「ROOM/ルーム」は2015年公開のサスペンス映画です。
オーストラリアで起きた監禁事件を描いたエマ・ドナヒュー原作の小説「部屋」をアレンジした作品で、主演のブリー・ラーソンがアカデミー主演女優賞を獲得しています。
数々の映画賞を獲得し映画界に旋風を巻き起こした同作品を、ネタバレや感想を含みながら考察していきます。
目次
映画「ROOM/ルーム」を観て学んだ事・感じたこと
・これぞ天才!子役ジェイコブの鳥肌モノの演技力に脱帽
・人間の心はかくも複雑!登場人物のリアルな心情に共感
・未知の【世界】に踏み出す勇気をくれる
映画「ROOM/ルーム」の作品情報
公開日 | 2016年 |
監督 | レニー・アブラハムソン |
脚本 | エマ・ドナヒュー |
原作 | エマ・ドナヒュー |
出演者 | ママ(ジョイ・ニューサム):ブリー・ラーソン ジャック:ジェイコブ・トレンブレイ バアバ(ナンシー):ジョアン・アレイ ジイジ(ロバート):ウイリアム・H・メイシー レオ:トム・マッカムス |
映画「ROOM/ルーム」のあらすじ・内容
ジャックは生まれてから5年間、ずっと狭いROOMでママと二人で暮らしてきた男の子でROOMの中こそが世界のすべてだと信じています。
実は、ママのジョイは7年前にある男に誘拐、監禁され、狭いROOMの中でジャックを産みました。
ある日、ジョイはジャックを使ってROOMを脱出する作戦に出ます。ジャックの懸命な頑張りで無事親子は保護されますが、失った7年間はあまりにも大きくジョイの前に立ちはだかり、とうとう自殺未遂を図ります。
ジョイとジャック、そして2人を迎える家族の暖かくも切ない感動のストーリーです。
映画「ROOM/ルーム」のネタバレ感想
キャストの演技と心を揺さぶる感動で大きな話題となったROOMの感想を書いていきます。
物語の核心となるネタバレを含みますので、ストーリー展開を知りたくない人はご注意ください。キャストの素晴らしい演技は、ネタバレ後でも十分堪能できることと思います。
天才子役現る!ジャック役のジェイソン・トレンブレイの演技力は超人級
ジャックは映画の冒頭で5歳の誕生日を迎えます。狭い部屋以外に世界を知らないジャックはテレビから唯一の情報を得ていて、ママとだけ会話し、ストレッチやビタミン剤などでぎりぎりの健康を保って暮らし、生まれてから一度も外に出たことがないことを示唆するように長い髪をした男の子です。
ジャック役はジェイコブ・トレンブレイという名前で、テレビの出演を主としている子役です。彼はこのROOMでの演技が大きく評価され、全米映画俳優組合賞助演男優賞にノミネートされています。
その評価通りジェイコブの演技は素晴らしく、本当に5年間を部屋の中で過ごしてきたのだと錯覚させるほどで、ママ役のブリー・ラーソンとのやり取りや空気までリアルな親子そのものです。実際に2人は大好きなスターウォーズの話題で盛り上がり、大の仲良しになったのだとか。
ジャックの物の見方、感じ方は幼い子どもそのものです。実際に彼は子どもなので当たり前といえばそうなのですが、演技をしているわけですから、この年齢にして話の筋や自分の置かれた状況を的確にとらえているということですよね。そして、外の世界という概念のなさや、ママとのかかわり方など、特殊な状況下にある子どもを見事に演じています。本当に、彼にはすさまじい演技の才能を感じました。
日曜の夜になると頼まれていた物資(必ずしもすべてではない)を部屋に運び入れ、性的欲求を満たしていくのが「オールド・ニック」こと誘拐犯です。彼と会わずに済むよう、日曜の夜は狭いクローゼットで寝かされるジャックは、ある晩好奇心からクローゼットを出て眠っているオールド・ニックに近寄ってしまいます。オールド・ニックは目を覚ましジャックに触れようとしますが、驚いたママは「ジャックに近寄らないで!」とニックにつかみかかります。そして彼を怒らせてベッドにねじ伏せられ「今度つかみかかったらぶっ殺す」と言われてしまうのです。
オールド・ニックが帰った後、ジャックはママに泣きながら謝ります。「出てきてごめんなさい。許して、もうしません」と。本当に胸が痛くなってもらい泣きするほど切ない演技で、ジャックの世界がママだけに限定されていることと、ママのジャックを守りたい気持ちを十分に感じることができる場面になっています。
ママが脱出の決意をして、ROOMが世界のすべてであるジャックに本当の【世界】の話をする場面では、ジャックが泣いて本当の【世界】を拒否します。自分の価値観をすべて覆すような現実を受け入れられないからです。「ほかのお話がいい!!」と強情に突っぱねるジャックに失望してしまったママは翌日、抜け殻のようになってベッドから起き上がることができなくなってしまいます。
ジャックは仕方なく狭い部屋で一人遊びを始め、スプーンや手作りのおもちゃなど愛着のあるものたちと遊び、見慣れたものたちの価値を再確認します。自分の世界をもう一度正しく理解しようとしてるかのようです。その時のしぐさや表情などから、前日にママから聞いた【世界】は本当なのか、今ある【世界】と違うのか、少しの好奇心と大きな恐怖の間で揺れ動くジャックの様子が手にとるように伝わってきます。
そして翌日、テレビを見ていたジャックはママに聞くのです。「カメは本物?サメもワニも本物?」と。一度は「外の世界」を否定するものの、自分の世界を確認して安心したら、少しだけ外の世界に目を向ける余裕が生まれたのかもしれません。
幼い子どもが公園などで夢中になって遊ぶうちに、ママから少し離れてしまって不安になり、あたりを見回してママがいることを確認した後、また安心して遊びだしますよね。あれと同じで「外の世界」の話に不安になったジャックは、見慣れた愛着のあるものたちをリアルに感じて安心したからこそ、外の世界の話に少し興味が持てたのだと思います。もっと簡単に言えば、ママのスカートの陰からそっと世界をのぞいてみる気になった、という心境でしょう。こういう子どもの心理描写を表現するのが、この映画は非常に上手です。
このあと、ママとジャックの脱出大作戦が始まり、ママの考えた秘策によってカーペットにぐるぐる巻きになったジャックは、オールド・ニックによってトラックの荷台に積まれ移動します。高熱で死んだふりをしたジャックを埋めるために運び出す際に、停車したトラックから飛び降り周囲の誰かに助けを求めるという作戦です。
実のところジャックには「絶対に脱出する!」という決意かあったわけではなさそうです。それどころか「6歳になったらでいい?」などと完全に弱腰。決心も固まらないうちに、ママに押し切られて見切り発車、というのが実際のところでしょう。
この部分は見ている方も手に汗を握り、ジェイソンの演技力ゆえに、ジャックと気持ちがリンクしてしまうほど引き込まれます。この弱腰のジャックが、勇気を振り絞って作戦を実行するところも当然ながら凄い演技力なんです。
走っているトラックの荷台でカーペットからはい出し、初めて外の世界を見た時のジャックは、まず一面の青い空に息をのみます。この時のジャックの目の表情、どんな名優もかなわないほど世界に圧倒される様がよく表れています。見ているこちらにもジャックが頬に受けている風の冷たさや、空気のにおいがリアルに伝わり一緒に外の世界に圧倒されました。このシーンはぜひジャックの気持ちとリンクして、新鮮な空気を胸いっぱいに味わってください。
胸糞が悪すぎる!犯人オールド・ニックの迷言集と人物像
この映画の中に出てくる「オールド・ニック」ですが、母子の唯一の命綱でもあり、憎んでも憎み切れない誘拐犯でもあります。この男、日曜日の夜になるとママ(ジョイ)から頼まれていた日用品やら食料品やらを部屋に運んでくるんですが、善人面をして物資を運ぶ態度がものすごく胸糞悪いんです。
こいつの腹立たしいセリフはいくつもあります。ジャックの誕生日に作ったつつましやかなスポンジケーキを一口かじって横柄にも「誕生日か?いえばプレゼントをやったのに。」、持ってくる物資の中にジャックに与えるビタミン剤がなく、ジョイが「もっと栄養を」といった時も「またかよ?つべこべ言わずすこしは俺に感謝しろ。」「今の景気を知らないだろ!?誰が養っていると思ってる!!」など、本当に何言ってんの、こいつ?と思うようなセリフをポンポン吐いてきます。
どうやら犯人は仕事をクビになって生活が苦しい様子で、誘拐したことはすっかり棚に上げて偉そうにするものだから、腹が立つというより胸糞が悪いです。
この男の見た目もどこにでもいる普通のおっさんで、ネガティブで僻みっぽくネクラな性格だろうと少ないセリフからでもわかる所が凄いです。ひ弱な根性しか持ち合わせておらず、大した度胸もないのに、ひょんなことからたまたま誘拐に成功してしまった。そして、その曲がった性格ゆえに、誘拐後は「俺が親切にも養ってやってる」という都合のいい脳内変換をして7年間も優越感に浸りながら自尊心を満たしてきたのでしょう。
ジャックに死んだふりをさせ「木のあるところに埋葬して!」と泣いて訴えるジョイの迫力に押され「お、おう・・・わかったよ・・・。」的な反応をするあたり、一歩外に出れば、自分の意見も言えずいつも誰かに言い負かされる負け犬なんです。それだけに、なぜこんな奴に誘拐されてしまったのかと悔しさが募ります。
原作者が脚本を担当!細かい部分の描写が秀逸
この映画は、エマ・ドナヒューのベストセラー小説「部屋」にインスピレーションを受けた作品となっています。この本はノンフィクションの小説でオーストラリアで実際に起きた凶悪な監禁事件をもとにして書かれました。事件はあまりにも凄惨な監禁事件で、実の父親が24年もの間地下室に娘を監禁し、7人もの子供を産ませたというものでした。2008年に発覚し「フリッツル事件」と呼ばれています。
映画は、この本の作者であるエマ・ドナヒューが脚本を担当しています。細かい描写が本当にリアルで、ジャックだけを生きる支えとして生きてきたママの気持ち、少しでもジャックを普通に育てようという切ない努力などが胸にささります。一方ジャックには悲壮感がなく、ママと二人だけの世界を当たり前として生きてきた子ども特有の無邪気さがあり、それもまた切なさに拍車をかけるのです。
作中に「不思議の国のアリス」のお話をジャックが読む場面があります。「アリスはできないことはないと思いはじめました。ドアのそばで待つだけじゃ何も起こらない」。ジョイはその言葉で脱出を決意したかのように、ジャックに外の【世界】のことを教え始めます。ジョイは不思議の国をROOMに例え、自分はアリスのように外の世界からここにやってきたと説明をするのです。
この部分で、外の世界に対しての親子の認識のズレがよくわかるうようになっています。ジョイをアリスに例えるならジャックは不思議の国の住人ということになり、不思議の国しか知らなければ、アリスにとってはヘンテコな世界でも住人にとったら当たり前の世界なのです。
ジョイはどんどん話の核心に迫ろうとしますが、ジャックは「ほかのものが食べたい」だの「くさいのはママのおならだよ」だのと言ってうまくかわし、しまいには「【世界】なんか嫌いだ!僕は信じない!!」と涙を流して大声を出します。このあたりのやり取りは聞きたくないことを突きつけられた子どもの反応としてとてもリアルで、脚本の出来の良さを感じます。
本当の物語が始まるのは脱出後。失った時間を乗り越えどう生きていくのか
結局、ジャックは無事脱出して親子共に保護されますが、この映画の本当の物語はここから始まります。この映画の凄い所は「無事保護されてよかったね。めでたしめでたし。」では決して終わらず、失った時間を乗り越えてどう生きるかという難しいテーマに後半部分から切り込んでいくところです。
ジャックは、最初こそジョイの陰に隠れて片時も離れず、人ともジョイを通した会話しかできない様子でしたが、ほんの少しずつではあるものの【世界】に順応していきます。ところがジョイは押し寄せたマスコミの無神経な質問や、友人の中でなぜ自分だけが7年もの時間を失ったのかなどの疑問でつぶされそうになります。腫れ物に触るような家族の態度も、ジョイのナイーブな心に拍車をかけてしまいます。
さらに、ジイジとバアバはすでに離婚しており、懐かしの我が家に住んでいるのはバアバと新しい彼氏のレオ。ついでにジイジは、犯人の子であるジャックと向き合うことがどうしてもできません。
夢に見た理想の暮らしとはあまりにかけ離れた現実。7年の間に【世界】では容赦なく時が流れていたのです。そしてジョイはとうとう自殺未遂をしてしまいます。ジョイにとっては不思議の国から出て元の世界に帰りたいと願ったのに、いざ帰ってみれば自分の知っている世界とは大きく異なる世界だったわけです。想像するとぞっとしますよね。まるで不思議の国から出て、また違う世界に迷い込んだ気分だったのでしょう。
この状況を救ったのはやはりジャックでした。ジャックはパワーが宿ると信じて決して切らなかった長い髪を切って病院にいるママに届けるのです。自分も【世界】に適応するために必死なのに、子どものしなやかな強さがあるんですよね。子どもと同時に転べば、自分が痛さに泣きながらもママの膝小僧をなでてくれたりします。そんな幼い子の特長をよくとらえていると思いました。
そしてバアバの彼氏レオですが、子どもとの距離のとり方が非常にうまいんです。近すぎず遠すぎずの距離感で、子どもが居心地がいいと思える程度の温度でジャックに接します。肉親の思い入れがない分、客観的にジャックのことを見てくれた唯一の人ではないでしょうか。
少し距離がありつつも愛情を持って接してくれる他人というのは、普通に生活している子どもたちにとっても必要な存在なのではないかと思いました。救出後のそれぞれの想いが入り混じって、切ないけれど優しさに満ちた後半部分です。
誰にとってもある、未知の【世界】は怖いもの
人間というのは現状を維持しようとする本能が働いているといいます。だから、未知の世界を恐れ、知っている世界に安住しようとするんだとか。新しい世界に踏み出すことには恐怖が伴います。意識していなくても本能の部分で恐れるのです。
でも、恐怖を乗り越え一歩を踏み出せた人だけが新たな世界を体験できます。そこは、いいことばかりではないかもしれません。でも、もとにいた世界よりもずっとずっと素晴らしい可能性だってあるわけです。
答えは一歩を踏み出さないと永遠にわかりません。この映画は誰にでもある未知の【世界】に踏み出す勇気をくれる映画だと思いました。
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