映画『BanG! Dream FILM LIVE(バンドリ フィルムライブ)』は、スマートフォン向け音ゲーを原作とするガールズバンドプロジェクト「バンドリ!」の記念すべき初劇場公開作品です。
もともとアニメ自体は1期・2期と放送されていたので映像化自体は経験しているのですが、本作はこれまでのアニメとは一線を画すかなり独特で挑戦的な作風をしていることが特徴として挙げられます。
良くも悪くも「リアルライブ」を重視するバンドリらしさが出ている作品なので、その点を受け入れられるか否かが重要かもしれません。
今回はそんな『BanG! Dream FILM LIVE』の個人的な感想や考察を書いていきます!なお、ネタバレには注意してください。
目次
映画『BanG! Dream FILM LIVE(バンドリ フィルムライブ)』を観て学んだこと・感じたこと
・ほぼ全編ライブシーンとは恐れ入った
・ストーリーを描かないという決断自体はアリだったかも
・新曲がなく新カットも少なめだったのは不満
映画『BanG! Dream FILM LIVE(バンドリ フィルムライブ)』の作品情報
公開日 | 2019年9月13日 |
監督 | 梅津朋美 |
脚本 | クレジットなし(ライブ映画のため) |
出演者 | 戸山香澄(愛美) 美竹蘭(佐倉綾音) 丸山彩(前島亜美) 湊友希那(相羽あいな) 弓巻こころ(伊藤未来) |
映画『BanG! Dream FILM LIVE(バンドリ フィルムライブ)』のあらすじ・内容
バンドリプロジェクトに参加する「Poppi’n Party」「Afterglow」「Pastel*Palettes」「Roselia」「ハロー、ハッピーワールド」は、それぞれが独自の曲調と雰囲気を有するガールズバンド。
そんな彼女たちが一堂に会し、スクリーン上で迫力のバンドパフォーマンスを繰り広げていきます。
他のガールズバンドアニメとは一線を画し、「声優本人が楽器を演奏する」ということにこだわった本作は、リアルライブでも多数のファンを満足させ続けています。
定評のある彼女たちのライブをそのまま映画館に閉じ込めたこの作品は、映画館ならではの鑑賞スタイルでライブを楽しむことができますよ!
映画『BanG! Dream FILM LIVE(バンドリ フィルムライブ)』のネタバレ感想
【解説】全編ライブシーンのみで、ストーリーを描かないという斬新な決断
冒頭でも少し触れましたが、この映画には極めて珍しい特徴が存在します。これは鑑賞済みの方なら誰でもお気づきだと思いますが、一般的な映画のようなストーリーがほぼ存在せず、上映時間いっぱいを使ってひたすらライブが繰り広げられるという構成をしています。
こうした構成はアニメ映画としては極めて珍しく、私は他に例を挙げることができません。過去にもガールズバンドを扱った「けいおん!」などは劇場版として公開されていますが、この作品の場合はシリーズの完結編としてストーリーを重視した作風になっていました。
もちろん、そもそもの作風が異なる二作品を比較しても仕方のないところはありますが、他作品ではあまり見られない手法であることが分かるでしょう。
もっとも、劇場版で全編ライブ通しというのはアニメの世界から手を広げて実在のバンドものに目を向けてみても珍しく、近年で言えば大流行した「ボヘミアン・ラプソディ」でさえもライブシーンはライブシーンとして独立しており、映画ではフレディ・マーキュリーの生活やバンドの日常が描かれていました。
さらに言えば「バンドのライブ映像」をそのまま劇場で流すという程度であれば前例がありそうですが、本作はそれでさえなく「架空のライブを通しで流す」という作風をしており、少なくとも私の知る限りでは古今東西こうしたスタイルの映画は思いつきません。したがって、やはり本作の作風は異例と言えるでしょう。
しかし、異例ではあるもののこのバンドリというプロジェクト全体の構造を考えたとき、ライブのみに注力するという方針がそれほど間違いであったとは思えません。その理由は何点か挙げられますが、まず第一に本作がもともと「ライブ」をかなり重視することで人気を獲得してきたという歴史が存在するからです。
バンドもののアニメや漫画は過去にもいくつか存在しましたが、本シリーズがそれらと一線を画すのは「ガチ」でバンドとして活動させるところで、他作品であれば声優がとりあえず楽器をもつものの、実質的な演奏はプロが担当するということが常態化していました。しかし、本作はたとえ声優であってもライブでの演奏に妥協せず、多忙な声優業の合間を縫って練習に明け暮れているという話をよく耳にするため、ライブでは他の作品にまねのできない完成度と一体感を発揮することができ、二次元と三次元のどちらも応援することができるコンテンツに成長したのです。
これらを考えると、ライブにこだわりつづけてきたバンドリという作品が、その熱をフルに発揮する場としてライブオンリーの映画を製作したことも納得できるのではないでしょうか。
【解説】アニメ1期・2期の評価がいま一つなのも、ライブ映画に仕上がった理由か
さて、先ほどはライブのみの映画に仕上がった理由を「ライブにこだわる作品だから」と説明しましたが、個人的にはもう一つマイナス方向の理由も影響していると考えています。それは、本作に先立って放送されたアニメ1期・2期の評判が芳しくなかったことで、この事実も完全オリジナルストーリーでの映画製作に、二の足を踏ませたのではないかと考えています。
もちろん、アニメ作品が好きだったという方も多いでしょうが、個人的な印象としてはそうした肯定的な声を上回る量の批判が寄せられていたことを記憶しています。特に1期でポピパを全面に扱い、さらにシナリオの出来が悪かったということはかなり議論を呼んでいました。
加えて他バンドのファンからは「ポピパ優遇」という声も寄せられ、2期ではポピパを中心としつつも他バンドを出演させることでバランスを取ろうとしています。
ところが、やはり1期の時点で議論を呼んだためか2期は1期放送前ほどの注目度にはなかったという印象も否めず、アニメ化は失敗だったという声を耳にしたのは一度や二度ではありません。
そのため、製作陣としてもそれらの批判リスクを背負いながらストーリーを練りこむよりは、ライブを中心とすることで「お茶を濁す」的な発想に至ったという可能性は十分に考えられます。
個人的にはバンドリアニメの製作陣はダメという主張がしたいわけではなく、そもそもの構造的な問題として「ソシャゲ→アニメ」の流れは大バッシングに繋がりやすい側面があることを指摘したいです。一見すると親和性がありそうなジャンルに思えますが、ソシャゲの基本的にキャラやユニットごとのシナリオを並立させることで物語を動かしていくという形式は、一つの大きな流れとして物語を作らなければならないアニメと相性が悪いのです。
一つの大きな流れを決められた尺の中で作るためには、必然的に登場キャラクターやキーキャラクターを絞る必要がありますが、そうすると出番格差としてバッシングにあってしまいます。さらに、物語を動かすためにシリアスな演出を投入すれば「このキャラはこんなことをしない!」「解釈違いだ!」と、これまた批判される可能性が低くありません。
以上のように、すでにファン側においてキャラ愛や設定が深い部分で共有されているソシャゲは、相当慎重かつ上手にアニメ化しなければ大きなバッシングを食らってしまいます。こうしたソシャゲアニメ特有の事情が、本作の誕生には大きく絡んでいるのではないでしょうか。
応援上映との相性も抜群だが、静かに鑑賞できるのもGOOD
今作は言うまでもなくひたすらライブシーンが描かれますが、良くも悪くも安定していたように思えます。個人的に特段ひいきにしているバンドはないというタイプなので、5バンドがそれぞれ持ち曲を全面に披露してくれたのは良かったです。
とはいえ、内容そのものは「良くも悪くもアニメのライブシーンをそのままフル尺に拡大しただけ」という印象が否めず、驚きの演出やサプライズなどは特にありませんでした。もちろん映画館の音響と大スクリーンで作品を楽しめたことには価値があると思いますが、ライブで押していくからにはもう少し変化が欲しかったという思いもあります。
また、本作は公式でも宣伝されているように「応援上映」と非常に相性がよく、上映スタイルも通常上映と応援上映の二パターンに最初から分かれています。バンドリのライブに行ったことのある方ならば分かると思いますが、本作にはコールなど観客側が演奏に参加するような文化が存在します。それを全面に発揮したいなら応援上映の鑑賞一択で、リアルライブと同様に臨場感ある光景を目の当たりにできるでしょう。
しかし、個人的には応援上映の真逆で「静かに鑑賞するという選択肢も用意されている」ことが素晴らしいと感じました。バンドリだけでなく各種アニメ系のライブ全般に言えることですが、現地ではコールやサイリウムといったその作品の文化を理解していて当然という風潮があり、全くの初心者には敷居が高いという一面も否めません。
さらに、一部の心無いファンは、SNSなどで「予習のできてないにわかはライブに来るな」というような発言をすることもあり、どうしても気兼ねしてしまう方も多いでしょう。
そんな方には、本作のような「ライブを劇場で再現してくれる」という作品はうってつけです。例えコールが分からなくても、通常上映を鑑賞すればそうした悩みからは解放されますし、ライブで静かに音楽を鑑賞するという現地では疎まれがちな形で作品を楽しむことができます。
これはライブが上手に再現されているからこそできる鑑賞スタイルで、もし本作を見てライブの雰囲気にほれ込めば、思い切って現地でのリアルライブに参加しようという踏ん切りがつくかもしれませんよ。
【解説】入場料は高めだが、入場特典には一見の価値あり
ここまで本作が一風変わった作品であることは解説してきましたが、その変わりっぷりは内容だけでなく映画館への入場料という形でも現れています。本作はイオンシネマ系列を中心に配給されますが、この劇場はたいてい1800円の入場料を取ることが一般的で、さらに学生や日々のキャンペーンによる割引が用意されています。
ところが、本作は通常の入場料が適用されず、2000円均一でさらに各種割引も適用されないというかなり強気の価格設定になっているのです。言うまでもなくこれは採算を意識した結果なのだと思いますが、個人的には若年層にファンの多いこの作品が学生料金を廃してしまっていることに疑問も感じます。
結局、映画館が学生を割引で入場させる理由は「金銭的に劣る学生に安く入場してもらって、長期的なファンとなってもらう」という目的があってのことなので、若年層が敬遠しそうなこの価格設定は戦略上正しいのか、と思ってしまうのです。
本作の入場料が高めなのは言うまでもない事実ですが、その分入場特典はかなり価値のあるものになっているのも事実です。近年のアニメ映画では特典に力を入れる作品も増えてきましたが、本作も週ごとに特典を変更することでリピーターを見込んだ戦略が組み込まれています。
プレゼント自体は作中に登場するバンドのトレーディングミニ色紙で、一週目は看板バンドであるポピパの5名が対象となっており、一回入場するごとに5名の中からランダムで1名のカードを入手することができます。このカード自体にこれといった使い道があるわけではないのですが、現在ではこの特典がコレクターズアイテムとして各種フリマアプリで注目されているのです。
もちろん転売は推奨できない行為ではありますが、キャラクターによっては入場料を超えるような値段での取引も確認されるなど、コレクターズアイテムとして高い価値を有していることが分かるでしょう。さらに、今後は本作で一番人気と思われるバンド「Roselia」の色紙配布も予想され、これについてはさらに価値が高騰する可能性もあります。
入手が完全ランダムということでお目当てのキャラクターにありつけるかどうかは分かりませんが、週と回ごとに入手できるカードが異なるというのは、コレクター魂を刺激してきますね。一回の入場に賭けるもよし、何度も入場してコレクションするもよしといった感じでしょう。
【評価】発想は悪くないが、使いまわしや新曲不在から手抜き感は否めない
ここまで、一風変わった作品である本作を評してきました。その評価ですが、一言でまとめると「発想は悪くないが、手抜き感は否めない」というのが率直な感想です。
まず、先ほどから何度も書いている「ライブだけの映画を作る」という発想自体は決して悪くないと考えています。やはりライブに力を入れているコンテンツだけあってクオリティも良好でしたし、シナリオ作成の難易度を考えてもこうしたスタイルは作品にあっていたと思います。
しかし、個人的に気になったのは「手抜き感」が拭えないことです。ライブシーンを全面に描くことはいいのですが、テレビアニメですでに作成済みのライブシーンを使いまわしている時間も長く、さらに新規カットもやや少なめでした。加えて、個人的に痛かったのは新曲披露などのサプライズも用意されていなかったことです。ライブそのものはすでにアニメでも目にしているので、そうした驚きが欲しかったというのは否めません。
さらに、上記のような簡素化をしている一方で、入場料だけは他作品より高いというのもいただけません。もちろん本作を製作するにも資金がかかっているのは否めませんが、ハリウッドで巨額を投じて製作された大作や、一からフルオリジナルで制作した劇場アニメ作品より、数百円多く払って本作をわざわざ鑑賞するほどの付加価値は感じられませんでした。
こうした点を整理していくと、「アニメの使いまわし中心でとりあえず興行収入だけ稼いでおこう」という魂胆が見え隠れしているようで、あまり好ましい映画であったとは思えません。さらに、本作の場合いわゆる総集編とも違うため、事前に情報を仕入れて完全新作ではないことを知らないまま鑑賞した方も多かったのではないでしょうか。
もちろん、製作費をかけずに少しでも回収しておこうという発想自体はビジネスとして欠かせないことも理解はしています。ただ、こういう作品が増えてしまうと「手抜きかもしれないし劇場版はちょっと…」という風潮が出来上がってしまいかねず、長期的に見ればアニメ界の首を絞めることになりかねません。
本作をいまさら責めても仕方のないことなので、上がった収益でぜひ完全新作シナリオの劇場版にチャレンジしていただきたいものです。
(Written by とーじん)