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映画『ファントム・スレッド』ネタバレ感想・解説・考察!ゴシックに彩られた異常な愛、ラストシーンは評価が分かれる!

映画「ファントム・スレッド」のあらすじ・内容

『ファントム・スレッド』はポール・トーマス・アンダーソン監督による恋愛?映画です。型にはまらない愛をきれいにまとめた独特な作品でした。

今回はそんな『ファントム・スレッド』の個人的な感想やネタバレ解説、考察を書いていきます!

映画「ファントム・スレッド」を観て学んだ事・感じた事

・男女の話だけど、これはラブストーリーなのか?
・難しく考えなくても、服と音楽が綺麗で目と耳が楽しい
・アブノーマルな愛が見たい方にオススメ

映画「ファントム・スレッド」の作品情報

公開日2017年12月25日
(日本:2018年5月26日)
監督ポール・トーマス・アンダーソン
脚本ポール・トーマス・アンダーソン
出演者レイノルズ・ウッドコック(ダニエル・デイ=ルイス)
アルマ・エルソン(ヴィッキー・クリープス)
シリル・ウッドコック(レスリー・マンヴィル)

映画「ファントム・スレッド」のあらすじ・内容

映画「ファントム・スレッド」のあらすじ・内容

主人公レイノルズは、ロンドンでは名の知れた上流階級向けの仕立て屋です。自分が作った服に絶対の自信を持ち、作品の似合う女性を求めて恋人をとっかえひっかえしていました。

ある日、彼は地方でアルマという理想的な体系をもった女性と恋に落ちます。しばらくは上手くいっていた二人でしたが、レイノルズの樹難しさゆえに段々と険悪になっていきます。

アルマとも他の女性と同じように破局すると思いきや、彼女はあまりに深くレイノルズを愛していて……。

映画「ファントム・スレッド」のネタバレ感想

仕事に全てを注ぐ男と、彼に惚れた女の物語

仕事に全てを注ぐ男と、彼に惚れた女の物語(C)2017 Phantom Thread, LLC All Rights Reserved

本作の人物は、誰もが生々しく描かれています。(体裁上は)ラブストーリーでありながら、地上波のゴールデンタイムに放映されるドラマのような、清廉潔白で小綺麗なキャラクターは存在していません。

主要人物には何かしらの異常性があり、それらはギャップだなんだで済むような可愛らしいものではありません。醜さと言った方がいいような欠点ばかりです。しかし過度ではないため、人前では見せないだけで身の回りにいそうな人たちだと思わされたりもします。多くの人が、「隠れた本性がこんな感じの男・女はいるよなあ」と感じることでしょう。

 

『ファトム・スレッド』の主要人物は三人います。レイノルズ・ウッドコックは服飾におけるカリスマですが、何かと細かいことに口を出すタイプ(finickyという表現が適切でしょう)です。加えて、60過ぎであるにも関わらず、亡くなった母親に対して並々ならぬ執着を持ってもいます。

姉のシリルは、そんな弟に対し自らの意思で甘やかしているのが、どこかグロテスクです。とはいえ身内を甘やかす人というのは今の日本にもいますし、レイノルズは稼ぎ頭だから……ということでなんだか納得させられてしまうあたり、作りが巧妙です。

レイノルズのキャラクター性は、日本人にとっては『風立ちぬ』の主人公・堀越二郎を想像するとわかりやすいと思います。一つの道における天才で、才能を活かした仕事に対してあまりに偏執的であるところも、それゆえに女性の気持ちを軽んじがちなところも共通しています。二郎のような男が気に食わないという方には、本作は苦痛を感じるかもしれません。

そうは言っても、本作は『風立ちぬ』とはまったく違う展開を辿っていきます。男女の関係により鋭く焦点を当てていることもさることながら、やはりヒロインのアルマの性格があまりに違っています。二郎の妻・里見菜穂子は夫に対し非常に献身的で、常に彼を追いかけ、理解しようとしていましたが、アルマはそうではありません。始めは素朴な田舎娘に見えた彼女には、どんな本性が隠れているのか?天才に対し、彼女が何をするのか?そこが、本作の見どころになっています。

【解説・考察】「ファントム・スレッド」のタイトルの意味は?

【解説・考察】「ファントム・スレッド」のタイトルの意味は?(C)2017 Phantom Thread, LLC All Rights Reserved

タイトルになっている “Phantom Thread” なる言葉は、少なくとも筆者が確認した限りでは劇中に出てきません。なんらかの慣用句ということもないので、ポール・トーマス・アンダーソンが作り出した言葉であるのは明らかです。一体どのような意味があるのでしょうか?

まず “Phantom” という形容詞は、辞書的には「幽霊のような、幻の、非実在の」という意味を持っています。そこだけを切り取って考えた場合、「レイノルズの母親」を意味することになるでしょう。本作において、なんらかの形で言及される死者は彼女だけだからです。あるシーンで、実際に幽霊として登場してもいます。

とはいえ、それだけで判断するのは早計でしょう。単に幽霊を指したいだけなら、 “ghost” の方がより一般的だからです。そうではなくあえて “Phantom” を選んだからには、他にも意図があるに違いありません。

 

もう少し “Phantom” の用例を調べてみると “Phantom line” という使い方も見つかります。これは工学分野おいて破線の一種で記され、可動部位やその関連部分、または図面の視点からは見えない部分を示すのに使われるそうです。アウトライン等に比べると細い線で描かれるのが通例でもあるようです。一見すると本作とは無関係のようですが “Thread(糸)” は “line(線)” でできていることを踏まえると、意識していたのでは?と思えます。破線というもの自体が、縫い目のように見えますしね。

さらに別の “Phantom” というと、”Phantom of the Opera” つまり『オペラ座の怪人』が有名なところでしょう。この作品における “Phantom” のエリックがクリスティーヌ・ダーエに恋をした結果、常軌を逸した行動を起こすのも、『ファントム・スレッド』と同じ構図に思えます。もっとも、『オペラ座の怪人』で狂ったような行動を引き起こすのはエリック一人であるのに対し、『ファントム・スレッド』は複数人が狂っていますが……。

 

さて、一方の “Thread” はどうでしょうか?こちらは主に「縫い糸」という意味で使われます。紡ぎ糸・たこ糸・釣り糸とはそれぞれ違う英単語を使って区別しており、それらと違って “Thread” は、細い裁縫用の糸ということになります。もちろん、仕立て屋のレイノルズが使う仕事道具として、劇中でたびたび使用されています。

ただこちらも複数の意味を持っています。「(話の)筋・脈絡」のほか、俗語で「服」を表すこともあります。動詞的用法を加えれば「手櫛で髪をすく」というものも含まれます。一応、細い糸を縒(よ)り合わせることで太い糸になることから、「同時進行する事象のうちの一つ」を表すこともあるようですが(5ちゃんねる等でいうスレッドなど)、こちらは関係ないと考えています。

これらのことを総合すると “Phantom Thread” というタイトルには、複数の意味がこめられていることが見えてきます。「『オペラ座の怪人』における “Phantom” のように狂った愛情で縒られた筋・脈絡」でもあり、劇中のターニングポイントで出てきた「(“never curseed” のタグを隠していた)見えない糸」または「母親の幽霊の服」でもあるのではないでしょうか。レイノルズの母親重要な要素ではありますが、必ずしも物語の中心ではなく “Ghostly Thread” という題名ではないことからも、こうしたことが言えると思います。

衣装と音楽がずっと美しい

衣装と音楽がずっと美しい(C)2017 Phantom Thread, LLC All Rights Reserved

少し小難しい話をしてしまいましたが、本作は取り立てて頭を使う作品ではありません。見る人によっては文学的に深読みすることもできますが、そうしなければ楽しめないわけではないのです。

そのことを特徴づけているのは、音楽(劇伴)と衣装です。第90回アカデミー賞では、作曲賞にノミネート、衣装デザイン賞で受賞していることからもそのスゴさがおわかりいただけると思います。第90回作曲賞は『シェイプ・オブ・ウォーター』を手掛けたアレクサンドル・デスプラに奪われましたが、こればかりはしょうがないと思います。テーマソングの耳に残るメロディも、怪物も踊りだす “you’ll never know” のカヴァーもキャッチーでありながら、新しい作品世界を作ってもいましたからね。

『シェイプ・オブ・ウォーター』が庶民・貧民・負け犬を主軸にしていたのに対して、『ファントム・スレッド』は基本的に上流階級・勝ち組の物語です。ほとんど真逆ですね。そのことが、音楽性にもかなり露骨に表れています。本作の音楽は非常に格調高く、なんともお行儀が良いものが多くなっています。ゴシック・ロマンス的であるとも言えるでしょう。物語の舞台はほぼずっとロンドンであり、ド直球のゴシックらしい妖しさで溢れているわけではありませんが、ああした雰囲気が好きな方のお眼鏡にもかなうのではないでしょうか。

以下からネタバレありです!

【ネタバレ】ラストシーンは絶対に評価が分かれる!

【ネタバレ】ラストシーンは絶対に評価が分かれる!(C)2017 Phantom Thread, LLC All Rights Reserved

配給会社曰く「92%が驚愕した」というラストシーン。ジャンルに縛られない珍しいところを突いてきたことが、かなりの高評価を受けています。

レイノルズのそっけなさに業を煮やしたアルマは、中盤からアクションを起こしていきます。始めはレイノルズの仕事ぶりをおだて、粗相を起こした客に着せるのはもったいないとのことで服を剥いでしまったりします。これを彼は喜び、アルマに感謝しますが、しばらくすると元のそっけない態度に戻ってしまいます。

 

次に、なんとしても二人きりの時間を作ろうとサプライズを画策します。姉のシリルからは「やめたほうがいい」と強く拒絶されておきながら、レイノルズの家から他の人を追い払い強行します。結果はシリルの言う通り大失敗で彼は激怒し、最終的に「元居た場所へさっさと帰れ」とまで言い出します。常識的に言えば心ない態度とも言えそうですが、レイノルズが自分のルールを破られることを何より嫌っていたことは明白でしたし、アルマは完全に自分の事しか考えていない上、言い訳が非常に幼稚なために彼女に同情できない……という絶妙なシーンです。仕事を面白がる男と、愛されたがる女の違いがよく表れています。

こんなことになったら普通破局しそうなものですが、そうはなりませんでした。アルマは何を思ったか、翌日レイノルズにこっそり毒キノコを食べさせるのです!彼は仕事中に昏倒してしまい、一日中ベッドで苦しみ続けます。その間アルマは何食わぬ顔で看病し、さも献身的な恋人であるかのように振る舞います。このへんは半分ホラーですね。病床のレイノルズは死んだ母親の姿をアルマに重ねたらしく、快復した後にプロポーズを申し込みます。二人は結婚し、幸せなハネムーンへと向かいました。

 

それでハッピー(?)エンドかと思いきや、また別の問題が出てきます。自分のルールを守らなくなり、アルマのペースに合わせていった結果、レイノルズのペースが狂い、仕事ができなくなってしまったのです。そのことがアルマにもバレたため、やはり別れるしかないかに思われました。

その夜、アルマが以前に毒を盛ったこと、さらに今日も同じものを食べさせていることを自白します。「仕事がうまくいかなくて悩んでるなら、仕事ができない身体になればいいじゃない。私が甘やかしてあげるから」という理屈であるようですが、どう考えても正気ではありません。そしてレイノルズがどうするかというと、なんと受け入れるのです。彼は倒れ、アルマがその後の幸せな生活を夢見て幕を閉じます。

最後の内の最後だけ見れば幸せな愛の物語ですが、経過が経過であるだけに、どう受け取っていいか悩むところでしょう。アルマは毒で夫を支配する悪人なのか、それともレイノルズが潜在的に持っていた弱さをも愛しつくす良き妻なのか?そのあたりが、「92%が驚愕した」ジャンル不明の映画らしさなのだと思います。

【ネタバレ】「92%」って意外と多くなくない?

【ネタバレ】「92%」って意外と多くなくない?(C)2017 Phantom Thread, LLC All Rights Reserved

……と、上で好意的に書いておいてなんですが、実は筆者は残りの8%の方でした。さほど驚けなかったんです。それは必ずしも、予想通りで退屈だったということではありません。ただ、特に突飛だとか不自然だとか、今までに無い展開だとかは思えませんでした。「そう来たか!」と手を打つよりかは、順当だと納得してしまったんです。なんだかんだで、同じような感想を持った方も居ることでしょう。8%って、40人のクラスだったら3人くらいが該当しますからね。少なそうで、少なくない気がします。

さて、なぜ驚けなかったかを考えた結果、同様の構造はすでに日本の作品に散見されるからかな、というところに落ち着きました。それは例えば、先述の『風立ちぬ』においては、仕事のことしか頭になくて一切家を顧みない身勝手な主人公を妻がずっと受け入れ続けていたわけで、単にそれが裏返っただけでは?と思ったのも一つです。

それ以上に、一昔前に持てはやされた「ヤンデレ」がこういうことをしそうだなというのが大きいです。独占欲が強まるあまり恋人を監禁したり、なんなら殺して食べてしまったり……という表現がすでにあったので、アルマの行動もすんなり受け入れていたのかなと思います。相手側がそれを受け入れるのも同様です。筆者自身が同じ目に遭いたいか、といえば一切そんなことはありませんが。

 

加えてレイノルズの場合、序盤からマザコン気質の伏線を張っていたことも大きいです。彼が初めから母親による庇護を求めていたことは明白でした。長い間姉のシリルが埋め合わせになっていたのでしょうが、マザコンを自白している地点で姉では不十分だったことがわかります。そこを満たす女性が現れたということなのですから、やはり自然に感じました。

そうそう表に出さないだけで、「母親のような存在に甘えたい」という欲望は、なんだかんだで多くの男が持っているのでしょう。それはレイノルズのように仕事ができる人間でも、例外とは限らないのです。でなければ、「赤ちゃんプレイ」だの「バブみ」だの「オギャる」だのという言葉が広まるはずはありません。

要は『ファントム・スレッド』は、60代男性が年下の恋人によって潜在的なオギャり欲を目覚めさせられるって話なんですよ。シリルの行動がやや過激だっただけで、現代の男性も共通して持ちうる感情を引き出したという意味では、そんなに現実離れした展開じゃなくないですか。……あ、そんなことないですかね?

【評価】奇妙さ、わかりやすさ、美しさを兼ね備えた良作

【評価】奇妙さ、わかりやすさ、美しさを兼ね備えた良作(C)2017 Phantom Thread, LLC All Rights Reserved

本作のテーマは突き詰めれば「愛の形」であり、非常に普遍的かつ誰にでもイメージしやすいものになっています。それでいて陳腐なものはなく、細部にも神経を使っているところは芸術に対し真摯だと言えるでしょう。変則的な形で主要人物の欲望が満たされる結末も、物語として非常に綺麗です。

総合的に言えば、「優れた愛の昔話」といったところでしょうか。臨場感や斬新さといったものには乏しく、安直に共感できる映画とも言いにくいです。しかし創作物としては、非常に良い出来であるのは間違いありません。

(Written by 石田ライガ)

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※2019年5月現在の情報です。