ジュリア・ロバーツ主演で話題を集めた映画「ベン・イズ・バック」。薬物依存の治療を受ける息子が実家に帰ってきたことをきっかけに家族関係が大きく変わっていくという物語です。
キャリアベストと評価されたジュリア・ロバーツの演技と薬物問題を真摯に描いた映画となっています。
今回は映画「ベン・イズ・バック」のネタバレ感想や解説・考察などを描いていきます。
目次
映画「ベン・イズ・バック」を観て学んだ事・感じた事
・母親の息子に対する献身的な愛情
・薬物問題の深刻さと現実
・ジュリア・・ロバーツの迫真の演技が素晴らしい
映画「ベン・イズ・バック」の作品情報
公開日 | 2019年5月24日 |
監督 | ピーター・ヘッジズ |
脚本 | ピーター・ヘッジズ |
出演者 | ホリー・バーンズ(ジュリア・ロバーツ)ベン・バーンズ(ルーカス・ヘッジズ)アイヴィー・バーンズ(キャスリン・ニュートン)ニール・バーンズ(コートニー・B・バーンズ) |
映画「ベン・イズ・バック」のあらすじ・内容

クリスマス・イブを迎えたホリー家族は、教会での賛美歌の本番やパーティの準備に浮かれていました。そんな中、薬物依存症の治療施設から息子のベンが帰ってきます。不安を感じる家族ではありましたが、母親のホリーは暖かく迎えます。
ベンも更生を果たすために態度で示そうとするのですが、その周囲ではトラブルが頻発します。徐々に信頼感が薄らいでいく母と息子、それでも母親は息子を救おうと尽くします。
しかし、過去の薬物売買の関係者からターゲットにされてしまったベンは、家族に迷惑はかけられないと母親や家族との決別を選びます。
映画「ベン・イズ・バック」のネタバレ感想

薬物依存の人物を取り巻く家族を描いた映画では、同年に「ビューティフル・ボーイ」が公開されています。
こちらでは、ティモシー・シャラメ演じる青年が薬物依存を克服するために、家族の支えを受けるという内容で、映画「ベン・イズ・バック」に関しても、薬物依存の青年ベンが母親ホリーなどの愛情によって包摂されようとするといった内容でした。
物語の題材やフォーマットとしては、共通している部分も多く、映画から発せられる社会的なメッセージも似たような感じだと思います。
ただ、映画「ベン・イズ・バック」は「ビューティフル・ボーイ」とは、また異なった家族関係、薬物克服のためのアプローチ、それを取り巻く環境など、比較して見ることも可能ですし、別々の映画として捉えることもできます。
なにより映画「ベン・イズ・バック」では、ジュリア・ロバーツの演技が高い評価を得たということもあるので、演者を中心に観てみるのもいいかもしれません。ここでは、映画「ベン・イズ・バック」の感想を1つ1つの項目に分けて書いていきます。
【解説】タイトル「ベン・イズ・バック」の意味について

まず最初に、映画「ベン・イズ・バック」のタイトルの意味について考えていきます。
映画の冒頭では、ベンが薬物依存症の治療移設から実家に舞い戻ってくるシーンが映し出されます。この段階では、シンプルに「ベンが戻ってきた」といったようなタイトルの解釈が成り立ちます。
そして、この意味が示すように、ベンが家に戻ってきたことによって、家族関係などがどのように変化するのか、ベンという人物をどのように支えるのかといった部分に焦点があっていきます。
しかし、物語が進んでいくごとに、この「ベン・イズ・バック」というタイトルの意味が少しずつ変化していきます。
というのも、ベン自身は完全に薬物依存症を克服したわけではないからです。家の屋根裏に隠してあったドラッグを見つけて動揺したり、急に不安にかられて薬物治療のミーティングに行ったり、更生の意思はかなり堅いものが伺えるのですが、その反面危うさのようなものが感じられます。
そのベンの姿に対して、初めは暖かく迎えていた母親のホリーでしたが、徐々にベンを疑うまではいかないまでも、完全に信用することはできなくなってしまいます。
体裁としては、もしもの際のリスク管理として、家に戻ってきたベンを野放しにするのではなく、目の届く範囲で行動させ克服を後押しするスタンスを取っていました。
そして、ベンが実家に戻ってきてから、事態は急変していきます。過去にベンは薬物依存だけではなく、ドラッグのディーラーも行なっており、前の取引相手やドラッグを売った相手と再会していきます。
自分だけ更生を果たそうとするベンを快く思わない人たちから妨害を受け、ベンだけではなく、家族にまで被害が及んでしまいます。ペットの飼い犬もさらわれてしまい、そういった事態がよりベンを不安定にさせていきます。最終的に彼は家族から離れる決断をし、一人空き家の中でドラッグを使用してしまいます。ドラッグを使用し、意識不明となってしまったベンをギリギリのところで発見した母親ホリーの懸命の救助によって、ベンは意識を取り戻したところで映画は幕を閉じます。
こういった流れから、元々は「ベンが実家に戻ってきた」という解釈だった「ベン・イズ・バック」が変化し、「ベンは再び治療施設に戻る」という解釈が成立します。
「薬物依存にあと戻り」や「薬物治療が後退する」などの意味も含まれているかもしれません。この映画のタイトル「ベン・イズ・バック」は、映画を見進めていくごとに複数の解釈ができるようになるのではないかと感じました。
【解説】これでも恵まれているベンとは対比的に描かれる周囲の人物

映画「ベン・イズ・バック」は、アメリカのドラッグ問題を現実的に描いた作品でもあります。
アメリカではドラッグが深刻な社会問題になっており、大麻が合法化される中で、いわゆるコカインやヘロインなどのハードドラッグや、本来は医療目的で使用されるオピオイド鎮痛薬が深刻化しています。
販売経路などの問題もありますが、もっと深刻なのは依存症を抱えた人の多さです。アメリカでは、年間7万人もの人が薬物の過剰摂取によって死亡するなどの事実もあります。
こういった背景から、ドラッグの治療施設に関してもパンク状態になっており、その上に治療には多額の費用が必要となるため、それらを工面できないために治療が受けられないという事情もあります。
さらに、オピオイド鎮痛薬は医療用として使用されるため、入手が容易でその辺にある処方箋でも手に入るような現状です。映画内でもそれに対する批判をホリーが投げかけるというシーンがありましたが、こういった現状に対して国はあまりサポートができていない状態です。
このようなアメリカのドラッグを取り巻く現状を捉えると、ベンという人物がいかに恵まれた人物であるかが、映画の中からわかります。
まず、金銭面ではベンの薬物治療に関する費用は全て父親のニールが捻出しています。ベンに対して批判的な態度を取り、家に戻ることに反対しており、それに対してベンも不快感をあらわにするのですが、それでも治療のためのサポートを惜しみなくやっています。
映画「ベン・イズ・バック」の中には、治療が受けられないベンの知り合いなどが登場します。暗闇の中に紛れながら孤独と禁断症状に苦しみ、抜け出すことができない地獄のような状態に陥っている人物が現れたりもします。
また、薬物の過剰摂取による死亡という意味では、ホリーの知り合いの母親の娘マギーは薬物によって命を落としています。このような登場人物たちがベンとは対比的に登場してくる中で、必ずしもベンの現状は芳しくないのですが、それでも非常に恵まれていることがわかります。
治療を受けるお金があり、なおかつ過剰摂取で命を落としてもいない、少なくとも自分を支えてくれる家族もいます。
ただし、同時にこのような境遇にいる人はごく少数であることも事実です。ベンのようにサポートを受けながら治療を受けられるという人ばかりではなく、むしろ禁断症状に苦しむスペンサーや命を落としたマギーの方が多数派であり、これこそが現実として突きつけられているのだと思います。
あくまで家族ドラマとして、ベンと母親との愛情やサポートは美しく描かれてはいますが、それとは対比的にものすごく現実的な薬物に苦しんでいる人々がこの映画には登場します。
【解説】過ちを抱える中で信頼と孤独の間で苦しむベン

映画「ベン・イズ・バック」の主人公でもあるベンに焦点を合わせて解説をしていきます。
ベンの立場からしてみれば、ものすごく不安定で、家族ともどのように接していいのかわからない状態でもあります。自分は薬物依存を抱え、治療を受けながらも大きな過ちを犯してしまったことに対する罪悪感もあり、家族に対しても後ろめたさを抱えています。
同時に家に戻ってくるという決断をした上で、ある程度状態は快方に向かっているという自信も身につけていました。依存症からくる不安に対しての対処法も熟知しており、すぐさまミーティングに参加するなど、自己管理もしっかりとできるような素振りを見せています。
ただ、ちょっとしたことでイライラして、怒りを露わにしてしまいそうになる危うさも同時に抱えており、家族には信用してほしいものの、それでも自分はまだ完全に克服できてはいないという弱さも抱えています。
家族の視点からしても、ベンを完全に信用することはできず、母親のホリーは暖かく迎えましたが、洗面所にあった薬品を隠すなど予防と称して対応を怠りませんでした。
そういった中で、徐々にベンと家族の間に溝が生まれていきます。家族はベンを信用してあげたいけれど完全には信用できず、ベン自身は信用してほしいけど、それは無理なのも理解していて、肝心な部分が埋められていないようなもどかしさがありました。
薬物の治療において、最も必要なのは周囲の人々のサポートであることは間違いありません。家族であれば治療を前向きに受ける以上、受け入れて支えるべきだというのは、当然の話かもしれませんが、家族にとってみれば自分たちの状況をめちゃくちゃにした張本人でもあり、どこかでわだかまりも抱えています。
その間で、お互い家族として母子として愛情は持っているものの、徐々に心の距離が離れていくのを感じていきます。
ベンに少しでも怪しい動きが見つかった場合、ホリーは厳しく叱りつけ、目の届く範囲に管理することを決意しますが、それもまたベンにとっては、信頼が得られていないという感覚に繋がってしまいます。
ベンという登場人物が抱える孤独感というものは、薬物依存者によくある傾向なのかもしれません。依存症によって再犯率も高いことが考えられるため、一度やってしまうと信頼を再形成するのが非常に難しいといえます。
ただ、そこで母親ホリーは最後まで見放さなかったという点では、母親の愛情を感じます。その部分がこの映画の見所でもあり、親子の無償の愛情が垣間見える部分といえます。
【解説】キャリア最高と評価されたジュリア・ロバーツの演技に注目

映画「ベン・イズ・バック」で注目すべきポイントは何と言っても、ベンの母親ホリーを演じたジュリア・ロバーツです。名実ともにハリウッドの大女優として君臨する彼女ですが、映画「ベン・イズ・バック」の演技には、「キャリア最高」と謳われるほどの高い評価がなされています。
キャラクターとしては、息子に対して愛情を注いでいる中で、ときより不器用な一面も見せます。世話好きな母親の一方で息子を叱るときは厳しい口調となります。そして、ベンが家族から離れようとした際は、決死の覚悟で息子を捜索しました。
感情を爆発させ、どこにいるのかわからない息子を心配し、なんとか命だけでも助かって欲しいという思いを表します。普段は強さを見せながらも、どうしようもできない事態に対して弱さも垣間見せます。このジュリア・ロバーツの母親の演技には、魂がこもっていると感じました。
大絶賛がなされたジュリア・ロバーツの演技を見るだけでも、映画「ベン・イズ・バック」を観る価値があるといえます。
【解説】ハッピーエンドかもしれないラストシーン

ラストのネタバレとしては、空き家でドラッグを使用したベンが意識不明の状態になっているところをホリーと愛犬が発見し、懸命の救助で息を吹きかえして物語が終わります。
なんとか死ぬことはなく、生きることができたという意味では、ハッピーエンドかもしれません。しかし、このラストシーンは結構含みを持たせる終わり方でもあり、この物語の続きを想像してしまいます。
この後、ベンはどうなってしまうのでしょうか。おそらくドラッグを再び使用してしまったために、治療施設に戻ることは確実でしょう。また、克服のために治療をやり直すことになります。
ただ、この先、治療がうまくいく保証はどこにもありません。家族の支えは得られるかもしれませんが、依存症を克服するかどうかはベン次第な部分でもあります。
実は、物語の伏線にもなっているのですが、ベンが依存症のミーティングに参加した際、昨年のクリスマスの思い出を話すシーンで、ドラッグを使って倒れていたところを愛犬と母親に発見されて助けられたというエピソードがありました。
奇しくもラストシーンではそれと同じことが起きたわけですが、見方を変えれば同じ過ちを繰り返しているわけです。そういった意味では、この先ベンという人物に待っているのは、ハッピーエンドではないかもしれないという解釈もできます。
映画の終わるタイミングがかなり含みを持たせている感じが伺えたので、そういった解釈も自然と浮かんできます。ただ、それは薬物治療の現実を考えると、なんら不思議なことではなく、果てしない道のりを乗り越えていかないと克服できないものだという、ドラッグ問題の根深さが浮き彫りになります。
ラストシーンの解釈は人それぞれあるとは思いますが、私はまたベンは同じことを繰り返していくのだと感じました。ただ、それでも家族の支えは途絶えないだろうという絆は感じられました。
映画「ベン・イズ・バック」は薬物依存を題材にジュリア・ロバーツの演技がひかる作品

アメリカの社会問題を描いた映画はかなり多くありますが、薬物問題に関しても、よく扱われるテーマだといえます。映画としては、そこまで新鮮味のあるものではありませんが、やはり問題の根深さや深刻さをいかに表現するかという点では、伝わってくるものがあります。
さらに、ジュリア・ロバーツの熱演は、それだけでも一見に値するといえます。映画「ビューティフル・ボーイ」と対比させて見るのもいいかもしれませんね。