映画「プライベート・ライアン」は、ノルマンディー上陸作戦を題材にした1998年公開の戦争映画です。
スピルバーグ監督作品であるこの作品は、迫力のある戦闘シーンとリアルな人間模様から史上最高の戦争映画といわれています。
今回は魅力たっぷりの映画「プライベート・ライアン」のネタバレ感想・解説を書いていきます。
目次
映画「プライベート・ライアン」を観て学んだこと・感じたこと
・考え抜かれた映像効果やストーリーの進み方がすごい
・命の重さに違いはあるのかという主題に答えがない
・戦争にヒーローはいないと痛感させられる
映画「プライベート・ライアン」の作品情報
公開日 | 1998年 |
監督 | スティーブン・スピルバーグ |
脚本 | ロバート・ロダット フランク・ダラボン |
出演者 | ジョン・H・ミラー大尉(トム・ハンクス) マイケル・ホーヴァス一等軍曹(トム・サイズモア) リチャード・ライベン一等兵(エドワード・バーンズ) ダニエル・ブーン・ジャクソン二等兵(バリー・ペッパー) ティモシー・E・アパム伍長(ジェレミー・デイビス) ジェームス・フランシス・ライアン一等兵(マット・デイモン) |
映画「プライベート・ライアン」のあらすじ・内容

激闘のノルマンディー上陸作戦を命からがら遂行したジョン・ミラー大尉は、上陸から3日後、新たな任務を命じられます。
それは、4人兄弟の最後の生き残り、第101空挺師団のライアン二等兵を戦場から救出せよというものでした。
たった一人の命を救うために編成されたのはジョン・ミラー大尉率いる7名の部下たち。政府の広報活動のために、たった一人の命を救う決死の作戦が始まるのでした。
映画「プライベート・ライアン」のネタバレ感想

アカデミー11部門にノミネートされ、それまでの戦争映画興行収入を塗り替えた話題のプライベート・ライアンは1998年の映画ですが、今改めて観なおすことで新たな感想や発見が数多くある作品です。
ここからは時代背景や、今はスターとなった脇役のキャスト陣などについて改めて解説をしていきます。
一度映画をご覧なった人も新たな視点が見つかるかもしれません。完全なネタバレとなりますので、またご覧になっていない方は御注意ください。
【解説】プライベートライアンの時代背景は?ノルマンディー上陸作戦とは

第二次世界大戦下の1944年、北西ヨーロッパはドイツ軍の支配下に置かれていました。連合軍はドーバー海峡を渡り、フランスのコタンタン半島にあるノルマンディー海岸から上陸する「ネプチューン作戦(通称ノルマンディー上陸作戦)」を開始します。
この作戦は200万人近い兵士がコタンタン半島の5か所の海岸から上陸するという、歴史上最大規模の上陸作戦となりました。プライベートライアンの冒頭で激闘が繰り広げられたのは、5か所の内もっとも激戦だったといわれるオマハ・ビーチです。死傷者は4000人を超えたそうですが、ノルマンディー上陸作戦全体での連合軍側の死傷者は12万人にものぼったといわれています。
オマハビーチは鉄壁の要塞として知られていたビーチで、連合軍の本当の目的はオマハビーチを突破することではなく、オマハに多数の兵士を送ることでドイツ軍をくぎ付けにし、他4か所のビーチから上陸しやすくすることだったという説があります。そのような状況を念頭に置きながら映画を観ると、話題になった凄惨な戦闘シーンがより胸に迫って来ることと思います。
映画の主題は「命の重さ」に優劣があるのか

ライアン二等兵は4人兄弟の末っ子です。4人ともに従軍して戦地に赴いており、ライアン以外の3人の兄が戦死したという情報を軍上層部がつかみました。作品中にはっきりとした描写はありませんが、ライアン二等兵救出する作戦を決定したのは、おそらくアメリカ国民に向けての広報活動の一環だったのではないでしょうか。
救出作戦にはジョン・ミラー大尉含む8人の人員が費やされます。ライアン二等兵一人のために兵士8人の命を危険にさらすわけです。そこで救出部隊の彼らだけでなく、観ている私たちの中にも疑問が芽生えます。ライアン二等兵の命に優秀な兵士8人分以上の価値があるのか・・・と。
ライアンは4人兄弟の最後の生き残りだから、その命には他の兵士8人分以上の重みがあるというのでしょうか。敵地を進む救出部隊のおしゃべりの中で「8人の命を懸けて1人を助けるとはどういう理屈だ?」「息子を亡くしたおふくろのためだ」「俺にもおふくろはいるぜ」というやり取りがあります。ライアンの母親や軍の上層部にとっては他の8人よりもライアン二等兵の命が重いのでしょうが、それぞれ他の母親たちにとっては事情が違うでしょう。そしてまた第三者にとってみれば命の重さに違いはないと答えるかもしれません。
結局、命の重さなど誰にも測れはしないのです。誰もが誰かの大切な人であり唯一無二の存在で、立場が違えばその重さもひっくり返るのですから。作中にも答えは最後まで出てきません。もしもどんな命も同じ価値であるなら、ライアン救出途中で戦死した6人は無意味に命を落としたことになります。また、ライアンの命が8人よりも尊い命であるなら、戦死した6名の命は尊くないのか、という理屈になります。結局作中に結論はありません。
最後にジョン・ミラー大尉は敵兵に撃たれてしまいますが、亡くなる直前ライアンに向けてこう言います。「ムダにするな。しっかり生きろ。」そして場面は変わり、老人となったライアンは家族とともに訪れたジョン・ミラー大尉の墓の前で妻にこう聞くのです。「私はいい人生を?いい人間かな?」。
ライアンは一生をかけて命の重さを自分自身に問いながら生きてきたのだと思います。そして命の重さについての答えがなくても、ミラー大尉の最後の言葉を守り抜き、少しでも自分自身の人生を善きものにすることで、命の価値を高めていくしか生きる道がなかったのではないでしょうか。ライアン自身には答えが出なくても、後ろで見守るライアンの家族たちにとって、ライアンの命はかけがえのない物であったはず。プライベートライアンという映画を観た人すべてがもう一度命について考える、これが映画の本当の主題であったのだと思います。
あの人もこの人も!今やスクリーンやTVでお馴染みの豪華キャスト陣

プライベートライアンは豪華キャストなことで話題にもなっています。とはいえ、脇を固めるキャストも本作公開時はキャリアも浅く当初から有名人ではありませんでした。
主演はジョン・ミラー大佐役のトム・ハンクス。根っからの軍人ではなく高校教師上がりの大佐ということで、頼りになる人物でありながら時々垣間見える繊細さを持つ人物を上手に演じています。そして件の人物ジェームズ・フランシス・ライアン二等兵に若きマット・デイモンが起用されています。今でこそタフでマッチョなイメージがある彼ですが、この作品では一途な面や、若さゆえの弱さも持つヒーローではない普通の若者を好演しています。
また救出部隊の面々は、洋画好き海外ドラマ好きなら1度は目にしたことのある俳優さんが演じています。メンバーの一人カパーゾは、ライアン捜索中に出会ったフランス人家族の女の子を上官の命令に背いてまでも保護しようとして敵に撃たれてしまいます。物語の前半で亡くなってしまうこの役は、なんと若き日のヴィン・ディーゼル。今やハリウッドを代表するアクションスターの彼が人情味あふれる若者を演じています。
さらに、通訳兼地図作成要員で、実際の戦闘経験なしという何とも頼りなげなティモシー・E・アパム伍長の役にはジェレミー・デイビス。彼は海外ドラマ「LOST」のダニエル役が有名でしょう。どの作品でもタフな役どころはありませんが、プライベートライアンでも気弱で線の細い役どころです。年齢も捜索隊の中で最年少。ただしアパム伍長の存在は、普通の青年にとっての戦争という焦点では非常に重要な役どころで、最後に生き残る二人のうちの一人となります。彼の目を通したこの救出任務はほかの兵士とは全く異なるものになるのではないでしょうか。
救出部隊唯一の衛生兵アーウィン・ウエイド伍長にはジョヴァンニ・リビシが起用されています。彼は「コールドマウンテン」や「アバター」など、さまざまな有名作品で個性的な脇役として活躍する存在感のある俳優です。個人的には「ギフト」という映画で精神を病んだ心優しき青年の役を演じたのが印象的ですね。
個人的に好きな俳優さんなのですが、ダニエル・ジャクソン二等兵役のバリー・ペッパーは完全にハマり役でしょう。彼は信心深いカトリックのスナイパーという役どころで、冷静で物静かな性格とギリシャ彫刻のような風貌が、これ以上ないほどにマッチした役どころです。「父親たちの星条旗」という映画でも軍人役、「グリーンマイル」では心優しい看守役でした。本当に軍服や制服が似合う俳優さんなのでぜひチェックしてみてください。
他にも、軍人役に定評のあるトム・サイズモアはやや小太りの鬼軍曹マイケル・ホーヴァス役、「がけっぷちの男」で冷静な捜査官として脇役を演じたエドワード・バーンズは最後に生き残るうちの一人リチャード・ライベン二等兵役(捜索隊一のイケメンです!)、スタンリー・メリッシュ二等兵には「ゾディアック」や「デジャヴ」など、数々の映画で脇を固めるアダム・ゴールドバーグが起用されています。
そして、今回改めて映画を観て気が付いたのですが、部隊がライアンと同姓同名の人物に行きつき兄弟が死んだと知らせるシーンがあります。結局出身地が違うことでこのライアンは探している人物とは別人と判明しますが、この、ほんのちょこっと出てくる「偽ライアン」役、どこかで見たことがあると思って調べたら、アメリカのTVドラマ「キャッスル」のリチャード・キャッスル役ネイサン・フィリオンじゃありませんか!
最初に見た約20年前は何とも思わなかったのは当たり前ですよね。存在すら知らなかったわけですから。こんなことがあるのも、プライベートライアンの楽しみの一つなんじゃないかと思います。
ストーリーに引き込まれるこの映画、理由はこんなにあった!
冒頭23分間に及ぶ凄惨な戦闘シーンが物議を醸した本作ですが、注目すべきは知らず知らずに映画に引き込まれるあらゆる演出やストーリー展開です。
ここからは、この映画がなぜこんなに観る者を引き付けるのか、その理由に迫っていきたいと思います。
臨場感あふれる映像にはこんな工夫があった

オマハビーチからの上陸シーンで始まるこの映画は、冒頭の戦闘シーンの生々しさが話題になりました。兵士目線のカメラワークが中心になっており、カメラに飛び散る血しぶきなどまるでその場にいるかのような臨場感があります。
冒頭のシーンは、現在のオマハビーチが開発され、なおかつ保護の対象になっているため、地形的によく似たアイルランドのあるビーチでロケが行われました。大勢の兵士の役は、エキストラとしてアイルランド陸軍の兵士250名が参加して行われたためか非常に統制の取れた動きをしています。
また、リアルさを追求するため、固定カメラではなくハンディカメラを使用し、シャッタースピードを上げてカタカタとぎこちない映像になるように撮影されました。これは極限状態の兵士たちの精神状態を表すためで、錯乱一歩手前の異常な状況を表現しています。まるで耳元で発射されているかのような銃声は、実際の銃声を録音したものなんだそうです。
23分間にも及ぶ戦闘シーンには目をそむけたくなるようなむごたらしさもありますが、これほどまでに引き込まれるのは、こういった数々の工夫により突出した臨場感を感じるからではないでしょうか。
この作品を撮影するにあたって、トム・ハンクスをはじめとした出演者はブートキャンプと同等の過酷な訓練を10日間にわたり受けましたが、ただし、マット・デイモンはキャンプに参加していません。それは、きつい訓練を通して出演者たちにライアン二等兵への反感を植え付けるためだったとか。撮影自体も時系列に沿って行われ、ライアン二等兵と捜索隊のメンバーは実際探し当てるシーンが来るまで顔を合わせない徹底ぶりだったんだそうです。
ストーリーが一本化されているので話の流れに集中できる

映画にはよくありがちですが、いくつかの場面や小さなストーリーが伏線として同時進行することがあります。例えば戦争映画などでは個々の兵士がどういった背景を持っているのかを説明するときには便利な手法ですが、焦点が複数になり1つのストーリーに集中しきれないときもありますよね。
その点、本作は物語があちこちに移動することなく、兵士が上陸した後に捜索隊が結成され実際に捜索に行き、ライアンを見つけ保護するまでの物語が1本化されています。ライアンの家族背景などを描きたくなったり、ジョン・ミラー大尉の背景などに言及したくなったりしそうなものですが、そこをこらえて(?)最初から最後まで捜索部隊とライアンの救出のみに的が絞ってあるのです。
そのため、観ている人がストーリーに集中でき「あれ?これは誰だっけ?」など複雑な映画に起こりがちなわずらわしさは一切ありません。だからこそ、映画を観終わった後で主題である命の重さについてじっくり考えることができる作品なのだと思います。
プライベートライアンは実話をもとにして制作された

プライベートライアンは実際にあった逸話をもとにして製作されています。実際の人物はフレデリック・ナイランド三等軍曹で4人兄弟の末っ子です。3人の兄が戦死をしたため国防省のソール・サバイバー・ポリシーにのっとって本国に送還されました。実際には捜索隊が組まれたわけではなく、フレデリックはパラシュートで敵地に降下したものの自力で原隊に帰ったところ、兄達の戦死の知らせを受けたとのことです。
アメリカ国防省にソール・サバイバー・ポリシー(直訳すると唯一の生存者方針)なるルールが実際に制定されているのには驚きますよね。余談ですがナイランド家の長兄が戦死したというのは誤報で、ビルマの日本軍捕虜収容所に収監されていたんだとか。彼はイギリス軍に救出され、その後帰国しています。母親のもとには2人の息子が帰ってきたんですね。
プライベートの意味とは「階級の低い兵卒」

最後になりますが、題名にもなっているプライベートラインのプライベートとはどんな意味か疑問に思ったことはありませんか?スペルはprivateと書きます。日本では「私的」「民間の」といった意味合いで使われることが多いのですが、一番下の兵士の階級を表す言葉でもあります。ですから一等兵、二等兵あたりの階級をプライベートと呼びます。
プライベートライアンには英雄も鬼神も出てきません。一等兵や二等兵など一般的な階級の普通の青年たちの戦場を描いています。一人一人の背景が詳しく描かれていなくても、彼らの日常の延長線上に戦いの場があり、大義も持てぬまま、ただ家に帰りたいと願いながら散っていく命がリアルに胸に迫る映画です。
彼らにとってはどんな大義を掲げた戦争もただの戦場であり、そこには生きるか死ぬかしかないのだと改めて考えさせられる映画でした。
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