映画『THE GUILTY/ギルティ』はサンダンス映画祭の観客賞を受賞するなど、数々の映画祭で話題を集め、ジェイク・ギレンホール主演でハリウッドリメイクが決定している、ハリウッドも大注目の作品です。
監督と脚本を兼任したグスタフ・モーラーは本作が長編監督デビュー作でありながら、電話からの声と音だけで誘拐事件を解決するという異色のスリラー映画を、圧倒的な緊張感とともに見事に描き上げました。
今回は映画『THE GUILTY/ギルティ』の個人的な感想やネタバレ解説を書いていきます!
目次
映画「THE GUILTY/ギルティ」映画を観て学んだ事・感じた事
・88分間の途切れることのない圧倒的な緊張感
・想像力が欠かせない耳で聴いて頭で映像を作るような映画
・言動1つで結末が変わっていたかもと思うほどの言葉の重み
映画「THE GUILTY/ギルティ」の作品情報
公開日 | 2019年2月22日 |
監督 | グスタフ・モーラー |
脚本 | グスタフ・モーラー |
出演者 | アスガー・ホルム(ヤコブ・セーダ―グレン) イーベン(イェシカ・ディナウエ) ミケル(ヨハン・オルセン) ラシッド(オマール・シャガウイー) |
映画「THE GUILTY/ギルティ」のあらすじ・内容

ある事件をきっかけに、警察官としての一線を退いていたアスガー・ホルムは、緊急通報指令室のオペレーターとしてドラッグ中毒者からの 意味不明な叫び、風俗嬢に騙された強盗被害者の助けを求める電話など、些細な事件に 対応する日々が続いていました
そんなある日、一本の通報を受けます。その通報は今まさに 誘拐されているという女性自身からの通報であり、彼に与えられた事件解決の手段は 電話のみでした。
車の発車音や女性の怯える声、犯人の息遣いなど微かに聞こえる音だけを 手がかりに、この事件を解決することはできるのかを描きます。
映画「THE GUILTY/ギルティ」のネタバレ感想
ワンシチュエーション・サスペンスの魅力とは

その名の通り、たった一つの状況設定で描くシンプルな構成が最大の特徴である「ワンシチュエーション・サスペンス映画」。比較的低予算で制作できるため、この手法は新人監督の登竜門になることが多いと言われています。
この『THE GUILTY/ギルティ』の監督・脚本を手掛けたグスタフ・モーラーも、本作が長編デビューとなっています。
他にも、かの有名なスティーブ・スピルバーグ監督の劇場デビュー作も『激突!』というワンシチュエーション・サスペンス。ジェームズ・ワン監督の密室化したバスルームで繰り広げられる生き残りゲームを描いた『ソウ』も、この作品が注目されメジャー進出に至ったと言われています。
一方で、ストーリー展開がシンプルゆえに、俳優の一人芝居を存分に堪能できるのも一つの魅力。『ギルティ』ではヤコブ・セーダ―グレンの顔面ドアップを堪能できるのと同時に、緊急通報指令室という限られた場所で、部屋を移動したり、ブラインドを下ろしたり、赤ランプの点滅など、主人公のこまかな心情を表現する演出がたくさんありました。
私が初めてワンシチュエーション・サスペンス映画を体験した『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』では、最初から最後までトム・ハーディの上半身しか映っていません。その中で、表情の変化や少しのしぐさ、声のトーンなどで、次第に変化していく主人公の人生を見事に表現しています。
他にも、ワンシチュエーション・サスペンス映画は上演時間の短さも魅力の一つとして挙げれるのではないでしょうか。今上映されている映画は2時間越えの作品も多くあります。
そんな中でワンシチュエーション・サスペンス映画の多くは90分前後。この『THE GUILTY/ギルティ』も上演時間は88分となっています。ちょっと空いた隙間時間に集中して観ることが出来るので、映画ファンにとって嬉しいのではないでしょうか。
【解説】些細な音から犯人を探すという想像力を刺激する作品

この映画の見どころは、何といっても主人公の警官がほぼ一人で、狭い部屋の中だけで物語が進行していくところです。しかも、主人公のアスガーは緊急通報指令室という緊急電話番の仕事です。
そのため、犯人探しの手掛かりになるのは電話からの音のみです。では、88分間何を映し続けているのかというと、答えはイケオジ(イケてるオジサマ)の顔面ドアップです。ほとんど主人公の一人しか出てきません。
たまに他の人が出てきたと思っても、大抵がイケオジです。観ている私たちが映像から得れるものなんてほぼ無であり、どこから犯人を捜すのかというと、先ほども言ったように音です。
電話越しに聞こえる雨の音や車のワイパーの音、足音など、劇中にいろんな音が聞こえてきます。私たちはその一つ一つに耳を澄ませ、頭の中で想像力を存分に膨らませていかなければならないので、結構神経を使います。見終わった後どっと疲れましたね。
他の観客の人も集中して観ているのか、上映中に咳をする音や何か動作する音がまったく聞こえませんでした。通常の映画であれば咳をする人がいたり、やけにでかい音を立てて欠伸をする人がいたりしますが、それが今回は全くなかったです。
電話越しの小さな音が重要になってくるので他の音を立てられず、いい意味で劇場内にも緊張感が広がっていました。
想像力の点でいうと、警察官の人がマチルデとオリヴァーのいる家に来て、二人の安否を確認するシーン、私はこのシーンで一番想像力を使いました。警察官の人が、マチルデの服や手についている血を発見し、オリヴァーが無事かを確認します
この警察官が家の様子を主人公に「今キッチンだ。」「今リビングだ。」と伝えます。この間、私は電話越しに聞こえる足音などを頼りに、頭をフル回転でマチルデの家を想像します。
私はマチルダはシングルマザーだし、アパートに住んでるのかななんて想像しました。そして、警察官がオリヴァーのいる部屋にたどり着くと、何も言葉を発せずにただ息だけが少し荒くなります。この瞬間にオリヴァーに何かあった、恐らくは殺されているのだなと察してしまいます。
問い詰める主人公に対し、警察官は「八つ裂きにされている。」的なことを言うんですよね。(ちょっと記憶が曖昧ですが)その瞬間に、私の頭にも八つ裂きにされているオリヴァー君、そしてそのオリヴァー君を抱っこしたのであろうマチルデの様子が脳裏に浮かんできました。
しかし、主人公は落ち込んでる暇がないと言わんばかりにすぐ次の行動をする。こんな感じで、88分間ノンストップで事件解決に向けて動いていくので、頭をフル回転で想像しまくっていました。最初は88分間も同じシーンだと飽きてしまって寝ちゃうんじゃと思いましたが、全くそんなことはなく最後の最後まで飽きることなく見ることが出来ました。本当に今までになかった新感覚でした。
キャストの迫真の演技

この映画は、主人公アスガー役のヤコブ・セーダ―グレンの演技が素晴らしかったです。
私たちが映像から得られる情報と言えば、彼の表情がほとんど。すこし気怠そうに緊急電話にかけてきた相手と話すシーンや、何か闇がありそうな表情はもちろんですが、通報者のイーベンが誘拐されていて、犯人は犯罪歴のある元夫のミケルという先入観を見事に演出していました。
撮影も緊張感を持たせるために、俳優に電話のかかってくるタイミングを知らせずに、急に電話をかけてリアルなリアクションを撮影するという、斬新なアイデアが取り入れられたそうですよ。
また、主人公のアスガーをとりまく俳優たちの演技もすごかったです。声だけの出演なのに、まるで本当に現場にいるかのような演技には圧倒されました。
特にイーベンの子供のマチルデの演技に、息をのまずにはいられなかったです。彼女が「パパがママを連れて行った」や「ママを返して」などの涙交じりの演技で、観客はミケルが犯人という決定的な証拠をつかんだ気になります。そこに発覚する、オリヴァーの死。主人公アスガーも観客も、ミケルが殺したと思わずにはいられないでしょう。
このように声だけの演技が重要になる今作では、監督は声だけを聞くブラインド・オーディションを実施し、役者の知名度や見た目ではなく、その登場人物に必要な声を持っているかどうかを一番重視してキャストを起用したそうです。どのように録音したのかとても気になるところです。
これも、まだ30代という若い監督だからこそできた独創的な手法なのかもしれないですね。そう考えると、俳優だけじゃなく、グスタフ・モーラー監督自身の今後も非常に興味深いなと感じました。
セリフの一言、言葉の重みを感じずにはいられない

声や音が重要になってくる今作では、セリフの一つ一つも重要になってきます。
例えば、主人公がマチルデと初めて話すシーンで、主人公はマチルデから得た情報を他の機関にも伝えようと必死。そのため、一刻も早くマチルデとの電話を切ろうとしますが、マチルデは不安で押しつぶされそうでパニックになっています。
そんなマチルデに主人公は弟のそばにいるように指示します。マチルデはパパから弟の部屋に入るのは禁止されているからと最初は拒むものの、絶対大丈夫だからという主人公の言葉を信じ、弟の部屋に行くんですよね。
しかし、先述したように家に来た警察官によって、弟は殺されていたことが発見されます。主人公が弟のそばにいるよう指示したせいで、マチルデは衝撃的なものを見てしまうことになります。
また、別のシーンで車の貨物室に閉じ込められたイーベンに対し、主人公は車が止まって貨物室のドアが開いたら、ミケルの頭をレンガで殴って気絶させろと言います。自分にそんなことはできないとためらうイーベンに、ミケルは犯罪者なんだと言います。
しかしその直後、幼いオリヴァーを殺したのはイーベン自身だと彼女の発言から分かります。主人公がイーベンを止めようとするも、後の祭り。彼女はミケルをレンガで殴り、そこで通話は切れてしまいます。
精神を病んでいたイーベンは自分が何をしたのかも理解しておらず、自分を誘拐したミケルは悪い奴だという主人公の言葉を信じ切ってしまいます。主人公が相手を安心させるために放った一言が相手を傷つけてしまいます。
主人公も可哀想ではありますが、可哀想なことばかりではないんですよね。自分がオリヴァーを殺したということに気づいたイーベンは、鉄橋に上って自殺を図ります。主人公はイーベンの自殺を止めようと自分の過去の話をします。自分は過去に抵抗していなかった19歳の若者を殺したことがある、自分は人殺しだと。
この話のおかげで、イーベンは無事駆け付けた警察官に保護されます。自分が放った言葉で相手を傷つけたり安心させたり、声と音が重要になってくるこの映画だからこそ、言葉の重要性をとても感じました。
タイトルにもある「罪」がそのまま描かれた映画

私はこの作品を友人に薦められ、ほぼ予備知識がない状態で観に行きましたが、それでも十分に満足できた作品です。
映画で稀にズルい作戦で事件を解決する映画やドラマがありますが、この作品では主人公が回想などもなしで、リアルタイムに得られる情報だけで推理していくというのが観客も同じような体験が出来るため、非常にリアルで良かったですね。緊急電話で話をしているシーンだけなのに、すべての映像が浮かんでくるすごい映画だと思いました。
あるインタビューで、グスタフ・モーラー監督自身が話していましたが、YouTubeで偶然、911の同時多発テロ事件の時にかかってきた通報の音声を見つけ、その虜になり、同じ音声を聞いているのに、聞く人によって思い浮かべるものが異なるという点に惹かれたそうです。
それを聞いた瞬間に確かに!と思いましたね。私が感じた『THE GUILTY/ギルティ』の世界観は私だけのものであり、監督とも他の観客の方とも違う。そう考えたら、この作品の面白さをまた一つ発見した気分になりました。
これを観た人たちと集まり、このシーンどう想像した?と感想を言い合うのも面白そうです。これも“ワンシチュエーション・サスペンス映画”の新たな魅力かもしれません。
映画の中では所々で話の曖昧さが見受けられ、なんとなく犯人が分かりそうになるシーンもありましたが、それでも88分間飽きずに観ることが出来ました。ラストの結末は意外で、一方向からの情報で判断することの危険性を痛烈に思い知らされます。
タイトルの『THE GUILTY/ギルティ』は“罪”という意味ですが、まさにその通りと思わずにはいられませんね。犯罪歴のある元夫ミケルの罪、オリヴァーを殺してしまったイーベンの罪、そして殺す必要のなかった若者を殺してしまった主人公アスガーの罪。色々な罪が重なり、事件としては一件落着になったはずが、あまりスッキリしないラストでした。
アスガーは次の日に法廷で友人と口裏を合わせて嘘の証言をすることで、警察官に復帰できるはずでしたが、友人に本当のことを言ってくれて構わないと言った時点で自分の罪をしっかりと受け止めたんでしょうね。
途中ミケルに対し、「お前は罰を受けろ!!」と言い放つシーンがありますが、その言葉がそのまんま自分に返ってきました。このシーンもまた言葉の重みを感じさせてくれます。
最後に緊急通報指令室を出て、誰かに電話をかけるシーンで映画は終わりますが、ここも誰に電話をかけているか分からないという点で、観客に考えさせるという、ことごとく観客の想像力をフル活用してくれる映画でした。
この作品はサンダンス映画祭や、アカデミー賞外国語映画賞のデンマーク代表として選出され、世界中の映画祭で絶賛を受け、ハリウッドではすでにリメイク版が進行中です。
主人公アスガー・ホルムを務めるのは、作品選択眼に定評のあるジェーク・ギレンホール。今年上映予定のスパイダーマンでもヴィランを演じることで話題になっているジェークが、この作品をどのように生まれ変わらせるのかも注目です。
今後も目が離せないこの『THE GUILTY/ギルティ』、上映している劇場も少ないマニアックな映画ではあるかもしれませんが、ぜひ一見してみる価値ありです!