映画「海獣の子供」は五十嵐大介の漫画が原作で、「ドラえもん のび太の恐竜2006」などの作品で知られる渡辺歩監督が手がけました。劇中の音楽は「風の谷のナウシカ」「千と千尋の神隠し」などの作品の久石譲、主題歌は米津玄師が担当するなど、一流のプロたちが携わった作品です。
筆者は原作の漫画は読まずに映画を視聴したのですが、映像がとにかく綺麗で絵画をみているような感覚になり、芸術的で素敵な作品だと感じました。
ここでは映画「海獣の子供」のネタバレ感想や解説、考察を紹介していきます。原作漫画を読んでいないので、原作の意図と違った内容になるかもしれませんがご了承ください。
目次
映画「海獣の子供」を観て学んどこと・感じたこと
・映像がとにかく綺麗!劇場で観る価値あり!
・ストーリーは難解というより答えが明かされないことが多い
・観終わった後はモヤモヤしたが、振り返ると哲学的な映画だった
映画「海獣の子供」の作品情報
公開日 | 2019年6月7日 |
監督 | 渡辺歩 |
原作 | 五十嵐大介 |
出演者 | 安海琉花(芦田愛菜) 海(石橋陽彩) 空(浦上晟周) アングラード(森崎ウィン) デデ(富司純子) 安海加奈子(蒼井優) 安海正明(稲垣吾郎) |
映画「海獣の子供」のあらすじ・内容
中学のハンドボール部に所属する琉花はトラブルを起こしてしまい、夏休み早々部活に参加することを禁止されてしまいます。
そんな彼女は小さい頃に好きだった水族館を訪れ、そこで海と出会います。翌日、どこかに行ってしまった海を探していると、浜辺で海の双子の兄弟である空と出会います。
琉花は一夏を通して不思議な体験をしていきます…。
映画「海獣の子供」のネタバレ感想
海や空の自然描写、映像がとにかく綺麗で迫力がある
この作品を一言で表現するとすれば「圧倒的な映像美」でした。この映画では海や水がメインに描かれ、日差しできらきらと光る昼間の海から、少しの恐怖を感じさせる薄暗い夜の海まで色彩豊かに描かれています。
また、水族館の描写もかなりリアルで自分が水族館にいるような感覚を味わえます。小魚の群れも1匹1匹が丁寧に描かれていて、海が大きな水槽の中を泳いでいるところを水槽の下から見上げるシーンでは「飛んでる!」という表現がありました。
水槽の中であっても、透明の水の中を泳ぐ人を下から見上げると空を飛んでいるように見える描写・表現は素敵だなと感じました。キレイな映像もそうですが、映画の節々に素敵なセリフも多くあるので必見です。
そして、個人的に好きだったシーンが琉花が全力で走るシーンです。走るシーンは他の作品でもよく描かれるので目新しさなんてないんじゃ?と思われるかもしれませんが、琉花の正面をずっと捉えて描かれているので、周りの風景がものすごい速さで流れていき疾走感を感じられます。
他にも、海底から巨大なザトウクジラが大きな口を開けて出てくるシーンは鳥肌が立ちましたね。夜の海ってだけでも未知で怖いのにもかかわず、海底から口を開けて出てくる大きなクジラのシルエットが見え、海面に出てくる様子は怖くもあり壮大でもありました。
「海獣の子供」のストーリーについては難解(というよりも明言されない)部分があるので評価や好き嫌いは分かれると思いますが、映像という観点でこの映画をみてみるととても素晴らしいので、劇場で見る価値はあると思います。
【考察】祭り・隕石・ゲストなど結局よく分からない。でも自然に意味や正解はない
「海獣の子供」には祭りや隕石、ゲストなど様々なキーワードが出てきますが、それらの明確な答えが提示されることはありません。作品によっては答えをあえて明言せず「結末やその後の展開は自分で想像してね」という描き方をする作品もあるのですが、この映画はそれともまた違うような気がしました。
映画を観終わった後は頭の中に「?」があり、「映像はキレイだったけど結局何が言いたかったのだろうか」とずっと考えていました。
その後、ネットで渡辺歩監督のインタビューを見ると、頭の中にあった疑問や謎が全て解けました。インタビューでは「海獣の子供」のテーマについて『答えは出ないことが答え』『分からないということを分かる』と発言をしていました。
見終わった後に感じた「結局どういうこと?」という感情がこの映画の一つの答えであり、世の中には自分(人間)には理解できないことが存在しているということが答えでもあるのです。
監督のこの言葉が物凄く腑に落ちたんですよね。自然を描いた作品に答えを求めること自体がナンセンスというか、間違っていたのです。
映画の中でも宇宙について軽く触れられていましたが、137億年前に宇宙が誕生し、宇宙は今もなお膨張し続けています。そして、銀河系の中には太陽のように自分で輝く星が1000億個あると言われ、地球にある砂つぶの数と宇宙の星の数を比較してみると、宇宙に存在する星の数が多いそうです。
地球が誕生し、その中に生物がいて人類があり、自分という一人の人間が存在しているだけでも想像もつかない奇跡的なことですが、宇宙というものに目を向けて見ると、さらに未知で分からないことだらけです。
海をみてみると、人類が海洋探索をしたのは海洋全体の5%未満と言われています。人類は海の中がどうなっているのか、全くと言っていいほどわかっていないのです。
つまり、自然や自然現象というのは人智を超えたものがあり、その中で何かが行われていたとしても人間には分からないのです。それが今作で描かれた祭りや隕石であり、「実際にあるかもしれないし無いかもしれない」という答えが正解なのだなと納得できました。
太陽のように光る星が1000億個あるとか、地球上にある砂の粒よりも宇宙の星の数の方が多いという事実があることを考えると、自然の中で何が起きていても不思議ではないのです。
【解説】「海獣の子供」は頭で考えずに心で感じた方が良い映画
「頭で考えずに心で感じた方が良い」と表現してしまうと、この映画に内容やストーリー性は全く無いのかと思われてしまうかもしれませんが、決してそんなことはありません。
ただ、この映画をみながら劇中に出てくる謎や疑問について考えすぎてしまうと、先述した通り最後の最後まで謎が明らかにされることはないので、モヤモヤ感が残ったままになってしまいます。
例えば、水族館に行って優雅に泳ぐ魚を見た時に「なぜこんな動きをするのだろう」と考える方は少ないと思いますが、小難しいことを頭で考えるよりも、そこにある生命をありのままに感じた方がより楽しめると思うんですよね。
「海獣の子供」もそれと同じで、色彩豊かな迫力のある映像をそのまま受け止めた方が楽しめると思います。筆者は映画を見終わった後、あまりの訳のわからなさに「期待してたけどそこまで面白くなかったかな」と感じてしまいました。
しかし、監督の「答えは出ないことが答え」という言葉を受け、この作品の見方がガラリと変わりました。今では「不思議で哲学的で素敵な作品だった」と思いますし、難しいことを考えずに、もう一度この作品を観てみたいとも思っています。
筆者は「海獣の子供」への印象がここまで変わった訳ですが、なぜ映画に意味や正解を求めてしまうのだろうと自分に対して疑問を感じました。
史実や伝記映画でない限り、基本的に映画はフィクションなのでどんな映画があっても良いですし、「伝えたいこと明らかにするべき」というルールもありません。映画の中で明確な答えが出ないからといって、「つまらない映画」と決めつけてしまうのはあまり良くないことですよね。
理屈っぽく考えず、流れる映像を純粋に受け取ることができれば、映画というものをさらに楽しめる気がします。
原作の漫画を読みたくなる
映画「海獣の子供」は原作漫画を読んでいない方でも楽しめますが、漫画を読んでいれば、より深く作品を理解できるのだろうなと思いました。
筆者自身、原作の漫画読んでいないのでなんとも言えませんが、海獣の子供は全5巻で完結しています。監督は物語のテーマは原作から借りたとも話していたので、この作品をさらに理解したいのであれば原作漫画を読んだ方がいいでしょうね。
映像化するにあたって省略されているシーンもありますし、映像にすること伝わりやすくなる部分もあれば、漫画だからこそ伝わるシーンもあると思うので、いつか原作漫画を読んでみようと思います。
母親と琉花の家族愛はとってつけた感があった
琉花の母である加奈子に対して最初に感じたのは、放任主義で子供のことを特に考えてない母親という印象が強かったです。水族館にいる琉花を探しにきた加奈子の態度もあまり良くなかったですしね。
そして、父である正明は家族が嫌いというわけではないが、仕事が好きすぎるあまり家庭を顧みない父親という印象を受けました。また、琉花は母よりも父の方を好意的に思っているような気がします。
嵐が来た時には、両親そろって琉花がいないことを心配するものの、そこまで大ごとと捉えていなかったところも個人的には気になりましたね。
物語の終盤では心配した両親が琉花の元へとやってきますが、もともと放任的な両親だったので、このシーンはあまり感情移入できませんでした。
琉花が海の中で「生命」に触れることで、自分も母から生まれた一つの命であることに気づき、家族の大切さや母が心の中では自分のことを思っていることに気づいたのかなとも考えましたが、「このシーンをとりあえず入れておこう」というとってつけた感を感じてしまいました。
原作漫画であればまた違った描かれ方をしているかもしれませんし、エンドロール後のへその緒を切るシーン(命は未来へと脈々と続いているということ)をより理解できると思うのですが、映画だけを見た限りでは理解することが難しかったですね。これについても正解というものは無いのかもしれませんが…。
声優として出演する芦田愛菜、石橋陽彩が上手かった!
琉花の声を演じたのは芦田愛菜です。子役としてのイメージが強い彼女ですが、ハリウッド映画の「パシフィック・リム」に出演したり、声優としては「怪盗グルー」シリーズに出演したりしています。
芸能人声優として起用される人の中には、声が聞き取りづらかったり、抑揚がなかったりであまり上手くない方もいるのですが、とても上手でした。声を聞いている限りでは芦田愛菜とは気づかず、エンドロールの配役で気づいたくらい違和感がありませんでした。
知名度で選ばれたというよりは、完全に実力で選ばれたのでしょうね。
海の声を演じたのは歌手としても活動する石橋陽彩で、彼はディズニー映画「リメンバー・ミー」で主人公・ミゲルの声も演じました。「リメンバー・ミー」は音楽がテーマの作品なので歌を歌うシーンが多かったのですが、「海獣の子供」では無邪気で純粋な少年を演じていて、芦田愛菜同様に上手でしたね。
他にも、琉花の父親役には稲垣吾郎、母親役には蒼井優など豪華なキャストが起用されています。
【評価】映画「海獣の子供」は不思議な映画
この映画を見終わった後は「映像は綺麗だけど良くわからなくて面白くなかった」とも思いましたが、今では180度変わって「見てよかった」と思える作品でした。
この作品を一言で表現するのは難しく、手放しで称賛する作品ではないのですが、この作品を見ない人がいるのであれば勿体無いなと感じてしまいます。人にこの映画を紹介するのであれば、「自分で体感してみて」としか言えない映画でした。
映画に対してこういった感想を持つのは自分でも不思議なのですが、「自然」や「生物の生命」という人智では理解しきれないテーマを扱った作品なので、こういった感覚になるのかもしれません。