映画「翔んで埼玉」は公開後の興行収入の伸び率が「ボヘミアン・ラプソディ」並というニュースを見て、「何かの冗談だろ」と自分は思ってしまったのですが、これは紛れもない事実で予想を覆すようなヒットを記録しています。
埼玉県という1つの地域をもとに壮大なスケールで作られたこの映画は、自他共に認める茶番劇でもあります。
しかし、ただのくだらないコメディ作品という訳ではなく、そこには埼玉への愛が多分に含まれたハートフルかつ熱い内容となっています。予告編などを見て気になったのであれば、ぜひ観に行って欲しい作品でもありますね。
今回は映画「翔んで埼玉」の個人的な感想やネタバレ解説、考察を書いていきます。
目次
映画「翔んで埼玉」を観て学んだ事・感じた事
・すべてのディスりが愛を育むという考え方
・くだらないコンセプトを壮大なスケールかつ本気で作り上げる面白さ
・地域ネタを多分に含んだローカルさが魅力
映画「翔んで埼玉」の作品情報
公開日 | 2019年2月22日 |
監督 | 武内英樹 |
脚本 | 徳永友一 |
原作 | 魔夜峰央「このマンガがすごい!comics翔んで埼玉」 |
出演者 | 壇ノ浦百美(二階堂ふみ) 麻実麗(GACKT) 阿久津翔(伊勢谷友介) 菅原好海(ブラザートム) 菅原真紀(麻生久美子) |
映画「翔んで埼玉」のあらすじ・内容
「翔んで埼玉」は「現代パート」と「伝説パート」の2つに分かれて物語が進行しています。
【現実パート】
暑い夏のある日、埼玉県の熊谷市に住む「菅原家」では、娘の結納のために、家族で車に乗って都内に向かっていました。娘の愛海は東京に憧れを持つ埼玉県民で東京での生活に胸を踊らせています。
そんな中、車で流れていたNACK5で埼玉県にまつわる都市伝説を元にしたラジオドラマが始まります。
【伝説パート】
時は19XX年、東京では埼玉県民に対する迫害が続いていました。埼玉県人は通行手形がないと都内に入ることができず、虐げられる生活を続けていました。
そんな中、東京にある名門学校白鳳堂学院に海外からの転校生・麻実麗という転校生がやってきます。
実はこの麻実麗は、埼玉県民の通行手形制度を撤廃させることを目論む大地主の子息で、埼玉県民でもありました。
埼玉県民の解放を目指す「埼玉解放戦線」、そして通行手形制度の布施によって巨万の富を築いてきた東京都知事、東京のご機嫌を伺い取り入ろうとする「千葉解放戦線」、謎に満ちた群馬県など、関東圏を巻き込んだ戦いの火蓋が切って落とされるのでした。
映画「翔んで埼玉」のネタバレ感想
あらすじを見れば分かるのですが、どこをどう見てもくだらないギャグ漫画の世界観です。ギャグ漫画が原作なので、ある意味当たり前なのですが、これを真面目に映画化しようと思った思い切りの良さは清々しいものがありますね。
全体的には「くだらない話」に終始していて、実はそのくだらなさがさまざまな面白さを含んでおり、単純なギャグ映画とは少し異なった見られ方をしているのかもしれません。
ここでは、さまざまな角度から「翔んで埼玉」を見た感想を書いていきます。面白かった点などももちろんですが、埼玉県をディスるというコンセプトがどのような見方をされているのかについて、興味深いので深く掘り下げ行こうと思います。
【解説】くだらない話を大真面目にやる面白さ
映画全体の話をすれば、とことんくだらないという感想に尽きます。ただ、それはあくまで良い意味でくだらないという話で、この映画が持つ魅力でもあります。
やはりこの映画の面白さとしては、くだらない世界観の物語を登場人物全員が本気になっているという部分にあると思います。
埼玉県民が虐げられていたり、通行手形がないと都内に入れなかったりなどの世界観があり、それらを解放するために全力をあげて東京に戦いを挑むキャラクターたち。
そして、その誰もがこの世界に対して本気で挑んでいるという面白さ。笑わせようとしているのではなく、真面目にやっている姿がおかしく見えてしまう。そういった部分にキャラクターたちに対する愛おしさも感じてしまいます。
出演した俳優さんたちの演技も絶妙なバランスを維持していたと思います。ギャグ映画だからといって、過度にコミカルな演技をするのではなく、世界観の中で成立する演技をしていました。だからこそギャグとして冷めた目線で見たりするのではなく、あくまで物語に入った中で、面白さを感じて笑うということが成立していたのだと思います。
この映画の素晴らしい点としては、「全員が本気だった」ということに尽きるでしょう。
登場人物たちは本気で埼玉を解放しようと奮闘していますし、それを取り巻く人たちも本気です。本気だから見ていて伝わるし、ギャグとして面白いだけではなく、物語の世界観も含めた面白さを作り出しています。それが単なるギャグ映画に終始していない「翔んで埼玉」の魅力といえるでしょう。
【解説】二階堂ふみにガクト。実写に耐えうる俳優たちのビジュアル
「翔んで埼玉」は漫画が原作になっている実写化映画です。実写化映画によくあることとして、原作のキャラクター像と映画の登場人物にギャップを感じるというのがあります。
どうしても漫画風のキャラデザインを3次元に落とし込もうとすると無理が出てしまうのは当然なのですが、「翔んで埼玉」に関しては、出演者が実写化に耐えうるビジュアルを持っていたと評価できます。
麻実麗役のGACKTさんは、想像通り漫画から出てきたようなビジュアルをしていますし、壇ノ浦百美役を演じた二階堂ふみさんも熱演を披露していました。
特に、私が驚いたのは阿久津翔役の伊勢谷友介さんです。伊勢谷さんの表情や佇まいはもはや漫画といっても過言ではないぐらいのビジュアルでした。やはり演技力とビジュアルが備わった人が本気で演じれば、これほどのクオリティになるのだと驚かされました。
「翔んで埼玉」を見る上で、出演者それぞれが役をどう演じているのかにも注目して欲しいのですが、個人的には伊勢谷友介さん表情に注目して欲しいと思います。
【解説】「与野はすっこんでろ!」など強烈なまでの埼玉ディスり
「翔んで埼玉」では、埼玉県をこれでもかというほどにディスっています。これがこの映画のギャグの根幹にもなっているのですが、その壮絶な内容はこの映画の外せないポイントでもあります。
映画の冒頭で埼玉県に対するこの映画のスタンスがわかります。埼玉県は「武蔵野国」から東京都、神奈川県東部を除いた余り物として描かれているのです。
そして、物語として東京都に埼玉県民が虐げられているという設定の中で、現実とファンタジーを織り交ぜた様々なディスりが展開されていきます。ここでは、そのディスりの一部を紹介していきます。
①「そこらへんの草でも食わせておけ!」
この映画の中で最もインパクトのある台詞でもあります。腹痛を訴える埼玉県民に対して、医務室を使うことができるのは東京都民だけであるという冷酷な言葉を突きつけた壇ノ浦百美が、吐き捨てるように言い放ったのがこの台詞です。
この言葉だけで、この作品の世界観が表現できているといえる名台詞です。
②「サイタマラリヤ」
「サイタマラリヤ」はこの映画の中に出てくる架空の感染症。埼玉県の春日部に生息する蚊を媒介して感染します。
感染すると手に「さ」の文字が浮き出てくるという恐ろしい病気です。
③「埼玉なんて言っているだけで口が埼玉になるわ!」
白鳳堂学園に通う生徒が言った台詞です。もはや「埼玉」という言葉自体が汚らしい何かとして表現されていますね。
意味は不明ですが、意図は伝わる面白い表現ですよね。
④「与野はすっこんでろ!」
埼玉県に対するディスりは県全体を指しているものだけではありません。県内でも、地域によって意識の違いがあります。埼玉県の中心といえば、浦和や大宮あたりが浮かびますが、やはりこういった中心部と他の地域とでも上下関係みたいなものがあるようで、映画の中でもシーンとして出てきます。
埼玉解放戦線を取りまとめようとしていた場面で、埼玉の中心はどこかという言い争いが浦和と大宮、さらには名産のある深谷、草加なども混じって行われている中、それを止めようとした与野市の人がこの言葉を言われます。
これらはほんの一部で、全編に渡って埼玉ディスりが行われています。虚実織り交ぜながら、あの手この手で埼玉をディスっていくシーンの連続は単純に面白いです。
【解説】地味にディスられる千葉、群馬、茨城、栃木
この映画の中心は埼玉県が虐げられているという部分にあり、埼玉がディスられていくのですが、映画の中では地味にそのほかの県もディスられています。
例えば、千葉県でいえば暴走族が多くガラの悪い感じが出ていましたし、捕まえた埼玉県民の穴という穴にピーナッツを詰め込み、地引網漁の強制労働をさせるなど、数少ない名産を掛け合わせたようなシーンも登場します。
しかも、千葉県に関しても都内に入るには通行手形が必要となっています。ただ、埼玉県と異なるのは東京に迎合することによって、県内にいくつもの「東京」と名のつくものを作ることが認められているという点です。
そのほかにも、群馬県は未開の地として表現されており、国土交通省によって「この先の群馬県内において当局は命の保証を一切しない」という看板が立てられています。ニュースなどで度々未確認の巨大生物の存在が取り上げられており、調査隊が行方不明になるなどが触れられています。
実は群馬県に関しては、映画版での追加要素でもあります。群馬県=未開の地みたいなイメージは割と最近になって生まれてきたものでもあり、映画の中では、群馬県が物語のキーを握ってもいるので注目してみてください。
後は、茨城県は納豆しかないみたいなのもありましたね。栃木は「特になし」といった具合です。埼玉県だけではなく、地味にディスられている他県にも注目です。
【考察】ディスられているのに笑える不思議な感覚
私は埼玉県出身でもないですし、この映画に関しては半ば他人事としてみていたのですが、意外にも「翔んで埼玉」は埼玉県民に大ウケしているらしいです。ニュースなどでも取り上げられていたのですが、不思議な現象でもあります。
普通に考えれば地元をディスられれば怒りますし、怒らないまでも不愉快ですよね。そういった要素を多分に含んでいる「翔んで埼玉」が地元に受け入れられているのも、この作品の魅力ではないでしょうか。
散々ディスられているのに好意的に受け取られる。実はここに隠された郷土愛があるのではないかと思いました。
全てが完璧なものは当然存在しませんし、物事には良い面もあれば悪い面もあります。郷土愛というものは、地元の優れている部分を愛するというだけではなく、悪い部分や劣っている部分も含めて受け入れることで成り立っているのかもしれません。
埼玉県というと本当に地味な県だとは思いますが、実はものすごく愛されている県である証拠だと思います。良い面をたくさん知っているからこそ、悪い面も受け入れられる。だからこそ、これだけディスられても受け入れることができる器の大きさを持っているのかもしれません。
埼玉県知事の上田清司さんはこの映画に対して「悪名は無名に勝る」というコメントを残しましたが、こういった余裕こそ埼玉の魅力なのかもしれません。そういった意味では、この物語はどこでもいいわけではなく、埼玉だからこそ生まれた物語であるといえます。
この映画はギャグ映画でもありますが、そこに現れているのは、「愛情」の本質的な部分なのかもしれません。良い部分を好意的に見るのも愛情かもしれませんが、悪い部分も受け入れて認めるというのも愛情です。まさか埼玉県に愛を教えられるとは思ってもいませんでした。
【考察】住んでいる地域によって見え方が変わる映画
この映画は埼玉県を中心に関東圏を舞台にした世界観の映画です。ストーリーの中には、ローカルネタが多分に含まれており、住んだことがない人にとってはポカンとしてしまう内容でもあります。
なので、この映画は見た人が住んでいる場所によっても見え方が異なってきますし、関東圏に住んでいる人であれば共感しながら見ることができるでしょう。一方、他県の人にとってみれば、映画内で行われていることは全て他人事です。
この「内輪感」と「他人事」という2つの見え方がなされているというのも、この作品の面白いところでもあります。
しかし、そうでありながらも共通している部分としては、この映画を見たときに地元に対する郷土愛を喚起されるということです。
この映画は埼玉県民のための映画ではありますが、他県の人にとっても、この映画の中で埼玉県民が埼玉県を思うように、地元を思ったのではないでしょうか。
なので、埼玉のことをほとんど知らない他県の人がこの映画を見ると、ほとんどの部分について壮大な他人事に見えてしまうのですが、埼玉県民の地元が埼玉県であるように、他県に住んでいる人にとっても、地元に思いを馳せている作品でした。
【解説】一番おすすめの麻実麗が壇ノ浦百美に勝負を持ちかけられるシーン
個人的に「翔んで埼玉」で一番おすすめできるシーンを紹介します。それは、GACKTさん演じる麻実麗が壇ノ浦百美に勝負を持ちかけられるシーンです。
勝負の内容は、その名も「東京テイスティング」。ルールは、瓶の中に入った空気の匂いを嗅いで、その匂いが東京のどこの空気なのかを当てるというものです。
麻実麗はこの東京テイスティングで次々と正解をしていくのですが、その様はまるで「格付けチェック」に出演しているときのGACKTさんそのものでした。
GACKTさんといえば、「格付けチェック」という番組で圧倒的な正答率を誇り、一流芸能人として認められている人物でもあります。このシーンが格付けチェックとダブってしまい、作品とは関係のないところで笑ってしまいました。
おそらく制作陣も意図的にこういったシーンを盛り込んだと思うのですが、この映画で一番面白いシーンだと思ったので、ぜひご覧になってください。
「翔んで埼玉」を見終わった後は埼玉県のことが好きになる
ぶっ飛んだ世界観と埼玉をとことんディスる物語が魅力の「翔んで埼玉」。不思議なことにみ終わった後には、埼玉県のことが少し好きになってしまっているでしょう。
ぐだらない世界観と出演者の熱演、そして溢れる郷土愛が感じ取れる非常に魅力的な映画となっています。話題騒然の映画「翔んで埼玉」を是非ご覧になってみてください。
映画「翔んで埼玉」の動画が観れる動画配信サービス一覧
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