映画「サスペリア」は、もともと1977年に公開された「サスペリア」という映画のリメイク作品です。物語の流れはオリジナル版と同様になっているものの、登場するキャラクターや過激さ容赦ないグロテスクな描写など、オリジナル版を越えるホラー映画ぶりを見せています。
何が起きているのか、何がこれから起きるのかが分からない恐怖感がとてつもなく押し寄せてきますし、頭に残ってしまうような癖のある作品です。
今回は映画「サスペリア」のネタバレ感想や解説、考察を書いていきます。
目次
映画「サスペリア(2018)」を見て学んだ事・感じた事
・過激かつグロテスクな描写に恐怖と魅力を感じる
・圧巻の暗黒舞踏は引き込まれてしまう
・オリジナル版を越える新しく再構築されたリメイク作品
映画「サスペリア(2018)」の作品情報
公開日 | アメリカ:2018年 日本:2019年 |
監督 | ルカ・グァダニーノ |
脚本 | デヴィット・カイガニック |
出演者 | スージー(ダコタ・ジョンソン) マダム・ブラン(ティルダ・スウィントン) パトリシア(クロエ・グレース・モレッツ) サラ(ミア・ゴス) |
映画「サスペリア(2018)」のあらすじ・内容
米ソ冷戦真っ只中の1977年。ドイツのベルリンでは、アメリカからやってきたスージーが暗黒舞踏の名門「マルコス舞踏団」のオーディションを受けていました。
オーディションでマダム・ブランの目に留まり、ダンスメンバーに抜擢されるスージー。しかし、ダンスレッスンが行われる中で、彼女の周りでは不可思議な出来事が起きていきます。
ダンサーが次々と姿を消す中、カウンセラーのクレンペラーは、自身の患者で舞踏団から失踪したパトリシアの足取りを追っていました。舞踏団の謎に迫っていく中で、これまで隠されていた秘密と闇が明らかになっていきます…。
映画「サスペリア(2018)」のネタバレ感想
映画「サスペリア」は、ジャンル的には「カルトホラー」に該当します。暗黒舞踏の名門校の中で繰り広げられる恐怖現象、次々と姿を消していくメンバー、徐々に明らかになっていく舞踏団の秘密。
何が起きているのか、どのような世界観なのか、全てを掴むことが難しい作品ではありますが、劇中で起きている恐怖やグロテスクな描写、目を奪われてしまうダンスなど、それだけでも惹きつけられる何かがある映画です。
そして、1977年に公開されたオリジナル版のリメイクとしても注目の作品でもあります。とことん狂気的で、ビジュアルセンスに溢れながらも、観客を恐怖に陥れていきます。
ここでは、映画「サスペリア」の感想を1つ1つの項目に分けて書いていきます。
【解説】映画「サスペリア」の全体像を解説
映画「サスペリア」はカルト臭漂う世界観を持ちながらも、圧倒的なビジュアルとダンスによって目を奪い、観客を恐怖へと誘い込んでいきます。全体的な世界観、舞踏団や魔女といったキーワード、そして暗黒舞踏と儀式、登場人物などを含めても、初見だとなかなか把握しづらい部分も多く、インパクトだけは残ったけど消化不良という感じになるかもしれません。
終盤にかけてのダンスシーンは圧巻ですし、そこからの儀式、マザー・マルコスの失墜なども容赦ないグロテスクですが、最終的にこれがなんだったのか丁寧に説明されているわけではありません。
説明するのは野暮なことかもしれませんが、全体像をハッキリさせると筋の通った物語であることも明らかになります。映画「サスペリア」を観てモヤモヤ感が残っている人のために、全体像を解説していきます。
マルコス舞踏団の正体
映画「サスペリア」の中でも根幹となっている「マルコス舞踏団」。表の顔は暗黒舞踏の名門校として存在していますが、物語が進んでいくうちに、秘密が隠されていることが明らかになっていきます。
このマルコス舞踏団ですが、魔女たちが支配する学校で少女の肉体を生贄にすることによって、新しい器(身体)を手に入れて生きながらえています。
マルコス舞踏団を支配しているのは、「マザー・マルコス」という魔女です。映画の中では姿は表さず存在だけで明示されており、終盤になってようやく登場してきました。
ダンスの指導を中心に行なっているマダム・ブランは表向きでは学校を仕切っているような存在ではありますが、実権を握っているのはマザー・マルコス。これは学校ないの投票によって決められました。そのシーンも出てきましたね。
ただ、マザー・マルコスに関しては肉体的に老化が進んでおり、早急に新しい器が必要となっていました。
その中で、最初はパトリシアが候補になっていたのですが、学校から逃げ出し、冒頭のシーンにもあったように、カウンセラーの元にいき意味不明な妄想を繰り広げます。そんなパトリシアも逃走に失敗したため地下に閉じ込められていました。
これがマルコス舞踏団の主な正体です。マザー・マルコスの新しい器を探しており、新たな候補として新しくやってきたスージーに白羽の矢がたったという感じです。
そして、暗黒舞踏の名を借りた儀式によって、生贄を捧げるという目的を持っていました。
魔女の正体について
映画「サスペリア」は1977年に公開されたオリジナル版のリメイク作でもあります。オリジナル版は「サスペリア」だけではなく、「インフェルノ」「サスペリア・テルザ 最後の魔女」というシリーズになっており、これらは魔女三部作と呼ばれています。
そして、映画「サスペリア」の中では、これらの作品を前提においた世界観が構成されているのですが、単一の作品だけ観ても全体像を把握するのは困難です。この世界観の中では、3人の最強魔女が存在しており、それぞれ「マザー・ラクリマルム」「マザー・テネブラルム」「マザー・サスペリアム」と言います。
全ての魔女はこの3人に仕えており、映画の中でも名前が登場してきます。マザー・マルコスはそのうちの1人マザー・サスペリアムであると周囲の魔女からは信じられており、それによって権力を握っていました。
ただ、マダム・ブラン派の先生も一部いるようで、両者は対立関係にあることも伺えます。そのような関係性がありながら、マザー・マルコスは肉体は衰えて死ぬ寸前のような状態にも関わらず、生贄を捧げようとしているわけです。
スージーの正体について
映画「サスペリア」の主人公でもあるスージー。アメリカからベルリンにやってきた少女で、オーディションからマダム・ブランに見初められてから、すぐさま舞踏団の中心メンバーになります。
何か特別な能力を持っていそうな雰囲気を出しながらも、彼女は1人のダンサーとして劇中に登場しています。
しかし、徐々に彼女が物語のキーを握るようになり、マザー・マルコスの新たな生贄として選ばれた中でも、どことなく余裕を見せながらダンスに励む姿が観られました。
そして、問題なのが終盤の儀式のシーンです。マザー・マルコスの前に現れたスージーは質問を投げかけます。
「あなたは3大魔女のうちどの魔女なの?」
マザー・マルコスは当然「マザー・サスペリアム」と答えますし、周囲もそう思っていましたが、スージーは「私がマザー・サスペリアム」であると答えます。マザー・マルコスの嘘を見破り、マザー・マルコスを成敗します。マザー・マルコス側についていた先生たちも滅ぼします。
このシーンから物語の全貌が見えてきます。スージーは、実はマザー・サスペリアムで、彼女の姿を偽って学校を支配し、少女たちを犠牲にしてきたマザー・マルコスを滅ぼすためにマルコス舞踏団にやってきたとなります。
魔女たちの支配から少女を守るためにやってきた最強の魔女だったということですね。
そう考えると途中途中のシーンにも納得がいきます。おそらくスージーの母親らしき人物がベットの中で苦しんでいるシーンがあるのですが、スージーを生み出してしまったことを公開しているようにも解釈できます。
そして、スージー自身は最初から自分がマザー・サスペリアムであることに気が付いていたのかはわかりません。舞踏団に入ってから自分の能力に気が付いたのか、最初からマザー・マルコスを食い止めるためにやってきたのかは不明です。
【解説】ティルダ・スウィントンの怪演ぶり
映画「サスペリア」で注目して欲しいのが、マダム・ブランを演じたティルダ・スウィントンです。彼女はこの映画でマダム・ブラン以外にも役をこなしており、合計1人3役を演じています。
1人目はマルコス舞踏団で表側のトップに君臨するマダム・ブラン。
2人目はカウンセラーのクレンペラーです。この人物はお爺ちゃんの役なのですが、特殊メイクによって彼女が演じています。また、クレジットには「ルッツ・エバースドルフ」と記名されているのですが、これは制作側のいわばドッキリで、制作側で作られた架空の俳優です。
ドイツ生まれでナチスの手から逃れて俳優を志すなどの設定が作られており、当初はティルダ・スウィントンが演じていることは明かされていませんでした。
そして、3人目はマザー・マルコスです。映画の終盤に姿を表した醜い魔女。実はこれも特殊メイクによってティルダ・スウィントンが演じています。
この怪優ぶりは特筆モノでもありますし、マダム・ブランが醸し出す異様な雰囲気だけでも圧巻だったにも関わらず、3つの役を演じていたのは衝撃的でした。
魔女の世界観と合致する暗黒舞踏
この映画の中心になっている暗黒舞踏は、映画の雰囲気を作り上げる上で重要な要素になっていました。素人目に見れば意味不明なダンスなのですが、意味がわからないだけに不気味な雰囲気を出しつつ、儀式としての説得力があります。
そして、単純に「怖い」です。体の関節がどうなっているのかわからないような動き、一心不乱に体を動かしている様は恐怖を増幅させます。
ラストシーンでは儀式が行われる中で狂ったように体を拗らせ、激しく揺らし、狂気的な不気味さを表現していました。オリジナル版では暗黒舞踏ではなく、バレエ学校という設定だったのですが、暗黒舞踏にしたことによって、この映画の世界観が際立つ結果になったといえます。
暗黒舞踏の無秩序な感じとインパクトの強い描写、恐怖が合わさることによって、映画「サスペリア」はホラー映画として際立った存在になっています。
【考察】時代背景と噛み合わせるような物語
映画「サスペリア」のサイドストーリーとして、1970年代の米ソ冷戦やドイツ赤軍によるハイジャック事件が取り上げられていました。当時過激派の左翼団体によるテロ事件などが激しかった時代背景がある中で、物語が進んでいました。
メインストーリーとはほとんど関わることはなく、パトリシアが学校から逃げ出して左翼団体に加わったことが示唆されるぐらいでした。ただ、パトリシアに関しては捕まって学校の地下に閉じ込められていたので、サイドストーリーがメインストーリーに直接絡むようなこともありません。
なので、このサイドストーリーは映画の世界観を映し出すメタファー的な要素として描かれていたと考えられます。
ドイツといえば、戦時中はナチスの独裁体制が敷かれており、強制収容所では多数の人が犠牲になっていました。その後、ドイツで過激な左翼団体が活発に活動を続けているといった状態でしたが、このマルコス舞踏団はどことなくそういった時代を彷彿とさせるような関係にあります。
マザー・マルコスによるいわば独裁的な体制をもっており、強制収容所的な仕組みにもなっているマルコス舞踏団。そこでは少女たちが生徒として生活をしているわけですが、罪もない少女たちがマザー・マルコスらの手によって犠牲になっていきます。
そして、カウンセラーのクレンペラーはマルコス舞踏団に対して疑いの目を持ち、舞踏団の秘密を暴こうとします。独裁体制に反感を持つ側の人物を示唆していると考えられます。
問題はスージーです。教団の非道を暴き、独裁者を打倒したその姿はアメリカから来た少女ということもあり、なんとなく「アメリカ」という国のメタファーのように感じてしまいます。
映画の中で登場する時代背景はサイドストーリーとして進んでいくのですが、物語の中心と絡むようなことはありません。しかし、映画「サスペリア」の世界観により厚みをもたらす意味があると感じました。
【解説】ホラー映画で描かれる新しい女性像
映画「サスペリア」で注目したいのは、キャスト全員が女性であることです。クレンペラーに関しては、ティルダ・スウィントンが演じてもいるため、演じている俳優は全て女性ということになります。
それ自体も新しさを感じる部分ではあるのですが、それ以上に注目すべきなのは、ホラー映画の中に登場する女性像の変化です。
よくあるホラー映画では、少女が恐怖に打ち震える姿が容易に想像できます。しかし、この映画の主人公でもあるスージーは全く怖がりません。むしろ積極的に前へ前へと進んでいき、自信も兼ね備えています。
オリジナル版では、主人公のスージーが恐怖に震えながらも最後まで生き残るという従来のホラー映画でよくある描写でもありました。
しかし、リメイク版では映画終盤スージーこそが観客の恐怖を喚起させる存在になっていました。恐怖を与えられる客体ではなく、恐怖を与える主体として機能していたスージー。
ここに従来のホラー映画には見られない新しい女性像が浮かび上がってきました。ホラー映画では、若く弱々しい女性の不安や恐怖を描くことで味付けがなされることが多くありましたが、映画「サスペリア」ではそんな従来の演出を変え、ホラー映画における新しい女性像を作り上げて見せました。
スージー自身がマザー・サスペリアムであることに気がつくような部分でも、自分のアイデンティティの発見とも解釈できますし、自分の持っている力を知り、それを遺憾無く発揮するという姿が印象的でした。
映画「サスペリア」はオリジナル版をリスペクトしつつも新しい価値を与えた作品
映画「サスペリア」について感想や解説を書いていきました。オリジナル版のリメイク作として登場した作品ではありますが、物語全体は踏襲しつつも、作品の世界観や登場人物は刷新されており、新しい映画として存在しています。
とことんまでグロテスクな描写と不気味な暗黒舞踏の組み合わせ、そして魔女が支配する舞踏団の秘密、ラストまで恐怖で震えながらも目が離せない映画です。