないように絶対にコックピットに人をいれてはいけません。さらに大きな被害を生まないためにも、乗務員は列車の運転に専念をするというのはある意味正しいです。
全員が殺されてしまう可能性もあった大きなテロ事件を体験した乗客達は、とてつもない不安と恐怖に襲われたでしょうし、殺されることを覚悟したと思います。この出来事を思い出したくもないと個人的には思うのですが、映画に本人役として出演し、再現をするかのように演じたことには驚きです。
しかし、実際に体験した人が演じるからこそのリアリティがそこにはありました。演技のうまい俳優が演じるよりも、演技の経験はないが実際に体験をした人が演じることの方が現実味があります。
マーク・ムーガリアンは実際に首を撃たれて精神的にも不快を傷を負ったと思いますが、映画に出演することをよく了承しましたよね。
出演者たちのその後
フランスで勲章を授与し、アメリカに帰国した3人はホワイトハウスに招待され、アメリカ国内でも表彰されます。そして、事件後には兵士として軍務に戻っています。
首を撃たれたマーク・ムーガリアンが無事だったのも本当に良かったです。
テロリストになる人、誰かを救う人間になる人の違いは何なのだろう
先述しましたが、この映画ではテロリストの人間性については触れられていません。宗教上の理由か社会への不満なのか、どんな理由でテロリストになったのかは分かりませんが、それなりの理由があるのでしょう。
では、テロリストに立ち向かったスペンサーの過去が恵まれていたかというと、そうではありませんでした。夢であったパラレスキューにはなれず、SERE指導員のテストでも落第してしまいます。
テロを起こす人は自分の人生や境遇、社会への不満が原因なことが多いですが、スペンサーも道を踏み外してしまえば、テロ行為を起こしてしまう側の人間になっていたかもしれません。それは私たちも同じであり、何か自分に辛い状況が起きたり、自分ではなく周りの環境が悪いんだと考えてしまった(人のせいにした)時に、テロまではいかなくても、何か事件を起こす側の人間になってしまう可能性もあるわけです。
そういった意味では、今作ではテロリストのような「道を踏み外してしまった人」とスペンサーのように「道を踏み外さなかった人」という対照的な人物が描かれているようにも感じました。人はみんなそれぞれが悩みや不満を抱えていて、その人の辛さは人にはわかりませんからね。
では、「テロリストになる人」と「誰かを救う人間になる人」にはどんな違いがあるのでしょうか。個人的に感じたのは「人生でどんな人に出会うか」が重要だと思っています。
テロ行為を起こす人は独身な人が多いという統計が実際にあります。大切な家族や恋人、友達がいれば、残虐な行為を起こしてそう簡単に人を傷つけることはできませんし、自分が事件を起こして捕まったり、自死することで残される家族がいることを考えると躊躇すると思います。
スペンサーには小学生の時から成人になっても関係が続くアンソニー、アレクという親友がいますし、幼少期にADDと告げてきた教師に対してスペンサーを怒り、スペンサーのことを守った母もいます。このテロリストが誰かと深い絆を築いていれば、もしかするとこんなテロを起こすことは無かったのかもしれません。
ただテロリストを責めることは簡単ですが、このような人たちが今後も出てこないようにするために、社会が変わっていってくれればなと感じました。
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