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『劇場版響け!ユーフォニアム 届けたいメロディ』ネタバレ感想・解説!単なる総集編に留まらない数々の工夫が目白押し

【解説】久美子とあすかの関係に軸を置いたことによる効果

映画『劇場版響け!ユーフォニアム 届けたいメロディ』は、武田綾乃の小説を原作とするTVアニメ『響け!ユーフォニアム』の2期部分を再構成および、一部シーンを追加した総集編にあたる作品です。

本作に関しては、2019年4月16日に公開される『劇場版響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』という完結編の映画を観る前に、アニメ2期の復習をするには最適な総集編となっています。

ただ、2時間という短い尺の中である程度内容の再構成が行なわれているほか、劇場ならではの「音響」の魅力は満点であり、TVアニメを視聴済みの方でも十二分に楽しめる内容でした。

今回はそんな『劇場版響け!ユーフォニアム 届けたいメロディ』の個人的な感想や解説を書いていきます!なお、ネタバレには注意してください。

目次

映画『劇場版響け!ユーフォニアム 届けたいメロディ』を観て学んだこと・感じたこと

・あすかと久美子を軸にするという構成の妙に感嘆
・劇場の音響という魅力がフルに生かされている!
・今後の展開が楽しみになってくる出来の良さ

映画『劇場版響け!ユーフォニアム 届けたいメロディ』の作品情報

公開日2018年3月7日
監督小川太一
脚本花田十輝
出演者黄前久美子(黒沢ともよ)
加藤葉月(朝井彩加)
川島緑輝(豊田萌絵)
田中あすか(寿美菜子)
小笠原晴香(早見沙織)
中世古香織(茅原実里)

映画『劇場版響け!ユーフォニアム 届けたいメロディ』のあらすじ・内容

映画『劇場版響け!ユーフォニアム 届けたいメロディ』のあらすじ・内容

吹奏楽コンクールの全国大会出場を決めた北宇治高校吹奏楽部。彼女たちは、来るべきコンクールの本番に向けて練習に明け暮れていました。

しかし、そんな北宇治高校吹奏楽部を、とある先輩が退部するかもしれないという衝撃的なニュースが襲います。その先輩の名は田中あすか。主人公の久美子の先輩にして、飄々としていながらも部内屈指の実力者として知られていました。

 

ただ、久美子は気持ちを押し殺して自分を見せようとしないあすかに対して複雑な感情を抱いていました。

先輩が退部するかもしれない。そう実感した久美子は、自分の中にあすかへの反感だけでなく、あこがれの気持ちが日に日に強くなっていることを実感します。

果たして、久美子はあすかの退部を食い止めることができるのでしょうか。北宇治高校吹奏楽部の運命はいかに?

映画『劇場版響け!ユーフォニアム 届けたいメロディ』のネタバレ感想

総集編ながら物語の取捨選択や再構成に製作陣の力量を感じる

総集編ながら物語の取捨選択や再構成に製作陣の力量を感じる(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会

まず、本作はアニメの映画化でしばしば行われがちな「総集編」という形式の映画です。そのため、基本的なストーリーはTVアニメの2期に相当する部分と大筋は変わりません。

しかしながら、本作は総集編にありがちな「いいとこ取りをしようとした結果、物語がわかりづらくなってしまう」というような総集編ならではの難点を見事に克服しています。それによる詳細な効果については後述しますが、本作は2期のエピソードの中から「あすかと久美子」の物語のみに焦点を当て、その他の物語をほぼ全てカットするという思い切った構成になっているのです。

そして、この大幅な取捨選択の判断は、劇場版の尺とTVアニメ版の尺を比較すれば最善の判断であったように思えます。実際、TVアニメ2期という合算して6時間以上に及ぶ物語を2時間にまとめる必要があるわけですから、取り扱える物語はおよそ3分の1になってしまいます。そのため、当然ながら全ての物語を収録できないという事情があります。こうした背景を考えれば、思い切って物語の軸を定めた理由が見えてくるでしょう。

 

また、単に物語の取捨選択に終始しているだけでなく、取捨選択に伴うシーンの順番入れ替えをはじめとした物語の再構成も、作品をより魅力的にしていたように感じます。例えば、アニメでもかなりファンからの評価が高かった「あすかによる久美子のためのユーフォニアム演奏シーン」が、アニメでは川辺で二人が会話した後のシーンで流れます。しかし、本作ではそのシーンをあえて全ての演奏が終わったクライマックスのタイミングに変更しています。これは、初見の方を対象としたというよりはむしろ我々のようにTVアニメ2期を視聴済みのファンに向けた演出であるように感じました。

我々ファンからすると、総集編という事で流れてくるシーンの順番に関してはだいたい把握しているため、あすかがユーフォを吹くシーンは川辺での会話後に来るということで、ファンがすでに身構えていることを製作陣も想定していたのかもしれません。そこでシーンがスキップされます。ファン目線では「再構成の作品だし、カットはやむを得ないか…」と考えていたところで、クライマックスに該当シーンが流されるのです。初見の方からすればその違いには気づかないでしょうが、ファンからすれば「そうきたか!」という気分になるでしょう。

したがって、本作は総集編ながら既にファンになってアニメを視聴している視聴者たちもうならせるような作りがなされており、構成の妙が光ります。

同一のシーンであっても声の再録や細かな絵の変更をするこだわりよう

同一のシーンであっても声の再録や細かな絵の変更をするこだわりよう(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会

本作が単なる総集編と異なるところに、アニメ版と同じようなシーンであってもわざわざ声を再録しているという点です。通常の総集編であれば、極力資金を節約して製作するために、使いまわせる部分はなるべく使いまわすというのが原則です。そして次回作への制作資金を稼ぐという目的を果たすとともに、新規ファンを獲得しようというねらいがあります。

しかしながら、本作は似たようなシーンであっても声を再録する、あるいは細かな作画を変更するといった細かな工夫が随所にみられます。実際、本作で中心的に描かれる久美子役の黒沢ともよとあすか役の寿美菜子は再アフレコの様子をインタビューで語っており、本作のコンセプトに合わせて二人きりでアフレコをすることもあったとのことです。また、キャラクターの表情や演奏時の楽器の作画など非常に細かな部分まで変更が及んでおり、単なる総集編にとどまらない徹底したこだわりが存在します。

筆者は声の違いや作画の違いに関しては、正直に言ってあまり気づくことができませんでした。ただし、インターネット上で本シリーズにかなり思い入れの深いファンの感想記事などを読むと、細かな変更に気が付いている方もいらっしゃいました。そのため、総集編ながらシリーズに詳しければ詳しいほど違いを楽しめるという、素晴らしい作りになっています。

 

そもそも、本作を製作している京都アニメーションという製作会社は、過去にもこうした「細かな違い」を演出してきました。例えば、2009年に放送された「涼宮ハルヒの憂鬱」という作品では、実に8週間にわたって同一の内容を放送するという奇策に打って出ました。その際にも、8週間同一のシーンを放送するにもかかわらずキャラクターの作画を毎回やり直し、声を再録してきたという過去があります。

この作戦自体はかなり物議をかもしてしまったため、あまり高く評価されているとはいえませんが、会社全体として「ただ同じものを流すのではなくそこに工夫を加えよう」という風土が育っていると考えられます。こうした経験が土壌になり、今回の細かな変更につながっていると考えられます。

音響の面を考えると劇場で観ることに価値がある作品

音響の面を考えると劇場で観ることに価値がある作品(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会

本作は優れた点こそいくつもありますが、それでもやはり総集編であるという立ち位置は変わりません。そのため、ファンの中には「劇場で観るほどではないな」と判断し、自宅鑑賞で済ませてしまったという方も少なくないかと思います。しかし、本作に関していえば、他の京アニ作品に比べても明らかに「劇場で観ると価値が高まる映画」であることは間違いないでしょう。

その理由は、本作が吹奏楽という「音」を重要視するべきテーマを扱っているからです。特に、吹奏楽やブラスバンドのような多数の楽器で奏でる音楽を聴く際には、映画館に備わっているような優れた音響装置が最大限に力を発揮します。筆者はオーディオにも関心があるのですが、やはりクラシックや吹奏楽などのように多重に音が重なる音楽を鑑賞する際には、優れた音響装置が欠かせないと考えています。

 

それでは、本作の劇中で演奏された曲を振り返ってみましょう。代表的な楽曲として、本作の大会で演奏された課題曲の「プロヴァンスの風」という楽曲を紹介します。作曲家の田坂直樹によって作曲されたこの楽曲は、現実の2015年全国吹奏楽コンクールでも課題曲に指定されています。この「プロヴァンス」とは、フランスとスペインの国境にある地域一帯を指す地名で、本楽曲もタイトル通りにスパニッシュな要素が取り入れられています。

このデータからもわかるように、本シリーズは「実際の吹奏楽コンクールで使用された楽曲を劇中でも使用している」という点に、相当なこだわりがあることをうかがわせてくれます。実際、大会や練習などの一連の演奏シーンは専門家からも高く評価されており、吹奏楽経験者であっても何の違和感もなく視聴ができます。

したがって、課題曲選びから楽曲の音、果ては練習の様子までが非常に細かく手を入れられている作品であるといえます。作品が内包する「音」の部分も非常に気を使われており、音響設備の力が上がればそれに答えてくれるような録音がなされています。これらの点から、たとえ本作に相当するTVアニメの2期を視聴済みの方でも、音響のすばらしさを味わうために劇場に足を運ぶ価値があると思います。

本作に関しては劇場公開期間が終了してしまっているため、劇場で鑑賞することは難しいかもしれませんが、シリーズの完結編となる「誓いのフィナーレ」はぜひ劇場で鑑賞していただきたいところです。

【解説】久美子とあすかの関係に軸を置いたことによる効果

【解説】久美子とあすかの関係に軸を置いたことによる効果(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会

先ほども構成の内容を評した際に「久美子とあすかの関係性に焦点を当てたことによる効果があった」という点に少し触れました。ここでは、その点をさらに詳細に解説していきたいと思います。

まず、二人の関係性に焦点を当てたことによって、作品のカラーが「青春群像劇」から、「先輩と後輩の一対一のやり取り」へと変化しました。これにより、久美子のあすかに対する苦手意識やあこがれがより分かりやすい形で表出されることになりました。

また、2期を視聴していた方はよくわかると思いますが、久美子はあすかに自身の姉の姿を重ねていました。そうした久美子の複雑な感情が、本作ではよりわかりやすく表現されていたと思います。そのため、あくまで群像劇の一ページとして描かれていたTVアニメ版で見た時よりもさらに感動が深かった記憶があります。

 

さらに、あえて他のキャラを話の軸から外したことで、「見えないところで苦労をしている」ということが分かっている筆者にとってはかなり感慨深いものがありました。例えば、麗奈は劇中でソロパートを担当しましたが、そこに至るまでには先輩とのオーディションがあったことを筆者は知っていますし、先生に対して憧れ以上の感情を抱いていたことも当然知っているわけです。

こうした背景を知っている筆者にとっては、飄々とソロを吹く麗奈の姿に、2期で観た彼女の苦労を重ね合わせてしまうのです。もちろん麗奈の苦労に焦点が当たらなかったのは尺の都合であると分かっているのですが、描かれないことで逆に感慨深いものになっていたような気がします。つまり、話の本筋から外れて描かれていなかった部分で苦労をしているという事実に、何か親心のようなものを感じてしまったのでしょう。

【解説】けいおん!を生み出した京アニがユーフォを生み出したという先見性

【解説】けいおん!を生み出した京アニがユーフォを生み出したという先見性(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会

ここまでの内容から、本作が単なる総集編に留まらない作品であることはお分かりいただけたと思います。本作をこれほど魅力的な仕上がりにしたのは、やはり制作会社である京都アニメーションのなせる業と言っても過言ではありません。アニメファンならその名を知らぬ者はいない京アニですが、本シリーズを製作したこと自体が「先見性」にあふれているということを皆さんはご存知でしょうか。

そもそも、いつも京アニが「リアリティに徹底的にこだわったアニメを排出しているか」と言われると、必ずしもそうではないという側面もあります。例えば、同じく女子高生の軽音楽生活を描いたアニメ「けいおん!」も京アニの作品です。けいおん!に関して言えば大ヒットしたことは疑いようもないですが、一方で軽音楽部のリアルを反映しているか、と言われると必ずしもそうとは言い切れません。

実際、筆者は高校時代軽音楽部に所属していたのですが、あまり共感できる部分は多くありませんでした。それでも、けいおん!はリアリティ以外の部分に多くの魅力があるため、素晴らしい作品であることは間違いありません。

 

しかし、けいおん!のヒット以降「女子高生×サブジャンル」という深夜アニメが爆発的に増加し、粗製乱造の感が漂っていたことは否めません。けいおん!の後追いともいえる作品群は、「とりあえず女子高生にサブジャンルをさせてみた」という内容のものも多く、アニメファン側もしだいに飽き始めていたという事実があります。

こうした風潮がアニメ界に流れていたタイミングで作成されたアニメが、『響け!ユーフォニアム』だったのです。本シリーズはそれまでの作品とは一線を画し、良い面も悪い面も徹底的に「リアル」であることにこだわりました。楽器の持ち方や練習風景といった技術的な面から、部内のトラブルや家族の問題といった高校生の褒められない一面までを徹底的に描き出しています。

ここで面白いのは、けいおん!によってそれまでの粗製乱造を引き起こした京アニがそれと大きく異なる内容のアニメを制作してきたことです。ここには、業界内の風潮を敏感に感じ取れる商業的センスや、自身の成功体験を引きずらない切り替えの早さが現れています。やはり、伊達に深夜アニメの世界でヒット作を生み出し続けていないといったところでしょう。

 

こうした先見性は流石というべきで、「ファンが何を求めているか」という匂いに対して優れた反応を示していることを証明するに他なりません。このように需要をしっかり理解しているからこそ、単なる総集編映画ではファンをガッカリさせてしまうという分析ができていたのでしょう。

こうした分析の上に、ここまで触れてきた音声の再録や新規カットの追加などファンに向けたサービスと、総集編に求められる新規ファンの獲得といった本来の目的が両立していると考えることができます。こういう作品を作られてしまうと、完結編へのハードルが高まっていくばかりですね。

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