映画『ゴーストバスターズ(2016)』は、1980年代に2作が公開され、幽霊とコメディをかけ合わせる斬新な作風で人気を博した同名映画のリブート作となります。
こうした過去の人気作をリブートするという製作スタイルは珍しいものでない一方、本作の場合は「キャスティング」の部分に公開前から非難が集中。特に、本国アメリカでのバッシングにはすさまじいものがありました。
そのため、映画の中身よりも上記のバッシングがクローズアップされ、内容についてはあまり語られず評価も芳しくない映画となってしまいました。
今回はそんな『ゴーストバスターズ(2016)』の個人的な感想や解説、考察を書いていきます!なお、過去作および本作のネタバレには注意してください。
目次
映画『ゴーストバスターズ(2016)』を観て学んだこと・感じたこと
・映画はしっかりと視聴してから評価されなければならない
・コメディの感覚が一致するかどうかが評価の分かれ目
・現代技術との融合はなかなかよかった
映画『ゴーストバスターズ(2016)』の作品情報
公開日 | 2016年8月19日 |
監督 | ポール・フェイグ |
脚本 | ポール・フェイグ ケイティ・ディポルド |
出演者 | エリン・ギルバート(クリステン・ウィグ) アビー・イェーツ(メリッサ・マッカーシー) ジリアン・ホルツマン(ケイト・マッキノン) パティ・トラン(レスリー・ジョーンズ) ケヴィン(クリス・ヘムズワース) |
映画『ゴーストバスターズ(2016)』のあらすじ・内容
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コロンビア大学で物理学を研究していたエリン・ギルバートは、終身雇用審査を目前に控える人物でした。当然無用な騒ぎは起こしたくない立場にいましたが、彼はとあるキッカケでかつて興味をもっていた「幽霊」という存在にふたたび注目するようになります。
そこで、かつて出版した幽霊にまつわる本の共同執筆者アビー・イェーツ、原子力エンジニアのジリアン・ホルツマンらとともに幽霊屋敷を訪れると、本物の幽霊に遭遇しました。
幽霊を動画に収めることに成功し全世界へと公開した彼等でしたが、エリンは動画の公開がきっかけでオカルトに傾倒していると見なされ、失職してしまいます。こうして世間からの冷ややかな目を痛感したエリン一行でしたが、それでも彼らは幽霊の存在を証明するべく研究所を立ち上げ、オカルト研究に没頭していくのでした…。
映画『ゴーストバスターズ(2016)』のネタバレ感想
【解説】公開前の批評やバッシングはキャスティングが原因
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さて、この『ゴーストバスターズ』という名作のリブート版を語るためには、まず本作公開前の騒動について触れないわけにはいきません。実際、この騒動が巻き起こったために本作の評価は公開前から最低に近くなってしまっていたからです。
そもそも、もともと本作はリブート作品ではなく、『ゴーストバスターズ2』の続編、つまり『ゴーストバスターズ3』に相当する作品として構想されていました。しかし、オリジナルキャストでイゴン博士役を務めていたハロルド・ライミスが2014年に亡くなってしまったことなど、キャスティングや脚本をめぐりトラブルが頻発して計画がとん挫。前二作で監督を務めていたアイヴァン・ライトマンという人物が監督を降板してしまいました。
そこで新監督として白羽の矢が立ったのが、女性を中心にしたコメディ映画で高い評価を獲得していたポール・フェイグという人物です。彼は新監督に就任すると当初の続編路線から方針転換し、自身が得意とする「冴えない女性」をメインに据え、初代『ゴーストバスターズ』のリブート作品を着想しました。もともと続編予定の作品でもある程度女性が活躍する映画を見込んで撮影が行われていたようであり、彼はそれを生かす形を選択したといえるでしょう。
しかし、制作体制の変更後に完成したPVが公開されると、本国アメリカを中心に猛烈なバッシングを浴びることになります。その理由は、リブート作であるにもかかわらずキャラクターの性別を女性中心に変更したことや、黒人の女性をステレオタイプ的に描いていたことなどが指摘できるでしょう。
この「猛批判」の背景には、アメリカ社会全体に「アンチリベラリズム」の流れが形成されていたことが挙げられます。特に、この時期には米大統領としてトランプが選出されていることからも分かるように、アメリカの中流WASP層を中心にこうした社会的抑圧を嫌悪する発想がありました。さらに、アメリカ社会全体を考えても特にハリウッドは「リベラリズム」志向が強く、かねてからその流れを耐えてきた映画ファンの逆鱗に触れる形となってしまったのです。
したがって、本作は劇場公開前から大きなハンデを背負う格好になってしまいました。ただ、続編の制作がとん挫した流れを見れば分かるように、よく考えていくと女性中心の映画になったのは「リベラリズム」だけが原因ではないと思われます。それでもこの事実が知れ渡ることはなく、公開後も本作には常に悪評が付きまとってしまいました。
旧キャストの出演やオマージュの数々はファン向きか
![旧キャストの出演やオマージュの数々はファン向きか](https://filmest.jp/wp-content/plugins/lazy-load/images/1x1.trans.gif)
ここまで本作が公開前から逆風に晒されていたことに触れてきましたが、これは本作がリブート元をリスペクトとしていないということを証明するものではありません。それどころか、批判の対象になっていた女性キャストの選出さえも、原作への愛を感じさせるようなっています。
その理由は、本作で中心に据えられたエリン役のクリステン・ウィグ、アビー役のメリッサ・マッカーシー・ジリアン役のケイト・マッキノン、パティ役のレスリー・ジョーンズは、メリッサを除く3人がコメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」出身で、メリッサもゲスト出演ながら同番組で絶大な人気を誇るコメディエンヌです。この番組は大人気の長寿番組であり、原作で中心に据えられたピーター博士役のビル・マーレイ、レイモンド博士役のダン・エイクロイドも同番組の出身者でした。
また、上記の二名をはじめとする原作のオリジナルキャストらも、亡くなってしまったハロルドを除いてほぼすべてのキャストがカメオ出演の形式で登場しています。このように、キャストだけに注目するならば「原作破壊」どころか、原作を知っている人ほど楽しめるという仕様になっています。
さらに、物語全体の構成もかなり原作へのリスペクトが感じられます。キャストの変更などがあり展開そのものはほぼオリジナルといって差し支えありませんが、あらすじで紹介した「コロンビア大学で教鞭をとる」「大学側から見捨てられる」といった要素は原作でも同様の設定があり、このあたりは原作ファンを楽しませる要素としてこっそり盛り込まれていたといえるでしょう。
したがって、かねてからのファンがこうした諸要素をどのように受け止めるかはともかく、少なくとも製作陣に悪意のある原作破壊や悪い意味で創造性が発揮されてしまっているということは決してありません。そのため、批判に晒されている「リブート作」として本作を鑑賞すると、むしろその点が本作の長所にさえなっている気がします。
3Dをはじめとする最新技術で描かれるゴーストは見ごたえあり
![3Dをはじめとする最新技術で描かれるゴーストは見ごたえあり](https://filmest.jp/wp-content/plugins/lazy-load/images/1x1.trans.gif)
本作はリブート映画として一見の価値があるように思えますが、もう一つの見どころは原作でも人気を博していたゴーストたちが最新技術で描写されている点でしょう。特に、劇場で公開されていた際には3D技術が良く生かされていた印象があります。
昨今は3D技術も単なる「飛び道具」的な扱われかたではなく、映画を放送する際の選択肢としてすっかり定着したように感じます。実際、最近はやや下火ですが家庭用TVにおいても3D機能がブームになったこともあり、社会的にも受け入れられています。
しかし、上記のように技術として立体映像が進歩すればするほど、たいがいの映画に同技術がオプションとして浮上するようになり、それがクオリティの如実な差を表しているということも珍しくありません。つまり、「とりあえず3Dで撮影してみました」というような映画も少なくなく、わざわざ劇場で追加料金を払ってみるほどの価値を感じないということもあります。
ただ、本作はもともとCGを必要とする作品ということもあってか、この3D技術が非常によく合っていたように思えます。これは原作と比べても明らかに本作が勝っている点であり、最新鋭の技術を余すところなく活用した映像面には一見の価値があります。
そして、映像的に一番の見どころは終盤のアクションシーンでしょう。本作で恐らく一番有名なゴースト「マシュマロマン」が最新技術で蘇り、新バスターズの面々と対峙します。相変わらずのSFガジェットも健在で、昔原作を視聴した際のあこがれを思い出します。
さらに、最終盤になって一連のゴースト騒動はゴーストたちが自然に引き起こしたのではなく、人為的な犯行であったことが分かります。このストーリーラインに関しては原作と大きく異なる点の一つであり、今までのようにバビロニアの神が降臨して悪さをしていたわけではないのです。
この変更はかなり独自性の強いもので意見が分かれそうですが、個人的には現代流にアレンジされていて悪くなかったようにも感じます。原作のように「悪いのは古代の破壊神でした!」と結論付けるよりも視聴者は受け入れやすく、勧善懲悪の図式が成り立っているようにも思えたからです。
このように、一連の映像的な見どころはしっかりと現代の技術が活用されており、賛否はありそうですが現代風のゴーストたちを楽しめるところは、本作の長所として考えてもよいかと思います。
【考察】単純な映画としては「コメディセンス」が合うかどうかがカギ
![【考察】単純な映画としては「コメディセンス」が合うかどうかがカギ](https://filmest.jp/wp-content/plugins/lazy-load/images/1x1.trans.gif)
ここまで、本作が「猛烈な批判にさらされているほどひどい出来ではない」ということに触れてきました。ただ、これは評判ほど悪くはないということを裏付けているだけで、本作が特に優れた作品であるということを証明するものではありません。
個人的に見ていて気になった点は、原作と比べて「コメディ」面のセンスにいま一つ共感できなかったことです。原作でも本作でも「サタデー・ナイト・ライブ」に出演しているキャストが主要なコメディ部分を担当しており、大枠の方向性にはそれほど変化がありません。
しかし、本作のコメディは個人的にはいま一つ笑いに繋がらず、自分でも不思議に思っていました。その理由を鑑賞後に考えてみたところ、性差別的な意図はありませんが「男女の違い」が少し気になってしまっていたのかもしれません。
実際、アメリカでは女性のコメディアン、つまりコメディアンヌも日本に比べて活躍の度合いが大きい印象があります。彼女たちは言うまでもなくコメディを担当しているので、どぎつい下ネタや自虐も平気で行ないます。そして、本国アメリカではそういった姿勢も社会的に広く受け入れられています。
ところが、やはり筆者が純日本的な価値観に染まってしまっているためか、はたまた深層の部分に性役割を押し付けているのが原因か、笑いを取りに行く積極的な彼女たちの姿勢に少し引いてしまったところがあるのは否めません。特に、本作では日本の女芸人が見せるような「宴会芸」のような方向性ではなく、少し「エグめ」のギャグが少なからず存在したところが合わなかったのかもしれません。
もっとも、こうしたコメディセンスの違いを実感したのは、なにも本作だけのことではありません。個人的に今まで鑑賞した映画の中では、アメリカの大人気ドラマ映画『セックス・アンド・ザ・シティ』シリーズでそれを痛感させられました。このシリーズは「アラフォー」女子のリアルをさらけ出した作風が日本でも受け、かなりの好評を博していました。しかし、個人的には本作が合わなかったのと同じ理由であまり共感することができなかったことをよく覚えています。
つまり、こうしたアメリカ式のコメディセンスに共感できるかどうかが、本作における評価の分かれ目なのかもしれません。普段からアメリカのドラマやテレビ番組を視聴している方は問題ないかと思いますが、そうでない方は注意が必要かも…。
【解説】興行収入は赤字であり、続編の制作は予定されているらしいが…
![【解説】興行収入は赤字であり、続編の制作は予定されているらしいが…](https://filmest.jp/wp-content/plugins/lazy-load/images/1x1.trans.gif)
本作は公開前の猛烈な批判がありながら、作品としてはそこまで見るに堪えないものではありませんでした。しかし、いきなりのネガティブな風潮は本作の観客動員数や評判に如実な悪影響を与える結果に終わりました。
ただし、多額の広告宣伝費を投じたこともあり、映画の興行収入そのものは決して悪くありませんでした。その証拠に、推定興行収入は制作費を上回っています。しかしながら、その広告宣伝費がかなりかさんでしまったことや、最新鋭の技術をふんだんに投入したうえに監督交代前のゴタゴタで製作期間が長くなってしまったこともあり、当初配給会社が見込んでいた興行成績を残すことはできませんでした。
実際、製作陣は「全世界最低興行収入3億ドル」を収益分岐点として公表し、監督のフェイグは「全世界で最低5億ドルの興行収入が必要」と語りました。しかし、推定の興行収入は2億ドルと少々であり、推定で7000万ドル以上の赤字を残すことになったと予想されています。
この原因はやはりネガティブな批判が大きいと考えられますが、それ以外に「風評を打ち消すほどの魅力はなかった」というのも事実でしょう。評論家による評価やユーザースコアも極めて平凡で、女性を中心にした構成ながらフェミニスト評論家からは「ステレオタイプ的な女性の描き方をしている」という批判も寄せられるほどでした。そのため、たとえ悪評がなかったとしても凡庸な映画であることに変わりはないでしょう。
それでも配給会社は本作を起点に、「ゴーストバスターズ」シリーズを再始動させることには前向きのようです。本作の続編に相当する作品についても、正式発表こそないものの非常に好意的なコメントを残しています。
そのため、配給を担当するソニーピクチャーズとしては、ディズニーが手掛ける「スターウォーズ」シリーズのように多面的かつ世界的な展開を視野に入れているのでしょう。その証拠に、2019年現在もシリーズのテレビアニメ化が企画されており、スケッチやプロットが公開されています。これは、スターウォーズでいうところの「クローンウォーズ」に相当する作品といえるかもしれません。
ただし、例に出したスターウォーズと比較すると本作はブランドとして一歩劣るところがあり、加えて初めの船出に失敗していることから、今後も苦戦を強いられることは間違いないでしょう。さらに、そのスターウォーズでさえも「エピソード8」で非常に大きな批判を浴びているため、過去の名作を現代で再始動させることの難しさを痛感させられます。
(Written by とーじん)
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※2019年6月現在の情報です。