「クラウドアトラス」は2012年に公開されたドラマ映画です。
映画化は不可能とされたデイヴィッド・ミッチェルの小説が原作です。主演のトム・ハンクス他、大物俳優陣で映画化し、ジャンルを超えた6つのストーリーが展開していくグランドホテル方式で描かれています。
今回は映画「クラウドアトラス」の感想を解説・考察を含めネタバレ全開で書いていきます。
目次
映画「クラウドアトラス」を観て学んだこと・感じたこと
・観るたびに面白くなる!くり返し見たくなる映画
・辛口評価が多い原因?思想によって異なる感想がありそう
・深いテーマが好きな人も、ゲーム感覚で楽しみたい人もどちらも楽しめる珍しい映画!
映画「クラウドアトラス」の作品情報
公開日 | 2012年 |
監督 | ラナ・ウォシャウスキー トム・ティクヴァ アンディ・ウォシャウスキー |
脚本 | ラナ・ウォシャウスキー トム・ティクヴァ アンディ・ウォシャウスキー |
出演者 | トム・ハンクス ハル・ベリー ヒュー・グラント スーザン・サランドン ヒューゴ・ウィーヴィング |
映画「クラウドアトラス」のあらすじ・内容

1849年から世界が崩壊した後の時代まで、6つの時代で6つのストーリーがランダムに展開されていきます。
まったく関わりのないように思える6つのストーリーは、時間を超えて不思議なつながりを見せ、老人ザックリーが語り始める6つの人生が、一つのうねりとなって新しい未来を作っていきます…。
映画「クラウドアトラス」のネタバレ感想

トム・ハンクスが主演でありながら、主役を中心とした展開を予想すると完全に裏切られてしまう「クラウドアトラス」は、初見で全てを理解し堪能するのは至難の業といえるでしょう。
まずは全てを理解しなくても、とにかく通してご覧になった後、自分が感じたことを確認しながらこの記事を読み、さらにもう一度「クラウドアトラス」をじっくり見るのがおすすめの楽しみ方です。
本記事ではネタバレ要素がありますので、一度映画をご覧になった方を対象として、私が感じた「クラウドアトラス」を書いていきたいと思います。
観るたびに新しい発見が!時代によって別人のように変わる特殊メイクに注目

「クラウドアトラス」を初めて鑑賞した人の多くは「なんだかよく分からなかった」という感想を持つかもしれません。最初のプロローグは老人(トム・ハンクス)が自分の数奇な6つの人生を語る場面から始まりますが、6つのストーリーは時代も人物も異なり、一見すると何の関連性もありません。
1つ1つのストーリーのテーマはイデオロギーであったり、ラブロマンスであったり様々ですし、時代も登場人物も異なっており、その異なるストーリーが実は何かしらの大きな力によってつながっているという描き方をしています。各時代のエピソードは以下の通りです。
・1849年 航海の物語(南太平洋諸島)
・1931年 名曲の誕生(スコットランド)
・1973年 原発の情報隠し(サンフランシスコ)
・2012年 編集者の冒険(ロンドン)
・2144年 複製種の革命(ネオ・ソウル)
・2321年 崩壊後の地球(ハワイ)
この映画の本質を掘り下げていくことは非常に体力を必要とするので、まずは「クラウドアトラス」の特徴でもある、異なる時代を生きる登場人物の特殊メイクによる変身について解説します。
まず一番わかりやすいのはトム・ハンクスです。人種はもちろん性別まで超える登場人物の中で、どの時代のトムも比較的発見しやすいですね。どの役柄も男性ですし、大がかりな特殊メイクもありません。
ハル・ベリーについては全く本人とわからないものもあります。まずは1931年、老作曲家ヴィヴィアン・エアズの若妻ジョカスタ・エアズも彼女ですし、もっと驚きなのが2144年、ソンミ451の首輪をはずす闇医者です。東洋人のオヤジの役なので、人種はおろか性別まで超えちゃってますね。
そして、映画「ロード・オブ・ザ・リング」でエルロンドを演じたヒューゴ・ウィーヴィングも各ストーリーで大変身しています。年代の古い順から、1849年奴隷に命を助けられた弁護士アダム・ユーイングの舅役、1931年の指揮者ケッスル・リング、1973年企業にやとわれた殺し屋ビル・スモーク。ここまではすぐに彼だとわかりますが、2012年の暴力的な女看護師ノークスあたりになると初見で見抜くのは難しいですね。
2144年のネオ・ソウルではソンミの罪状を決める評議員に。これはもう予備知識がなければお手上げです。そして最後に、2321年崩壊後の地球でザックリーを脅かす悪魔に変身しますが、完全なる特殊メイクで人間でさえなくなっちゃってます。しかし彼は口元に特徴があるので、中には全て見抜ける人もいるかもしれません。
他にも有名どころではヒュー・グラントです。彼は主要人物にはなっていないものの、すべてのストーリーに登場しています。2012年のティモシーの兄役、2144年のリー師役などは特殊メイクではありますが、ヒューの面影を感じることができるので、発見した時はスカッとします。2321年の人食いコナ族のリーダー役では、ド派手な化粧ですが顔自体は変えていないので比較的わかりやすいですね。
他にも代表的な役柄と俳優名を挙げると、
2012年 編集者ティモシー・カベンディッシュ(演ジム・ブロードベント)
1849年 弁護士アダム・ユーイング(演ジム・スタージェス)
2144年 ソンミ451(演ペ・ジュナ)
1931年 イケメン作曲家ロバート・フロビシャー(演ベン・ウィショー)
1931年、1973年 シックススミス(演ジェームズ・ダーシー)
2012年 ティモシーのかつての恋人アーシュラ(演スーザン・サランドン)
などなど、この方たちは役柄を変えて時代を超えて何度もストーリーに登場します。それぞれの役柄は一瞬で見逃してしまうほどの端役の場合もありますし、しっかり役割りがある場合もありますが、それを見つけるのが「クラウドアトラス」の楽しみの一つでもあります。
こうなると1度目に見逃した俳優を見つけるためだけに、2度3度と映画を観る人もいるでしょう。映画の構成自体も珍しいですが、何度もゲーム感覚で観るのが楽しくなるという点でも「クラウドアトラス」は珍しいタイプの映画といえそうですね。
【考察】製作費は何と100億円!興行収入的には失敗評価、その原因は・・・?

「クラウドアトラス」の製作費は100億円かかりましたが、アメリカでの興行収入はわずか27億円だったそうです。その後各国で公開し、全世界のトータルでやっとこさ130億円の興行収入という、儲け的には失敗の映画といえます。
トム・ハンクスやハル・ベリーをはじめ、スターがたくさん出演していますし、「マトリックス」を手掛けた監督など話題性も十分あったのに、この結果はどうしてなのでしょうか。
私が考えるに、その大きな理由は2つあると思います。まず1つは「内容の難しさ」。6つのストーリーが同時進行していくこと自体が観る人によっては混乱しますし(ちなみに時代背景が完全に異なるため私は混乱しなかったですが)、主題となるテーマもつかみにくいのだと思います。
映画を観る人の多くは「映画は単純に楽しめる娯楽であるべき」と考える人の方が多いでしょうから「腑に落ちる」「スカッとする」「感動する」など、わかりやすい要素がないこの作品はかなり不利と言えそうです。
理由の2つ目として、世界では輪廻転生の概念が一般的でないことが挙げられると思います。もちろん映画の主題は輪廻転生とは少し違うと思いますが、この概念を理解しているのといないのでは感受性が大きく違ってきます。輪廻転生についてはさまざまな宗教、宗派でその思想を持ちますが、その考えが生活の一部である人となると、かなり少数なのではないでしょうか。
原作者のディヴィッド・ミッチェルは静岡県に8年も居住し、大の日本文学ファンであることでも知られ、三島由紀夫の「豊饒の海」が愛読書だったとか。この本は4部作からなる転生の物語なので、やはりどこかで日本的な輪廻転生の死生観も加味されているとは思います。
映画を作る側に強いこだわりがあっても、「娯楽としては内容が難しい」「根幹のテーマが理解しにくい」というこの2つの壁が、正直に興行収入に反映されてしまったのではないかと思います。
【解説】製作は3人の監督が各ストーリーを担当

「クラウドアトラス」の特異な点として、6つのストーリーをそれぞれウォシャウスキー姉弟とトム・ティクヴァが担当していることも挙げられます。
1849年 後悔の物語 | 1931年 名曲の誕生 | 1973年 原発の情報隠し | 2012年 編集者の冒険 | 2144年 複製種の革命 | 2321年 崩壊後の地球 | |
担当監督 | ウォシャウスキー姉弟 | トム・ティクヴァ | トム・ティクヴァ | トム・ティクヴァ | ウォシャウスキー姉弟 | ウォシャウスキー姉弟 |
アンディとラナは兄弟で、映画「マトリックス」シリーズの監督・脚本を手掛けたことで一躍有名になりました。しかし、この「クラウドアトラス」製作時は兄のラナが性転換して姉になったので姉弟となり、2016年には弟のアンディも性転換して妹となり、リリーと改名するというややこしい経歴の持ち主です。今では名実ともに姉妹というわけですね。
トム・ティクヴァは、ドイツ出身の映画監督で「ラン・ローラ・ラン」や「パフューム ある人殺しの物語」などで知られる人物です。
この3人は長年親交があり「いつか映画を作ろうよ」と盛り上がっていたそうで、誰もが何度でも繰り返し見たくなる映画を作りたかったと言っています。
ストーリー別に分担していることで6つの物語の色分けがはっきりし、複雑な中でもそれぞれが区別しやすくなった背景には、担当をきっちり分けた成果もあるのかもしれません。
【考察】物語のキーとなる人物や物について

本作には各ストーリーの「キーマン」となる人物にほうき星型の痣がつけられています。
ほうき星の付けられた人物は古い年代から、アダム・ユーイング弁護士、若き作曲家ロバート・フロビシャー、ルイサ・レイ記者、編集者ティモシー・ガベンディッシュ、ソンミ451、ザックリーとなっており、それぞれほうき星の持ち主の視点で各ストーリーが進んでいきます。
そして、各年代をまたぐ小物やセリフも随所に見つけることができます。
2012年にティモシーが起こした騒動が映画化され、それを2144年のソンミが観るのですが、そのセリフの中に「犯罪者の餌食にはならないぞ!」というものがあり、複製種であるソンミ451と友人のユナ939は、この劇中のセリフから自我を獲得していきます。このセリフはキーですね。
また、1849年にアダム・ユーイングが航海を終えて義父にこう言われます。
「人間には序列があり、それを破るものは幸せになれない」
このセリフは「解放運動は家族に危険が及び、リンチや処刑の危険も伴うだろう」と続きますが、同時にシーンは2144年のソンミ451の処刑のシーンが流れます。それに対してアダムは、「雫は一滴にしかならなくてもやがて大河になる」と返します。
これはソンミの起こした小さな革命にもつながるセリフなので、最後に1849年と2144年が重なっていくのです。
他にも、各エピソードに通じ、この映画の世界観を表現しているセリフが随所にあります。
・ロバートの手紙の「よりよい世界が君を待っている。次の人生で会おう。R・Fより」
・ルイサの「人間はなぜ同じことを繰り返すのだろう」
・ロバートの「世界も人の心も同じ見えない力で動いている」
・ソンミの「命は自分のものではない。子宮から墓場まで、私たちは人と繋がっている。過去から現在まで、すべての罪、あらゆる善意が未来を創る」
また、映画全編が意図的につながっていることを示す物もたくさん見つけることができます。
例えば1936年の夜中に作曲家ビビアンがロバートの部屋を訪ねて、夢の中で流れていた音楽を楽譜に起こせと言いますが、その夢は2144年のネオ・ソウルでソンミが働くカフェの光景のようですし、ソンミの逮捕後、処分について会議をしていた評議員(ヒューゴ・ウィ-ヴィング)が「人間には序列があり、それを破るものは幸せになれない」とユーイングの義父と同じセリフを言ったりします。
そしてキーとなる小物も登場します。まずは1849年にユーイングが着用しているベストの美しいボタンは、1936年にシックススミスのベストのボタンとなり、そのベストをロバートがもらい受け、最後には世界崩壊後の2321年にザックリーのお守りとなっていました。
ユーイングが書いた航海日誌を作曲家ロバートが愛読し、聴いたことがないはずのロバートの曲にルイサ・レイが既聴感を覚えたり、1973年にレイの部屋に入り浸る少年ハビエル著作の「ルイサ・レイの謎」を編集者キャベンディッシュが読み、キャベンディッシュの冒険譚を書いた「キャベンディッシュの大災難」が映画化され、その映画を2144年のソンミが観て感化される、ソンミが処刑される直前の供述調書が世界崩壊後の聖典となっているなど。
さらに、物語全編を美しく彩り、タイトルにもなっている「クラウドアトラス交響曲」はロバートが作曲したもので、テーマは「人間同士の出会い」。生まれ変わり時を超え何度も出会うことを音楽で表現したものです。
このように2時間51分の映画の中に、いくつもいくつもすべてを繋げるセリフ、物、人、出会いがちりばめられています。何度でも映画を観て全編にちりばめられた数多くのキーを探してみるだけでも十分楽しめます。
【解説】クラウドアトラスの相関図
横にスクロールすることができます。(★マークはほうき星の痣を持つ人物)
1849年 航海の物語 | 1931年 名曲の誕生 | 1973年 原発の情報隠し | 2012年 編集者の冒険 | 2144年 複製種の革命 | 2321年 崩壊後の地球 | |
トム・ハンクス | ドクター・グース | ホテルの支配人 | アイザック・サックス | ダーモット・ホギンズ | 映画の中のカベンディッシュ役 | ザックリー★ |
ハル・ベリー | マオリ族 | ジョカスタ・エアズ | ルイサ・レイ★ | パーティの女性客 | 闇医者オビッド | メロニム |
ジム・ブロードベント | モリヌー船長 | ビビアン・エアズ | ー | ティモシー・カベンディッシュ★ | 路上の二胡弾き | プレシエント族 |
ヒューゴ・ウィーヴィング | ハスケル・ムーア | 指揮者ケッスルリング | 殺し屋ビル・スモーク | 女看護師ノークス | メフィー評議員 | オールドジョージー |
ジム・スタージェス | アダム・ユーイング★ | 安ホテルの客 | シックススミスの姪の父親 | スコットランド人 | ヘジュ・チャン | アダム |
ジェームズ・ダーシー | ー | ルーファス・シックススミス(若) | ルーファス・シックススミス(老) | 看護師シェイムズ | 記録官 | ー |
ペ・ドゥナ | ティルダ | ー | シックススミスの姪の母親 | ー | ソンミ451★ | ー |
ベン・ウィショー | 船の給仕 | ロバート・フロビシャー★ | レコード店店員 | ジョージェット(デニーの妻) | ー | 部族の男 |
ヒュー・グラント | ホロックス牧師 | 高級ホテルの警備員 | ロイドフックス | デニー・カベンディッシュ | リー師 | コナ族のチーフ |
スーザン・サランドン | ホロックスの妻 | ー | ー | アーシュラ | 男性科学者スレイマン | アベス |
キース・デイビッド | クパカ | ー | ジョー・ネピア | ー | アンコー・アピス将軍 | プレシエント族 |
「クラウドアトラス」のテーマとは

先述したとおり、「クラウドアトラス」は曲の名前にもなっており、曲のテーマは「人間同士の出会い」です。私は専門家ではないので浅い知識ですが、仏教に代表される輪廻転生の思想は、一度生まれ変わるごとに魂のステージが上がっていくというものなので、一人の人物が悪人になったり善人になったりするこの映画が表現したいものは、そのままの輪廻転生ではないことは明らかです。
ただ、1人の人物がおよそ500年間に何度も生まれ変わっていることは確かなようです。なぜなら、例えばアダム・ユーイング弁護士(ジム・スタージェス)と妻のティルダ(ペ・ジュナ)は、時を超えてもヘジュ・チャンとソンミ451として恋仲ですし、不思議なことに一瞬にして惹かれあったルイサ・レイ記者(ハル・ベリー)と原発の従業員アイザック・サックス(トム・ハンクス)は、2321年世界崩壊後の最後のエピソードで最終的に結ばれています。この2組のカップルは悠久の時を経て結ばれたソウルメイトなのでしょう。
そのまま輪廻転生の思想は当てはまらないものの、多かれ少なかれ人は影響を与え合い、そのわずかな影響が長い時を経て大きなうねりとなっていく…。というようなことが根幹にあるテーマなのではないでしょうか。
個人が行う選択が、ある出来事に対してわずか1度の角度をつけただけだとしても、数十年数百年経つうちに、小さな角度はどんどん広がっていき、やがて全く別の未来に行き着くものである。こんなざっくりとした理解で映画の全編を見ていくと全体像がつかみやすく、深く掘り下げたい人にはより楽しめる映画になるでしょう。
しかしそれほど難しいテーマを掘り下げずとも、推理小説を紐解く感覚でキーとなる出来事をストーリーの中に探していったり、特殊メイクを施した有名俳優を探し当てる、そんな楽しみ方もできる珍しい映画だと思います。
映画「クラウドアトラス」の動画が観れる動画配信サービス一覧
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※2019年9月現在の情報です。