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映画『お嬢さん』ネタバレ感想・解説・考察!抑圧された女性の解放を一流のセンスで描くストーリー

【解説】監督パク・チャヌクによる『荊の城』の大胆なアレンジ

映画『お嬢さん』は、ある屋敷の令嬢を騙して遺産を横取りしようとたくらむ少女が、令嬢の人となりや境遇にほだされ、懇意になっていく物語です。

しかし、少女はやがて、自分を取り巻く大きな計画の中にいることを知ります。過激なラブシーンや残酷な描写が話題になった本作ですが、本作の構成には目を見張るものがあり、見れば思わず膝を叩いてしまうことでしょう。

今回はそんな映画『お嬢さん』の感想や解説、考察について紹介します。なお、作品の性質上、先に説明を読んでしまうと魅力が著しく損なわれる映画であるため、ネタバレはある程度伏せて紹介しています。一応、視聴前に読まれる場合は十分にご注意ください。

目次

映画『お嬢さん』を観て学んだこと・感じたこと

・監督パク・チャヌクのセンスが凝縮された新たな傑作
・視点の変化で二転三転するストーリーに注目
・女性同士の過激なベッドシーンは女性にこそ見てほしい

映画『お嬢さん』の作品情報

公開日2017年3月3日
監督パク・チャヌク
脚本パク・チャヌク
チャン・ソギョン
出演者秀子お嬢様(キム・ミニ)
ナム・スッキ/珠子(キム・テリ)
藤原伯爵(ハ・ジョンウ)
上月(チョ・ジヌン)
佐々木(ム・ヘスク)
秀子の叔母(ムン・ソリ)

映画『お嬢さん』のあらすじ・内容

映画『お嬢さん』のあらすじ・内容

日本統治下の朝鮮。詐欺師の一家で働く少女スッキは、同業者の男からある令嬢の資産を横取りしようとする計画への参加を聞かされ、これに加担します。男は藤原伯爵と名乗って令嬢と駆け落ちし、遺産を相続したのちに令嬢を日本の精神病院に隔離しようというのです。スッキはそのサポート役であり、珠子という名の侍女として令嬢に近づきます。

令嬢の名前は秀子。親日家の朝鮮人・上月が結婚した日本人の嫁の、さらに姪にあたります。嫁の遺産は秀子が相続することとなっており、上月は成長した彼女と結婚して遺産を正式に自分のものとするつもりでした。

秀子の性格や状況を知った珠子は、やがて遺産目当てでしかない男たちに憤る一方、秀子に深い親しみを抱き始めます。

映画『お嬢さん』のネタバレ感想

【解説】監督パク・チャヌクによる『荊の城』の大胆なアレンジ

【解説】監督パク・チャヌクによる『荊の城』の大胆なアレンジ(C)2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED

映画『お嬢さん』は2016年に韓国、翌年には日本で公開されたエロティック・サイコスリラーです。エロティックと聞いて男性の好みそうな作品を想像したのであれば、それは早計というものでしょう。圧倒的な物語構成力と、誰もが騙されるであろう展開。そして、一方的に都合の良い性を押し付けられ抑圧された女性たちが、自ら飛び出していく姿を見れば、これが単なるスリラーでもエロティックでもない、素晴らしいミステリであることに気が付くはずです。

実際、第69回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にて封切された際には、あまりの面白さに長時間のスタンディング・オベーションが巻き起こったといいます。

本作の監督パク・チャヌクは、韓国でもっとも有名な映画監督のひとりです。代表作は、15年ものあいだ理由も知らされずに軟禁された男が、復讐のために奔走する姿を描いた『オールド・ボーイ』。ミア・ワシコウスカやニコール・キッドマンをそろえ、『ブラック・スワン』のスタッフとともに作り上げたミステリ『イノセント・ガーデン』など。そのほか、どれも一度見ると忘れられないインパクトを残す作品を多数制作しています。

今作『お嬢さん』では、ウェールズの小説家サラ・ウォーターズの作品『荊の城』を題材にしています。原作の舞台がヴィクトリア朝であったのに対して、『お嬢さん』では日本と統治下の朝鮮が舞台であり、結末も全く異なるものとなっています。

 

主人公のひとり、秀子を演じるのはキム・ミニ。駆け出しのころには演技力の低さを指摘されたこともあるそうです。しかし、役への渇望と不断の努力が実を結び、基本的な演技力はもちろんのこと、幅広い演技が評価されるようになりました。

2012年には小説家・宮部みゆきの『火車』を韓国で映画化した『火車 HELPLESS』に出演し、釜山映画賞で最優秀女優賞を受賞しています。また、2017年には『夜の浜辺でひとり』でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞。同賞を受賞した韓国人女優は、彼女が初めてです。監督のパク・チャヌクをして、「現時点でもっとも切望されている女優のひとり」と言わしめるなど、今後の活躍がますます期待される女優です。

 

一方、もうひとりの主人公であるナム・スッキ、日本人名での珠子を演じるのがキム・テリです。彼女は本作がデビュー作であり、1500人が集まった『お嬢さん』のオーディションを受けて、見事にその座を射止めました。デビュー作ながらその演技や表情は非常に生き生きとしており、また同性との濡れ場でも魅力的に演じるなど、その様子は新人離れしています。

詐欺師の藤原伯爵はハ・ジョンウが担当。2005年にテレビドラマ『プラハの恋人』で注目されたあと、多くの映画作品に出演しています。その他、親日家の朝鮮人で稀覯本の収集家・上月をチョ・ジヌン、上月の屋敷で侍女たちのトップに君臨する佐々木をキム・ヘスク、秀子の叔母をムン・ソリがそれぞれ演じています。

【解説】必ず騙される!二転三転する展開に最後まで目が離せない

【解説】必ず騙される!二転三転する展開に最後まで目が離せない(C)2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED

映画『お嬢さん』は全3部構成、時間にして計145分と映画としては長いといえるでしょう。しかし、物語は上質なミステリとしての顔を持っており、やがて驚くような展開につながっていくため、最後まで飽きることなく見られるはずです。

物語は、詐欺師の集団に育てられた少女スッキが、同業者の男と共謀して上月の家にいる秀子の財産をせしめようとたくらむシーンから始まります。親日家の朝鮮人である上月は日本人の没落貴族の娘を嫁にしましたが、嫁は死亡。嫁の財産の相続権は姪の秀子にあったため、上月は彼女を屋敷に軟禁し、近いうちに秀子を嫁にして財産を相続しようとたくらんでいました。

この情報をつかんだ詐欺師の男は、藤原という日本人の伯爵に変装して屋敷に入ります。そして、秀子の気をひいて自分の妻としたあと、日本の地で秀子を精神病院に送り込み、財産を横取りしようと計画します。スッキは秀子の気をひくためのアシスタントとして、珠子という名前で屋敷の侍女になり、秀子の世話を始めます。

他の侍女から靴を隠されるなど、あまり歓迎されている様子はなかった珠子。しかし、秀子だけは最初から珠子に興味がある様子です。藤原の計画に従って秀子の信頼を勝ち取ろうとする珠子ですが、どこか厭世的な秀子の雰囲気が気がかりです。しかも、秀子の部屋には異常に太い縄があったり、上月と秀子しか入れさせてはもらえない書庫があったりと、屋敷全体に奇妙な様子がうかがえます。

 

ある日、書庫から戻り、飴をなめながら風呂に入る秀子は、尖った歯が口内を刺して痛いと言いました。それに対して珠子はヤスリをはめた指を秀子の口に差し入れ、ゆっくりと時間をかけて歯を削ります。過激なベッドシーンの数々が話題である本作において、もっとも官能的な部分はこの場面ではないでしょうか。

口内はキスに始まり、親しい相手にしか触れさせない部分のひとつです。しかも内側は粘膜に包まれており、性感帯のように感じやすい場所。珠子が侍女として単に秀子の世話をするだけの場面かと思いきや、台詞もなくゆっくりと指が差し込まれ、指が秀子の口内をまさぐっていき、ふたりは妙な雰囲気を漂わせ始めます。

珠子は秀子の身体やそこから溢れる香りに動揺を隠せません。秀子もまた、優しく口内をいじる珠子の指に絶えきれないのか、珠子の肘へもどかしそうに指を這わせます。過剰な演出も直接的な性行為も一切ないにも関わらず、非常に官能的なシーンとして印象に残ることでしょう。

 

その後、藤原は美術の講師として屋敷に入り、秀子に接近していきます。しかし、あまりに露骨な接近の仕方に珠子は呆れ、だんだん苛立ちを募らせることに。それは単に藤原のやり方が拙いからだけではありません。珠子は、天涯孤独で屋敷から出られない秀子に親しみを感じ始めていたのです。

しかし、藤原のアプローチに抵抗できなくなってしまったのか、やがて秀子はだんだん藤原の求めを拒みきれなくなっていきます。ついには藤原から求婚され、一緒に駆け落ちしようと言われたことを珠子に告白するのでした。もはや藤原への苛立ちは最高潮に達していた珠子ですが、秀子に怖がることはないと優しく諭します。そして、秀子の不安を払拭するために、初夜の方法を教えるという名目で彼女と艶めかしく抱き合います。

その後、秀子は珠子を連れて行くことを条件に藤原の求婚を承諾し、上月が留守のあいだに3人で日本へ渡ります。小さな寺で結婚式を挙げ、やがて藤原と珠子が当初計画したとおり、秀子を精神病院へ送ることとなりましたが、そこで事態は思わぬ展開を迎えることになります。その先はぜひ鑑賞して確かめてください。

【解説】『オールド・ボーイ』にもあったタコの意味は?『お嬢さん』制作秘話

【解説】『オールド・ボーイ』にもあったタコの意味は?『お嬢さん』制作秘話(C)2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED

『お嬢さん』の制作にあたり、監督のパク・チャヌクはさまざまなインタビューを受けています。制作秘話とも呼べるその内容は、視聴後に読むと本作の魅力が一層深まることでしょう。

たとえば、本作のテーマのひとつに女性の解放があります。原作である『荊の城』もまた、令嬢を騙そうと近づく娘の様子が描かれ、だんだんふたりは親密になっていきます。しかし、その結末は『お嬢さん』とは異なったものです。

これに対してパク・チャヌクは、原作の素晴らしさを認めながらも、読んでいる最中にふたりの女性を主人公とした別の結末を想像していたそうです。その結末が『お嬢さん』のクライマックスになっています。

パク・チャヌクがこのように考えるのには理由があります。韓国では未だに家父長制が幅をきかせている部分があり、女性が抑圧されることの多い社会です。長らく儒教的な規範を家族基盤としてきたため、その強烈さはおそらく過去の日本とは比べものにならないでしょう。

そのような社会において、パク・チャヌクは抑圧された状況に立ち向かい、困難を打破する女性がとても魅力的であると語ります。秀子と珠子のクライマックスは、こうした女性の姿を象徴したものといえるでしょう。

 

また、監督によれば、作中における情報の隠し方には一層の注意を払っているとのこと。本作は第1部と第2部で全く異なる見方ができる仕掛けとなっており、第1部で意図的に隠された情報が、第2部で答え合わせのように開示されるようになっています。

視点を変えて同じシーンを参照する手法はミステリ系の作品でも見られます。そうした手法を惜しげもなく用いる点は、どんでん返しのようにネタを披露することに定評のあるパク・チャヌクならではといえるでしょう。

 

細かなギミックとして、タコの存在も忘れてはいけません。タコといえば、『オールド・ボーイ』では主人公が日本料理店で生のタコを注文し、食するという印象的なシーンがあります。これは15年もの軟禁生活で、生のモノが食べたいという渇望によるものだそうです。一方、『お嬢さん』に出てくるタコは、葛飾北斎による春画の傑作「蛸と海女」から引用されています。

秀子が屋敷から逃げられない理由のひとつに、幼少から抱えている上月への恐怖心があります。彼は秀子が意にそぐわない行動をする度に、脅迫的な行為でもって彼女に恐怖を与えてきました。その恐怖の象徴が書庫の地下にある拷問部屋です。実はあるシーンでこの拷問部屋の詳細が明らかになるのですが、部屋には水槽があり、中にはなんとタコがいるのです。

一方、秀子は書庫で、この「蛸と海女」の挿絵を目にしています。いつから知っていたのかは定かではありませんが、上月のある性的嗜好から、おそらく幼少のころに見せられていたのは間違いないでしょう。

グロテスクなタコによって性的快楽を与えられている女性の様子。それは秀子に精神的なショックを与え、実際のタコとともに上月への恐怖を植え付けたのだと考えられます。彼女が異常なまでに地下の拷問部屋を怖がるのは、こうした理由によるものだといえるでしょう。

【解説】日本もロケ地に、印象に残る舞台や背景に注目

【解説】日本もロケ地に、印象に残る舞台や背景に注目(C)2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED

パク・チャヌクの作品といえば、印象的なシーンが多いのも特徴のひとつです。物語の展開やカメラワークが卓越しているのはもちろんのこと、舞台や背景の切り取り方にはセンスがあり、鑑賞後も脳裏に焼き付いて離れません。

映画を見ていてまず唸らされるのが、上月家の屋敷内でしょう。屋敷の重厚な門をくぐってから、本邸に辿り着くまでには車でも長い時間がかかります。その先にそびえ立つ、英国式と日本式の邸宅。そして侍女たちが住まう朝鮮式の古い家。3つの文化が歪に交流している様子は、大きなインパクトを与えます。

 

ところで、邸宅にこのような和洋折衷ともいうべき構造を持ち込んだのには、理由があります。監督によれば、侍女が住んでいる屋敷はかつて上月が使用していたという設定があるそうです。親日派の上月が日本に取り入った結果、朝鮮文化を捨て、日本が持ち込んだ洋風、そして和風の家に移ったのだといいます。

実際、当時の朝鮮における近代化とは、日本によって西洋文化と日本文化が暴力的に導入された結果だといいます。そのあたりの歴史的な背景が、邸宅のシーンに表現されているといえるでしょう。なお、邸宅のロケ地には三重県桑名市の重要文化財、六華苑が選ばれています。

 

また、上月の書庫が贅を凝らした非現実的な、フィクションめいた空間になっている点も見逃せません。書庫の入り口から伸びた廊下の先には、何十畳にも広がる天井の高い空間が広がっています。

廊下からは見えにくいのですが、書庫の中心にある空間へ辿り着くまでには無数の書棚が並んでいます。廊下を進むにつれて、中心の空間はいくぶん下がった場所にあることがわかります。それもそのはず、畳敷きのその空間は、まるで演劇の舞台であるかのようにして、階段状の座席に囲まれているのです。実際、その空間はある倒錯的な舞台として使用されます。

しかも、空間に敷き詰められた畳の下には水が張ってあり、室内でありながら庭園のような雰囲気を演出します。室内に張られた水といえば、『オールド・ボーイ』では高層ビルの上を改造したペントハウスにも似たようなものがあり、非日常的かつ豪奢な空間を演出していました。こうした異様さが違和感なくスクリーンに押し込まれているのも、本作の面白さのひとつです。

【解説・考察】過激なラブシーンはむしろ女性のためのもの

【解説・考察】過激なラブシーンはむしろ女性のためのもの(C)2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED

映画『お嬢さん』の大きな特徴として、R18に指定される残酷な描写や過激なベッドシーンがあります。特に、監督はベッドシーンに関して、最大限の注意を払って撮影に臨んだといいます。その注意とは、決してポルノのように露骨さを強調するものではありません。

近視眼的な批評者は、男性の監督が撮影したベッドシーンとは、男性を喜ばせるものだと捉えがちです。しかし、物語の全体を通してみれば、秀子と珠子のあいだに芽生えた愛情の先に、ベッドシーンが自然な流れとして挿入されているのがわかるはずです。そこには、男性を喜ばせようというような雰囲気は感じられません。

作中では、上月の屋敷で秀子が受けてきた虐待に対して珠子が激高し、上月の大事にしてきたものを処分し始めるシーンがあります。容姿や資産にしか価値を見いだせない男たちとは違い、珠子だけが真に自分のことを心配し、そして愛してくれると知った秀子。彼女は珠子を愛するようになります。

ふたりが引かれていく過程が丁寧に描かれているのはもちろんのこと、秀子と珠子の感情が物語の臨界点ともいうべき時点で発露されるため、同性愛の描写は非常に説得力があり、引きつけられます。その結果としてのラブシーンに、異論を挟むのは困難だといえるでしょう。

 

実際、こうした丁寧な描写は高く評価されており、本作はゲイ&レズビアン・エンタテイメント映画批評家協会による第8回ドリアン賞監督賞やLGBT作品賞、外国語映画賞、ヴィジュアル・ストライク賞にもノミネートされています。特に、外国語作品が同賞にノミネートされるのは例がありません。ラブシーンも含め本作のテーマが高く評価されたことを如実に表しているといえるでしょう。

また、実際に多くの女性が興味を持ってこの映画を受け入れたことも特筆すべきポイントです。公開時の舞台挨拶でパク・チャヌクが全国を回った際には、なんと座席の約8割を女性が占めていたといいます。この現象は、ある意味で韓国の社会構造を表しているのかもしれません。

原作『荊の城』とは全く異なる結末を見せる『お嬢さん』。監督パク・チャヌクの一流のセンスでもって昇華された本作は、ミステリに飢えた人を大きく唸らせることでしょう。

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