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映画『万引き家族』のネタバレ感想・考察!家族の定義やあり方、社会問題を学べる作品

映画『万引き家族』のあらすじ・内容

映画『万引き家族』は、2018年に公開された日本映画です。実在の事件をもとに、是枝監督が描き出したシリアスで社会問題との関連も強い物語が注目され、国内外で高い評価を得ている一作です。

報道等でも大々的に報じられたパルムドール受賞のほかにも、日本アカデミー賞4部門の受賞や本家アカデミー賞外国語映画部門ノミネートなど、賞レースにおいても高く評価されています。

今回はそんな『万引き家族』の個人的な感想や考察を書いていきます!

目次

映画『万引き家族』を観て学んだこと・感じたこと

・「家族」というものの定義を考えさせられる
・映画を通じて日本の社会問題を学べる
・罪を犯すにはそれなりの理由があるという事実に直面する

映画『万引き家族』の基本情報

公開日2018年6月8日
監督是枝裕和
脚本是枝裕和
出演者柴田治(リリー・フランキー)
柴田信代(安藤サクラ)
柴田亜紀(松岡茉優)
柴田祥太(城桧吏)
ゆり(佐々木みゆ)
柴田初枝(樹木希林)

映画『万引き家族』のあらすじ・内容

映画『万引き家族』のあらすじ・内容(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

高層マンションに取り囲まれた街の一角に、取り残されたようにひっそりと佇む平屋がありました。

今にも壊れそうなその家に、柴田治と信代夫婦、その息子祥太と信代の妹亜紀の四人が新たに移り住みます。彼らの目的は、家の主初枝の年金でした。

さらに、生活に必要な物資が不足した際には万引きでそれを補うなど、家族としての在り方は一見いびつで不完全なものに思われました。

しかし、当の家族たちは貧困に苦しみながらも充実した日々を送っており、家族仲も良好で笑顔の絶えない日々を送っています。

 

そんなある日、彼らは近所の団地で虐待を受けて震えていた幼い少女ゆりの姿を目撃し、たまらず家へと連れ帰ります。ゆりの境遇を慮った彼らは、彼女を娘として育てていくことを決意します。

しかし、ある事件をきっかけに家族は崩壊していき、彼らに隠された秘密と願いが明らかになっていきます…。

映画『万引き家族』のネタバレ感想

鬼才・是枝監督と脇を固める実力派のキャスト

鬼才・是枝監督と脇を固める実力派のキャスト(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

今作は是枝監督が実に10年以上の歳月を経て完成させた渾身の一作であり、並々ならぬ作品へのこだわりが随所にみられます。かねてより『そして父になる』や『三度目の殺人』で実力派監督として知られていた是枝監督は、今作でさらに国際的な評価を高めることになりました。

もともとドキュメンタリー畑出身の監督であり、今作の作風にもそうした経験が随所に反映されています。そして、実在の事件や社会問題を組み合わせて製作された物語には、フィクションとはとても思えないリアリティを感じさせられます。それゆえに、単なる一映画作品というだけにとどまらず、社会派映画として現実をえぐり出した日本社会への問題提起の効果もあると考えられます。

 

また、こうしたシリアスな物語にはキャストの演技力が欠かせません。それゆえに今作のキャストは昨今の映画のように知名度や人気重視ではなく、演技力や役柄へのマッチ度を重視してキャスティングされている印象をうけます。そのため、実に自然な演技がリアリティを増す効果を生み出していたように感じました。

特に、柴田初枝役を務めた樹木希林の演技は圧巻で、年金目当ての家族を受け入れつつも威厳を保つ生き方には彼女らしさを感じました。樹木希林は今作公開直後の2018年9月15日に亡くなっているので、後世では晩年の代表作として語り継がれることになるのかもしれません。また、樹木希林の遺作となった「日日是好日」も素晴らしい作品です。

「家族」というものの定義や在り方について考えさせられる

「家族」というものの定義や在り方について考えさせられる(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

今作のテーマの一つに「家族」というものがあります。これはタイトルにもなっている通りですが、極めていびつな家族の在り方がスクリーン上で展開されていきます。

初枝の家に転がり込んだ時には、年金ねらいであるという極めて実利的な目的をもって行動しています。それどころか彼らには血縁関係さえありませんし、家族のメンバー1人1人が明確な目的のもとで家族として振舞っています。さらに、そうした腹心を特に隠そうともしません。

しかし、そうした背景がありながら彼らの生活は非常に充実しており、ある意味では本当の家族よりも「家族らしい」生活を送っているようにも感じられます。家族でいられた時間は決して長くはありませんでしたが、短い時間の中でも家族として過ごす彼らの姿は心に響くものがありましたし、それゆえに映画後半でそれが崩壊していく様子には深い悲しみを感じました。

 

こうした点から、「家族とは何か」ということについて考えさせられる映画という印象がありました。結果的に彼らの「家族ごっこ」はやむを得ない事情で崩壊していくことになるのですが、彼らよりもずっと裕福で幸福なはずの我々は、果たして彼らよりも「家族らしく」家族と過ごしているでしょうか。親・兄弟姉妹・配偶者・子どもなど、家族との関係性が彼らよりも良好であると、胸を張って主張できるでしょうか。

詳細は後述しますが、「お金がなければ幸せを維持することはできないが、お金で幸せを買うことはできない」ということを比喩しているのではないかと感じました。結果的に彼らは幸せを維持することはできませんでしたが、むしろ幸せを維持できなかったという事実こそがこの映画の本質的な問題提起なのでしょう。

貧しさがすべてを奪い去っていくという現実を描き出している

貧しさがすべてを奪い去っていくという現実を描き出している(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

柴田家は綱渡りの状態で家族としての幸せを維持していきましたが、それが限界に達した瞬間に全てが崩壊していきました。実在の事件をモデルにしているだけあり、事件が起こってからの崩壊の過程にはすさまじいリアリティがありました。

もともと万引きという違法な手段で維持されている時点で、崩壊は目に見えていた関係性だといえばそれまでですが、こういう状況下では果たして万引きが本当に「悪」だったのか、という点に考えを巡らせる必要があると感じます。

虐待を受けていたゆりを保護したという行為も、生きるために万引きをしたという行為も、法律という観点から考えれば明らかな「悪」であり、違法行為であることは疑いようもありません。つまり、法治国家である我が国日本においても、彼らの存在は「悪」でしかありません。

しかし、スクリーン上に映し出される彼らの姿は、本当に「悪」そのものだったでしょうか。少なくとも、私はそう感じませんでした。その理由は彼らは生きるため、家族を維持するために「悪」に手を染めていたからではないでしょうか。もし仮に、彼らが裕福であったなら、こうした悪事を働いたのかという点については大いに疑問が残ります。

 

また、「貧困の伝播」という問題も強烈に描き出されていました。柴田家には祥太とゆりという二人の子供がいたのですが、両親は満足な生活をさせてやるどころか、満足な教育さえしてやることができませんでした。警察に連行され、聴取を受ける際に治が言った「盗みの技術以外に教えてやれることはない」というセリフがそれを象徴しています。

治や信代は自立した大人であり、自己責任と言われてもやむを得ないところがあるのかもしれませんが、少なくとも祥太やゆりにそれほどの罪があるとは思えません。家庭環境にはあまりにも大きな問題があり、彼らがそのまま成長すれば治や信代と何ら変わらない大人になっていくだけでしょう。こうした「貧困の伝播」という問題が、映画内で問題提起されています。

極めて細やかな心理描写と、それを表現できるキャストの力量が見事

極めて細やかな心理描写と、それを表現できるキャストの力量が見事(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

先ほどから何度も言及しているように、今作はシリアスなテーマを描き出しています。それゆえに、作風としても派手な演出や効果はなく、物語は淡々と進行していきます。

しかしながら、そうした静かかつわずかな演出の中でも印象に残るシーンが数多くあったのも事実です。人物たちの表情やしぐさなどのわずかな変化から、揺れ動く心情の様子がしっかりと描き出されていました。その演技というのも、決して「上手い」というだけではありません。

そもそも「上手い」とされる演技には、大げさなものが少なくありません。確かに、技法を正確に取り入れ、トレンドを踏襲しているという意味では、そういった演技が求められる場面もあるでしょう。しかし、今作で求められる演技はそうした性質のものではなく、むしろ「自然体であること」なのです。是枝監督はカメラワークや音楽など、映画の隅々まで「自然であること」にこだわって製作しているように感じられました。その中で、いかにして自然体でありながらインパクトを与えるような演技ができるか、というものが求められていたのです。

この難題を、見事にキャストたちは消化していたように思えます。「家族」をテーマにした映画だけあって、キャストたちの俳優歴や年齢はバラバラでしたが、そうしたまとまりのなさこそが、かえって寄せ集めの家族という柴田家のあり方にリアリティを与えていたようにも思えます。

 

そして、何よりそうした一つ一つの細かな動きで心情を描き出した是枝監督の力量については言うまでもありません。社会派映画というものは概して「説教くさく」なりがちですが、今作ではそういったものはあまり感じられませんでした。その理由は、単純にそうした社会問題を切り出したというだけでなく、それを我々観客に伝える方法が緻密かつ何気ないものであったからに他ならないでしょう。

実際に、冷静に考えてみれば「柴田家は犯罪者集団であり、悪である」という感情が芽生えたとしても不思議ではありません。しかしながら、彼らの心情を克明に描き出した結果、ただ単純に彼らを断罪できる観客はそう多くはなかったのではないでしょうか。このように、監督の伝えたいことがそのまま観客に伝わっているところに、この映画の素晴らしい点があります。

「生活感」の表現が素晴らしい

「生活感」の表現が素晴らしい(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

作中では、柴田家の様子が度々映し出されます。その際に、我々は家内の想像を絶するような生活環境を目の当たりにすることになります。

まず、所せましと物が置かれている室内。ハッキリ言って、ゴミ屋敷一歩手前としか考えられません。しかし、そんな状況にもかかわらず「必要なもの」はそろっていないというのが現実です。それゆえに彼らは万引きに手を染めることになるのですが、「雑多なものは履いて捨てるほどあるが、本当に必要なものは何もない」という状況は、明らかに現代社会を比喩しているように感じられました。

もちろん、この映画で言及されているような貧困層の現実を表現しているという見方もできるのですが、これはむしろ富裕層に向けたメッセージとも感じられました。富を蓄えている人々は、財産としてさまざまなものをもっているでしょう。金銭・マイホーム・外国産の高級車など、挙げていけばキリがありません。また、そうした有形の財産だけでなく、崇拝・尊敬・名声などの無形の財産も保有しているかもしれません。

 

しかしながら、そういった人々が「本当に必要なもの」をもっているとは限りません。一見幸福そうに見えても、実際のところは人間関係に大きな問題を抱えていたり、あるいは本当に愛している人と心を通わせることができていないかもしれません。

こういった問題は何も貧困にあえいでいる人だけの問題ではなく、人間全体の問題であるともいえます。

 

また、特に印象的だったのは、風呂が言葉では言い表せないほど汚かった点です。風呂という場所は、裸になって水を体に触れさせるので、衛生的には気を使わなければならない場所でもあります。

ところが、その風呂がどうしようもなく汚いという事実に直面し衝撃を受けました。筆者もそれほど裕福な家庭の出ではありませんが、あそこまでの風呂に出会ったことはありませんでした。特に綺麗好きという訳でもないのですが、自分だったらあの風呂は恐らく耐え難いと感じました。

しかし、そうした環境で暮らしている人がいるという事実を認識させられました。一応この映画はフィクションではありますが、恐らく真実の部分も少なくないと思います。そうした環境で暮らしている人がいると仮定すれば、明らかに「文化的な最低限度の生活」ができていないといえるでしょう。こういう事実を白日の下に晒すという効果も、この映画にはあります。

【考察】現代日本の社会や政治の在り方に対して痛烈な問題提起がなされている

【考察】現代日本の社会や政治の在り方に対して痛烈な問題提起がなされている(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

ここまで、さまざまな社会問題との関連について触れてきました。これは、言うまでもなく現代日本の社会と、それを作り上げている政治への問題提起と受け取ることができます。現代の日本は好景気の状態にあり、国が発展している過程であると政治家は主張しています。

また、「文化的で最低限度の生活」つまり生存権が保証されているため、それ以下の生活をしている人は「存在しない」という扱いになっています。なぜなら、仮にそういう人間の存在を認めてしまえば、国が憲法に違反する非人道的な組織になってしまうからです。

しかし、現実はそうでないことをこの映画が証明しています。この映画の中では、万引き・年金の不正受給・死体遺棄・誘拐などの罪を「生きるため」に重ねています。これは彼らが生きることが罪である、ということを証明しているのです。法が生きることを規制するというのは、本来あってはならないことなのです。

それもあって、こうした人物たちが表立って公的に存在を認知させ、現状を改善していく手段というのは決して多くありません。彼らは生きることに手いっぱいであって、それを発信できる余力も影響力も持ち合わせてはいないからです。

 

そこで白羽の矢が立つのが、マスメディアや芸術などの媒体です。こうした媒体を通じて現状を国民の多くに発信することで、見て見ぬふりができなくなっていきます。そして、実際に国民が広くその事実を認知するようになれば、政治の場においても無視できない勢力になっていきます。そして、この映画もやはりこうした問題提起を目標として作られた映画といえるでしょう。

もちろん、柴田家が犯した全ての罪を犯して生きている家族というのは、現実にはいないかもしれません。そこはあくまでフィクションであり、現実のそれよりは幾分誇張して描かれているのも事実でしょう。しかし、あそこまでは苦しんでいなかったとしても、貧困にあえいでいる人が現実に存在するという事実は覆しようがありません。そういう意味でのリアルを「見て見ぬふり」している人々が多いことも、この映画がヒットした理由ではないでしょうか。

生活にそれほど苦しんでいない人が、貧困にあえぐ人々の心情を想像することは難しいですが、せっかくこの映画が我々にそれを教えてくれているのですから、知ってしまった我々には行動を起こしていく義務があるのではないでしょうか。

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