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映画『海街diary』ネタバレ感想・解説・考察!原作の良さと監督の色がまじりあった良作

鎌倉の地と四姉妹の魅力がこれでもかというほどに発揮されている

映画『海街diary』は、共同生活を営む四姉妹の日常を描いた同名の人気漫画を、『そして父になる』で知られた是枝裕和監督が映画化した作品です。筆者は漫画版のファンであり、それと照らし合わせながら評価をしていきます。

定義上は「実写化映画」となるものの、単なる「原作の劣化版」に終始しておらず、それゆえに商業・芸術の両面から高く評価されている映画でもあります。

さらに、これまでは『そして父になる』および『海街diary』が代表作に挙げられることも多かった是枝監督ですが、『万引き家族』でパルムドールを受賞したことにより、今から振り返れば「パルムドール受賞監督の作品」という見方もできるようになりました。

今回はそんな『海街diary』の個人的な感想や考察を書いていきます!なお、原作を含めたネタバレには注意してください。

映画『海街diary』を観て学んだこと・感じたこと

・鎌倉の美しさは間違いなく原作以上か
・原作のテイストを残しつつ「是枝色」を打ち出した手腕は見事
・やはり原作好きからすると評価が分かれる作品かも…

映画『海街diary』の基本情報

公開日2015年6月13日
監督是枝裕和
脚本是枝裕和
原作吉田秋生
出演者香田幸(綾瀬はるか)
香田佳乃(長澤まさみ)
香田千佳(夏帆)
浅野すず(広瀬すず)
佐々木都(大竹しのぶ)
椎名和也(堤真一)

映画『海街diary』のあらすじ・内容

映画『海街diary』のあらすじ・内容(C)2015 吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

神奈川県の「海街」鎌倉市には、しっかりものの長女・幸、自由奔放な次女・佳乃、変わり者の三女・千佳という三姉妹が一つ屋根の下で生活していました。

そんな彼女たちのもとへ、15年前に離婚して家を出ていった父の訃報が届きます。

しかし、幸を除いては特段の思い入れがなく、彼女たちは父の死によって大きな感慨を抱くことはありませんでした。それでも、三人の中では一番父との記憶がある幸の願いもあり、三姉妹は父の葬儀が行われる山形へと旅立ちます。

山形の地で、彼女たちはまだ幼さを残しつつも気丈な異母妹の浅野すずと出会います。すずは父の再再婚相手に相当する家族と生活を共にしていましたが、彼らの頼りなさを不安に感じた幸は彼女を鎌倉の地へと誘いました。

こうして同居することになった「四姉妹」。彼女たちのドラマは、どのような展開を見せていくのでしょうか。

映画『海街diary』のネタバレ感想

是枝監督と豪華キャスト、菅野よう子の音楽とスタッフが非常に充実

是枝監督と豪華キャスト、菅野よう子の音楽とスタッフが非常に充実(C)2015 吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

まず公開前から分かっていた本作の大きな魅力としては、とにかくキャストやスタッフが豪華であるという点です。監督と脚本を兼任する是枝は本作以前から国際的に評価されていましたし、加えて単に監督の立場を押し付けられたわけでもありません。

監督は「原作漫画を読んで、映画を製作してみたいと思った」という本人たっての希望で就任したものであり、原作への理解度も高いという点は大きかったのでしょう。加えて、『そして父になる』『万引き家族』などの映画でもわかるように、彼にとって「家族」というテーマは得意分野でもあります。

 

他に特筆すべきキャストとしては、音楽を担当する菅野よう子の存在でしょうか。彼女の実績はもはや語るまでもないほどであり、劇伴作曲家としては日本でもトップクラスの知名度を誇ります。もちろんその実力は本作においてもいかんなく発揮されており、全面に音楽が押し出されているわけではないものの、「縁の下の力持ち」として作品を盛り上げていました。個人的には、『カウボーイビバップ』や『攻殻機動隊』における「盛り上げ役」としての菅野よう子がどうしてもイメージされるのですが、このように落ち着いた劇伴もそちなくこなすあたりは流石というほかありません。

こうした実力派スタッフによって手掛けられる映画には、当然ながら実力派キャストが終結しています。四姉妹については後ほど個別に述べていくので割愛しますが、彼女たちを取り巻く周囲の人物たちが非常に魅力的でした。特に大竹しのぶや風吹ジュンといった妙齢女性たちの醸し出す魅力はともすれば原作以上ともいえるもので、映画に深みを与えています。

ただ、一方でこうした脇を固めるキャストが素晴らしかっただけに、彼女たちの出番が少し少なめだったのは残念でした。もちろん短い尺で『海街diary』の世界を表現するには四姉妹にスポットを当てなければいけないというのは理解できますが、やはり残念なものは残念ということです。そのため、もし本作の「脇役」陣に魅力を感じた方は、是枝監督の他作品を鑑賞されることをオススメします。他作では彼の描く「家族」を余すところなく体感できますので。

鎌倉の地と四姉妹の魅力がこれでもかというほどに発揮されている

鎌倉の地と四姉妹の魅力がこれでもかというほどに発揮されている(C)2015 吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

本作は、基本的に終始一貫して「鎌倉」という舞台を描き出しています。そもそもタイトルの「海街」が鎌倉を指しているのは言うまでもないですが、四姉妹に至ってはほとんど鎌倉から出ることさえありません。言ってしまえば鎌倉の外は「忌むべき場所」とさえ描写されているようで、ある意味で本作における鎌倉は一種の「閉鎖空間」であり、ドラマの全てが鎌倉を描くためのものであるという見方ができるでしょう。

そして、その鎌倉に関してはこれ以上ないほど魅力的に描かれています。海や建物、観光地や何気ない歩道に至るまで、実に美しいというほかありません。加えて本作の素晴らしいところは、ハリウッドの作品でよくあるような「どうだ、美しいでしょう?」と言わんばかりに過剰な音楽や演出が盛り込まれてはいないところです。あくまで何気ないように風景を写しつつ、それとない目線やカメラワークで上手く観客に街を見せていく。このあたりの手腕は是枝監督の腕によるものなのでしょう。

このあたりは、「何気なく見せようとしているという事が分かってしまう」、という点ではある種の「あざとさ」を内包しているような気がしないでもないですが、そもそも個人的にこういうタイプの魅せ方が非常に好みなのであまり気になりませんでした。ただ、裏を返せばこうした一種の「あざとさ」が嫌いだ、という方は本作との相性がイマイチかもしれません。

 

そして、もう一つ本作が映像化されたことによる特有のメリットは、四姉妹にキャスティングされた綾瀬はるか・長澤まさみ・夏帆・広瀬すずがこれ以上ないほど魅力的に描かれている点でしょう。彼女たちは、後述するように「原作の四姉妹」とは必ずしも一致しないところがあり、原作再現性という意味ではそれほど評価が高くありません。しかし、それを差し引いても彼女たちの美しさと微妙にスレた感じが絶妙にマッチしており、鎌倉の魅力と合わさって一種のプロモーションムービーにさえ感じられるのです。

彼女たちの実力に関しては言うまでもないのでしょうが、一番驚いたのは広瀬すずの演技かもしれません。昨今は少女漫画を原作としたありきたりな実写映画にヒロイン役として起用されることが多く、一種の流行女優として見なされることもあります。しかし、本作では四女として気丈に振舞いつつも節々に幼さを残すという難しい演技を実質アドリブでそつなくこなしており、本作だけで見れば間違いなく「演技派女優」といえるでしょう。

【解説】原作との違いとして、映画ならでは大胆な再編集が行われている

【解説】原作との違いとして、映画ならでは大胆な再編集が行われている(C)2015 吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

この映画は賛否両論が多い作品ではありますが、レビューを分析していくと「原作ファン」はやや否が多めで、「初見の方」はやや賛が多めという傾向にあるように感じます。その原因として、本作は良くも悪くも原作とは異質の作品であり、その点が原作ファンにとっては不服な部分と考えられているのでしょう。

内容面や全体的な印象については後ほど詳細に解説を加えていくのですが、個人的に一番気になったのは、原作を知っているとどうしてもぬぐえない「ダイジェスト感」でした。そもそも、本作は原作漫画を基本的には再現しているものの、2時間という尺の中で全ての要素を詰め込めているわけではありません。改変された大きな部分として、原作では四姉妹がオムニバス的に人間ドラマを繰り広げていた点に手を加え、一本のストーリーとして再構成されていることが挙げられます。

これにより、映画として一本の大きな筋が出来上がったものの、その代償として個別のイベントやシーンがやや駆け足気味になってしまっています。そのため、原作を知っていると「えっ、このシーンをこんなにアッサリ消化しちゃうの?」と感じることもあり、原作ファンが出来に不満を持つのは理解できます。

 

もっとも、この点は「原作ファン」特有の不満であり、初見の方にとってはそれほど気になるものではないでしょう。あくまで原作を知っているから不満を抱くのであって、個別の事象が明らかに中途半端になってしまっているとか、そういったことはありません。それゆえに、見方によっては「原作を知らなければ分からない程度に上手な再構成がなされている」ともいえるでしょう。

したがって、シナリオ面の出来が悪いという事は全くありません。むしろ原作を圧縮しつつ再構成するという難易度の高い技法をこれだけ上手にこなしているという点でスタッフの力量を実感することができ、少なくとも初見で違和感を覚えることはまずないのではないでしょうか。

【考察】良くも悪くも「ロマンティック」な物語へと変質

【考察】良くも悪くも「ロマンティック」な物語へと変質(C)2015 吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

ここまで、良くも悪くも本作が原作とは異質な物語であるということを指摘してきました。そして、こうした個別の「違い」が生み出しているものは、本作の全体的な雰囲気にも大きな影響をおよぼしているといえます。

それは、おおむね同じ出来事を描いている原作が「リアル」な物語であるのに対し、本作が「ロマン」の物語に感じられるという形で我々に示されているのではないでしょうか。この違いを生み出した要因について、下記で指摘をしていきたいと思います。

まず、第一の要因としては先ほど挙げた「四姉妹」に関するキャスティングの問題でしょう。確かに、彼女たちにキャスティングされた四人の女優に関しては、その魅力が全面に発揮されていました。しかし、こと「原作の四姉妹」とは明らかに異質のキャラクターとして筆者の目には映ったように、それが作品の雰囲気にも違いをもたらしたのではないでしょうか。

では、具体的にどう違うのかというと、それは彼女たちの「女性的な魅力」、端的に言ってしまえば容姿の問題です。原作の四姉妹は、絵の雰囲気からしても絶世の美人という感じではありませんでした。もちろんそれぞれ魅力的な人物なのですが、どこかくたびれて達観したようなところがあったように感じます。

 

一方、本作にキャスティングされた綾瀬はるか・長澤まさみ・夏帆・広瀬すずは、誰に目を向けても極めて魅力的な容姿を兼ね備えています。それゆえに、原作と同じイベントを同じような過程で演じたとしても、感じる印象が異なるものになったのでしょう。

つまり、本作の「四姉妹」が出会いと別れ、生と死、恋と破局を経験していると、どこか「ドラマの出来事」という印象が強まっているのです。それは恐らく彼女たちが「綺麗すぎる」あまり、原作と比べたときに良くも悪くも非現実感が出ているのでしょう。もちろん本作はドラマですし、ドラマっぽいのも当たり前と思われるかもしれませんが、個人的にこの手の映画で「ドラマっぽさ」が出てしまうのは必ずしもよいことだとは思えません。

加えて、先ほど称賛した鎌倉の美しさも、本作のドラマっぽさに拍車をかけているように感じられました。映像的な「美しさ」は映画に欠かせない要素でしょう。しかし、本作のようなドラマを描く場合に、美しすぎることはかえって現実感を失わせてしまうのです。

本作を見た時に原作ファンが思う「違和感」の正体は、このドラマっぽさなのではないでしょうか。原作も言ってしまえばフィクションなのですが、美しすぎることがかえってフィクションっぽさを促進しているというのは指摘として十分に成立し得ます。

もっとも、この点に関しても原作との比較を行なったうえで検討できる問題であり、原作を知らなければ「嘘くさいな」と思うことはないのかもしれません。このあたり、原作ファンが実写映画を見るときの悩みを体現しているようにも感じました。

【解説】賛否の声はあるが、様々な制約がありながら素晴らしい映画を作り出した監督の手腕は見事

【解説】賛否の声はあるが、様々な制約がありながら素晴らしい映画を作り出した監督の手腕は見事(C)2015 吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

原作ファンの筆者からすると、どうしても賛否両方を指摘したくなってしまった本作。しかし、公開後も非常に反響が大きく、商業的にも芸術的にも成功を収めたことは言うまでもないでしょう。

確かに、本作が「実写化映画の究極系」であることは間違いありません。舞台設定をそのまま借りつつ、是枝監督独自の色を出していく。それでいて商業的にも成功しているわけですから、これ以上ないハッピーエンドといえます。

それでも筆者を含めた原作ファンは不満点を指摘することを考えれば、そもそも実写版映画を作る以上避けようがない課題なのだろうと思います。本作でもそうですが、2時間の映画で『海街diary』を再現しようと思えば大胆なストーリーの再構成は必須ですし、鎌倉や姉妹の美しさという映像美を追求しない手はないでしょう。

さらに、キャスティングについても興行成績やスポンサーとの兼ね合いを考えれば売れっ子女優を起用するのはもう仕方のないことで、ファンとしてもそこは納得しなければならないと思っています。

 

そこからも、本作の出来に関しては紛れもなく「最良を尽くした」という評価が揺らぐことはなく、良作の部類に入る映画という結論は変わりません。特に昨今公開された実写映画の死屍累々ぶりを見てみると、原作ファンに「賛否両論」を言わせる時点で間違いなく上位の作品になるでしょう。本作のほかにも『ピンポン』や『るろうに剣心』など評価の高い実写映画がないわけではないのですが、それらの良作が登場するまでに無数の凡作が生み出されています。

こうした現状を鑑みると、本作が見せた「原作の外せない点を残しつつ、監督の独自性を出していく」という本作の方向性は、全ての実写版製作陣が見習うべき姿勢ということになるのです。原作ファンはそれでも口を出してくるかもしれませんが、同時に納得してくれるファンも少なくないはずです。

とはいえ、この要求は「言うが易し」というたぐいのもので、簡単にまねできる芸当ではありません。そう考えていくと、是枝監督はオリジナル映画だけでなく実写化担当の監督としても優れた力量を兼ね備えており、現代の日本ではトップの監督になるのではないかと思います。

『万引き家族』以降にどのような作品がつくられるのか。監督の次回作には大きな期待を寄せたいところです。

(Written by とーじん)

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※2019年8月現在の情報です。

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