劇団ひとりさんが原作・出演・監督を務めた映画『青天の霹靂』。
芸人さんらしい笑いの要素と自然な演技、小説家としてのストーリーの面白さ・切なさ・驚きの要素を組み合わせた、初監督作品とは思えない魅力的な作品になっていました。
今回はそんな『青天の霹靂』についての詳しい感想と考察・解説をご紹介していきます。感想と考察・解説ではネタバレを含みますので、映画ご視聴前の方やネタバレを避けたい方はご注意ください!
目次
映画「青天の霹靂」観て学んだ事・感じた事
・タイムスリップで知る父子愛にほっこりとするヒューマンドラマ
・笑い、切なさ、驚きのあるヒューマンドラマ作品がお好きな方に
映画「青天の霹靂」の作品情報
公開日 | 2014年05月24日 |
監督 | 劇団ひとり |
脚本 | 劇団ひとり 橋部敦子 |
出演者 | 大泉洋(轟晴夫) 柴咲コウ(花村悦子) 劇団ひとり(轟正太郎) 風間杜夫(雷山ホール支配人・丸山) 須田琉雅(幼少期の信吉) 笹野高史(村上医師) |
映画「青天の霹靂」のあらすじ・内容
後輩にどんどん先を越され、20年間売れないマジシャンを続けている男・轟晴夫。
母親は父親の浮気が原因で赤ん坊の頃に家を出て行っており、その父親とも音信不通…スーパーの値引きを待って買い物をし、雨漏りしまくりのボロアパートに住んでいたある日、父親の訃報が届きます。
惨めな日々に生きる難しさを痛感し、生きる意味を見失って涙が溢れた時、青く晴れた空に雷鳴が轟き、気が付けば40年前にタイムスリップしていました…!
そこでとある人物の面影があるマジック好きな人懐っこい少年と出会い、言い方はキツいが面倒見の良い雷門ホール支配人にマジックの腕を見込まれたことで、晴夫は40年前の世界でマジシャンとしての人生をスタートさせることになるのですが…。
映画「青天の霹靂」のネタバレ感想
芸人であり小説家でもある劇団ひとりさんらしい、タイムスリップした売れないマジシャンが過去に行くことでマジシャンとしてデビューする、父子でコンビを組むという、ただでは終わらないお笑い展開が魅力的な映画になっていました。
さらにそれだけではなく、ヒューマンドラマ映画としての切なさや驚きもしっかりと組み込まれていたのが良かったですね。
ネガティブな普通のキャラを演じる大泉洋さん
個人的に大泉洋さんと言えば、映画『ゲゲゲの鬼太郎』のねずみ男役や『東京喰種 トーキョーグール』の真戸呉緒役、『清須会議』の羽柴秀吉役などの明るいギャグキャラクターやアクの強い独特なキャラクターのイメージが強かったのですが、今作ではそんなイメージとは真逆をいくようなキャラクターになっていました。
表面上はニコニコしているものの、自分の不幸な人生を呪うようなネガティブな思考を持ち、人と話している時や舞台にペペとして立っている時には明るくポップなギャグキャラクターになるものの、通常時は普通の人っぽいキャラクターを演じていたのが珍しく感じましたね。
そもそも後輩に先を越される売れないマジシャン、父親の浮気が原因で出て行った母、音信不通の父という不幸しかない設定が大泉洋さんの演じるキャラクターにあること自体、個人的には新鮮でした。
しかしそんなキャラクターも大泉洋さんに意外と合っていて、見た目はいつものポップなギャグイメージの強い大泉洋さんのままなのに、内面だけが暗く重くなっているというギャップが普段とは違った笑いを生み出していて良かったです。
ギャップがあるからこそ雰囲気は重いのに笑えるような、笑えるのに切なさもあるような…どちらの良さも増幅させているように感じました。
なので大泉洋さんがお好きな方、特に大泉洋さんのキャラクターイメージが自分の中で固まってしまっている方にこそ、チェックしてみていただきたい作品になっています!
父親とコンビを組むというのが面白い
不運な人生を呪い、生きる意味すらも見失っていたときに、突然タイムスリップするというところまではありがちな設定なのですが、そこから父親とお笑いマジックのコンビを組むという展開が斬新で面白かったです。
タイムスリップの設定自体はそこまで珍しいものではなく、突然知らない世界にやってきたと思ったら、良き人々と出会い、現世では経験することができなかった華々しい世界を手に入れるというありがちな展開。
タイムスリップでありながら受ける印象としては、アニメ『転生したらスライムだった件』や『Re:ゼロから始める異世界生活』などのような異世界転生系に近いものになっていて、分かりやすさのある若者受けの良さそうな展開になっていたかなと思います。
ただそこから先の展開は亡くなった父親と再会し、お笑いマジックのコンビを組み、仕事と母親を通して少しずつ父親の真意を知っていくという、斬新で大人向きな展開にどんどん変化していきました。
なのでアニメのようなタイムスリップ設定がお好きな方から、ヒューマンドラマ要素もありつつ斬新な展開のある作品がお好きな方まで、老若男女問わず楽しみやすいような映画になっていたと思います。
漫才のような笑い
今作は芸人である劇団ひとりさん監督の作品ということで笑いの要素が多く盛り込まれているのですが、コメディ映画のような笑いではなく、どちらかと言えば漫才に近い笑いになっていて面白かったです。
コメディ映画のような演出・BGM・セリフ等で笑わせに来ている感じではなく、モゴモゴしゃべる主人公に笑ってしまうような、シュールさに笑わされてしまうような、芸人さんの漫才を観ている感覚で笑える映画でしたね。
大人げなく舞台でまで仲の悪い親子とか、人見知りなのに家に行きたくてグイグイ来る晴夫とか、キャラクターの素を見ているような思い思いの動きによって生まれる笑いが面白かったです。
そしてそのケンカを観ていた支配人が、ケンカを持ち味にして売り出そう!と提案するのがまた面白くて、くだらないことを真剣に考えて展開していくのが面白い、しゃべりや構成で魅せるお笑いという…まさに漫才のような感覚で楽しめる映画だったと思います。
なので漫才がお好きな方、劇団ひとりさんのようなしゃべりの面白い芸人さんがお好きな方におすすすめな映画でしたね。
劇団ひとりさんの演技が自然
バラエティ番組で観ることはあれど、俳優として映画に出演されている劇団ひとりさんを観るのは今作が初めてだったのですが、思っていた以上に自然な演技で違和感を感じることなく、他の俳優さん・女優さんとのやり取りも楽しく観ていくことができました。
キャラクターによく合っていることで柴咲コウさんとのやり取りや、ビンタも笑いながら観ることが出来ましたし、ただのだらしない男かと思えば内面には弱さや不器用なりに家族を想う心があったというところも含めて、劇団ひとりさんの雰囲気や顔立ちによく合っていたなと思います。
そしてペペと共に舞台に立っている時の中国人・チンの姿も良くて、饒舌なしゃべりと独特なイントネーションで絶妙な胡散臭さを醸し出しているキャラが、バラエティ番組でよく観る劇団ひとりさんに近いものを感じました。
やはり自分で原作・監督・俳優もやっていると、自分の思い描いた通りのキャラクターを演じられる分、役柄やキャラクターにマッチしやすく、演技も自然になりやすいのかもしれませんね。
なので劇団ひとりさんがお好きな方にはもちろんのこと、芸人さんが映画やドラマに出演されていることに不安を感じている方にもおすすめできる映画になっているので、少しでも興味のある方はぜひともチェックしてみてください!
まさかの切ない真実に驚き…!
前半までは晴夫が生まれる前の優しい母、だらしない父親に呆れたり疑問を抱くだけのストーリーだったのですが、途中からまさかの真実が明かされる怒涛の展開になっていました。
父の浮気が原因で出産後に家を出て行ったと聞かされていた母は、実は自分の命と引き換えに子供の命を守ると決めた強い女性で、出産と同時に命を落としてしまっていたという聞かされていた話とは真逆をいくような女性で…。
父親はラブホで働いて浮気をして、高校卒業以来音信不通になるような家族愛の薄い男だと思っていましたが、実は子供のために自分の夢を諦めて融通の効くラブホに転職するような子供想いの父で、母親と子供のことを心から愛しているような男性でした。
そして、母親が子供を産むために命を落としたという真実を知ることがないように、全ての恨みが父親に向くように嘘をついて…何とも愛の溢れる切ない真実になっていましたね。
もしその全てを子供の頃に知っていたら、母親の命と引き換えに手にした自分の命の重さに耐えきれなかったかもしれません。
知らなかったからこそ自分の不幸を恨みながらもなんと生きていけた、大人になった今真実を知ったからこそ、悲しみのあとに何とか立ち直ることができたと思うとまた切なさが増しましたね。
切なさに切なさを重ねた…切なさと悲しさと家族愛の溢れる真実でした。
今作はそんなヒューマンドラマ展開に切なくなったり楽しむだけではなく、笑いの中に隠されていた真実に驚かされたり楽しめるようになっていたので、ヒューマンドラマが苦手という方にもおすすめできる映画になっています。
母親と話す子供の未来、自分の過去
晴夫が母の死の真相や子供への愛情深さを知った後、悦子自身が自分の死を感じていた時…最初で最後の母と子の会話として、子供の未来・晴夫の過去を語っていくシーンが印象的でしたね。
彼女が知ることのない学校のこと、自分のことや父親のことを話していく姿は、学校帰りに1日の出来事を話す少年のようで、今まで出来なかった分を一気に話そうとしている姿がほっこりとする雰囲気もありつつ、最初で最後の親子の会話に切なくもなるようなシーンになっていました。
ただ、個人的には泣ける・感動というほどではありませんでしたね。
どちらかと言えば死を側に感じながらも子供のために命を張る妻、そのことを知りながら見ていることしかできない夫という2人の関係の方が共感しやすく泣ける部分が多くなっていたので、自分の立場・状況によって感じ方は変わってくるのかもしれません。
このシーンはどちらかと言えば身近な親族を亡くした経験がある方、母親の経験がある方の方が共感しやすく泣けるシーンになっていると思うので、そういった方にはぜひともチェックしてみてください。
まさかのラスト、結末にほっこり
途中からの衝撃の真実だけでは終わらず、ラストにも亡くなったはずの父親が実は生きていて、母親の死について真実を話すために自分を探していたという驚きの真実とほっこり展開が待っています。
このラストの一番良かった点は、父親が生きていたということ以上に母親の死の真相を話そうとしていた点です。
晴夫の心と人生を守るために母親の死の真相を隠し、子供を置いて出て行ったと話していましたが、自分が死ぬ前になんとかその汚名だけは雪がなければと晴夫を探す…正太郎の悦子への変わらぬ愛情が感じられるステキなラストでした。
そして、晴夫が父親と別れる前、過去で言っていた「ありがとう」というセリフで締めるラストも、タイムスリップというベタなファンタジー設定のラストとして、そして口下手な主人公が初めて父親と向き合ったセリフとしてちょうど良い、真っすぐなエンディングになっていて良かったです。
どちらかと言えばベタなラストでほっこりとしたい方、ほっこりとしたハッピーエンドがお好きな方におすすめな作品になっています。
映画「青天の霹靂」の考察・解説
タイムスリップが起きた原因について、ラストの「ありがとう」というセリフの意味について、タイトルの意味について考察・解説していきます。
あくまでも個人的な考察・解説なので必ずしもこれが正解というわけではありませんが、参考程度に見て頂けると幸いです!
タイムスリップが起きた原因
おそらくですが母親が死の前に絵馬を奉納していたこと、神社に足繁く参拝していたことが関係していると思います。
何度も何度も子供の健康と幸せを願っていた母の想いを受け、生きる意味すらも見失いかけていた晴夫に生きる意味を気付かせるために、自分がいかに幸せなのかを気付かせるために神社の神がタイムスリップをさせたのではないでしょうか。
タイムスリップして両親に会えば、彼らの真意や愛に気付くことができるはずですから…。
ラストの「ありがとう」というセリフの意味
家族愛のないだらしない男だと思っていたけれども、実は不器用ながらに妻と子供を愛し、子供のために夢を諦めて融通の効く仕事にスパっと転職し、子供のために自分が嫌われることも厭わないような立派な父でした。
そんな父親の愛があったからこそ自分はここまで生きていくことができた、そしてこれから先も生きていける…そのことに対しての「ありがとう」だったのではないでしょうか。
タイトル『青天の霹靂』の意味
言葉の意味としては映画内でも解説があった通り、『青く晴れた空に雷が鳴り響くように、予想もしていなかった突然の出来事が起きたり、思いもよらぬ衝撃を受けること』という意味があります。
映画に対しての意味としては、雷によってタイムスリップするという突然の出来事、両親が自分のイメージしていた人物とは違ったという事実に衝撃を受けたということを表すと共に、主人公・晴夫のことも表していたのではないでしょうか。
青天の霹靂は『晴天の霹靂』とも表記する場合があり、晴天は晴れの日に生まれた晴夫のことに繋がるようになっていますし、霹靂には『雷が激しく鳴ること、大きな音が響き渡ること』という意味があることから、晴夫たちの苗字・轟に繋がるようになっていました。
つまり青天の霹靂というタイトルでタイムスリップしたこと・彼の家族のことだけではなく、青い空に鳴り響く雷の如く生まれた晴夫自身のことを表していたのだと思われます。
「青天の霹靂」は笑いと切なさと驚きのある作品
劇団ひとりさん原作・出演・初監督作品ということで話題になった作品でしたが、それ以上に劇団ひとりさんらしい笑いや切なさ、驚きといった多くの魅力が詰まった作品になっていて期待していた以上に面白かったです。
タイムスリップ作品がお好きな方からヒューマンドラマ作品がお好きな方にまで、幅広い方におすすめな作品になっているので、少しでも興味のある方はぜひともチェックしてみてください!
映画「青天の霹靂」の動画が観れる動画配信サービス一覧
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