映画『刀剣乱舞』のネタバレ感想・解説・考察！正しい歴史とは何か？を描いた作品

映画「刀剣乱舞」は同名のシミュレーションゲームをもとに実写映画化した作品です。

戦国武将などが所持していた日本刀が神様として擬人化され、歴史を守るために戦うのですが、二次元から三次元への再現クオリティはもちろん、殺陣などのアクションシーンも最高でした！

今回は映画「刀剣乱舞」の個人的な感想やネタバレ解説を書いていきます。

映画「刀剣乱舞」を観て学んだ事・感じた事

映画「刀剣乱舞」の作品情報

映画「刀剣乱舞」のあらすじ・内容

日本刀を擬人化した「刀剣男士」が歴史を守るため戦うシミュレーションゲーム「刀剣乱舞 ONLINE」を実写映画化した作品です。

これまでアニメ化、ミュージカル、舞台化もされてきましたが、今回は舞台の俳優さんがメインの作品となっています。

歴史を変えようとする時間遡行軍から正しい歴史を守るべく奮闘する刀剣男士達の今回の任務は、「織田信長を歴史通りに殺すこと」。本能寺の変から逃げ出した信長を歴史通りに殺すため、三日月宗近を隊長とした刀剣男士達が過去へと出陣します。

どうやって信長は生き延びたのか、立て続けに歴史介入をしてくる時間遡行軍の狙いは何か、“正しい歴史”とは何か。迷いながらも戦う刀剣男士達の姿を描いた映画となっています。

映画「刀剣乱舞」のネタバレ感想

既存ファンも、初めて観る人も楽しめるストーリー

(C)2019「映画刀剣乱舞」製作委員会

ゲームやアニメの映画化作品は、ファンにとっては大衆受けを目指してガッカリするものになるのではないか、また、初めて観る人にとっては実際に原作の知識がないと内容がわからないのではないか、そんな不安がつきものですよね。

しかし、映画「刀剣乱舞」は両者にとって優しい2.5次元作品となっています。

「刀剣乱舞」関連作品には阿津賀志山や池田屋が舞台となった物語などがありますが、正直、歴史に詳しくないとよくわからない…なんて人もいるはず。

そこで、今回は誰もが知っている「本能寺の変」が軸になっています。天正10年6月2日、京都の本能寺で戦国武将・織田信長が、家臣の明智光秀に襲撃され自害するという歴史に、歴史改変を目論む時間遡行軍が介入しようとするのです。

それを阻止しようと、日本刀の付喪神である刀剣男士達が奮闘します。この刀剣男士達はそれぞれ歴史上に実際に現存していた刀剣で、武将が所持していたものだったり、不思議な伝説が残っているものだったりします。

性格などにそういったエピソードが盛り込まれており、イケメンだけではなく歴史も楽しめる作品なんです。冒頭に、キャラクターや世界観の紹介があるので、初めて観る人もすんなりと映画の世界に入れる作りになっています。

もちろん、審神者（ゲームのプレイヤー、もしくは既存ファンの意訳）にとってもお馴染みのキャラクター達がそっくりそのまま三次元に再現されているので、嬉しいシーンとなっています。

また、「とある本丸の物語」という説明がある通り、「これはあなたの本丸とは別の本丸のお話です」とあらかじめ審神者に伝える気遣いも忘れていません。

ただ、今回「刀剣乱舞」関連作品には珍しく審神者の姿が映し出されている点には驚かされました。これまで、アニメやミュージカルでは審神者の存在を表に出したり出さなかったりとまちまちだったからです。

この本丸の審神者はおじいちゃんでした。御簾越しではありますが、審神者と三日月宗近が会話をしているシーンが観られました。

おじいちゃん審神者は「自分の命はもう長くなく、本丸を新しい審神者に引き継ぐ」と、近侍である三日月宗近にだけ話します。刀として1000年以上現存している三日月宗近は見た目は若者ですが、中身はおじいちゃん。2人はどこか通じるところがあるのでしょう。

同じおじいちゃん同士の会話は裏がありそうな含みをもたせながらも、お互い想い合っているさまが伝わってきて、温かい気持ちになりました。審神者の霊力を表しているであろうペンダントは、「刀剣乱舞」の世界観を知らない人が観ても「力が弱まっている」とわかりやすいアイテムになっています。

度々舞い散る桜の花吹雪も良い演出。「刀剣乱舞」では、刀剣男士が喜んだり、過去・未来へ時間を移動したりするときに桜が舞うのですが、この演出は審神者には嬉しい演出で、初見の人にもわかりやすいものでした。

普段は感情を表に出さない三日月宗近が主役

(C)2019「映画刀剣乱舞」製作委員会

「刀剣乱舞」の“顔”的存在でもある三日月宗近。天下五剣と謳われる名刀で、平安時代からこの世の中を見てきた刀です。

“じじい”故、大抵のことでは驚かず、感情を表に出すこともあまりありません。そんな三日月宗近が今作の主人公なんです。

今作の審神者がおじいちゃんということもあり、初期刀の山姥切国広を差し置いて三日月宗近が近侍を務めています。そして、審神者は自分の老い先が長くないことを三日月宗近にだけ話すのです。

主からの命を託された三日月宗近は、主命を守ろうとするあまり孤立します。へし切長谷部からは「言わない考えなら、ないのも同じ」と言われ、薬研藤四郎や山姥切国広には裏切り者なのではと疑われてしまいます。

そんな中でも、刀剣男士の誰かが小さな花を踏んでしまったようすを目にし、「歴史を守るとは、ことほど左様に難しい」と呟く優しさを見せるのです。歴史を守ろうする自分達が来なければ、花は踏まれなかったのに。

そんな悲しげな表情を見せてくれました。

終盤に信長を説得する姿がカッコよく、仲間を人質に取られ絶体絶命の状況であるはずなのに、落ち着いた態度で説得するのです。

「歴史に残る信長は悪あがきをしない。もっとかこいい」と。

“正しい歴史”とは、本来の姿とは違うかっこ悪い姿で生き残るという歴史ではない。潔く散った信長という人物像を守るために、刀剣男士は戦っている。そんな隊長の想いが詰まったシーンでした。長い年月を生きて、数多の人間を見てきた三日月宗近だからこそ言えるセリフでしょうね。

刀剣男士が「折れない」ことに感謝

(C)2019「映画刀剣乱舞」製作委員会

映画「刀剣乱舞」の製作が発表された際、審神者の皆さんが心配したのが「誰か折れるんじゃないか」という点。人の形をしながらも物である刀剣男士にとって「折れる」＝「死」なのです。

しかし、大丈夫です。“光属性”である西川貴教の歌う主題歌「UNBROKEN」のタイトル通り、誰も折れません。

原作であるゲーム通りの刀剣男士達の殺陣シーンは、練度の高さが伝わってきて安心できます。短刀である薬研藤四郎や脇差の骨喰藤四郎のアクロバティックな動き、槍である日本号の力強さ、打刀のへし切長谷部と山姥切国広の身軽だけれどしっかりとした戦い方。

この本丸の審神者のお気に入りであろう三日月宗近は、本来、太刀のため室内戦は不向きとされていますが、そんな様子を微塵も見せません。カンスト(99レベル)しているのかなと思いました。

それでも、主に忠実であるへし切長谷部が時間遡行軍に撃たれたり、いつも優しい表情を絶やさない三日月宗近が敵に斬られるのは、観ていて辛かったです。顕現したてで、他の刀と比べレベルも大して上がっていないであろう骨喰藤四郎が、終盤に信長に人質に取られるシーンでは、折れるのではないかとハラハラさせられました。

「本能寺の変」の新たな歴史解釈に仰天

(C)2019「映画刀剣乱舞」製作委員会

織田信長は本能寺の変で自害した。これが、一般的な日本人の常識かと思います。

しかし、この映画「刀剣乱舞」はこの常識を逆手に取ったストーリー展開となっていました。敵である時間遡行軍は、織田信長を生き残らせようと、炎上する本能寺から逃がします。

そんな時間遡行軍の企みを止めようと、三日月宗近率いる刀剣男士達は主の命により、過去へと飛ぶのです。しかし、隊長であるはずの三日月宗近がなぜか信長を庇うような動きを見せます。

そして、ほかの時間遡行軍とは若干容姿の違う「無銘」という短刀。織田信長にゆかりのある短刀・不動行光が出陣部隊から外され、薬研藤四郎が戦闘時違和感を感じたため、観客は「もしかして、闇落ちした不動行光、もしくは薬研藤四郎なのでは」と推理してしまいます。

しかし、桜吹雪により仮面を壊されたその実態は、明智光秀が所有していた説のある倶利伽羅江という短刀でした。倶利伽羅江の作者である郷義弘は自作の刀に銘を刻まなかったことでよく知られています。

だから、記憶をなくしていた頃は「無銘」と名乗っていたのです。「刀剣乱舞」はこういった歴史のエピソードも作品に盛り込んでくれます。

また、三日月宗近も決して時間遡行軍に加担していたわけではなく、「信長は安土城で豊臣秀吉の手により殺される」という“正しい歴史”を知っていました。

なぜなら、三日月宗近は豊臣秀吉の刀であった時期があったから。仲間の刀剣男士や敵の時間遡行軍も欺き、自身しか知らない“正しい歴史”を守るため動いていたのです。この新しい歴史解釈に、観客は驚かされます。

確かに、史実では本能寺から信長の骨は見つかっていません。歴史とは、その時に権力を持っていた者が書き換えることができるものだと劇中で語られます。

真実を知っている秀吉は、安土城で「明智光秀を討伐した」と周囲にはふれ回り、実際は信長を亡き者にしたのでした。

審神者へのファンサービスが満載

(C)2019「映画刀剣乱舞」製作委員会

本編が始まる前に流れる「NO MORE 映画泥棒」が映画「刀剣乱舞」とコラボしていました。監督の耶雲哉治が「NO MORE 映画泥棒」の監督でもあるため、叶ったコラボレーションでしょう。

みんなが知っている映画泥棒を、刀剣男士達がやっつけようとするさまに、本編上映前から笑わされました。特に、へし切長谷部の真面目に任務をこなそうとするようすが、本当にキャラクター通りで嬉しかったです。

あのCMのおかげで、「この映画は原作に忠実なんだ」と審神者は安心して挑むことができました。

このように、製作陣の「刀剣乱舞愛」が随所に散りばめられています。元々のゲームのキャラクターをそのまま実写化し、2.5次元ならではの面白さを表現してくれているのです。

ゆったりとお茶を飲んでいる鶯丸、お馴染みの鼻歌を口ずさんでいる日本号、マントさばきが見事な山姥切国広、常に甘酒を手放さない不動行光。「短刀は短パン」というルールを寒い中守ってくれた、薬研藤四郎役の北村諒さんと不動行光役の椎名鯛造さんには感謝しかないです。

インタビューによると、撮影はまだまだ寒い時期に行われ、草むらでの撮影も多かったため虫刺されや花粉に悩まされたそう。パンフレットには虫除けスプレーをかけている写真も載っており、苦労が見て取れました。

刀剣男士同士の掛け合いも良く、俳優さん達の和気藹々とした関係性がにじみ出ているようです。撮影中、出番がない時はトランプをして遊んでいたそう。

盛り上がりすぎて、スタッフに「静かにして」と怒られてしまったと、インタビューで語っています。仲の良さが感じられますね。ぜひ、DVD特典などにメイキング映像として入れてほしいです。

他にも日本号役の岩永洋昭が、初日に槍を折ってしまったというエピソードも好きです。演じているキャラクター同様、豪快だなと思いました(笑)

終盤、遠征に行っていた刀剣男士が集合していたのも壮観。わざわざこの短いシーンのために役者さんをそろえるなんて、太っ腹ですよね。

そして、新刀剣男士・倶利伽羅江。ゲーム未実装の短刀です。審神者はこの映画を観て初めて、倶利伽羅江の存在を知りました。劇中ドロップ(登場)したことにより、いつかゲーム内で実装されるだろうなという楽しみをもらえたのです。

闇落ちしたまま折れたりせずに、良かったですよね。製作陣の優しさを感じます。

また、ラストに審神者が世代交代し、幼い女の子になったところも、ほっこりとしてしまいました。「刀剣乱舞」は女性向けコンテンツです。

故に、プレイヤーと同じ10代〜30代ぐらいの女性を審神者として出演させてしまうと、一部のファンは興冷めしてしまいます。そこで、幼い女の子を出演させたのはとてもファン想いだと思いました。

pixiv (イラスト投稿サイト)で見たことある光景だと思った審神者もいるのではないでしょうか。刀剣男士と幼い審神者が触れ合うようすは、観ていて微笑ましいですよね。

「刀剣乱舞」関連の作品は、原作の世界観を壊さずに忠実に再現してくれるところが人気のひとつです。この映画「刀剣乱舞」も例外ではありませんでした。変に大衆受けに寄りすぎず、またアニメ寄りにもなりすぎず、丁度良い塩梅で作られた映画となっています。

鑑賞後も考察を深められる終わり方。続編もある？

(C)2019「映画刀剣乱舞」製作委員会

おじいちゃん審神者から、幼い女の子へ引き継がれた本丸。これはあくまで想像なのですが、この本丸の三日月宗近の強さや審神者との信頼関係から、わりと長い年月を共に過ごしてきたのではないでしょうか。

三日月宗近は安土城の戦いで一人だけ残り、折れようとしていました。きっと、長年仕えてきた審神者と共に死ぬのが自分にとって最大の幸せだと思ったからでしょう。

それ故に、「近侍を務めるのは今回が最後だ」と自ら語っています。しかし、仲間の刀剣男士達は「俺達にとってはお前も本丸だ」と三日月宗近が折れることを許しませんでした。

刀剣男士達の奮闘の甲斐あって、歴史も本丸も守られ、新たに幼い女の子がこの本丸の審神者として赴任します。これからこの子が成長し死ぬ時まで、付喪神である三日月宗近達は仕えるのだなと思うと、人の一生の短さと人に使われるために生みだされた刀との関係に涙が出てきました。

神様は年をとりません。審神者の霊力により顕現された刀剣男士は、折れたり刀解されたりしない限りずっと生き続けます。生き物のように寿命がないのです。恐らく、三日月宗近達は途中で折れたりしなければ、この女の子にずっと仕え、この子の死も看取ることになるんでしょうね。

刀の神様である刀剣男士と、人間である審神者のストーリーがはかなくて、それでも限りある時間の中で歴史を守るために共に戦うという世界観が魅力的なのです。

そして、ラストに「刀剣乱舞 継承」の文字。副題の「継承」とは歴史の「継承」という意味はもちろん、続編への期待が込められているのかもしれません。

興行収入次第では2作目の製作もあるのでは……？ストーリーをもう一度観たいというのはもちろん、作品に貢献したいという意味でも何度も鑑賞したい映画となっています。