痴漢冤罪の裁判をテーマにした映画『それでもボクはやってない』。
痴漢冤罪を証明することの難しさ、裁判でのそれぞれの立場や想いを感じられるような映画で、ツライと感じる部分から共感する部分まで幅広く思う所の多い映画になっていました。
今回はそんな『それでもボクはやってない』についての詳しい感想と考察をご紹介していきます。感想と考察ではネタバレを含みますので、映画ご視聴前の方やネタバレを避けたい方はご注意ください!
目次
映画「それでもボクはやってない」を観て学んだ事・感じた事
・痴漢冤罪で無罪を証明するのは難しい
・それぞれの立場や想いに共感できるからこそツライ
・勉強になるし考えさせられる観て損のない映画
映画「それでもボクはやってないの」作品情報
公開日 | 2007年01月20日 |
監督 | 周防正行 |
脚本 | 周防正行 |
出演者 | 加瀬亮(金子徹平) 役所広司(荒川正義弁護士) 瀬戸朝香(須藤莉子弁護士) 山本耕史(斎藤達雄) もたいまさこ(金子豊子) 小日向文世(室山省吾) |
映画「それでもボクはやってない」のあらすじ・内容
就職活動中でフリーターの金子徹平。彼は急いで会社面接へと向かうために乗り込んだ満員電車内で女子中学生から痴漢に間違えられてしまい、自分の話も自分の無実を証言してくれた人の話もまともに聞いてはもらえず、そのまま現行犯逮捕されてしまいました。
逮捕後の警察の取り調べでも容疑を否認して無実を主張しますが信じてもらえず、担当刑事からは自白を迫られ、弁護士からは認めて示談にした方が良いと勧められ、検事は自分が犯人だと決めつけ、誰も味方がいない状態でずっと留置所に拘留されることになります。
誰も信じてくれない孤独感と焦燥感に苛まれながらも無実を主張し続ける徹平は、ついに起訴されて決着は裁判へと持ち越されますが…。
映画「それでもボクはやってない」のネタバレ感想
映画「それでもボクはやってない」では目の前で裁判が行われているかのような臨場感と迫力があり、改めて痴漢冤罪で無罪を訴えることの難しさ、疑われ続けることのツラさみたいなものが感じられるような映画になっていました。
特に裁判シーンはかなりリアルで重さのある演出や展開がなされていて、冤罪被害者だけでなく弁護士・検事・裁判官の立場まで考えさせられるようでしたね。
2時間半程度と長めの映画にはなってしまうのですが、観て損のない映画だと個人的には思います。
痴漢冤罪の無罪証明は難しい…
痴漢冤罪で無罪であると訴えるのは簡単なのですが、それを証明するのはとてつもなく難しいことだなと改めて考えさせられる映画になっていました。
例えばもし自分が満員電車で「痴漢です!」と言われて腕を掴まれてしまったら、例え触っていないと言っても、この人が犯人だと腕を捕まれた上に被害者本人からの訴えがあるわけですから、どう考えてもこちら側が不利な状態から話が始まってしまいます。
周りからは卑劣な性犯罪者だという目で見られ、おそらく誰も私の無実は信じてくれないでしょうし、守られるのは間違いなく被害者側のみでしょうから性犯罪者だと決めつけられた自分は為す術がありません。
痴漢の証拠として、手に被害女性の下着や衣服の繊維片がついていないか調べられたりもするようですが無罪の証拠としては弱いですし、今作のように「この人は痴漢ではありません」と証言してくれる目撃者が現れる可能性も極めて低いですよね。
痴漢をしている証拠を出すのは比較的簡単かもしれませんが、していないと証明するのは悪魔の証明に近く非常に難しいことですから、できることであれば痴漢に疑われないためにも対策が必要になるわけですが…。
通勤中や通学中だとどうしても大きなカバンを持っているので、身動きが取りにくくモゾモゾと動くしかありませんし、痴漢に間違われないように吊革に捕まったり手を上に上げておこうにも満員電車では大体吊革は他の人が使ってしまっています。
そして痴漢に疑われないように女性の後ろに立たないようにとしていても、満員電車では自分の乗る場所をそうそう自由に選べませんし、たとえ自分が女性の後ろに立たないようにしていても女性は次々に乗り込んでくるわけですから、自分だけの力だけでは対策するのは難しいですよね。
自分は女性なので痴漢だと疑われること自体がそこまであることではありませんが、最近だと男性の痴漢被害・女性の痴漢(痴女?)というのもいるようですから、決して他人ごとではありませんでした。
身内が痴漢容疑をかけられたら…
自分の身の潔白を誰よりも知っている冤罪被害者がツラいというのはもちろんなのですが、身内が性犯罪者だと疑われている身内側もかなりツライですよね。
窃盗・殺人・横領などで身内が犯罪者というだけでも衝撃的過ぎることなのに、罪状が性犯罪ともなると、身内としては他の罪状とはまた違った苦しみやツラさのあるものなのではないかなと個人的には思います。
身内としてはやはり家の者に限ってそんなわけないと思ってしまいますが、周りから見れば被害者の訴え・証人まで揃っている完全なる性犯罪者で味方なんてどこにもいないですし…。
もし本当に犯罪者であるのであれば身内であろうと許されるべきことではないので、法の下正しく裁かれるべきだとは思いますが、もし無実を訴えていたとして…心からその人の無実を信じてあげられるでしょうか?
言葉では信じていると言っても、心の奥底ではもしかしたら犯人なのでは…?と思ってしまう部分がありそうで、信じたいけど信じきれないというのが一番ツラいのではないかなと思います。
そして今作では判決までで物語が終了しているのであれですが、例え身の潔白が証明されたとしても長期間の拘留で仕事は失いますし、家宅捜索で近隣住民からは不審な目で見られますし、痴漢被害者は自分が犯人だと恨み続けることでしょうから…。
そう思うと冤罪被害者・身内共に、今までの生活に完全に戻るのは難しいですよね。
痴漢被害者の中学生もツラい…
今作は痴漢冤罪をテーマにした映画なので、どうしても冤罪被害者の方にスポットが辺りがちで痴漢被害者の中学生はあまり良い風には描かれていないかもしれませんが、彼女もツラいだろうなと思わずにはいられませんでした。
痴漢にあったというだけでもツラいのに、被害直後には駅員や警察官に自分がどういった目にあったのかを事細かに伝えなければならないし、裁判では大の大人たちに囲まれてより細かく何度も何度も根掘り葉掘り聞かれて…。
あなたの言っていることでは間違いではないかと揚げ足取りをされ、自分が間違っているのではないかと自信はなくなっていくし、イヤな記憶を何度も何度も思い出して話す恐怖たるや…中学生ということを思えばトラウマになりかねないですよね。
有罪を証明するため、冤罪を防ぐために必要であることなので致し方ないのかもしれませんが、痴漢をやめてほしくて勇気を振り絞ったのに訴えたら訴えたで地獄が続いて、冤罪被害者と同じように苦しみ続けているのが印象的でした。
弁護士役・役所広司さんがカッコいい
映画『有頂天ホテル』を観た時から良いキャラクターを演じる方だなと思っている好きな俳優さんなのですが、今作でも有頂天ホテルとは全く違った魅力あふれる良いキャラクターを演じていましたね。
低く冷静に響く声が人を落ち着かせながら正しい言葉を導き出す弁護士役にピッタリですし、大人の男性らしい物腰柔らかで落ち着きのある立ち振る舞いをしながらも、その内側に弁護士としての誇りや熱意があるようなキャラクターがとてもカッコよかったです!
ただ今作ではなぜ役所広司さん演じる荒川弁護士だけでなく、女性の須藤弁護士とのペアで弁護・面会等をしていたのでしょうか?
須藤弁護士役の瀬戸朝香さんは好きな映画『デスノート』の南空ナオミ役、『着信アリ2』の野添孝子役を演じていた方で個人的には好きな女優さんなので彼女自体には不満はないのですが、痴漢冤罪をテーマにした今作で女性の弁護士が登場するのは少し疑問でした。
依頼人はただの痴漢の容疑者ではなく冤罪を訴えている男性ですから、謂れのない罪を訴えてきた女性に対して不信感やトラウマを抱えていてもおかしくない人に、女性の弁護士をつけるというのには違和感がありましたね。
もしかしたら痴漢被害者側の女性を配慮しての人選なのかもしれませんが、被害者を思いやるあまり依頼人への配慮が欠けているのではないかなと…。実際のところはどういった意図があったのかは不明ですが、個人的には気になった点でした。
裁判はリアルで緊張する
今作は裁判をテーマにした映画ということで、裁判シーンはかなりリアルで緊張感のある演出になっていました。
あくまでも映画内のワンシーン・セリフと言ってしまえばそれまでなのですが、検事の淡々とした事件の概要や被害者の言い分をまとめた文章の事務的な読み上げ、証人として呼ばれた刑事がしどろもどろと言い訳ばかりの反論をした辺りとか、何とも緊張するワンシーンになっています。
個人的にゲーム『逆転裁判』シリーズが大好きで、今作でもゲームのような証言や証拠が飛び交って最後には弁護士が気持ちよく無罪を勝ち取るようなスカッとする裁判シーンを期待していたのですが、そんな気持ちよく進む展開は一切ありませんでした。
ただだからこそリアルで、どうなるのだろうかとドキドキしながら見守り、証言や反証に対して裁判長はどういった反応するのか緊張して、ゲームとは違った意味でテンションの上がる裁判シーンになっていましたね。
無罪か?有罪か?
最初に本件を担当していた裁判官の「無罪の人を罰してはならない」という理念は正しいと思いますし、2人目の裁判官の被告人を犯人と疑っていく姿勢が必ずしも良いとは思えませんが、正しい判決を出すのは難しいことだなと思いました。
もし最初の裁判官の理念に基づいて、本物の犯罪者だけど証拠がないから無罪となってしまった犯罪者がいたとしたら犯罪者が再び野に放たれてしまうわけですから、被害者としては恐怖で外を出歩けませんし、一般人としても知らない内に恐怖がすぐそばにあるというのは恐ろしいですよね。
そして自由になった犯罪者が似たような事件を繰り返したり、もしくは拘留されたストレスから全く違った犯罪やより凶悪な犯罪を犯す可能性もあるわけですから、そう易々と犯罪者の可能性がある人物を無罪にはしてほしくないなと。
さらに個人的には2人目の裁判官の、目の前にいる被告人は嘘をついているかもしれない、この人は犯罪者かもしれないと疑う心理というのは理解できます。
正しさだけでは間違いが起こった時のリスクが大き過ぎますし、間違いが起こってからでは取り返しのつかないことがたくさんありますから…それを考慮しながら無罪か有罪を言い渡さなければならない裁判官の重圧や責任というのは計り知れないものだなと思いました。
その後を想像させる後味の悪い結末
色々とあったものの努力が報われて無罪!というハッピーエンドで終わらせるのではなくて、間違った有罪という判決が出るというエンディングが個人的には良かったと思います。
人によってはモヤモヤする…となってしまうのかもしれませんが、間違った判決が出る可能性もある、努力しても他人に伝わらないことがある、自分の正義と他人の正義が合致するとは限らないというリアルさがあって良かったです。
しかしただのバッドエンドで終わるのではなく、自分の身の潔白を証明するためにまだまだ戦い続ける決心をして控訴する冤罪被害者というラストで終わっていること、そしてその後の展開は映画内でやらないというのがさらに良かったですね。
有罪を受け入れるというのも1つの道ですし、戦い続ける覚悟を決めるというのも間違っていなくて良いと思います。1番のポイントはそれでどうなるかが明確になっていないこと。
本当に無罪なんだから無罪になるだろうと思う人もいれば、このままでは無罪になるのは難しいだろうと思う人もいるでしょうから、人によって違ったエンディングを想像できるというのが大きな魅力だと感じました。
ちなみに、私はこのまま有罪だろうと思っています。1度有罪になった事件で無罪にひっくり返すのは難しいというのもありますが、痴漢事件の証拠や証言をこれから集めるのが何より難しいと思いますし、痴漢していないという決定的な証拠を提示することができないのではないかと…。
無実だと分かっているので無実になってほしいとは思いますが、現実的には難しいですよね…。
映画「それでもボクはやってない」の考察
裁判中になぜ被害者・証人は嘘の証言をするのか、真犯人について考察していきます。
あくまでも個人的な考察なのでこれが正解というわけではありませんが、参考程度に見て頂けると幸いです!
被害者・証人はなぜ嘘の証言をするのか?
映画内では嘘をついた理由が被害者意識からだとろうと言っていましたが、個人的にはそれ以上に警察からの印象操作があったのではないかなと思います。
警察、もしくは検察で証言の確認や聴取を取られているときに、本人たちは「覚えていない」と言ったけれども、「女の人は男が怪しいとか男の動きが変だったとか言っていたんじゃないか?」と聞かれ、そうだったのかもしれないと思い込んでしまったのではないでしょうか。
被害にあったばかりの被害者と、自分が証言しなければと使命感に駆られている目撃者という興奮状態にある2人ですから、パニック状態の時になにか印象操作に近いことを言われればそう思い込んでしまうのもムリはないと思います。
真犯人は目撃者?
金子が「太った男が真犯人じゃないか」と言っていることから、被害者と被告人の元にすぐ駆け付けた目撃者の男性が真犯人なのではないかという意見もあるようですが、観返してみたところ目撃者の男性とは真犯人の顔が明らかに違いました。
証人等で出てきた人物とは一致しない顔だったので、今作では事件発生以来、真犯人は登場していないようです。
さらに痴漢犯罪で容疑者が上がっている段階で、「私見ました!その人が犯人です!」と真犯人が証言するメリットがありません。自分が疑われるリスクが増すばかりですから、真犯人は騒ぎに乗じてしれーっとその場から去っていると思います。
痴漢冤罪・裁判の難しさを感じる
痴漢冤罪というものをざっくりとしか知りませんでしが、今作を観たことで改めて痴漢冤罪・裁判の難しさを感じることが出来ました。特に無罪・有罪を決める裁判官の重圧や責任を知ることができたのは、個人的に良い勉強になりましたね。
ストーリーが良くできていて面白い作品だったので、私のように裁判系に興味のある方以外でもぜひ実際にチェックしてみてください!
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