映画『スティング』は、『明日に向って撃て!』に次いで、ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードという2大ハリウッド・スターが共演したエンターテイメント映画です。
詐欺師が主人公で、様々な詐欺やいかさまが登場、そのトリックも見事なら、話も大どんでん返しの連続。犯罪を題材にしながらも極上のエンターテイメントに仕上がった最高に楽しい映画で、はじめて観た時には「こんなに面白い映画があるのか」と驚きました。
今回は映画『スティング』のネタバレと解説を含む感想を書かせていただこうと思います!
目次
映画「スティング」を観て学んだ事・感じた事
・詐欺のトリックの見事さに脱帽
・ラグタイム…アメリカのアーリーリータイム・ミュージックの心地よさ
・ポール・ニューマン演じる詐欺師ゴンドーフの生き様の格好よさ
映画「スティング」の作品情報
公開日 | 1973年 |
監督 | ジョージ・ロイ・ヒル |
脚本 | デヴィッド・S・ウォード |
音楽 | スコット・ジョプリン マーヴィン・ハムリッシュ |
出演者 | ヘンリー・ゴンドーフ(ポール・ニューマン) ジョニー・フッカー(ロバート・レッドフォード) ビリー(アイリーン・ブレナン) ドイル・ロネガン(ロバート・ショウ) スナイダー警部補(チャールズ・ダーニング) ロレッタ(ディミトラ・アーリス) |
映画「スティング」のあらすじ・内容
詐欺をして日銭を稼いでいるフッカーは、詐欺の師匠でもあるコールマンと組んで、通りがかりの男から財布をだまし取ります。
財布をあけてみると信じがたいほどの大金で、喜んでいたのもつかの間、彼らはギャング大物ロネガンの売上金を奪ってしまったのでした。コールマンは殺され、フッカーは伝説の詐欺師ゴンドーフを訪ねてシカゴに向います。
フッカーはコールマンの仇討ちに、ロネガンをだまして大金を巻き上げることを提案します。過去に詐欺に失敗して逃亡生活を余儀なくされた経験を持つゴンドーフでしたが、大がかりな詐欺を計画し、一流の詐欺師仲間を大勢あつめてロネガンから大金を巻き上げる計画を練ります。
まずは、ロネガンが得意とするいかさまポーカーの相手となって、さんざんロネガンを愚弄した上に返り討ちにします。さらに、ロネガンをだますための違法場外馬券売り場を作り、彼がそこに復讐しにくるように仕掛けを作ります。
ゴンドーフが着々と計画を進める中、フッカーは警察からもロネガンの雇った殺し屋からも狙われ、なんとか逃れながらロネガンを嵌める日が近づきますが…
映画「スティング」のネタバレ感想
タイトルの「スティング」の意味通り、無数のトリックと緻密な台本に脱帽
『スティング』は1930年代のシカゴを舞台にした映画で、詐欺師たちの物語です。主人公が詐欺師なので、当然のように多くの詐欺やいかさまなどが映画に登場します。
「スティング」とはスラングで「騙す」「ぼったくる」という意味だそうですが、久しぶりにこの映画を観直したついでに、何回ほどスティングが行われているのかを数えてみました。
左に逃げたと見せかけて清掃車の影に隠れて右に逃げるといったような騙しまで含めると、なんと26もありました。一つのいかさまの中にいくつかの騙しがあるものを分けて数えれば、さらに数増えます。観客である自分も、何度も騙されます!それぞれの詐欺やいかさまは、そのトリックがじつによく出来ていて、その見事さには驚きを通り越して感激してしまいました。
また、それぞれのいかさまに負けないぐらいに物語が緻密に出来ていて、その見事さは語り尽くせません。ある詐欺自体が次の詐欺へと誘う罠であるなど、とにかく細密画のように見事な脚本なのです。脚本の緻密さにかけては、『スティング』は私がこれまでに見た映画の中で間違いなくナンバーワンのものです。
映画の構造が浮かび上がらせる役とキャストの二重写し
映画は章分けされていて、要所で紙芝居のようにイラスト入りのタイトルが挿入され、劇中劇のような雰囲気でもあります。こうした作りがオフ・ブロードウェイや古いミンストレル・ショーのようで、劇中だけでなく、映画の作り自体が古き良きアメリカにあった小屋芝居の雰囲気を出していました。1930年代のシカゴを再現した見事な美術と合わせて、雰囲気がすごく良いのです。
だからといって、本編自体は大変にリアルで、ミュージカルのように最初から虚構である事を前提に楽しむものではありませんでした。つまり、ショーとリアルが二重写しになっているのです。この構造ゆえと思うのですが、俳優の演技を見ていても、役と俳優そのものの両方を観ている気分になりました。劇の中で生きている人物と、それを演じている俳優の両方を同時に見ている感覚で、これが大変に面白かったです。
たとえば、詐欺師ルーサー・コールマン役を務めたロバート・アール・ジョーンズ。劇中、年老いた詐欺師コールマンはこんな事を言います。「私も年だ、もうやれない」。これが役だけでなく、ジャズ・エイジ近辺のハリウッド映画に出演している老齢の俳優の言葉そのもののように思えてなりませんでした。
ロバート・アール・ジョーンズはミシシッピ州出身で、家族を助けるために学校をやめて働いていた典型的な南部の小作人です。ジョー・ルイス(8年間タイトルを守り続けたプロボクシングの伝説的ヘビー級チャンピオン)のスパーリング・パートナーを務めた事もあったそうです。俳優となったのはシカゴに移ってからで、『スティング』出演時にはもう63歳でした。こういう人生を送った人なので、さきほど引用したセリフが、コールマンではなくアール・ジョーンズのセリフであったとしても、まったく違和感がないのです。
こういう「役」と「役者」の二重写しを感じたのは、アール・ジョーンズだけではありません。悪徳警官スナイダー役を務めたチャールズ・ダーニングも、ニューヨークに生まれてボクサーや用心棒などの夜の世界で下積みを重ねながらオフ・ブロードウェイ俳優になっていった人物で、あの柄の悪さや迫力がスクリーンの中だけのものではない事は確かです。
劇中劇という構造を持つ『スティング』は、観る私にとっても二重の楽しみのある映画でした。
「エンターテイナー」だけでないサントラが秀逸な『スティング』の音楽はラグタイムの名曲ぞろい
『スティング』というと、あのゆったりまったりした名曲「エンターテイナー」を思い浮かべる人も多いかと思います。私は「エンターテイナー」はこの映画のために作られた曲だと思っていたぐらいです。
ところが「エンターテイナー」を含めた、スティングのサウンドトラックの多くは、スコット・ジョプリンというアフリカン・アメリカンの作曲家/ピアニストが書いた古い曲でした。
スコット・ジョプリンは、ラグタイムという音楽を代表する作曲家/ピアニストです。ラグタイムはアメリカ合衆国の古い音楽で、ジャズのルーツの一つにもなったと言われています。
ラグタイムに限らず、モダン・ジャズ以前のアーリータイム・ジャズや、「おおスザンナ」や「ケンタッキーの我が家」などのミンストレル・ソングなど、19世紀後半の合衆国の古い音楽は、シンプルでゆったり心地よいものが多いです。
『スティング』は詐欺を扱った映画ですし、仲間の詐欺師が殺されたり、殺し屋に狙われたり、警官に暴行されたりと、なかなかシリアスなシーンも多く登場するので、作りによっては暗黒映画になったとしても不思議ではなかったと思います。それが、笑いありどんでん返しありの楽しく朗らかな映画と感じるのは、このレイドバック感満載の音楽によるところが大きかったのではないかと思います。
メインテーマの曲のタイトルが「エンターテイナー」という所もウィットがきいていて良かったです。
今のように、だます側がご老人から姑息な手段を使って金を取るとか、暴行を加えて強奪するといったものだと、単なる下劣な犯罪と思ってしまうのですが、この映画のような華麗なトラップだと「ここまで芸術的な詐欺を見せてくれたのだから、エンターテイメントを楽しませてくれた代金だな」とすら思えてしまいます。
見事な詐欺を、華麗なトラップをつくり出すエンターテイナーと表現しているようで、粋に感じました。
この映画で舌を巻いたいかさまベスト3
本当なら、この映画の見事なプロットや華麗ないかさまのすべてを書きたいぐらいですが、とても長い文章になってしまいそうなので、私が舌を巻いたいかさまを3つほど書いておこうと思います。
まずは、冒頭の「すり替え」。とても巧妙なトリックでしたが、いかさま部分だけをいうと、相手の財布をハンカチに包み、そのハンカチを返すのですが、ハンカチ自体が入れ変わっているというトリックです。
似たようなトリックを私はひとつ知っています。人の荷物をコインロッカーに入れてあげ、鍵を渡すけれどその鍵が違うコインロッカーのもので、人が去ったあとにロッカーを開けて荷物を持ち去るという詐欺です。これも「すり替え」でしょう。
つまり、すり替えそのものの技術よりも、どういう状況を作り、何をすり替える事で利益を得るのかというところが詐欺師の腕の見せどころなのでしょうが、この映画でのチームプレイのすり替えは見事でした。
2つ目は、カードマジック。これは映像で見ないと凄さが伝わらないと思いますが、驚きのカード捌きでした。トランプをめくるとスペードのA。それを山に帰してもう一度めくると他のカードになっていて、山のカードをめくっていくと4枚目にまたスペードA。裏返すとまた別のカードに変わっていて、めくっていくとまたもやスペードAが!
シャッフルしても一番上はスペードA…目を皿のようにして見ても、どうやっているのかまったく分からず、驚愕のマジックでした。ちなみに、これは特撮抜きの実際の技で、やったのはマジシャンのジョン・スカーンだそうです。
3つ目は、この映画最大のいかさま、「あと賭け」です。この映画での「あと賭け」は競馬を利用した大がかりなものでした。電話会社の人間と仲間になり、違法で運営している場外馬券場へのラジオ中継を数分だけ遅らせます。
そして、先にレース結果を聴いて当たり馬券を買ってしまうというもの。よくもまあこんなトリックを思いつくものだと感心しましたが、映画の中では「10年前の方法だ」と言われているので、もしかすると本当にあった詐欺の手口だったのかも知れません。
詐欺師ゴンドーフの生きざまにしびれた
映画『スティング』は、こうした詐欺やいかさまのトリックだけを観ても十分に楽しい映画でしたが、その部分だけだったら、私はこの映画にここまで魅了される事は無かったかも知れません。惹きつけられたのは、詐欺師ゴンドーフの生き様でした。
ゴンドーフは伝説の詐欺師で、詐欺師仲間たちからも一目置かれる大物です。しかし、フッカーが彼を訪ねていった頃には酒に溺れ、詐欺からも長いこと離れていました。大きな詐欺をして失敗し、Gメンから追われ、今は女詐欺師ビリーの経営する娼館にかくまわれて生きている状態だったのです。
娼館のメリーゴーランドを直して生きているゴンドーフは、一生ここで生活をするのかというフッカーの問いかけに対し、「それもいい」と答えます。
また、フッカーに手を貸して、失敗すれば命の危険があるギャングのボスを詐欺にはめる決意をしたゴンドーフは、なぜ危険な詐欺をやろうとしたかを訊かれ、復讐ではなく「やりがいはある」と答えます。
伝説の詐欺師というほどですから、羽振りの良かった時代もあったでしょう。またFBIやGメンから追われた逃亡の日々もあったでしょう。そういう成功も失敗も経験した中年男が、好きな女と一緒に平穏に暮らすのを「それもいい」というのは、非常にリアルに感じましたし、実際にそれもいい人生だと思います。またそれとは反対に、失敗したら命を失うほど危険ではあるけれど、成功したら巨万の富を得られる仕事に賭けるのも、どうせいつか死んでしまう命なのだから、いい生き方なのかも知れません。
しかも、ゴンドーフはやる事が粋でスマートなのです。人をだますは良くない事ですが、ゴンドーフの詐欺は騙される側にも非があるものばかりです。いかさまポーカーを仕掛けた相手からいかさまで金を巻き上げ、あと賭けをして自分から金をむしろうとした相手から金をむしり取ります。善人が被害者にはならないのです。
いつか死んでしまう自分の人生をどう生きるかは、すべての人にとっての課題だと思います。情熱的に生きる、しかもスマートに…生き方の答えのひとつを、この映画から学んだ気がしました。
【解説・ネタバレ】最後のトラップにある幾重もの仕掛け
この映画でもっとも大きなスティングは、映画のクライマックスで行われます。例の「あと賭け」です。しかし、このクライマックスで行われている騙しはこれだけではありませんでした。
まず、ロネガンが「あと賭け」をして儲けようとする前に、彼はすでにいくつかの誘導をされています。「あと賭け」のキーマンである電話会社の局長から「大穴に賭けたらあやしまれる」と言われ、ロネガンは「本命で行こう」と自分から言います。自分から言っているので自分の意志のようですが、しかしこれは言わされた言葉でしょう。本命ではオッズは低いので、儲けたければたくさん賭けなければなりません。こうして、巨額を賭けるように誘導されてしまったわけです。
次に、「あと賭け」した後のだまし。ロネガンは、情報通りの馬に賭けたはずですが、しかしレースが始まったあとで、情報を流した電話会社の局長から「複勝といったろう、あれは2着で入るんだ」と言われ、大金をすってしまう事になります。そもそも、電話会社の局長自体が偽者ですし、実は情報を流すときに「複勝」とも伝えられていません。電話での一瞬のやり取りなので証拠も残っていないし、そもそも賭けた後では何を言っても後の祭り、見事に嵌められています。
間違えたと言って必死に金を取り戻そうとするロネガンですが、そこにFBIとスナイダー刑事が飛び込んできて、違法の場外馬券場が摘発されます。スナイダーはFBIから「ゴンドーフのカモはニューヨークの大物だ、踏み込んだらすぐそいつを連れ出せ、記者がうるさい」と言い含められています。
FBIと司法取引したフッカーは、ゴンドーフ逮捕とひきかえに無罪放免、しかしそのさまを見てゴンドーフがフッカーを射殺。ゴンドーフの発砲を受け、今度はFBIがゴンドーフを射殺。スナイダーは殺人現場からロネガンを連れ出します。しかし、スナイダー刑事とロネガンが場外馬券場から出たところで、撃たれたはずのフッカーもゴンドーフも起き上がり、すべてのいかさまが見事成功!
この過程のすべてが詐欺で嘘です。FBIも詐欺師グループの仕組んだ偽者で、スナイダー刑事はFBIを本物と信じて騙されています。フッカーの射殺もゴンドーフの射殺もいかさまです。本物の刑事に連れ出された事もあって、ロネガンは「あと賭け」で儲けるはずが金を巻き上げられたばかりか、この殺人事件も本当であると騙されます。さらに、フッカーとゴンドーフは、自分たちの死をギャングのボスに信じさせたので、この後に追手が来ることすらありません。ついでに、あと賭け以降のこのスティングのすべてに、観客も騙されるわけです。
クライマックスシーンだけでも、これだけ何重にも張り巡らされたトリックがありました。このトリックの見事さは、自分も騙されていながら「そういう事なのか」と、むしろ爽快感を覚えるものでした。
信じがたいほどに練り込まれたこの脚本を書いたのはデヴィッド・S・ウォード、この映画でアカデミー賞の脚本賞を受賞しました。これだけの見事な脚本を完成させたのだから、見事な本をたくさん書いているかと思いきや、ヒット作は意外と多くありませんでした。
どんでん返しの連続、さらに人生の考え方まで教えてくれた最上のエンターテイメント映画
私にとっての『スティング』は、観ていて感心してしまうほどの見事なからくりを持った詐欺やいかさまの数々に魅了されるだけでなく、ポール・ニューマンから人生の生き方や考え方まで教えて貰ったような、極上のエンターテイメント映画でした。
数多くの賞を受賞したのもうなづける大名作なのでおすすめです!
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※2019年10月現在の情報です。