映画「ゴールデン・リバー」は、原作の「シスターズブラザーズ」という小説をジョン・C・ライリーが気に入ったことから映画化が始まりました。監督はフランスの巨匠でヴェネチア国際映画祭で金獅子賞の受賞経験もあるジャック・オーディアールです。
そして、メインキャストにはホアキン・フェニックスやジェイク・ギレンホールが名を連ねました。
ゴールドラッシュ時代のアメリカを舞台に、金を巡る4人の男の奮闘、そしてシスターズブラザーズの兄弟が心に残る映画となっています。今回は「ゴールデン・リバー」のネタバレ感想・解説・考察を書いていきます。
目次
映画「ゴールデン・リバー」を見て学んだ事・感じた事
・シスターズブラザーズの兄弟愛
・ジャック・オーディアールの渋い演出とウェスタンな世界観がたまらない
・個性派俳優4人による魅力的なキャラクターたち
映画「ゴールデン・リバー」の作品情報
公開日 | 2019年7月5日 |
監督 | ジャック・オーディアール |
脚本 | ジャック・オーディアール |
出演者 | イーライ・シスターズ(ジョン・C・ライリー) チャーリー・シスターズ(ホアキン・フェニックス) ジョン・モリス(ジェイク・ギレンホール) ハーマン・カーミット・ワーム(リズ・アーメッド) |
映画「ゴールデン・リバー」のあらすじ・内容
舞台はゴールドラッシュ時代のアメリカ。殺し屋の兄弟「シスターズ・ブラザーズ」は、殺し屋を辞めたい兄と裏社会でのし上がりたい弟の対照的な2人。
ブラザーズは組織の上層部からので金を見つける化学式を手に入れた科学者ワームを見つけ出し、その方法を聞き出す命令を受けます。ワームを追跡する連絡係モリスからの報告を手がかりに足取りを追うブラザーズ。
しかし、金の欲望に魅せられた4人は依頼を無視して、協力し金の発掘を目指すことになります。最初は疑念を晴らせず、疑い合っていた4人でしたが、共通の目的を得たことによって一致団結。バラバラの4人に待ち受ける運命はいかに…。
映画「ゴールデン・リバー」のネタバレ感想
映画「ゴールデン・リバー」は、フランスの巨匠ジャック・オーディアール監督が制作したウェエスタン・サスペンスです。
この監督は過去にヴェネチア国際映画祭金獅子賞、セザール賞4部門など、映画界で名誉ある賞を獲得してきた名監督です。そんな彼が今回の新作で作り上げたのが、ゴールドラッシュの時代を舞台にウェスタンとサスペンスを融合させた全く新しいジャンルの映画でした。
そして、金の行方を追う4人の男たちは、ジョン・C・ライリー、ホアキン・フェニックス、ジェイク・ギレンホール、リズ・アーメッドといった、ハリウッドでもなかなかお目にかかれない個性派俳優の組み合わせになりました。
全くバラバラの性格をした4人が互いに疑い合いながらも、友情を見せ、共通の目的を目指して奮闘しながらも、黄金という人間の欲望をむき出しにしてしまう魅惑の物質に立ち向かっていきます。
ウェスタンの香りを残すアメリカを舞台に本格サスペンスと夢を目指す男たちの姿が魅力的に描かれています。ここでは映画「ゴールデン・リバー」の感想を1つ1つの項目に分けて書いていきます。
【解説】原題をみてから映画を見に行った方がいい
映画「ゴールデン・リバー」の原題は「THE SISTERS BROTHERS」です。つまり直訳すると「シスターズ兄弟」という感じになるのですが、物語の内容からしてこのタイトルの方がストーリーと合致しています。
予告編についても少しミスリードな印象がありました。4人の男が金を巡って、騙し合ったり、殺しあったり、そういう関係性ながらも協力したりなどという部分がメインに据えられているイメージを持ったのですが、実際に劇中で4人が絡むのは結構後半になってからです。
ストーリー上では基本的にシスターズ兄弟を中心に描かれており、彼らの真逆の性格からぶつかり合ったり、それでも互いを信頼してリスペクトする様など、見事な兄弟愛であり、名コンビの感じが光っていました。
映画としてはこちらの方を中心に描いているにも関わらず、予告編などでは4人の男たちが互いに絡み合い、二転三転していくストーリーを期待してしまいます。
そこまで展開が二転三転するという映画でもありませんし、予告編などを見てから映画を見ると少し期待と異なったストーリーに感じてしまうかもしれません。
せっかく魅力的なキャラクターたちが砂埃の中を馬に乗って走り回り、その中で生まれる友情や兄弟愛などがキーになっている映画で、それ自体は素晴らしいのですが、鑑賞前のイメージとは違った展開に戸惑ってしまいました。
できれば、映画「ゴールデン・リバー」を見るときには原題を見てから行くことをおすすめします。この映画はシスターズ兄弟を中心に描いており、兄と弟の2人が醸し出す人間関係をメインで楽しみましょう。
【解説】バラバラの性格と目的を持った4人の男たち
映画「ゴールデン・リバー」では、4人の主要登場人物が登場します。
4人とも揃いも揃ってバラバラであり、個性的で魅力的、互いに考え方は違うのですが、どこかで繋がっていったりと、魅力的な人間模様が展開されます。
殺し屋を引退した兄イーライ・シスターズ
シスターズブラザーズの兄イーライは殺し屋の仕事を続けているものの、性格自体は穏やかで几帳面な人物です。弟の粗野な言動に腹をたてることもしばしばありますが、それでも見捨てずに一緒に仕事を続けます。
どこか西部劇に登場するような豪快な男というイメージとはかけ離れており、道中に歯ブラシを買っては、歯を磨いてみたり、酒場で声をかけた娼婦にスカーフを渡して、指示したセリフを喋らせて受け取るといったこともしていました。
そして、事あるごとにこの裏稼業から足を洗いたいという願望を口にします。弟は正反対でもっとこれからのし上がっていきたいと思っており、意見がぶつかるのですが、どうにかして落ち着いた生活を手に入れたいと願っています。
乱暴で殺しを厭わない弟チャーリー・シスターズ
シスターズブラザースの弟チャーリーは兄とは正反対。乱暴で「ザ・殺し屋」といった印象。ウェスタンと銃と馬と酒がよく似合います。ときにその乱暴さによってトラブルを招くこともしばしばありますし、二日酔いで兄に迷惑をかけることも。
しかし、仕事の腕前は一級品でピンチに陥っても、難なく切り抜けていきます。チャーリーは裏組織の提督から直接依頼を受け取る人物でもあり、報酬の取り分にイーライは不満を持っていたりもしました。
チャーリーの願望としては、もっと仕事をこなしてこの裏社会をのし上がっていくこと。引退したいイーライに対しては、自分1人で勝手にしてくれと突き放しますが、チャーリーの相棒はイーライしかいません。他の人物とコンビを組むこともできましたが、お世辞にも仕事ができる相手とはいえませんでした。
乱暴なチャーリーに対して、神経質なイーライ。両者がうまくバランスを取り合うことによって名コンビになっていきます。
科学者を追う連絡係ジョン・モリス
ジョン・モリスはシスターズブラザーズと同じ雇い主から、金を探すための化学式を発見した科学者ワームを追跡することを命令されています。
最初は追跡をしているだけだったのですが、ある街でワームの方から声をかけてきます。そこで金を探すための化学式を本当に持っていること、そして、金を発掘することによって争いのない理想の共同体を作り出すというワームの計画に賛同し、依頼を受けていながらもワームに協力します。
こちらもイーライのように西部劇に登場する男という感じではありません。冷静で中立的な視点を持っているでしょう。
理想郷を作る計画を持つ科学者ワーム
4人目の人物は金を探し出すための化学式を持っている科学者ワームです。彼は金を手に入れることによって、この暴力で支配された野蛮な世界を終わらせて、理想的な共同体を作るという計画を胸に秘めていました。
西部劇という野蛮な世界と、現代的な化学で支配された世界の境界にいるような人物でもあります。化学によって世の中を変え、理想的で平和な世界を望むワームはこの時代においては珍しい存在と言えるでしょうし、これからの世界を作っていく人物でもあるでしょう。
そして、彼の計画にモリスは魅せられてしまいます。モリスもワームの思想に心酔し、ターゲットながらも組織を裏切って協力し始めます。
【解説】黄金が揺るがす人間の欲望
このような個性的でバラバラな4人が物語後半で一同に集結します。モリスの裏切りを察知したシスターズブラザーズは、2人を発見し殺そうとするのですが、ワームを狙う別の刺客に襲われてしまいます。
やむなくピンチを4人で乗り切った4人は金を目指して手を組むことにし、ワームのカリスマ的な語り口と崇高な思想、何よりも金を確実に手に入れることができるという魅惑の提案にシスターズブラザーズも話に乗せられてしまいます。
ここで気になるのはシスターズブラザーズの弟チャーリーです。チャーリーは乱暴な性格をしていますが、組織に対する忠誠心はこの中の誰よりも強かったはずです。幹部へのリスペクトもありますし、組織を登りつめたいという野心も持っています。
しかし、ワームの話を聞いた途端、依頼を無視する行動にでます。ここにチャーリーという人物の欲深さのようなものが見てとれます。やはりどんなものよりも黄金は魅惑の誘引を放っているということでしょうか。
元々組織を抜け出したいと思っていたイーライは、簡単に話に乗るのですが、ここでのチャーリーの考え方が変わるところは印象的でした。
そして、もう1つ印象的なシーンとしては、実際に金を採っていくシーンにあります。薬品の効果が本物で、金を集めていく4人ですが、効果が薄まることを察したチャーリーが残りの薬品を全部川に流してしまいます。
冷静に考えればそんなことしなくてもいいにも関わらず、チャーリーは黄金に目がくらみ、間違った行動をとってしまいます。元々野心があり欲望も強かったチャーリーという人物像がここにきて裏目に出てしまいます。
この映画のキーポイントになっているシーンでもありましたが、金を目にした瞬間に人を変えてしまい、それによってこれまでの計画が水泡にきしてしまいました。黄金という魅惑の魔力を持っており、それが人間を変えてしまうというパワーを感じさせてくれます。
ワームは黄金によって理想的な共同体を作ることを理想としていました。そして黄金を手に入れればそれが実現できると思っていたでしょう。しかし、現実にはチャーリーの欲望むき出しの行動による破滅です。
このシーンから示唆されるのは、人間社会の理想と現実なのかもしれません。仮にこの作戦がうまくいってワームを中心とした共同体ができたとしても、チャーリーのような人物によって破壊されてしまうでしょう。
【解説】ぶつかり合いながらも互いに思い合うシスターズ・ブラザーズ
色々ありますが、この映画の中心は何と言ってもシスターズブラザーズの兄弟愛です。性格的には真逆の2人で劇中では何度となく意見がぶつかり、喧嘩もします。トラブルメーカーなチャーリーに対して、幾度となくうんざりさせられるイーライ。
普通であればすぐに喧嘩別れしてもおかしくないほど、2人はバラバラのキャラクターでした。
しかし、それでも互いの仕事の腕前は認めており、さらには最終的なところで兄弟としての愛情を持ち合わせています。互いの髪の毛を切り合う姿はまさに兄弟!という感じでしたね。
裏稼業を引退したいイーライに対して、チャーリーは「勝手にすれば?」と突き放すのですが、だからといってイーライがチャーリーの元を離れるわけではなく、仕事を続けていきます。
チャーリーの粗相をイーライがカバーすることもしばしば。金の採掘に失敗した後、腕を切断することになったチャーリーに対しても、イーライは見捨てず世話をしながら修羅場をくぐり抜けていきます。
この名コンビの感じというか、「なんだかんだあるけどやっぱりお前と組むのが一番」といった感じは、兄弟愛の描き方として非常に魅力的でした。
【解説】「レッド・デッド・リデンプション」が好きな人におすすめ
ゴールドラッシュ時代のアメリカを舞台に、西部劇の雰囲気を纏いながら展開していく映画「ゴールデン・リバー」。西部劇で銃撃戦やアクション、暴力的で野蛮な人々、こういった要素を考えると「レッド・デッド・リデンプション」というゲームの世界観が好きな人にオススメの映画です。
この映画は西部開拓時代の名残が残る近代アメリカを舞台に無法者たちが盗みや強盗、暴力での支配をしながら抗争を繰り広げていきます。
このゲームも西部劇っぽい雰囲気を持ちながら、馬に乗ってアメリカ中を移動していきながら、激しい戦いを繰り広げるというものでした。
すでにこのゲームをプレイしたことがある人は映画「ゴールデン・リバー」に同じ匂いを感じたのではないでしょうか。
【解説】個性派キャストが送る魅力的なシーンの連続
この映画に出演したジョン・C・ライリー、ホアキン・フェニックス、ジェイク・ギレンホール、リズ・アーメッドという個性派俳優の4人。劇中でもいい味を出しながらキャラクターに深みを与えていました。
ジョン・C・ライリーのぎこちない歯磨きのやり方、赤いストールの匂いを嗅いで落ち着くシーンや、リズ・アーメッドの理屈っぽくも純粋さと疑わしさを両方を兼ね備え、最後までどういった真意を持っているのかわからないミステリアスなキャラクター像。乱暴さと野蛮さに拍車のかかったホアキン・フェニックス、組織に属しながら優しさを持ち合わせるジェイク・ギレンホールなど、どの役者もキャラクターを際立たせており、ストーリーをより魅力的にしています。
ウェスタンとサスペンス、ロードムービーに家族ドラマの融合
映画「ゴールデン・リバー」では、予告編などではウェスタン・サスペンスという要素が書かれていましたが、実際のところはそれに加えてロードムービーや家族ドラマといった要素も含まれています。
目を見張るような斬新さはないのですが、ジャック・オーディアールによる渋い演出がウェスタンの世界観を際立たせています。そして、個性派俳優の4人によるキャラクターも見逃せません。
本格派でいぶし銀の魅力が詰まった開拓時代のアメリカを舞台に繰り広げられるドラマをぜひご覧になってみてください。