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映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』ネタバレ感想・解説!岩井俊二が手がけた「幸せ」を問い直す作品

映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』のあらすじ・内容

『リップヴァンウィンクルの花嫁』は、2016年に公開された日本映画です。監督は国内外で高い評価を得ておりながら、アニメの製作にも携わったことのある岩井俊二監督が担当しています。

また、高い演技力で様々な賞を受賞している名俳優黒木華が主演を演じ、本作でもその洗練された演技力は大きな話題を呼びました。

今回が映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』の個人的な感想や解説を書いていきます。ネタバレを含む記事となっているので、映画を未視聴な方はご注意ください。

映画「リップヴァンウィンクルの花嫁」を見て学んだこと・感じたこと

・岩井俊二の独特の世界観が十分に楽しめる。
・現代社会における幸せのあり方について考えさせられる。
・役者の演技が洗練されていて不自然さを感じさせない。

映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』の作品情報

公開日2016年3月26日
監督岩井俊二
脚本岩井俊二
製作総指揮杉田成道
出演者皆川七海(黒木華)
安室行舛(綾野剛)
里中真白(Cocco)
里中珠代(りりィ)

映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』のあらすじ・内容

映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』のあらすじ・内容(C)RVWフィルムパートナーズ

皆川七海は派遣教師として、ただ毎日を淡々と働いていました。しかし、彼女はある時派遣の更新がされず解雇となり、SNSで知り合った鉄也と婚約し寿退社として教師を辞めます。

結婚式をあげることになった七海は、鉄也と比べて親族が少なすぎることから、結婚式代理出席を何でも屋である安室行升に依頼することに。

そんなことで結婚式も無事に終了し、七海は鉄也と共に新婚生活を営んでいきますが、鉄也が浮気をしている疑惑が持ち上がります。そこで七海は再度、安室に相談することにしますがー。

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映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』のネタバレ感想

【解説】イライラを感じる黒木華、胡散臭い綾野剛の演技が洗練されている

【解説】イライラを感じる黒木華、胡散臭い綾野剛の演技が洗練されている(C)RVWフィルムパートナーズ

『リップヴァンウィンクルの花嫁』で特筆すべき点は、役者の演技が非常に洗練されているというところでしょう。

主人公である七海を演じている黒木華さんは、主体性がなく流されやすい七海の性格を見事に演じきっています。その主体性がなく、なすがままにされる七海の様子は、少なからず観客をイライラさせていたはずです。

観客の感情を撫でるような演技で、思わず見ていて熱が入ってしまうのは素晴らしいと思います。七海の消えてしまいそうな存在感といい、真白との触れ合いの不器用な態度の演技、そのどれもが丁寧で洗練されていて圧倒されました。

 

黒木華さんだけでなく、安室役を演じた綾野剛さんの演技も洗練されていると思います。作中の安室は物語の仕掛け人として裏でこそこそ立ち回る役割でありながら、詐欺師のような役割を担っている人物で、本当に何を言っても何をやっても全てが胡散臭く感じました。唯一安室が感情を出したと思われる、全裸となったシーンでもどこか素直には信じられないところがあって面白いです。

単にミステリアスなだけでなく、ちょっとした面白さや爽やかさも入っていながら本当に胡散臭いキャラクターに仕上がっていました。ある意味よくキャラクターが立っているので、絶妙な役で面白かったです。そんな胡散臭い安室のキャラクターをしっかり演じきれた綾野剛さんも素晴らしい演技だったと思います。

『リップヴァンウィンクルの花嫁』は、そんな役者さんたちの洗練された演技によって作られている映画です。その素晴らしい演技によって、『リップヴァンウィンクルの花嫁』はどこか嘘のような現実のような世界観が存分に味わえる作品でした。

もう一度本作を鑑賞する場合は、黒木華さんや綾野剛さんの演技に改めて注目して鑑賞してみてください。

【考察】ラストの安室の号泣シーンの意味について

『リップヴァンウィンクルの花嫁』で一番衝撃的だったシーンは何と言っても、ラスト付近で安室が全裸になって号泣するシーンですよね。いつも飄々としていて、胡散臭い安室からは想像もつかないような姿に、多くの方が驚いたかと思います。

しかし、安室は何故あんなにも号泣したのでしょうか。この安室の号泣シーンは多くの解釈があり、「これだ!」という正解がありません。ちなみに、安室の号泣には彼の本心である解釈と号泣すらも演技であるという説があります。

個人的には安室の本心だと思っているのですが、どちらが正解かはわかりません。はっきりしないですが、それらを踏まえて読んでいただきたいと思います。

 

安室は『リップヴァンウィンクルの花嫁』における、仕掛け人ともいうべき人物です。真白から依頼をされ、七海を騙して真白と引き合わせることが目的でした。安室の視点からですと、結果的には安室は仕事を完璧にこなしていましたよね。仕掛け人としては、安室自身の感情も排除していて、文句のない仕事ぶりです。

とは言っても、安室が真白から受けた依頼は、ある意味七海を騙して生活を壊しただけでなく、真白の自殺の手助けをしていたとも見れます。このように見方によっては、安室は褒められた行為をしているとは思えませんが、いくら仕掛け人とはいえ、安室だって人間です。作中でもそこまで極悪人として描かれていなかったと思います。

安室が号泣したのは、真白の死の手助け七海を騙すという背徳感が残るような仕事に、安室も良心が耐えられなかったのではないでしょうか。だから最後に耐えきれなくなって、安室は自分をさらけ出してあんなに号泣したのです。全裸になったのも安室の本心をさらけ出したという意味なのでしょう。個人的には安室の号泣は本心だったのではないかと思います。

 

反対に安室の号泣は嘘という説も面白いかと思います。もし、安室の号泣が演技だとしたら全ては安室の手のひらの上で、彼は完全な仕掛け人です。世の中にはこういう人もいるかもしれませんが、それはそれでかなりホラー的ですよね。

だいたい、安室行升という名前自体がふざけています。元ネタはもちろん『機動戦士ガンダム』の有名なセリフ、「アムロ、行きまーす!」からです。監督の遊び心もあるのでしょうが、ここまで胡散臭いと、号泣シーンですら嘘だったのかとも思わなくもありません。

安室の号泣に関しては正解はありませんが、様々な解釈を考えてみることは非常に面白いことだと思います。改めて安室の号泣シーンを見る時は、違う解釈を交えて見るとまた違った印象を抱くかもしれませんね。

【考察】真白の幸せについて

【考察】真白の幸せについて(C)RVWフィルムパートナーズ

『リップヴァンウィンクルの花嫁』で印象に残っていることの1つに、真白の幸福感があります。作中では真白と七海が同じベッドの上で幸せを語っているところです。この真白が語った幸福感は本作のテーマに近いものがあると、個人的には感じました。

真白の幸福感とは、「幸せはお金を介して手に入れられる」ということです。真白が何故このような価値観に至ったのかというと、真白の家庭環境にあると思われます。真白の母親の言動からも見るに、真白は親から十分に愛情を注がれて育ったとは思われません。

真白が生きてきた現実は、真白にとっては苦痛でしかなかったのだと思います。しかし、自分で稼ぐようになってからはお金を介して得たものの方が真白を満たしてくれました。それは、真白が最後に一緒に死んでくれる人すら、お金で買おうとしたことからも想像できると思います。

 

「お金で買える幸せ」は、作中でも何度も形を変えて表れています。例えば、七海と鉄也の結婚式でじゃ、七海は足りない親族をお金で代理を使って取り繕おうとします。これは、結婚式という幸せの演出をお金で作り上げてるといっても過言ではありませんし、幸せな結婚式を手軽にお金で買ったとも言えるのではないでしょうか。

また、七海が鉄也と結婚したのも買い物をするように簡単にSNSで見つけたという、手軽なものですし、七海と真白が友人になったのも随分と手軽なものでした。お金やSNSで買える手軽な友達や恋人、そして幸せ。これらは現代社会にも通ずるリアルな問題であると感じます。

しかし、これらの価値観が必ずしも間違っているとは、この作品では描かれていません。むしろそのような手軽な幸せで、救われる人もいるということを表していると思います。実際に、お金で幸せを買った真白は幸せそうに逝きました。そして、それは七海にとっても同じです。

 

七海にとっても真白と同じように現実は辛いものでした。実際に派遣教師の時の描写や縋るものを失った七海の姿は、痛ましいことこの上ありません。しかし、真白と出会うことで七海は自分の内面を変化させていきます。

そして、真白との関係がお金で繋がったものだと知っても、七海は真白のそばにいることを選び、挙句は真白と一緒に死ぬことすら考えたほどです。真白と七海の関係は、安室が作為的に作ったものですが、七海にとってはとても大切な時間でした。

このように七海は真白と同じように、お金やSNSで手軽に買える幸せによって救われていた一人と言えるでしょう。だから手軽にお金で作られた幸せでも、必ずしも悪いとは言えず、人によっては救いにもなっているのです。

【考察】一連の騒動は七海にとって何の意味があったのか

【考察】一連の騒動は七海にとって何の意味があったのか(C)RVWフィルムパートナーズ

七海は『リップヴァンウィンクルの花嫁』の主人公ですが、作中では終始安室に利用されて騙される立場の人間であり、彼女の主体性の無さから主人公らしさを感じることに疑問を抱いた方は少なくないかと思います。そんな一見哀れにすら見える七海にとって、安室と真白との触れ合いや一連の騒動は何の意味があったのでしょうか。

作中の一連の事件は七海にとって、七海自身の変化のきっかけとなったと思います。七海は真白と触れ合うまでは、自分では何も決められず主体性の欠片もない。これ以上にないほど流されやすい人物ですよね。それは、作中の前半でこれでもかというほど描写されていましたし、明らかに怪しい安室に言われるがままに従い、鉄也と別れた後は自分の居場所すら分からなくなるほど無思考っぷりです。

 

そんな自分の意思がないかと思われるくらいの七海ですが、真白との出会いの後に初めて自分の意思を見せるところがあります。それは真白の正体を知り、自分を大切にして欲しいと七海が語ったシーンです。ここで七海は初めて自分の願いを言葉にします。

実はこのシーンが初めて七海が自分から願望を表したシーンなのです。これは七海にとっては非常に大きなことで、七海が大きく変化したことを意味していると思います。

真白が死んでしまった後、七海は今までの七海とは想像がつかないほど感情を露わにして号泣しました。今まで感情を表に出してなかった七海が、ここまで絶叫する姿は驚きを隠せませんでしたよね。最初の頃の七海を考えると、どれだけ真白との出会いが七海を変化させていることが納得できるはずです。

そして真白の葬式の後、七海はどこか吹っ切れたような顔をしていました。七海がネットで勉強を教えている子供との会話の様子でもわかります。今までと比べると、七海の明るい口調が印象に残りましたし、真白との触れ合いが七海を変化させたことを意味していると感じました。

【解説】映画「リップヴァンウィンクルの花嫁」のタイトルの意味

ちなみに『リップヴァンウィンクルの花嫁』の「リップヴァンウィンクル」という言葉は、アメリカの作家であるワシントン・アーヴィングの短編小説からとっています。話の内容は小人に誘われお酒を飲んでいて、気がついたら誰もいなくなっていたというような内容です。

確かに七海は安室に誘われるがままに行動し、真白とお酒を飲んでいます。そして真白と安室以外の人間は誰もいなくなったともとれるのではないでしょうか。確かに、元ネタのリップヴァンウィンクルと似たような構図ではあると思います。

しかし、本作の映画ではただ単にお酒を飲み、夢のような世界に行ってきただけではありません。七海は確かに安室が作った真白との夢のような時間と空間で、彼女自身の内面を変化させたのです。これは個人的には大きな違いだと思います。

以上のことから、『リップヴァンウィンクルの花嫁』の物語は、七海にとってはの変化の物語であると捉えることもできるのではないでしょうか。もちろん、本作は様々な解釈ができる作品なので一概には言えません。もう一度鑑賞したら違った印象を持つことも十分にあるでしょう。

【考察】金魚や帽子、作中における様々なメタファー

【考察】金魚や帽子、作中における様々なメタファー(C)RVWフィルムパートナーズ

『リップヴァンウィンクルの花嫁』では、作中に様々な意味が込められていると思われるシーンやアイテムが多くあります。その中でも大きく印象に残るのがグラスの中の金魚や、エンドロールで七海が被っていた変わった白い帽子でした。この2つは何を意味しているのかを考察していきたいと思います。

グラスの中の金魚は、七海と真白を意味しているのではないかと思いました。その理由が安室が金魚を入れたグラスの水を一方に注いでいるシーンです。ここで安室と真白の関係を思い出してみましょう。

安室の号泣シーンでも書きましたが、安室はこの物語の仕掛け人であり、舞台の表には出てこないような裏方的な役割を果たしています。そして、真白は安室に自分と心中してくれる人を探して欲しい。つまりは、自分を幸せにしてくれる人が欲しいと依頼していたとも言えます。

以上のことを踏まえて、安室がグラスの水を片方に注いだことを考えると、安室が片方の金魚のグラス(七海)を使って、もう一方のグラス(真白)に水(幸せ)を与えていたと捉えることができるのではないでしょうか。

つまり、あの2匹の金魚は七海と真白であり、安室は外から七海を利用して真白の望みである幸せを与えていたという構図になると思います。

 

次はエンドロール前にで七海が被っている不思議な帽子についてです。突然出てきてどういう意味なのか疑問に思った方がたくさんいらっしゃるかと思いますが、ここでも個人的な解釈を書いていきたいと思います。

あの帽子は、七海にとっての幸せを象徴しているのではないでしょうか。作中で七海は、SNSでなんとなく結婚をし、嘘か真実か全くわからない浮気疑惑で家を追い出されてしまいました。派遣教師時代のことも考えると、七海の現実は非常に陰鬱であり、お世辞にも幸せとは言えないような状態です。

しかし、安室の仕掛けにより七海は真白と夢のような時間を過ごします。七海にとって真白との時間はとても大切なものであり、はじめて自分の意志や感情を炸裂させた貴重な時間です。

その時間は安室が作為的に作った嘘の時間であり、前述したようなお金で簡単に買える手軽な幸せとも言えます。七海にとっての幸せの時間とは、真白の依頼から安室が七海を騙して作った嘘の時間のことで、そんな嘘の時間でも七海にとっては確かに幸せと感じられる時間でした。七海はその真白との時間、つまりは世界をあの白い帽子を通して見ています。だから、帽子を被っている七海はかすかに微笑んでいるのです。

 

以上のことを踏まえると、七海にとっての幸せは現実にあるのではなく、嘘の世界でしか見られなかったという意味に捉えることができるのではないでしょうか。だからあの白い帽子は七海にとっての幸せの象徴なのです。

上記のことは個人的な解釈なので、他にも様々な解釈ができるかと思います。また、他のシーンや作中のアイテムにも何か重要な意味があるメタファーがあると思うので、もう一度見る機会があればより詳しく見てみてください。

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